「タイムマシン」(リメイク版)

  The Time Machine

  ロング・バージョン

 (2002/08/05)


 

 

 

手早く結論知りたい人はこちら

 

 

 

 

1899年の冬、ここはニューヨーク。大学で助教授の口を得たばかりの科学者ガイ・ピアースは、着るものには気は使わないわ物忘れはひどいわウッカリしてドジばかり踏むわで、仲間内では「うっかりピアース」で通っているような男。そのあまりの身の回りへの気の使わなさぶりに、今日も今日とて使用人のフィリーダ・ロウにお小言頂戴するアリサマだ。

 そんな男にも取り柄はあるもので、それは無類の研究の虫であるところ。だが、その熱心さがアダとなってか大学側からケムたがれかねない。一番のダチのマーク・アディーはそんなピアースを心配していろいろ忠告するのだが、ピアースはまったく頓着しない。逆にみんなが山高帽なんぞかぶってオチにすましているのがチャンチャラおかしいぜと一笑に付す始末。フン、もうすぐ20世紀だ、そのうちみんな山高帽なんかやめてベッカム頭をマネる時代が来るぞ。このピアース予言は確かに正しかった。何とあの和泉元彌ですら、身長ごまかしたことを隠すためにベッカム頭。ただしこのサッカー音痴の筆者ですら知ったかぶりでベッカムなんぞの名前を使うようになるには、21世紀を待たねばならなかったが。

 ことほどさようにピアースは先見性を持っていて、人類の未来と科学の進歩を信じていた。その頭脳の鋭さたるや、さすがにいつも彼を「うっかりピアース」扱いするアディーですら一目置かざるを得ない。

 ところがそのピアース、こんな男にも関わらずレコが出来た。レコと来れば小指のこと。小指とくればオンナのことと、19世紀からこれは相場が決まってる。それがまた抜群にかわいいシエナ・ギロリーちゃんとくるから世の中は分からない。ダチのアディーもあのオンナは逃がすなよとピアースに厳しく念を押したが、彼女のことについてはさすがの「うっかりピアース」でもそれくらいは考えてる。モノがとっ散らかって汚い部屋を見られたり、ついつまらないオヤジギャグを口走ったり、はたまた前傾45度でセカセカ歩いて小物ぶりをさらしたり、とりわけ服のセンスが最悪なことを感づかれたりで化けの皮がはがれてソッポ向かれる前に、何がなんでも彼女をガッチリ押さえとかなきゃいけないことぐらいは分かってる。だから、今夜のデートにはそれなりに覚悟を持って臨んでいた。もちろん事と次第によってはキメる時はキメるぞと、新調したセクシーパンツにお召し替えも忘れない。

 そんな彼女が待つのは公園のアイススケートリンクだ。元彌みたいに遅刻の常習犯のピアースだが、それでも彼が駆け寄るとニッコリ微笑む彼女。だがギロリーちゃん開口一番「花はどうしたの?」ときた。

 しまった、花を買っていくなどと言ったんだっけ。慣れないことは言うもんじゃないと大いに悔やむピアースだったが、実はギロリーちゃんそんなことはすっかり察してた。テメエがヤボてんだとバレてないと思ってたのはピアースだけ。最初っから彼女ペースで事は運んでいた。

 ともかくは大事な話があると切り出すと、ちょっと公園を歩きましょうとくる。次にちょっと休んでいきましょうと来たらどうしようなどと、良からぬ妄想たくましくしてしまうピアースだが、その前にまずする事があった。

 婚約指輪だ。

 ダイアは給料の三か月ぶんと相場は決まってる。デートで出かけた映画館のCMで、一体何人の男が気まずい思いをしたことか。だが、これはダイアじゃない。彼女の誕生石のムーンストーンだ。ギロリーちゃんこれにはさすがに涙を流して喜んでくれた。ムフフ、上首尾。かくなる上はこの勢いに乗ってラブホ直行、うまいこと命中できれば元彌できちゃった婚よろしく節子ママも認めざるを得まい…などとピアース勝手に取らぬ狸の皮算用始めたちょうどその時…。

