「キューティ・ブロンド」

  Legally Blonde

 (2002/05/13)


  

何が一体ショックかと言えば

 時代が変わったっていうことを感じる時ってどんな時だと思う?

 僕も年齢を重ねて人生後半戦に入ってくると、ちょくちょくこの「時代が変わった」ってことを実感させられるよ。いいかげん自分の価値観が古びてしまったことを、否応ナシに思い知らされる。

 特に若い人たちとのギャップを感じることが増えてくるから、それで時代が変わったと痛感するんだろうって? そうねぇ、確かにそういう事はある。でも、実際には俺たちは、若い奴とのギャップくらいで「時代の変化」とまでは思ってないよ。だって、ハッキリ言って僕らの年代の奴らは若い連中を重要視していない。彼らが自分たちと違っていようと、彼らが僕らをバカにしようと、こっちはこっちで連中の方が分かってないと思ってるからね(笑)。耳を貸すつもりもないし、ショックだって実はあまり受けていない。

 それでは、どんな時に「時代の変化」を感じてショックを受けるのか?

 それは、知らず知らずに「時代の変化」に合わせてる自分、それを全く疑いなしに受け容れている自分に気づいた時なんだね。

 それまでの生きてきた蓄積もあるし、こだわりもあったはず。自分の価値観がキチッとあったはずなのに、いつの間にかそんな時代に迎合している自分に気づく…自分ですら、それを自然のこととして受け容れてしまっている。

 それこそ何より、時代が変化したってことじゃないのか?

 

パッパラパーなバブル娘が法律の道へ

 ここは太陽サンサンのカリフォルニア。リーズ・ウィザースプーンはロサンゼルス近郊の金持ち住宅街ベル・エア育ちの典型的なピカピカ娘。何せ彼女の頭にはオシャレと楽しいことしかない。大学の社交クラブじゃ会長を務めるほどだから、そのオシャレ度も群を抜いている。もちろん髪はピカピカのパツキンのブロンドだ。

 今日も今日とてジェシカ・コーフィールやアランナ・ウバックといったお仲間連れてショッピング。それと言うのも、もうすぐ卒業間近なこの時期、ウィザースプーンの恋人マシュー・デイヴィスから「話がある」とデートに誘われれば、そりゃあもちろんプロポーズに決まっているではないか。そんな大事な今夜のデートに備えて、万全な勝負服で臨まねば女がすたろうというもの。満を持して今夜のためのドレス調達にお店にやって来たというわけ。

 店の方としちゃ、こんなオシャレのことで頭が一杯で会話もアホ丸出しの金持ちのパッパラパー娘が来たとなれば、カモがネギしょってどころかナベも化学調味料もしょってやって来たに等しい。これ幸いとばかり売れ残りの品を法外な値段で売りつけようとする。だが、甘く見てはいけない。オシャレで頭が一杯ということは、持てる全知力と能力をオシャレに注ぎ込んでいるということだ。たちまち頭にインプットされた最新オシャレ情報から、店のペテンを見破ったからアッパレ。この姉ちゃん他の分野ではどうだか分からんが、ことオシャレに関してはまるっきりバカではなさそう。店としちゃ彼女がしょってきたカモナベ、いささか辛みがピリリとききすぎてたご様子だ。

 さぁ、お仲間の大声援に送られて、颯爽とやって来たレストラン。迎えるは最愛の恋人デイヴィス。早速ということで切り出した話に、彼女はもう聞く前から答えはイエスと決まっていた…はずだった。

 我が家は名門で将来的には政治家をめざすべく運命づけられている。だから僕はハーバードのロー・スクールで法律の勉強をする。先を考えるとチンタラしてられない。だから…。

 「イエス!」

 …君ともう別れたいんだ

 「ええっ!?」

 愕然とするウィザースプーン。だが、デイヴィスは冷たく言い放つ。「君はあまりにパツキンすぎるんだよ。政治家の妻には向かない」

 ショックで口もきけないウィザースプーンには、じゃあ山崎拓の愛人ならいいっていうの?…なんて気の利いたセリフを吐くだけの心の余裕もなかった。

 大泣きに泣いてショボくれる日々。そんなウィザースプーンをお仲間も心配して、何とか外に連れ出すことにした。行く先は? そりゃもちろんオチこんだ時はヘア&マニュキア。どよ〜んとしたウィザースプーンを何とかお店に連れ込んだ。そんな待ち時間に、ウィザースプーンがふと目にした雑誌には…。

 あの「元」恋人のデイヴィスの兄貴がいいとこの娘と婚約ってなニュースが載っているではないか。そもそも二人のなれそめは…なになに? ロー・スクールで知り合ったぁ〜?

