「トータル・フィアーズ」

  The Sum of All Fears

 (2002/09/02)


不毛だと分かっていても止められない時

 これを書いているのは夏真っ直中の8月中旬。暑い。とにかく暑い。不快指数もきっと高いはずだ。まして僕個人の不快指数は、思いっきり高まっている。

 せちがらいこのご時世、やっとこちょいとばっかしフトコロ潤って涙流して喜んでいたら、愛用のパワーブックの故障でアップル・コンピュータが余り金を全部持ち去っていった。

 長い間放っておいた歯の治療も時間をつくって全部済ました。と思ったら、早速どこかの歯の詰め物が欠けたではないか。夕食もロクに食べないで間食もやめて体調管理に努めているのに、なぜか体重が再び増え始めている。おかしい。俺は食べたいものも食べてないのに。何年か前になおった病気もいつ再発するか不安だ。あの例えようもない苦痛を考えると気が重くなる。

 そんな折りもおり、僕の周囲でも楽しいとばかり言えないことが相次いだ。いいかげん何もかも退きたいという気分にもなってくる。こんなはずではなかったと思っても、どうも僕の思惑通りにはいかない。これも身から出た錆なのか。文句だったら僕にだって10や20はある。だが、そんなことをして何になる。

 しかも家では家で、何とか状況を打開しようとする僕の後押しをしてくれるならまだしも、なぜか足を引っぱってくるテイタラク。事情も分からずに結論を出すな。人をいとも簡単に性格破綻者扱いするな。自分のことは自分が一番心配してる。自分が一番考えているに決まっているじゃないか。だって、何かあったら返ってくるのは自分だ。人に言われるまでもないことだ。本当に本当に疲れたよ。

 職場でも若い同僚と今後の方針やら何やらを話し合いながら、出口の見えない状況に愕然とせざるを得ない。上の人間のアホさ加減にホトホト愛想が尽きそうだ。人間ドックか何かでしばらくいなくなってくれないか。そうすれば、たぶん経営的にも車内の雰囲気的にも会社の状況はずっと好転するだろう。とにかく半年黙ってくれないか。

 みんないろいろ言ってくるけど、僕にはやるべき事があるのだ。ハッキリ言ってそれが最優先で、そのために僕は僕なりに最善を尽くして努力しているつもりだ。デリケートで注意深く、長い目でやらなきゃならないことなのだ。そこで回りの無責任な意見に振り回されたくはない。だが、その重要度と取り扱いに注意を要する度合いは、実はなかなか他の人には分からないのではないかと思う。そんな渦中で…。

 何とかいろいろ粉骨砕身して、少しでも状況を良くしようと頑張っているその最中…今までの苦労を無にするようなモノの言われよう。今まで俺があんなに頑張ってきたことって、一体何だったの?

 叱咤、抗議、非難、文句、勝手な言い分があっちこっちから言いっぱなしに投げかけられてくる。どいつもこいつも言外に言いたいことはあるが、その直接の言葉は言わない。そんな責任を負う気はないんだろう。ただ言いたいことを言って溜飲を下げるだけだ。しかも、近視眼的に言っている事だけをとれば、確かにそれぞれ言い分は「正当」に見える。みな「正義は我にあり」なのだ。では、俺に言い分はないのかい。あんた、自分がやられたらどんな気持ちがすると思う?

 翻って、自分は果たしてそれを言う資格があるかと自らに問う人間は、驚くべきことに一人もいない。他人の感情や立場をわが身に置き換える想像力は、どいつもこいつも恐ろしいほど欠けている。

 もう、ウンザリだ。

 いっそ全部ひっくり返して言いたいことを言ってしまおうか。おまえら俺の本音が聞きたいか。そんなに俺を怒らせたいか。そんなに俺を困らせたいのか。そんなに俺を追いつめたいのか。それで満足か。どうなんだ。

 俺もおまえらみたいに、自分は絶対に正しくて良いことを言ってるのだと、相手の立場や状況や感情度外視で言いたいことを言いたいよ。そして誰かを思いきり傷つけていいコトしたみたいな気分になりたい。俺が今やられているように。

