「ブラックホーク・ダウン」

  Black Hawk Down

 (2002/04/15)


  

悪夢の底なし沼に

 しかし、鈴木宗男氏の疑惑の総合商社ぶりが騒がれた後で、あんな第二ラウンドが展開されようとは夢にも思わなかったよ。そうそう、辻元清美議員の新たなる疑惑騒動。それにしても疑惑発覚から辻元サンが議員辞職するまでがすさまじく早かった。ここでその是非を問うつもりはないし、この人がイイの悪いのと言うつもりもないが、それにしてもその間わずか1〜2週間しかなかったんじゃないか。それにしたって辻元サンも、その1〜2週間前まではまさか自分がそんな疑惑の渦中に落ち込むとは思っちゃいなかったろうね。

 あげくの果てにちゃんとした手続きもせず、テレビ出演で釈明に汗だくのそのテイタラクは正直言って見苦しかったよ。やってるのは自分だけじゃないとかはテメエで言っちゃ洒落にもならないよね。あの時、辻元サンがあんな早まったテレビ出演をしなかったら、こんな派手なオチっぷりもしなかったんじゃないか。たぶんテレビで売り出したこの人のことだ、得意なテレビの土俵に持ち込めば自分に勝ち目ありと踏んだのかもしれない。言いたいこともあったんだろうけど、それが完全に誤算だったんだね。

 人間ドツボにハマった時っていうのはとにかくもがいてもダメだと言う。だけど、そうなった時にはもがかずにはいられない。まして、もがけば何とかなるかもと思える時はなおさらだ。まぁ何とかなると思うこと自体が、実はまだ状況をナメてかかっているんだろうけどね。

 僕も今を去ること7年前、長く勤めた職場の環境が急変して悪化し、とてもマトモに勤められる雰囲気にない状態になった。そこで渋々ながら転職を考え、あちこちにあたり始めたんだよね。当時はバブルはじけたと言っても今ほどの不況が日本を覆ってはいなかった。そこに甘さがあったのだろうか。

 試しにいくつか面接を受けた会社はいずれも好感触。内定もいくつか出たがいずれも自分の意に添わない職場だったのでパスした。それでも就職活動を開始してすぐにこれほどの引きがあることに満足して、これは大丈夫だろうと会社を辞めた。今ならそんな無謀なことはしないだろうけどね。だけど職場では新たな仕事が発生してたから、自分の態度を早く明らかにする必要に迫られてもいた。変な時に抜けたら迷惑だってかかるしね。

 辞めたこと自体は今も後悔はしていない。その後、実際にその職場からはかつての活況が消え失せてしまったから。当時の僕の同僚の多くも今はもういない。

 しかし、最初にいい感じで就職活動がスタートしたことから、僕も状況をナメたところがあったんだよね。その調子で早晩決まると思ってたんだ。ところが辞めてから突然就職活動がうまくいかなくなった。いろいろな職場を回ってみても、一向に話が決まらない。たまにいい引きがあると思えば、こちらから勘弁願いたいような職場ばかり。この時期は本当に焦り狂ったよ。

 結果的に次の職場に決まったのは、前の職場を辞めてから半年以上経ってから。これはマジでツラかった。やはりダメな時はダメ。いくらどんなにもがいても、いい結果なんて出やしないんだよ。

 それでももがかない訳にはいかない場合だってある。そんな時、人はどんな状況に陥っていると思う? それを言い当てる言葉は一つしかない。それはまるで現実とは思えない状況だ。

 人はそれを「悪夢」と呼ぶ。

 

楽勝で終わるはずだった

 はい、ソマリアの首都モガディシオのFです。こちらではアイディード将軍率いるババルギディル族によって制圧され、かつてない危機的な状況にあります。部族間対立が引き起こした飢餓状況は極めて深刻ですが、海外からの支援物資はババルギディル族によって略奪され、一向に改善される気配が見えませんでした。これに国連が介入して支援物資の支給が再開されましたが、アイディード将軍はこの国連平和維持軍に攻撃を開始。状況はさらに混沌としてきました。アメリカ軍はデルタ・フォースと陸軍レンジャー部隊からなる混成軍を派遣し秩序回復に乗り出しましたが、その出口はいまだ見えていません。この事態にワシントンでは次第に苦悩の色を強めているもようです。モガディシオからFがお伝えしました。