 そうなると普通の人の思考回路を二段も三段も飛び越して結論に向かうウィザースプーンは、果たして利口なのかバカなのか。ともかく発想は一足飛び。彼はロー・スクールで自分に見合った相手を捜すつもりなんだわ。ならばこのアタシがロー・スクールに入って、その似合いの相手だと認めさせればいいんじゃないの。

 かくしていきなり何を血迷ったか、ウィザースプーンはハーバードのロー・スクールめざして立ち上がったのだ!

 そもそもは彼女の大学での成績はかなり良かった。もっとも、それもあくまで彼女の専攻が、ファッション販売促進というお得意の分野であったからではあるが。ハーバード入学の条件とは、LSATという検定試験で一定の点数以上の成績を収めること。どうなることかと思ったが、女の一念岩をも通すか単なるマグレか、この試験をまんまとクリアしてしまった。その結果と彼女のPRビデオを同封して、ハーバードへ入学申請の手続きがとられたわけ。

 ハーバードでは諸先生方たちがPRビデオをチェック。これがまたウィザースプーンが親の金にあかしてこしらえたシロモノ。水着でプールに入って自己アピールというまるで場違いなブツだったが、何とこれをあのコッポラに頼んでつくってもらったとか。もっともコッポラ、最近は金に困って「ゴッドファーザー」DVDボックスやら「地獄の黙示録・特別完全版」なんかこさえてるアリサマだし、ド素人主演で「キャプテンEO」でもつくるつもりで目をつぶってやったのだろうと察しはつく。

 ところがハーバードではこの水着ビデオが功を奏した。まぁ選ぶのはみんなオヤジどもだ。生徒にも多様性があった方がよかろうってな、個性重視の教育なんて文部科学省のバカ役人が考えるようなこじつけ理由の果てに、彼女の入学は認められてしまった

 てなわけで、勇躍ハーバードはロー・スクールにやってきたウィザースプーン。とは言え、もとより彼女がそのライフスタイルを変えようという気があるわけない。ここハーバードでもロス同様に、チワワの愛犬ブルーザーを従えて、どピンクのキラキラでお出ましだ。およそ地味〜なロースクールでは思いっきり浮きまくっているが、彼女一向におかまいなし。いきなり学校の職員らしき男ルーク・ウィルスンつかまえて、サークルとかイベントのこと質問する彼女は、まだ自分が置かれた立場ってものをまるっきり分かってない

 早速彼女はクラスメイトたちと初顔合わせ。何人かのグループに分かれての自己紹介となる。そこで顔を合わせた連中は、ロシア文学の専攻だったせいかメチャ暗そうなオズ・パーキンス、フェミニズムにガチガチ凝り固まったメレディス・スコット・リンなど、どいつもこいつもひとクセもふたクセもありそうな面々。そんな中でウィザースプーンはと言えば、キャメロン・ディアズに着こなしをアドバイスしたことが自己PRの内容とくるからピントはずれも甚だしい。

 それでも元気一杯のウィザースプーンは、学内でついにデイヴィスを発見! 一方の彼の方はというと、まさかこんな所で彼女に出会うとは思ってもみなかっただけにアッケにとられたまま。一方的に授業後待ち合わせを約束させられても唖然としているだけだった。

 ところがその授業から悪夢が始まった。生徒たちが席につくや、みんな一斉にノートパソコンを開いて、いきなり授業内容を打ち込み始めたからウィザースプーンも驚いた。彼女は当然のようにパソコンなど持って来ていない。仕方なくハート型のカワイいノートを開いてチマチマ手書きというテイタラク。だが、それはまだ序の口。この授業担当講師のホーランド・テイラーは、キビシさで定評のある鬼ババ女教授。このテイラー教授の質問に手を挙げたオズ・パーキンスも、その鋭い質にドギマギさせられるハメになるほど。それが事もあろうにウィザースプーン、この授業の宿題を忘れていた。たちまちヤリ玉に挙げられるウィザースプーン。しかもタチが悪いのは担当教授だけではない。何と仲間であるはずの生徒からも突き上げをくったのだ。その生徒…いかにもいいトコの出の秀才娘セルマ・ブレアは、ウィザースプーンに冷たく言い放つ。「彼女を教室から追い出すべきです!」

 いきなり一日目からこれ。結局教室から叩き出されたウィザースプーンは、何とも怒りの持っていきどころがなかった。ここの連中で、どいつもこいつもみんなあんなにイジワルなの?