 幸いなことに、ネガティブ思考はそこで何とか止まった。理由はいろいろあるけれど、とにかく最悪の選択をせずには済んだ。でもねぇ、人間って魔が差すと、とんでもなくバカなことをしでかしちゃうこともあるんだよね。それを止めるのが理性ってものなんだけど。そんな時、自分がどんどんバカな考えにはしっていることが、実は自分でも分かってはいるだろう。でも止められるだろうか。 一つひとつは大したことではないだろうが、それが連鎖していくことが恐ろしい。

 もし進退窮まったところまで来たら、俺は自分が怖い。星一徹はちゃぶ台をひっくり返した。俺はその時どうなってしまうのだろう。

 いよいよ行き着くところまで行ったら、俺は自分の守りたいもの以外、何もかもすべて一切合切吹っ飛ばしてしまうんだろうか。俺が心から大事にしたいもの以外、何もかも残らずメチャクチャにしてしまうんだろうか。俺自身はどうなってもいいから、すべてを草木も生えない立ち直れない状態まで叩きつぶしてしまうんだろうか。その時、果たしてその守りたいものや大事にしたいものは無事に残っているのだろうか…。そんなことはイヤだ、そうはしたくない。そんなことやっても不毛なのだと分かっているから。だからこそ…。

 俺は追いつめられる自分が、誰よりも一番怖いのだ。

 

人類の運命を翻弄する一発の核爆弾

 第四次中東戦争激化の最中の1973年、追いつめられたイスラエルは秘かに核兵器を製造していた。そして、その核兵器を搭載した戦闘機が発進。しかしすぐに敵の防衛網に把握され、ゴラン高原の砂漠のど真ん中に墜落した。核兵器はそのまま人知れず砂漠に埋もれていった。

 以来、29年。

 たまたまそれが何かを知らずに核兵器を掘り出したパレスチナの遊牧民が、クズ鉄同然のシロモノとして南アフリカの武器商人に二束三文で売り飛ばした。だが、武器商人はそれが何かを知っていた。連絡をとった相手はオーストリアの実業家アラン・ベイツ。だが、ただの実業家ではない。その金の腕時計にはコッソリとカギ十字の紋章が彫り込まれていた。言わずと知れた、隠れナチの元締めがこの男だったのだ。核兵器は箱詰めにされ、イスラエルのハイファの港からいずこかへ発送された。

 舞台は一転してアメリカ。それも独身男のベッドの中。気のいいアンチャンのベン・アフレックが、つき合いはじめたばかりの女医ブリジット・モイナハンとイチャつきの真っ最中だ。そこに急な連絡が入ってきたが、恋人たちのお約束で放っておけということになる。やっとこ連絡に出たアフレックは、しかし慌てて姿勢を正した。「ただちにそちらに向かいます!」

 実はアフレック、彼女のモイナハンには自分の身分を学者とか偽っていたが、本当は柄にもなくCIAの人間だった。CIAのロシア問題の分析官というのが、まるでヤボてんのアンチャンみたいなアフレックの、本当の身分だったのだ。

 やって来たのは職場であるCIAの本部。なぜ呼び出されたかと言えば、突如モスクワでロシア大統領が死去したから。そして後任には、まったくアメリカではノー・マークだったシアラン・ハインズなる男が大統領の椅子に座ったから。彼が後任になると予言したのは、アメリカCIAではただ一人、このアフレックだけだった。そんな彼のレポートが、CIA長官のモーガン・フリーマンの眼に留まったのだ。このロシアのトップの突然の交代劇に、緊急の諜報委員会が開かれる。そこに出席するフリーマン長官の片腕として、このアフレックが指名されたのだった。

 だがフリーマン長官は、まず駆けつけたアフレックのダレた普段着が気に入らなかった。他の職員のスーツとネクタイを拝借して、アフレックの身支度をさせる。そして矢継ぎ早やにアフレックに注意した。余計なことは言うな、聞かれるまで答えるな、ハッキリ分からないことは言うな…。

 諜報委員会では、政府側の人間が頭っから新大統領ハインズを強行派と決めつけていた。これには納得しかねるアフレックは、フリーマン長官に横から何だかんだと助言。だが、フリーマン長官が余計な事を言うなとキッパリ釘を刺したことは言うまでもない。