 「おうおうおう、お熱いとこ見せつけてくれるじゃねえかよぉ」

 好事魔多し。拳銃を持った男がそこに立っているではないか。強盗だ。この男、ピアースから財布も懐中時計も奪い取ると、しまいには今ちょうどギロリーちゃんがもらってはめたばかりの指輪に目をつけた。「そいつもよこせ! 恨むんなら小泉の経済政策を恨むんだな」 そんなもの言われなくても恨んでる。おかげでオニギリ一個で人が殺される不景気なご時世。

 だが、この指輪はたった今愛の証しとして渡したばかりの指輪。和泉流家元の名とこいつだけは、断じて渡してなるものか。そんなこんなで揉み合ううちに…。

 バーン!

 拳銃が暴発。哀れギロリーは血に染まって倒れた。あ〜っ、そんな…。ピアースは息絶えたギロリーを抱きかかえたまま、逃げていく男を追おうともせず、ただ呆然とうずくまるだけだった…。

 そして4年の歳月が過ぎた

 ギロリーの死後ずっと閉じ籠ったままのピアースを気遣って、マブダチのアディーが家を訪ねてくる。いつまでこうしてるんだピアース、このままでは狂言界から追放だぞ元彌。しかし、そんなアディーにピアースはつれない。ただただ壁の黒板いっぱいに何やら難しい方程式を並べて、一心不乱に計算に没頭しっぱなしだ。

 あともうちょっと、もうちょっとなんだ、もうちょっと頑張ればビジネスジェット使って新宿コマまで2時間で着ける…と何やら取り憑かれたような鬼気迫るピアースに、今さらながらにギロリーを失った彼の心の痛手を思い知るアディー。そのあまりの思い詰めように、アディーは起きてしまったことはどうにもならない…などと言わずもがなの台詞を言わずにはいられない。だがそんな言葉にも一向に耳を貸さなければ、元彌よろしく事情聴取にも応じないピアース。結局説得を諦めて帰って行ったアディーだが、ピアースにはこのマブダチにも言えない秘密があったのだ。

 それは自宅の温室に隠した…タイムマシンだ!

 ピアースはこの4年間、タイムマシンづくりに没頭して来たのだ。何のために…などとヤボなことを言うのはよそう。かつて大映クビになった後にクイズ・タイムショック司会で復活した田宮二郎のように、タイムマシンにはピアースの再起が懸かっていた。やがて出来上がったタイムマシンにまたがると、ピアースはあの問題の4年前に戻るため、このやたらゴツい機械のレバーを握った。

 タ〜イムショ〜ック!

 タイムマシンの前後に取り付けられた回転体が勢いよく回り出す。やがて装置全体が眩しい発光に包まれ…面倒な説明はともかく(笑)、ピアースはあっという間に4年前に舞い戻っていた。さぁ、行動開始だ!

 やって来たのはあの懐かしい公園。スケートリンクにはギロリーが待っていた。

 ホンモノだ、生きてる!

 思わずみんなの見ている前でギューッと彼女を抱きしめ、感極まってブチューッとディープキス。これこれ、俺はこうしたかったんだよなぁ。今時シブヤの若いもんカップルもビックリの大胆さに、ギロリーもすっかり主導権を奪われた。それでもひるまず、またしても花の話なんぞ言い出すギロリーだが、当然のことながら今は花どころの騒ぎではない。次にはまたしても公園を歩こうなどと言い出すギロリーだが、これにも耳を貸すなんて論外だ。男たるもの他の時はともかくとして、「ここぞ」という時、一丁キメなきゃならん時には、女のホザくことなんぞに耳を貸してはいかんのだ。これは前回の失敗に懲りたピアースから全男性に捧げる心からの教訓だ。紳士諸君、心して聞くように。

 さて、無理やり彼女を馬車に乗せて、半ば強引に公園から連れ出したピアース。とにかく早く公園から遠ざけねばとばかり、元彌ダブルブッキングよろしく慌ただしくもなりふり構わず大移動だ。ギロリーはもう渋谷道玄坂のラブホにでも連れ込まれるかと慌てるやらワクワクするやら。ところがピアース、馬車が賑やかな街の中にやって来ると、安心して彼女をその場に降ろした。これには安心するやらガッカリやらのギロリー。となると、まずはともかく花だ。花を買ってちょうだい!