 ところがそんなウィザースプーンのボヤきをたまたま耳にしていた男がいた。初日に出会った男、ルーク・ウィルソンがそれだ。親切そうに話しかけてくるウィルソンにちょっと心和んだウィザースプーン。なぜかウィルソンは懇切丁寧に、ウィザースプーンに各担当教授たちの傾向と対策を伝授するのだった。

 そこにあの愛しのデイヴィス登場! ウィザースプーン、教室での屈辱を大いに彼にグチろうと駆け寄ったその時…。

 サッと横から出てきてデイヴィスに寄り添ったのは、あの教室からウィザースプーンを叩き出したインケン女、セルマ・ブレアではないか! そして、その指にはダイアの婚約指輪が!

 が〜〜〜〜〜〜ん

 何たる屈辱、何たる失望。動転したウィザースプーンは車で街を駆け抜けた。オチこんだ時…そう、そんな時こそヘア&マニュキアよ!

 早速見つけた美容院に飛び込んだウィザースプーン。マニュキア係のおばさんジェニファー・クーリッジにツメのお手入れをしてもらいながら、ついつい口からこぼれるグチの数々。「こんな所に来たのはムダだったわ!」

 そんなウィザースプーンの身の上話を聞いたクーリッジおばさんも、ついつい自分の嘆き節を披露。アタシも ロクデナシ男に捨てられて…大好きだったワンちゃんも取られたの」 そしてクーリッジは、そんな自分の思いのたけをブチまけるようにウィザースプーンを励ました。「負けてはダメ!頑張って彼を取り戻すのよ」

 そうなると立ち直りが早いのが、ウィザースプーンのいいところ。学校に戻って図書館でのデイヴィスたちの勉強会にいれてもらおうとするが、またしてもインケン女のブレアが邪魔したあげく、バカ呼ばわりをされてサンザン。それでもそのブレアたちがパーティーに行くと聞けば、自分も行かせてくれと頼み込む。その際にブレアが「仮装パーティー」だと言った言葉を、もうちょっと用心深く聞いていればよかったものを…。

 案の定、パーティーは仮装なんかじゃなかった。しかしウィザースプーンもウィザースプーン。バニーガールの扮装で乗り込んで行ったもんだから、何ともコッケイなザマとなってしまった。ウィザースプーンがダマされたと気付いても後の祭り。

 それでも気丈にデイヴィスの元に行って何とか気を引こうとするが、もとより彼の眼中にウィザースプーンはない。それどころか、ここまで彼のために頑張ってきたウィザースプーンに、言うに事欠いてとんでもない暴言を吐く。

 「ここは君のいる所じゃないよ。君じゃムリだ

 さすがにネアカ、ポジティブ・シンキングなウィザースプーンでも、この言葉の意味するところは分かった。アタシじゃムリ? アタシがバカだって言いたいの?

 これにはウィザースプーンもキレた。そして彼女本来のファイトが湧いた。なにくそ負けてなるものか。そして忘れてはいけない。彼女にはあのコテコテなファッションを全うするだけの、強い集中力が備わっているのだ。

 早速、彼女が本気で勉学に励む日々が始まった。だがウィザースプーンは、ガリ勉やる時だってここの連中の後追いはしない。あくまで流儀は彼女流。みんなが教室にノートパソコンを持ち込めば、彼女は負けじとオレンジのカラフルなiBook。ワークアウトの最中も法律書見ながら、テレビの法廷ドキュメント番組をながら視聴。彼女にとって、法律の勉強もオシャレ道を究めるのも、相反しない両立するものなんだね。

 そんな猛勉強中の彼女がめざすのは、ヴィクター・ガーバー教授の特待生ワクに入ること。ガーバー教授は優秀な生徒だけ選別して、自分の法律事務所で助手としての実地体験をさせることで知られていたわけ。そのワクはたったの4人。しのぎを削る競争のなかで、ウィザースプーンは授業でも果敢に発言。一度などあのデイヴィスを法律論で打ち負かすほどだった。これで一気にガーバー教授の注目を集めるようになったんだね。