 さらにアフレックは、その足でモスクワの核査察調査団に有無を言わさず同行させられるハメになる。うわ〜、彼女とのデートの約束が…とジタバタしてもどうにもならない。言い訳の電話を入れるアフレックだが、バカ正直にモイナハンにロシアに行くなどと行ったもんだから相手にされない。踏んだり蹴ったり。

 それでもモスクワに着いて、クレムリンでロシア新大統領のハインズに直々のお目通りともなれば、アフレック身に余る名誉に武者震いせずにはいられない。おまけにハインズ大統領の方も、今まで無印良品だった自分に注目してくれた若者に、一目も二目も置かないわけがない。ついつい調子に乗って余計なことを言う一幕はあったが、自分の存在をハインズ大統領にバッチリ焼き付けてご満悦のアフレックではあった。

 だが、あくまでフリーマン長官にはコワモテの態度を崩さないハインズ大統領。いくらアフレックがあれは国内向けのポーズなのだと言ってはみても、チェチェン問題は国内問題だとキッパリ言われちゃ弁護の余地もない。そんなハインズ大統領の脇には、いかにも老獪そのものの老人がいつもピッタリついている。それが政治顧問のマイケル・バーンだ。この男、これまでの歴代大統領の側近として、常に政治の表舞台で辣腕を振るってきたらしい。ひょっとしたら大統領その人よりも影の力は絶大とのフリーマン長官の説明に、アフレックは口をポカ〜ンと開けて感心するのが精一杯だ。

 さらに査察団はアルマザスにあるロシア核工場にやって来る。あれこれ調査している一行だが、アフレックはそこにいるはずの科学者が3人ほど足りないと気づいていた。ところが問うてみると、あいつは死んだこいつはどうだ…とか、まるで用意したような答えが例の老獪バーンからスラスラ。あまりに淀みがない答えに、アフレックこりゃおかしいと気づかずにはいられない。

 ところがフリーマン長官はそんなアフレックの疑問に慌てず騒がず。実はフリーマンのパソコンに早速メールが届いていた。実は彼はロシア側に有力な情報筋を押さえていたのだ。その情報から、この3人が何らかの事情で行方不明になっていることを知る。さすがフリーマン、万全の情報網だ。表でダメなら裏。「いつも裏口は開けておけ」とのフリーマン長官のアドバイスに、またしても感心のあまり口ポカ〜ンと開けてばかりのアフレックだ。そんな彼にフリーマン長官見かねて、裏口はともかく口とチャックは閉めておけ!…との再度の助言も忘れない。

 さて、そんなフリーマンは秘かに次の手を打っていた。手駒の工作員リーブ・シュライバーを、モスクワに派遣していたのだ。目的は例の3人の科学者の行方の調査だ。

 ところでフリーマンはスッカリご機嫌を損ねたアフレック彼女のモイナハンのために、ホワイトハウスが高級ホテルで主催する大統領ご出席のパーティーにカップルでご招待券をプレゼント。こんなアラン・ドロンとのディナーつきヨーロッパ旅行みたいなもんで機嫌がなおるのかと訝しげなアフレックだったが、そこはそれディナーパーティーとか高級ホテルに弱いのが女の子。スッカリ機嫌をなおしたあげく、後でこのホテルに泊まってく?…てな話までまとまってアフレックもホッとした。

 ところが宴たけなわの折りもおり、突然政府要人の携帯電話が一斉に鳴りだした。そしてパーティーを中座。アフレックもまたまた彼女ほっぽり出して、要人たちと同行するハメになった。何が起きたのだ?

 ソ連がチェチェンに毒ガス攻撃を行ったのだ。

 ジェームズ・クロムウェル米大統領、フィリップ・ベイカー・ホール国防長官、ブルース・マッギル国家安全保障顧問、ロン・リフキン国務長官、そしてフリーマン長官にベン・アフレックも、緊張感漂う緊急会議の席上にいた。ベイカー・ホール国防長官あたりは、頭っからハインズ・ロシア大統領を強行路線と決めつけて非難。ロシアに圧力をかけろと息巻いている。見かねたアフレックは、ついついよせばいいのに一言言ってしまった。「これはハインズのやったことではありません!」