 今度ばかりは安心したピアース、またしても彼女の言いなりになって、花屋に入ったちょうどその時…。

 あ〜れ〜!

 何と今度は馬車が暴走。ピアースの目の前で、哀れギロリーは馬車の下敷きになって絶命。ピアースは再びガックリだ。泣けてくる。お〜いおいおい、あいおい損保のイメージキャラクターも打ち切りだよ元彌〜。

 やがて急を聞いて駆けつけたアディーの前で、またしても呆然と立ち尽くすピアース。彼に慰めの言葉をかけるアディーに、しかしピアースは訳の分からない言葉をつぶやくだけだ。やっぱりまっすぐラブホに行くべきだったのか…いや、そこでも備え付けのカラオケセットで感電死するかもしれない。それなら車で海浜公園まで連れて行って、出刃亀対策にウィンドウを曇らせてイタせばどうか…いや、そこでも暴走族に絡まれマワされて殺されるかもしれない…。この男、結局ソレしか頭にないのかという論議はともかく、どんなに過去を変えようとしても、このままでは無理ではないかとの疑念が沸き起こったのは間違いない。ならば、この時代では問題解決のための糸口は見つからないのではあるまいか?

 そうと決まったら決断は早かった。未来だ、未来へ行こう。そこには解決策が必ずあるに違いない。ピアースは再びタイムマシンにまたがり、レバーを力一杯引っぱった。

 タ〜イムショ〜ック!

 再び回転体が回り出した。ピアースの海綿体は4年前から充血しっぱなし。思わず間違って自分のレバーまで力一杯引っぱっちまう。

 いててっ!

 一際眩しい発光が装置を包み込むと、周囲に徐々に異変が起こり始めた。西から上がったお日様が東に沈むなんてこたぁないが、太陽が上がっては沈み、沈んでは上り、やがて温室の窓の外にバラが生い茂り、それが花開いて枯れていき…。

 季節は春夏秋冬あっという間に過ぎ去って、いつしか自宅の調度品は素早く片付けられていき、自宅の外にある婦人服の店のショーウィンドーに飾られたマネキンの衣装も、ミニスカ、ヘソ出し、ローライズ、セーラー、ナース、スッチー…って、何なんだこの店は?コスプレか(笑)?

 街の様相もたちまち一変して、摩天楼が立ち並び道路には車が溢れ空には飛行機が飛び地球の回りには人工衛星が回って衛星放送でAVが全国のテレビに発信され月にはスペースシャトルが飛んでいる世の中でも月のものが遅れれば男どもはいつの時代も真っ青が当たり前でしてやったりと喜ぶのは元彌だけ。

 気がつくと街はすっかり垢抜けて、でっかいディスプレイを壁面に飾ったビルなど建ち並ぶシブヤ状態だ。これなら俺の疑問にも答えてもらえるかもしれぬ。ピアースついにタイムマシンを止める気になった。時は2030年のこと。

 何とこの時代、月の開発が進んでリゾートなんぞつくろうなどという計画もあるという。月のゴルフ場ならあなたも飛ばし名人との触れ込みに、全英オープンも月でやっていれば丸山茂樹も涙を飲まずに済んだものを…とつい思ったものの、月ならみんな名人だからやっぱり丸山勝てないなとすぐに思い直すピアースはさすが科学者の冷静さだ。

 早速出かけたのが図書館。この時代、図書館の案内人などはいない。すべてホログラムの疑似3D映像の案内人オーランド・ジョーンズが教えてくれるから便利だ。

 何をお探しで?

 ピアースとしては時間旅行についてのノウハウが欲しかったのだが、ジョーンズが教えてくれるのはH・G・ウェルズの小説やらジョージ・パル製作の映画のことばかり。こりゃ役にたたんとピアース残念ながら調査を諦めざるを得ない。世の中こんなに便利になったというのに、まだ人類は時間旅行を発明していなかったのだ。俺の発明は進み過ぎているのだな。ヘタに打ち明けでもしたら、元彌の和泉流家元みたいにみんなに信用されなくなっちまうぜ。

 さて、そうと決まればこんなところに用はない。

 タ〜イムショ〜ック!