 その一方で、得意の法律論を武器にマニュキア係のクーリッジおばさんの手に、愛犬を取り戻してやることに成功。そんな経験の中、ウィザースプーンはこの仕事が人の役にたつものだと思い始めるんだね。

 かくしてその助手ワクがいよいよ発表。デイヴィスとブレアはまず自分たちの名前を発見して大喜び。ところがそこに何とウィザースプーンも滑り込んだ。やった〜と狂喜乱舞のウィザースプーンを横目に、またしても目の上のタンコブ出現にイヤ〜な気分になるブレアではあった。

 いよいよガーバー教授の事務所に招かれての助手としての実習が始まった。例の助手に選ばれたのは、ウィザースプーン、デイヴィス、ブレアに加えてフェミニストのメレディス・スコット・リンの4人。そして彼らの前に現われたのは…あのルーク・ウィルスン! 彼は学校の職員などではなかった。このガーバー教授の法律事務所きってのキレ者弁護士で、学内には教授の仕事の手伝いをするために出入りしていたのだった。この意外な偶然になぜか心ときめくウィザースプーン。

 彼らが担当することになったのは、富豪の夫殺しの嫌疑がかけられた妻アリ・ラーターの弁護の仕事。ところがウィザースプーンはこの名前を見てピンときた。このラーター、何とウィザースプーンが会長を勤めた大学の社交クラブの先輩だったのだ。現在もフィットネスの仕事で知られる彼女。その仕事でかなりの収入を得ていたから、保険金目当ての殺人ということはありえない。では、まだ若い妻に対して、夫がかなりの老齢だったことが殺人動機だったのか? だがウィザースプーンには彼女が犯人だという点が納得できない。第一フィットネスで体調管理バッチリの人間は、アミノ酸を豊富に体内に持っているので、そんなネガティブなことは考えないわ…と彼女なりに合理的な理由もあった。

 早速刑務所でラーターと面会。最初から彼女を犯人と決めつけるガーバー教授に、ラーターはキレっぱなし。そうは言っても彼女は自分のアリバイを教えてくれない。それだけは口が裂けても言えないとくれば、弁護のしようがないとガーバー教授もシブい顔だ。そんなラーターだが、面会の法律事務所スタッフの中に見知った顔を見つけて、ぱっと表情が明るくなった。大学の社交クラブで共に過ごしたことがあるウィザースプーンだ。あなたがいれば安心…とばかりスッカリ信用されたウィザースプーンは、何としてもラーターを危機から救い出さなくてはと意を強くするのであった。

 早速単独でラーターに面会。ウィザースプーンはどうしても彼女のアリバイが知りたかった。彼女を信用させて、何とか問い詰めたそのアリバイとは…何と彼女、ひそかに脂肪取りをしていたとのこと。フィットネスを仕事として、自らの減量法を売り物としてきたラーターがコッソリ脂肪取りをしていたとあらば、今までの信用が水の泡。それに何より美容を至上命題とする彼女にとっては、致命的な事実になってしまう。絶対に黙っていてくれとラーターに固くクギを刺されてしまった以上、このアリバイを披露するわけにはいかない

 だから彼女はガーバー教授の事務所でもガンとして口を開かなかった。これにはガーバー教授も大いに苛立ったが、それでもウィザースプーンは厳然と言い切るのだった。「これは彼女と約束したことですから!」

 この断固たる態度と、人に対する誠実さに心動かされた人物が一人いた。それは今まで終始彼女にインケンな態度をとり続けていた天敵セルマ・ブレアだ。ブレアは部屋で資料を検討中のウィザースプーンを訪ねると、恥を偲んで今までの無礼を詫びた。そんなブレアの姿を見ているうちに、ウィザースプーンも今までのいきさつを水に流すことに決めた。いつの間にかスッカリ打ち解ける二人。親しくなった勢いでブレアは、ウィザースプーンにとっておきの秘密を打ち明ける。デイヴィスは実はハーバードに補欠で合格していた。そこを親父のコネで無理やりロー・スクールに入れてもらったのだ。な〜んだ、ダッセ〜。そんな笑い話をしながら、女同士の夜は更ける。

 さて、いよいよ裁判が始まった。ラーターは夫の死体のそばに立っているところを義理の娘と庭師に発見されていた。しかもアリバイは明かせない。だから裁判は徹底的に不利な状況で進んでいた。しかも、やたらニヤついた庭師がラーターとの不倫を匂わせ、ますますこの裁判は負けの雰囲気が濃厚。だがウィザースプーンは、休廷時間にこの庭師が彼女の靴の銘柄をピタリと当てたことから、とんでもない事に思い当たった。

 そこらの男に靴の銘柄なんて分かりっこないわ。あの庭師はゲイよ。だから不倫なんてありっこない!