 だが、会議はドッチラケ。特にベイカー・ホール国防長官には、こいつハインズのシンパだとにらみ付けられる始末。おまけに悪いことに直後のテレビ演説では、ハインズ大統領が自ら「自分の命令で毒ガス攻撃をした」と念を押すアリサマだ。もうアフレック面目丸つぶれ。

 だが、実はアフレックの予感が正しかった

 ハインズ・ロシア大統領は愕然としていた。自分のあずかり知らぬところで、軍が出動して勝手に攻撃を仕掛けたのだ。だが、軍を掌握できていないとは言えない。だから自分の命令でやったと言わずにいられなかったのだが、国際世論の厳しさは覚悟せねばならない。

 結局、アメリカが圧力をかけて国連平和維持軍がチェチェンに派遣されることになったが、ロシア軍は全軍待機したままだった。これを知ったアフレックは確信した。これはハインズ大統領のせいじゃない。彼はケンカをしかけるつもりがないと、世界にアピールしているんだ。

 そのころロシアに潜入した工作員シュレイバーは、行方不明の3人の科学者がウクライナのど田舎で何やらやっていることを突き止めていた。するとフリーマン長官からアフレックに指令が飛んだ。シュレイバーを補佐するためにウクライナに飛べ! 俺は実戦はやらないんだよ〜と泣きを入れても、そんなことが通用するわけがない。泣く泣くアフレックはまたしても彼女を置いてウクライナに飛んだ。

 シュライバーはと言えば、これまた有無を言わさずアフレックに拳銃持たせて現場に連れていく。もうビビりまくって泣きそうなアフレック。小便もチビって黒海に垂れ流し。ところが警備兵が登場でヤバくなった時、こんな腰抜けアフレックのウクライナ語が役に立ったから世の中は分からない。

 実はこの場に残されていたのは、例の3人の科学者の死体。彼らは一仕事終えたところで、まんまと消されたらしい。そして、ここで行われていたのは核兵器の改造か補修。現場に残されたケースの残骸から、船積みされたのはイスラエルのハイファの港というところまで分かった。しかも、ブツはかなりデカそうだ。

 そして、そのブツはもうどこかに運び出されたことは言うまでもない。

 それだけ知ると、ブツの元々の出所を探るべくシュライバーはハイファに飛んだ。一方、アフレックも専用機でアメリカにトンボ帰り。CIAのお仲間に連絡をとって、ウクライナから運び出されたブツの行方を調べさせた。すると…

 ブツはアメリカのボルチモアに運ばれた!

 慌てて専用機の上からフリーマン長官の携帯に電話するアフレック。自らも現地に飛んでブツを探す気のアフレックは、実はまだ事態の重大さに気づいてはいなかった。

 何とボルチモアはこの日、スーパーボウル開幕の日。スタジアムにはリムジン仕立ててクロムウェル米大統領とフリーマン長官が乗り込んでいた。例のブツは…スタジアムの地下駐車場にあった!

 場内の歓声で携帯の呼び出しが聞こえなかったフリーマン長官。だが、やっとこ電話をとってアフレックの報告を聞いたフリーマンは、事態を把握して青ざめた。核兵器は大統領を狙ってる! ただちに観戦もそこそこに大統領をリムジンに押し込むと、自らも車中の人となってスタジアムから脱出した。

 一方その頃、まさか核兵器の爆発がこんなに間近に迫っているとは夢にも思ってなかったアフレックは、ヘリに乗り換えて一路ボルチモアを目指していた。

 閃光一発!

 スーパーボウル会場のスタジアムを中心に、まばゆい光線と途方もない破壊力と高熱が瞬時にしてボルチモアを襲う。凄まじい衝撃波と爆風が、あたりの人やモノや建造物をアッという間になぎ倒す。ボルチモアから一目散に脱出中の大統領ご一行のリムジンは突風のように襲いかかってきたショックで吹っ飛ばされて大破。ボルチモアに向かおうとしていたアフレックの乗るヘリも、煽られるようにコントロールを失って、近郊に墜落。ボルチモア上空には、巨大なキノコ雲が辺りを威圧するかのように立ち上った。