 早速さらに未来へとマシンを動かすが、すぐに回りの様子が一変する。今度は一体何だ?

 時代はあれから7年しか進んでいないのに、あたりは騒然。まるで戦争でも起こったかのように瓦礫の山。ピアースの姿を見つけた警官がやって来る。何と、例の月の開発が裏目に出たとかで、工事中に起こした爆破がとんでもない失敗となり、月が崩壊を始めて軌道も狂い出したという。やっぱり調子に乗り過ぎてはいけない。大河ドラマ主役に起用されたCMにも出たといい気になってたらヒドい目にあうんだな元彌。

 そんなことを考えていた「うっかりピアース」だが、危うく警官に身柄を拘束されそうになり大慌て。何とか逃れてさらにマシンを未来に進めたその時、月の大爆発のショックでピアース思わず気を失ってしまった

 どんどこどどんとマシンは勝手に未来へ。あたりは廃墟になり、やがて草木が生えておぉ牧場はミドリ。ミドリ十字は人殺し。人っ子一人いないあたり一面は氷に覆われ、やがてそれが溶け出し川となって山を下り谷を走るぅぅぅ…で、また草木が生えておぉ牧場ぁ〜は〜ミ〜ド〜リィ〜、よっく〜茂ったぁ〜も〜の〜だっホイッ!

 時は80万年先の未来。原っぱにマシンを止めたピアースは、そのまま気を失ってしまった

 いつの間にかマシンから降ろされたピアースは、寝床に寝かされ何者かに介抱されていた。ふと気付くと自分を介抱してくれた見知らぬ女とその弟らしき少年。みんな聞いたことのない言葉をしゃべっている。ここはどこだ?

 深く切り立った峡谷の崖にしがみつくように作られた無数の住家。どうやら人間はかなりの数がいるようだ。だが例の女だけはピアースの言葉を解した。

 「それって『石の言葉』ね」

 何でも彼らは子供の頃にかつての言葉を教わるのだが、大人になると忘れてしまうのだとか。だが彼女は教師だから『石の言葉』を解するのだ。

 「私はサマンサ・マンバよ」「えっ? ヤマンバ? それにしちゃガングロじゃないな」…と、まぁ言葉は通じても話が見えてなかったりする。確かに一時期流行ったガングロねえちゃんとオヤジじゃ話も通じるわけがない。

 彼女はピアースの物腰がこのあたりの人間じゃないと即座に理解し、彼が過去からやってきたことも素直に受け入れた。そしてピアースともすっかりいいムード。そしてやっぱり大好きなのは「花」。時代は変わっても変わることがない女心に、ピアースもギロリーが死んで以来失われていた心の安らぎをしばし取り戻していた

 ところが夜になると妙な夢にうなされるピアース。原っぱの奥深くにある不気味な怪物の頭の形をした構造物…あわてて夢から目覚めたピアースだが、マンバ姉弟にとっては驚くにはあたらない。彼らにとっては年がら年中夢で見るありふれたイメージらしい。何だって? みんな同じ夢を見るのか? そういえばこの集落には老人や中年がいない。EDもない。バイアグラもない。ペレも何も言う必要がない。彼らはみなどこに行ったのか。そんな疑問に対しては、言葉を濁すばかりのマンバであった。

 翌日、マンバの案内で原っぱに置き去りになったタイムマシンまで連れて行ってもらうピアース。そこでマンバはピアースに、過去に戻る時に弟を連れて行ってほしいと頼み込む。なぜだ? この時代には何か不都合でもあるのだろうか?

 その理由はすぐに分かった。突如どこからともなく得体の知れない連中が現れた。それは確かに人間ではあったが、やたら動きが敏捷で顔のデカい、なまはげ軍団だ(笑)。なまはげどもはマンバたち普通人間たちに襲いかかり、何と何人かの人々をさらっていくではないか。ドサクサに紛れて、マンバもこのなまはげ軍団に連れ去られてしまった。

 これがマンバが語らずにいた、この時代の恐ろしい秘密だったのだ。みんなある程度の年齢になると、なまはげ軍団に連れ去られてしまう。だから老人も中年も一人もいなかった。もちろんEDもペレもいやしない。