 この意見を却下しようとしたガーバー教授だったが、以前からウィザースプーンの資質に注目していたルーク・ウィルスン弁護士がこの着眼点に目をつけた。庭師が証言台に立った時、機転を利かせた誘導尋問を展開。見事に庭師の偽りを暴き出して、一気に法廷の雰囲気を有利に導いたのだ。自分の指摘が役だったことが、当のウィザースプーンも嬉しかった。

 そんな喜びの中、ボスのガーバー教授から直々のお呼びだ。ウィザースプーンが教授の部屋にやってくると、何と教授は彼女にこの事務所で将来的に働いてみないかと持ちかける。さすがに嬉しくなったウィザースプーン。だが、嬉しかったのはそこまでだった。

 何とこの教授、いきなり彼女に手を伸ばしてきたではないか。とんでもないセクハラオヤジ。これにはウィザースプーン、今までの展開が輝かしく喜ばしかっただけに、怒りと失望もまた絶大。ブチギレで教授を拒絶すると、あわてて部屋から飛びだした。

 ところが間の悪いことは重なるもの。あのセルマ・ブレアがそのセクハラ現場をたまたま見てしまったのだ。しかも彼女が拒絶したところは見てなかったから、ウィザースプーンが色仕掛けで教授に迫ったと勘違い。よせばいいのに彼女に罵詈雑言を浴びせてしまった。

 ショック、失望、挫折。

 ウィザースプーンはありったけの荷物を車に積んで、あのクーリッジおばさんの店に別れを告げにきた。自分でも役に立てることがあるんだと、せっかくやる気になってきたのに。やっぱり弁護士の世界も腐っているなんて、もうこんな街まっぴらごめんだわ!

 その時、店でパーマをかけていた婦人客の一人が、ゆっくりウィザースプーンの方に近づいてきた。

 これでサジを投げちゃうの? あなたはもうちょっと根性があると思ったのに。ウィザースプーンだから、スプーン投げちゃうのかしらね。

 そんな寒いダジャレを言いながら近づいてきたのは、あの最初の授業でウィザースプーンを手厳しく叱責したホーランド・テイラー教授だった…。

 

価値観の逆転を決定的に印象づける映画

 この映画のヒロイン、リーズ・ウィザースプーンって名前はずいぶん見てたんだけど、実際の映画で見たのは「カラー・オブ・ハート」や「アメリカン・サイコ」あたりくらいかな。正直言ってあまり美人ではなくアゴがしゃくれた猪木顔。そして僕の見た2作に限らず、その役柄ってなぜかどこかバブリーな背景を背負ったものが多いように思われる。そうくると、この映画の役どころは彼女に打ってつけってことになるのかな。

 とにかくバカバカしくも楽しい映画であまりクソ難しく語りたくもないのだが、アメリカ娯楽映画のエッセンスが散りばめられて典型中の典型みたいな映画。そして注目すべきは、この作品だいぶヒネリはかけられているものの、基本的に「法廷映画」なんだよね。そして「法廷映画」と言えば、陪審員制度というショーアップされた裁判制度を持った、アメリカ映画ならではの名物ジャンル。だからそういった面でもアメリカ娯楽映画の伝統に見事乗っとっているわけ。

 しかも、少々単純おバカ入ってはいるが、ヒロインのオシャレ指向が見事事件を解決に導くきっかけとなるあたりも楽しい。何だかんだ言っても楽しませてくれる映画に仕上がってる。 まぁ、いわゆる価値観激突コメディというか、カルチャーギャップ・コメディの典型として出来上がっているんだね。

 この映画、趣味の善し悪しはともかくオシャレで頭が一杯で一見おバカなヒロインが、何よりも知性を重んじる鼻持ちならないインテリ階層に対して、そのオシャレと隠された知性で反撃するお話なんだよね。しかもそのオシャレ指向たるや、実はかなりバブリーな価値観でもある。これってちょっと前だったら全く逆のポジションのお話が描かれるもんだったんじゃなかった? 頭はいいけど見てくれ無視のヒロインが、バカにする周囲を見返して美貌と知性で勝負する。そういや、去年の「デンジャラス・ビューティー」もその系列だよね。