 

 1993年、ソマリア・モガディシオ。業を煮やしたアメリカ軍は、まず手始めにババルギディル族に武器を供給していた商人を拉致。だが、捕らえられたこの商人のふてぶてしい態度に打つ手なしの情けなさ。指揮官のサム・シェパード少将は焦りと憤りを隠そうともしなかった。

 こんなことでは生ぬるい。内部スパイの情報から近くモガディシオの某所でババルギディル族幹部による会議が招集されることをつかんだシェパード少将は、ここを急襲してアイディード将軍の側近たちを捕虜として拉致することを決定。デルタ・フォース、レンジャーの精鋭100人で作戦を遂行することになった。作戦会議では事は順調に進むはずで、わずか1時間ほどで済むという話になっていたが、デルタのトム・サイズモア中佐は疑念をはさまずにはいられない。実は現地に秘かに先回りして偵察してきたデルタのエリック・バナ一等軍曹も何か言いたげではあったが、あえて口は挟まない。軍人は命令が下ればそれに従うのが仕事というのが、彼のモットーだった。

 この作戦に関わることで現地の民衆を助けることになると考えるレンジャーのジョシュ・ハートネット軍曹は、根っからの理想家肌。しかし作戦直前にジェイソン・アイザックス大尉から呼ばれて、突然の班長のケガから第4班の指揮を任されることになり、いやが上にも緊張せざるを得ない。彼が率いる部下の中には今回新兵として入ってきたオーランド・ブルームもいる。本人は念願の戦場に出られると大張り切りなのだが、ハートネットの緊張は増すばかり。かく言うハートネット本人ですら、戦場で人を撃ったことなどないのだ。そんな彼に歴戦の強者バナ一等軍曹は、「とにかく部下を生きて連れ帰れ」とエールを送る。

 レンジャーではもう一人、それまでデスクワーク専念だったユアン・マクレガーもケガ人の代打で出撃することになり、これまた緊張の極にいた。そんな彼をはやすレンジャー同僚たち。彼らは十分な装備も持たず、戦場に赴こうとしていた。なぁに、たかだが1時間で終わる作戦だ。相手はロクな装備も持たない民兵ばかり。さっさと終わらせて帰ろうぜ。

 12機のヘリ=ブラックホークに分乗して出撃する一団。別働隊は3台の軍用車両で陸路から現地をめざした。しかし、彼らは知らなかったのだ。空から市内をめざすヘリ部隊の到来を、見張りたちが民兵に報告していたとは。

 現地のスパイが車を停めて示したビルを目指して、ヘリの一団は現地へと到着。ヘリからロープを垂らして兵士たちを降下させる。無事に兵士たちの降下が終了するかと思いきや、建物の屋上からヘリを狙う民兵のロケットランチャーが火を噴いた。

 危ない!

 ロケットはヘリをかすめて難を逃れたものの、ちょうどその時降下を始めていた新兵のブルームが地面に落ちた。あっと驚くハートネットがあわてて降下すると、ブルームは血を吐いてかなりの重傷だ。衛生兵が連れてこられ、騒然とする現場での救出活動が始まる。その間も民兵たちの発砲はやむことがない。今にして思えばこれが誤算の始まりだったのか。

 やがて車両部隊が到着。問題のビル内も制圧し、次々と捕虜を拉致していった。負傷したブルームと捕虜を乗せた車両が、一足先に基地めざして出発する。

 だが民兵の猛攻は予想以上だ。車両には銃弾の雨あられ。それをヘリ=ブラックホークが機銃掃射で蹴散らしながら進む。それでも車両部隊から犠牲者が出始めた。その時!

 ヘリがロケットランチャーで撃墜された!