 「やられっぱなしでいいのか!」

 なまはげになす術もなく諦めムードのみんなを、ピアースは一喝。だが、どいつもこいつもまるで覇気がない。まったく近頃の若いもんときたら! 仕方なくマンバ弟と共に敵の本拠をめざすピアース。そして辿り着いた廃墟…そこはあの2030年に見た図書館の成れの果て。

 本もボロボロ、建物もボロボロの図書館には、何とホログラムの案内人オーランド・ジョーンズがまだ健在。ジョーンズはこの長い年月の変化を見つめ続けていた。このジョーンズのアドバイスで、敵の本拠地をさらにめざすピアースとマンバ弟だった。

 すると…。

 夢に出てきた怪物頭の構造物が、原っぱにどっかと鎮座しているではないか。怪物頭の口の中から覗いてみると、地下遥か奥深くに通路が広がっている。マンバ弟をその場に残して中に入って行ったピアースは、持ち前のうっかりぶりを発揮して危機また危機。途中で人骨が捨てられた屠殺場に出くわす。これは…なまはげたちは捕らえた人間たちを食用にしているのか? するとマンバの安否は?

 さらに奥に進んでいったピアースは、檻に閉じ込められたマンバを発見。まだ食われていなかったのか。ホッと一息のピアースの前に、不気味な人影が迫る…。

 白塗りメイクのジェレミー・アイアンズだ!

 「ここは地獄の一丁目、永田町へようこそ」

 唖然とするピアース。このアイアンズ、地下永田町の支配者として君臨している男らしい。見た目の奇怪さは白塗りだけではなく、なぜか脊椎が背中からムキ出し。その軸は大きく右傾化していたから、危険極まりないことはどう見ても明らか。ついでに言えばオペラ好き。

 しかもこのアイアンズ、なぜかピアースのことなら何でもお見通し。ギロリー恋しさにタイムトラベルを始めたことまで先刻ご承知の勘の良さだ。

 実はこの時代、地上のマンバたち普通人の他に、地下に潜って進化した人間たちがいた。そのうちの一方が例のなまはげ軍団。そしてもう一方がアイアンズたち白塗り人間。白塗り人間たちは知能が異常に発達した。そのため、ピアースの心の中まで読み取ることができたのだ。そしてその発達した精神力でなまはげたちを支配。地上には普通人間たちを「飼育」して食用にしていたわけ。ただし、身体の優れたものは繁殖用として残す。あのマンバが生き残っていたのはそのためだった。

 「これぞ“完全なる飼育”だ。別にコギャルを監禁してるわけじゃないがな。ワッハハハ」

 精神力が発達したわりにはつまんないギャグをブチかます白塗りアイアンズ。だがその精神力ゆえに、なまはげだけでなく地上の普通人たちまでコントロール。子供のうちから夢の中で白塗り人たちの力を見せつけ、地下と地上両方の人間界を支配していたというわけ。これをワイドショー政治と言う。

 「早い話が我々が国民全体を支配し、食い物にしているのだ。これぞ人呼んで“住基ネット”だ。逆らう自治体は叩きのめしてやる。ワッハハハ」 これはまったくギャグにもシャレにもなってない。

 そんな血も涙もないアイアンズもピアースには同情的だ。恋人を助けようとしたのに気の毒だったな。痛みに耐えてよくやった。感動した! だが、どう頑張っても彼女を助けることはできぬ。せいぜい変えられるのはお札の絵柄くらいのものだ。

 見るといつの間にか例のタイムマシンが、この地下に運ばれて来ているではないか。

 「ここはおまえのいるところではない。元の世界に帰れ!

 確かにおっしゃる通り。ピアースはゆっくりタイムマシンに向かって歩いて行った。だが、泣きじゃくるマンバの顔を見ているうちに、彼の中にはふと引っ掛かるものがあった。

 確かに過去を変えることは出来ない。愛する人を助けることは出来なかった。だが、そのままでいいのか?

 未来も変えることは出来ないと言えるのか?