 たちまち米軍が厳戒態勢で出動。大破したリムジンからクロムウェル大統領を救出して一路空港へ。大統領の搭乗を待って、ただちに専用機エアフォース・ワンが発進した。同じ頃、リムジンからは負傷したフリーマンも救出されたが、深手を負っていたため近郊の病院に運ばれた。

 墜落したヘリはと言うと、パイロットは即死したがアフレックは無事に助かった。予想を超えた驚愕の事態に、アフレックの脳裏に浮かぶのは二つの危惧。ボルチモアの病院で医師として働く恋人モイナハンの安否と、核攻撃を受けたと思い込んだ米首脳の勇み足だ。

 案の定エアフォース・ワンの機上では、ジェームズ・クロムウェル米大統領を初めとする閣僚の面々がカンカンガクガクの論争を繰り広げていた。当然のごとくフィリップ・ベイカー・ホール国防長官はロシアの仕業だロシアを叩けの一点張り。対する穏健派のロン・リフキン国務長官は何とかそれだけは避けろと牽制。ブルース・マッギル国家安全保障顧問は様子見の構えだ。ホットラインでシアラン・ハインズ露大統領からお悔やみの言葉は伝えられてきたが、クロムウェル米大統領はもう疑心暗鬼。そんな空気はホットラインを通ってモスクワへも伝わった。「アメリカは我々を疑っている。こちらも攻撃に備えなくては!」

 しかも隠れナチのアラン・ベイツの罠はこれに終わらなかった。さらにダメ押しとばかりに次の一手があった。ロシア空軍のある高官を抱き込んで、近海で警戒待機中のアメリカ空母に攻撃を仕掛けたのだ。

 これにはクロムウェル米大統領も怒った。たちまちエアフォース・ワンの中の形勢が、攻撃やむなしに一気に傾いた。ホットラインで慌てて攻撃は自分の命令ではないと弁明に必死のハインズ露大統領だが、そんな自分の言い分が聞き入れられてないことはイヤでも肌で感じていた。どうせやられるなら先にやらねばヤバイ。ロシア軍も全軍が米攻撃へと傾いていった。

 その頃、破壊されたボルチモア周辺をさまようアフレックは、携帯電話でCIA本部の仲間に連絡。エアフォース・ワン内で高まる攻撃論に、大いに焦りに焦る。とにかく、ボルチモアで爆発した核爆弾がロシアの攻撃でないことを証明しなくてはならない。ところが現地で米軍の調査団と接触したアフレックは衝撃の事実を知る。被害状況の分析から、核爆弾の中味が実はアメリカ製だったというのだ。同じ頃連絡をとったシュライバーは、アフレックにさらに驚くべき情報を与えた。かつてアメリカは、第四次中東戦争で危機に瀕したイスラエルに核兵器を与えたと言うのだ。やっぱりあれはロシアの核ではなかったのだ!

 必死の思いで病院にたどり着いたアフレックは、そこで死の床にあったフリーマンを見つける。また、医療の指揮をとっていた恋人モイナハンの無事な姿も見つけた。さぁ!何とか暴走しかねない米首脳を止めなければならない。

 だがエアフォース・ワンにかけた電話は、ロシアを攻撃したくてウズウズしているベイカー・ホール国防長官の「このハインズ露大統領シンパめが!」の一言で一蹴された。ロシアはロシアで、こうなりゃ一蓮托生とばかりに「目には目を」の意見で大勢が固まった。もう打つ手がない。でもそうは言ってられない。ウカウカしていると人類が破滅してしまう。

 アフレックは死んだフリーマンからかっぱらったIDカードを使って国防総省に駆け込むと、ロシアへの攻撃指揮にかかろうとした軍のトップを捕まえた。だが、一介のチンピラであるアフレックの言うことなど、軍のお偉いさんがマトモに耳を貸すはずもない。アフレックは警備員に取り押さえられ、お偉いさんはさっさとその場を立ち去ろうとする。ここでお偉いさんを行かせたら、世界は破滅だ。アフレックは思いのたけをブチまけるように叫んだ。このままじゃあんたや俺の家族や大切な人がみんな死んでしまうぞ

 「俺は国を動かしているなどとホザいてるバカどもに、ちゃんとした情報を伝えるのが使命なんだ!」

 