 街の広場に墜落するヘリ。これはまったくの大誤算だ。基地で戦況を見ていたシェパード少将は慌てて、部隊にヘリ乗員の救出を命じた。3台の車両も救出に向かうため、銃弾の雨の中を墜落現場に急行するが、ヘリからの指示もあいまいな上に敵の猛攻もすさまじく迷走するばかり。そして犠牲者は確実に増えていく。アイザックス大尉とデルタのウィリアム・フィシュナー軍曹率いる一団も、意外に手強い民兵たちに手も足も出ない。ハートネットはその場にユエン・ブレンナー特技下士官たちを残して現場に急ぐこととなった。

 最初は怖々遠巻きに墜落ヘリを見ていた群衆も、だんだん近寄って来て攻撃を始めてきた。墜落ヘリの乗員のうち無傷だった一人が懸命に応戦するが多勢に無勢。いよいよ絶体絶命のその時にヘリの援軍とハートネットたちがやって来た。たちまち始まる激しい市街戦。結局彼らもここから身動きできなくなった

 残されたブレンナー下士官たちも待っていてもラチが明かないことを悟り、墜落現場に向かって移動を始めた。だが彼は移動中の攻撃時に耳を傷め、全く聴覚を失ってしまうハメになる。

 さらにロン・エルダード准尉の操縦するヘリがまたしても撃墜され、市内に墜落。事態は一層の混迷を深めることになった。負傷しながらも孤軍奮闘のエルダード准尉に迫り来る民兵の群。そこにヘリから降り立った援軍デルタ兵2人。しかし、これだけではどうすることもできない。車両は現場に近づけないまま、犠牲者だけが増えていく。結局ヘリの援軍として来た2人のデルタ兵は戦死。エルダード准尉もなぶり殺し寸前のところを敵兵に囚われ、人質として連行された。

 最初のヘリ墜落地点付近には部隊のほとんどが集結していたが、いまや負傷者だらけの兵力ではいかんともし難い。夕闇が迫ってくる中、車両部隊はこれ以上の犠牲を払うこともできず、基地への帰還命令が出た。それを無線で聞いたハートネットに、言いしれぬ無力感が襲いかかる

 作戦は1時間で終わるのではなかったのか? 民兵恐れるに足らずではなかったのか? そしてこの底なしの戦闘は、果たしていつまで続くのだろうか?

 

全編激烈な戦闘シーンの連続…それだけ

 リドリー・スコットのこの最新作は、やはりかなりの問題作には違いない。イントロ部分を除いて、ほぼ全編激烈な戦闘シーンの連続。戦闘状態が始まると、緊張はほぼ一貫して緩むことはない。正直言って疲れたよ。これを見た他の人たちが言ってることと変わり映えしないかもしれないが、「プライベート・ライアン」の前半部分と「フルメタルジャケット」の後半部分をつないだような、強烈な戦闘描写が続く。正直言って戦況がどのようになっているのか、見ている側が完璧につかめるとは言い難い。アクション映画だとするとこれは致命的な欠陥だ。だが、リドリー・スコットの意図は他にあったと僕には思えるんだよね。見知らぬ土地の見知らぬ敵と対峙する、底なし沼に落ち込んだようなウンザリする戦闘。そのカオスのような混乱ぶりと、焦り狂う兵士たちの心理に見る者を落とし込もうとする狙いがあったんじゃないか。その意味ではこのほぼ2時間に渡る大混乱ぶりは理解できる。

 だから兵士たち一人ひとりの心理も描き込まれているとは言い難い。ただただ呆然唖然。阿鼻叫喚のなかで撃ちまくる姿が描き出されている。途中、重傷を負った戦友の治療をする場面で、チラッとそれふうな描写が入るが、それもまた激しい戦闘でかき消される。とにかく袋叩きにあったような気になってしまうんだよね。

 今回も当然のごとく戦争映画としては、政治的なスタンスを問われる向きもあるに違いない。確かにこれはアメリカによる武力介入を描いた作品だ。それそのものを問題視すると、作品そのものが成立しなくなりかねない。この映画では武力介入に及んだ経緯をほんのわずかだけ、それもドラマ的に描くのではなく、単に前フリとして紹介しているに過ぎない。この処置がどう見えるかによって作品の見方も大きく変わるが、そもそもリドリー・スコットはそのあたりに深入りするつもりはなかったんじゃないか。この戦闘の是非がどうの、と言う問題ではない。とにかく兵士たちは戦場へ行ってしまった。それから何が起きたのかを淡々と(というには激しすぎるが)描くことに専念しているとしか見えない。そして、その戦闘そのものにも何らコメントは差し挟んでいない。ただ、こうしか描いていない。