 

 ご存知H.G.ウエルズの古典的SF小説の映画化。正確には1960年にジョージ・パルが映画化した「タイム・マシン」があるから、それにリメイクということにもなろうか。両方の映画ともクラシックなタイムマシンの造形に力を入れているところがミソか。ジョージ・パル版の映画は今ではSF映画の古典扱いされているため、今回の作品は全作を大いに意識したつくりになっている。

 このウエルズのタイムマシンねたと言えば、ニコラス・メイヤー監督の「タイム・アフター・タイム」なんて佳作もあったっけ。ここではウエルズ自身(マルカム・マクドウェル)がタイムマシンを発明し、ロンドンから現代アメリカにやって来る。当時のロンドンを騒がせた切り裂きジャック(デビッド・ワーナー)まで登場して、ウエルズが現代アメリカ女性(メアリー・スティーンバーゲン)一人だけを味方に孤軍奮闘…というなかなか楽しいコメディになっていた。当然のことながら、今回の「タイムマシン」はコメディではなくストレートなドラマにはなっているけれど。

 今回の監督サイモン・ウエルズは、原作者H.G.ウエルズの曾孫というウソのような話ばかり話題になっているが、元々はスピルバーグ傘下でアニメーションの仕事をしていた人らしい。これが実写映画監督第一作。ただし撮影の終盤で過労で倒れ、降板してしまったらしいが。やっぱり実際の役者を動かす監督業はハードな仕事なんだねぇ。

 主役を演じるのは今が旬のオーストラリア出身ガイ・ピアース。考えてみると、ジョージ・パル版の主役もオーストラリアからハリウッド入りしたロッド・テイラーだったというのは不思議な符合だね。出世作「L.A.コンフィデンシャル」はともかく、「ラビナス」「メメント」とクセのある地味な出演作揃いだった彼にしては、今回珍しい娯楽大作出演だ。そして悪役として登場のジェレミー・アイアンズが、この名優にしてあっと驚くメイクで登場してくるのには笑わされた。

 ストーリーの基本は原作並びにジョージ・パル版映画と大差がない。ただ今回の新趣向としては、主人公のタイムトラベルの動機がちょっと違う。それは、「運命は変えられるのか?」というテーマにつながってくるんだけどね。

 不慮の事故で亡くした恋人の復活を願って、やっとのことで実現させたタイムトラベル。「あの時こうしていれば…」という思いは誰しも持つもの。あの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」もそこを前面に押し出したタイムトラベルのお話だし、そこに今回の切り口を求めたのはなかなかいい作戦だ。しかも、それが何度やってもうまくいかない悲劇性も、展開としては面白くなりそう。

 ただし原作に忠実に映画化すれば、物語は最終的に80万年後の未来に持っていかねばならない。そこをこの映画では、過去を変えるためのヒント探しの旅にしたところが苦肉の策と言える。でも、それでもやっぱりかなり強引な展開と思えちゃうんだよね。科学者ともあろう者が、そんな行き当たりバッタリでこんな大冒険をやらかしていいんだろうか(笑)?

 そもそも過去の改変だって、タイムトラベル物語ではいつも問題になるデリケートな問題だ。ピアースの主人公が、勝手に過去を変えてしまうことに何の躊躇もないのは妙じゃないか? それだけでなく、この映画では終始一貫、ピアース扮する主人公がついウッカリ不注意でドジ踏みまくり。正直言ってしまいには少々アホに見えてくるのが難点だね。

 あげくの果てにクライマックスで、タイムマシンに細工をして巨大なエネルギーを放出させたのも、本当のところは何がどうなったのかよく分からない。そもそも、主人公がどうしてあのようになると分かったのだろう? そして仮にそれを知っていたとして、結果的にはどれほどのカタストロフィーを引き起こすか…ということまでは知るまい。あんなことして時間の歪みを生じさせないか、不安になるのがホントだろう。

 ただ、後半の活劇仕立ての見せ場てんこ盛りといい、これはあくまでハリウッド娯楽大作映画としてつくられているんだから、目くじら立てる必要ないのかもしれないんだけどね。

 そういう意味では「やられっぱなしでいいのか!」と皆にゲキを飛ばし、最後に自ら運命を変えられることを実践してみせる主人公は、いかにもアメリカ映画的な人物と言える。

 見終わった後の口当たりは悪くないから、これでも良しとするか。

 

 

 

 

 

 

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