ベン・アフレックの意外な好演だけ触れたいけれど

 トム・クランシーのベストセラー小説であるジャック・ライアン・シリーズは、すでに4本映画になっている。「レッド・オクトーバーを追え!」ではアレック・ボールドウィンが、「パトリオット・ゲーム」と「今ここにある危機」ではハリソン・フォードが、それぞれジャック・ライアンを演じてきた。だけど、どれも僕にとってはありふれた国際政治サスペンスで、別に傑出した面白さを感じたことはないんだね。

 そんなことは当の原作者クランシー自身も思っていたのか、何と今回クランシーは製作総指揮に名乗りを上げ、新たなジャック・ライアン役者に白羽の矢を立てての映画化だ。それがベン・アフレックと聞いて、実はこの僕はちょっと待てよと思っちゃったんだね。

 まず原作者が過去の映画化作品に不満があったのか、制作に口を出すというのが気に入らなかった。原作者がシャシャリ出て、ロクな事になったためしがない。そして、いくらハリソン・フォードの頃から若返った設定になったとは言え、あのベン・アフレックがCIAの分析官のヒーローってのもいただけなかった。だって、ベン・アフレックだよ

 僕はベン・アフレック、決して嫌いな役者じゃないんだよね。いや、それって役者と言うより、本人の醸し出すムードというべきだろう。何となく彼って男が男どおしで遊びに行く時なんか、その場にいると楽しそうな感じしないか? あいつと飲みに行ったりナンパしたり、いわんやその後でいかがわしいお店なんか行くと面白そうだろ(笑)? スポーツ新聞とか買ってそうだし、パチンコとかやってそうだし、新橋でサラリーマンと飲み歩いていそうだしね。エロ劇画雑誌読みながらラーメン食っていそう。飲んだ後のラーメンは格別だとか言いながらさ。ネットの映画ファンなんか見ていても、女にはベン・アフレックからっきし人気なさそうなのもいい(笑)。男同士で夜遊びするのにもってこいの男が、女に人気あるわけないじゃない。女のウケ狙ってるような男なんざロクなもんじゃないって、男ならみんな知っている。女にウケてるようじゃダメ。ヤツはそこがいいんだよ(笑)。

 ただしそれが映画俳優としてどうかと言うと、まぁストライク・ゾーンにバシッと決まった役柄でないと結構ツラいわな。何と「パール・ハーバー」では一枚看板のスターとなったものの、映画はあのテイタラクだったから、見ていてツラかった。あんな役やっちゃダメだよ。

 ましてやスポーツ新聞以外の活字など読みそうもないアフレックが、CIA分析官なんて冗談がキツ過ぎる。こりゃ大コケではないかと大いに危惧したんだよね。

 ところがこれが予想大ハズレ

 アフレック、久々に実にいいんだよ。というのも、今回のジャック・ライアンが青二才というところがいい。レポートで次期ロシア大統領をピタリと言い当てたのが大抜擢の理由ということだが、どう見てもマグレ当たりにしか見えない。専用機に乗せられたりロシア大統領に接見したり、そのたび慣れなくてオドオドしながら素朴に喜んだりしてる。特殊任務で実戦に駆り出されては、泣きを入れたり銃にビビッたり。その辺の大したことないサラリーマンが、国際政治の最前線に引っぱり出されちゃった感じがアリアリなのだ。それをモーガン・フリーマンのCIA長官にたしなめられたりからかわれたり激励されたり認められたりで、釈迦の手の中の孫悟空よろしく奮闘するのが楽しい。国際政治どころか、女の扱いもてんで慣れてないあたりが等身大のアフレックなのだ。そんな口ポカ〜ンと開けてばかりのアホ顔のアフレックが、訳も分からずやむにやまれぬ思いで突っ走る。米ロの暴走を何とか止めようと、孤軍奮闘するあたり思わず応援したくなるじゃないか。だって、どう見てもこいつダメそうなんだもの。