 でも「キューティ・ブロンド」では、ヒロインのいわゆるバブリーな価値観は最終的に肯定されるし、ヒロインは終始テメエ流を押し通して終わる。確かにお高くとまった知的人種の高慢チキさを蹴飛ばすという点では、弱きを肯定し強きをくじく価値観激突コメディの典型なのだが、果たしてちょいと昔だったらここまでバブリーな価値観が肯定されきって終わるだろうか。実はここで対立するヒロインと周囲は、社会階層的にはどちらも豊かな経済力を持った存在として描かれているのがミソだ。決してこれは、庶民対権威主義という「エリン・ブロコビッチ」ではないのだよ。

 確かにヒロインが対立する価値観は、観客にとって共感すべくもない何とも鼻持ちならないものだ。そして、この映画におけるヒロインのキャラクターは、ちょっとイマドキこんな人いないんじゃないかと思えるほど善良で人を疑わず偏見も先入観も何もない…なさすぎな無防備人間。だから、何をどう見たって観客がヒロインを応援したくなるよう誘導されていることは間違いないんだよね。

 だけどこれだけの要素が揃っていたとしても、恐らくかつての同系列の作品だったら、ここまで「バブリー」肯定にはなり得なかったような気がするんだよ。で、こうした「バブリー」なヒロインが全面肯定されるようになったのは、やっぱり時代の流れって気がするんだね。従来ならむしろ「見てくれより中味」ってな話の方が人の共感もある程度得られやすかったし、そっちの方が圧倒的にありそうな話として通用したと思うよ。そして決定的に世の中の価値観が違った。

 でも実は現代では、むしろ「キューティ・ブロンド」みたいな方がリアリティあるのかもしれないよね。そういう時代が到来したってことじゃないか? それは「見てくれ」がまず重視され、バブリーであることが肯定され、それにお金を注ぎ込むのが当り前だったバブル期を通過した年代、その価値観を自らのものとして共有した世代が、社会の中心を構成するに至ってきたことと関係あるのかもしれない。こういう人たちからすれば、「質実剛健」「見てくれより中味」なんてキレイ事のウソくさい話にしか感じられない。 「かわいくってオシャレでなぜ悪い」というふうに言われれば、確かにそれはその通りだからね。

 もちろん「キューティ・ブロンド」のヒロインの価値観が、大多数の観客たちの価値観そのものだなんて言うつもりはない。イマドキの人はあんなにパッパラパーだと決めつけるつもりもない。ヒロインは異常に突出した常識ハズレで、規格外な存在と設定されてはいる。だが、それでも決して観客が理解不能な存在にはされていない。否定的に笑い飛ばされコケにされるだけのストレンジャーとしては描かれない。あくまで観客の理解と共感の範疇の中にいると描かれているのは、観客のほうでも彼女は自分たちの側にいるという感覚があり、彼女を受け止められるだけの下地が出来上がっているからだろう。

 そう考えるとこうした状況は、「デンジャラス・ビューティー」のヒロインが反省して「見てくれ」も大切と思い始めるあたりまで関連が出てくるのかもしれない。

 アメリカの娯楽映画って実は綿密にマーケティングされているはずだから、おそらくはそういう計算がなされたのではないか? まぁマーケティングはともかくとして、これが全世界的にヒットして受け入れられたという事実一つとって見ても、その傾向って顕著だと思うんだよね

 それは一つ間違うとかなり鼻持ちならないことになりかねない、あるいはバカすぎる映画になりかねない。バブル期の価値観を保持している世代以外には受け入れ難いものになったかもしれない。その危ないところを、その手のキャラを説得力を持って演じられ、なおかつ愛すべき個性として表現できるリーズ・ウィザースプーンを持ってくることで解決したというところじゃないだろうか。

 そして時代の変化ということを言うなら、もっとハッキリとした証拠がある。実は何を隠そう、この僕もこのヒロインの大活躍は大いに楽しんだし、応援もしたし共感もした。僕のような旧来型のシーラカンスのような人間…バブリーな風潮を苦々しく思っていた人間がこの人物像を無条件に楽しめたということこそ、何より時代が変ったということを象徴していると思うよ(笑)。

 

  

 

 

 

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