 脇を固めるモーガン・フリーマンも、「ディープ・インパクト」では米大統領その人まで演じた男だから、アホづらアフレックの教育係としてもってこい。アフレックを何とか独り立ちさせるべく陰に日向にバックアップ。思えばこの両人の関係って、「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカー=マーク・ハミルとオビワン=アレック・ギネス、「ロード・オブ・ザ・リング」のフロド=イライジャ・ウッドとガンダルフ=イアン・マッケランなどと同じく、西洋の師弟もののパターンを踏襲しているとも言えるよね。しかも奇しくもすべて師である人物が物語を中途退場するところまで同じ。このへん、欧米に脈々と流れるドラマトゥルギーのパターンが無意識的に出てきたんだろうかね。

 それにしても、だ。

 やっぱり今回の映画の最大のポイントは、米本土における核攻撃が物語の中心にド〜ンと据えられていることであるのは言うまでもないね。そもそもアメリカ人は、あの昨年9月まで本土が攻撃された経験がなかった。だからそんなこと想像も出来なかったことは、何となく察する事が出来る。人間、痛い目見なけりゃ分からないもんねぇ。まして核など何をか言わんや。

 例外を挙げればテレビ映画として空前の衝撃をアメリカに与えた「ザ・デイ・アフター」があった。あれも確かに革新的で、アメリカ人にとっては驚くべき作品だったんだろうが、アレは最初から核戦略への警鐘としてつくられたんだからね。今回の映画は、少なくとも外見上はそんな告発ドラマとしてつくられてはいない。だから、ハリウッド映画としても「一線を超えた」感じがあるんだね。

 ただ、これは例の去年の9月以後の作品だから、どうしてもそれと呼応してつくられたイメージがあるし、見る側もそう見てしまう。でも実際にはこの映画の企画はそれよりずっと前であることは確かだし、そもそも原作は1991年に出されている。だから、すべては偶然というわけなんだよね。それでも、何とも不思議な符合として今この時に映画として世に出てしまうものだ。映画というのはどこかアップ・トゥ・デートなものとは僕もよく言っているが、映画にはそんな「生き物」としての部分が常にあるんだろうね。

 その問題の核攻撃の描き方については、怒濤のCGを駆使したりして頑張ってはいるが、僕ら日本人から見たら「甘い」としか言いようがない描写の連続ではある。周囲があんなに無事ではいられないだろうし、被害後の市街を車で行き来するなんて無茶だ。そう言えば核を告発する問題意識を持っていた「ザ・デイ・アフター」でさえ、被害の状況の描写はこれと五十歩百歩だった。所詮、アメリカ人はあの程度の認識しかないんだろうねぇ。これは誤解されると困るんだけど、アメリカ人の認識がすべてそうだとも言ってないし、それでいいとも言っていない。だけど、今日アメリカ・ハリウッドで大衆に向けられてつくられる映画、しかもその語りたいところは娯楽映画と言えども核戦争の応酬の愚かしさである映画がこの程度の描き方である以上、アメリカ人の大半の意識たるや現状としては良くてこんなものだと思わざるを得ないだろう。

 だけど、それでも彼らにとっては今のところ最大級の想像力を動員したあげくに、どうも思いの外ひどいことになるらしいとハリウッド映画で描かれたことは大きな前進だと見るべきではないかな。そして、それが人ごとではなく、自分たちにも否応なしに降りかかってくることであるらしいってことも。そんな認識すらなかったように思えるんだから、この点だけは素直に評価してやってもいいんじゃないか? ましてあの昨年9月を通過した後での今の映画なのだ。これは娯楽映画だからこそ、なおさら骨身にこたえるんではないかと思うよ。オール・オア・ナッシングよりも、わずかなりとも前進を見てとるべきだ

 しかもその後に続く米ロの応酬は、報復の生む何たるかを何より如実に表している。それこそ昨年9月以降の、アメリカ国内の「やられたらやり返せ」的論議に冷水を浴びせるインパクトはあるんじゃないか? 監督のフィル・アルデン・ロビンソンは、「フィールド・オブ・ドリームス」「スニーカーズ」の後にこの作品とまったくつかみどころのない映画作家なので、その意図をしかと言い当てることは出来ないにしても。

 もっとも、これはあくまで娯楽映画だ。あまりそのへんに深入りするとヤボになる。ベン・アフレックのアホにいちゃん奮戦記として見てもらえば、結構お釣りがくる映画になっていると思うよ。

 

 

 

 

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