 行った、戦った、やられた。

 確かに問題は探せばいくらでもある。実際戦闘では民兵の方が圧倒的にやられている。でも、それはSFスペースオペラ映画で敵の宇宙人がやられるのと同じくらい注意が払われていない。この辺を気にしてか、捕虜になったパイロット兵士と民兵リーダーのやりとりがちょっぷりだけ挟まれてはいる。ここで民兵リーダーに「おまえたちは殺す権利はあっても、交渉する権利はないのか」と言わせているのは、このあたりを意識してのことだろう。そして孤立無援の中で墜落ヘリの援軍2人が非業の死を遂げていくくだりでは、ついつい民兵たちの群に対して、見る側の僕らは「あいつらを皆殺しにしろ〜」と言いたくもなってくる。終盤になってデルタの強者兵士が「俺たちは仲間のために戦っているんだ」と言わせるあたりも、意図を勘ぐろうとすれば容易にそうできるだろう。正直なところソマリアの連中がこの映画を見れば、かなり偏向した映画だと不愉快にもなるだろう

 だが、この映画は戦争を俯瞰でとらえるものではなく、地面の兵士たちの視点から見ようとしたものだと思えばちょっと見方も変わってくる。当然その視野は狭く、ワンサイドのものになるに決まってる。戦闘が終わっての兵士のコメントとしても、「仲間のために戦っている」云々は正直な発言だと言えるのではないか。果たしてここで兵士の口から反戦メッセージなど吐かれても、とてもじゃないけど「はい、そうですか」とリアリティのある言葉として受け止めることなど出来まい。つくり手としては、たまたまアメリカ軍側として戦場に飛び込んでしまった側から見えた、戦場の一光景として描いたつもりだったんだろうね。 こういうものを「政治的に正しく」描いたとしたら、著しくリアリティを欠くモノになったろう。

 何より人間、「やった」ことの痛みより「やられた」ことの痛みの方がダイレクトで分かりやすい。と言うより、それしかズバッと心の中に飛び込んでは来ないはずだ。「やった」ことの後悔など、だいぶ時間が経ってから、余裕が出てよくよく考えてからでないと生まれてこないものではないか。

 それより底なしの戦闘に叩き込まれての、圧倒的な厭戦感のほうが圧倒的だよね。「反戦」などと声高に叫んでみても、どこか取ってつけたようだ。まずは観客に「痛み」から直感的に厭戦気分を味わってもらう作戦ならば、僕も分かるような気がするんだね。 まぁ、これが映画として成功しているかどうかは微妙なところなんだけど。

 「パール・ハーバー」以来人気急上昇のジョシュ・ハートネットはじめ、ユアン・マクレガーやらはては「ロード・オブ・ザ・リング」で注目のオーランド・ブルームまで、旬の若手スターを駆り出してのキャスティングにも、これを身近なこととして受け止めて欲しい意図が感じられるよ。

 人間、ドツボ状態の時にはもがかない方がいいのは確かだ。でも、もがかない訳にいかない時にはどうしようもない。ましてもがかなければいけないドツボ状態に陥ったのが、自分のためでもないし、それが何を意味するのかも分かってはいなかった事によるものだったらどうだろう。こりゃ勘弁して欲しいことだとは言えないだろうか? 僕が自分の転職時にツラい目にあったとしても、それはあくまで自分のためと考えてのことであり、それがどういう意味を持つのかを分かった上でのことだからこそ納得もした。諦めもついた。比べるのもちっぽけすぎる、あまりに卑近な例だけどね。

 もちろんこの映画の兵士たちは精鋭とのことだから、何も分からずに戦場に駆り出された連中とは違う。むしろ戦いは望むところだった連中だ。だがそれにしたって、それは彼らのためになることでもなかったろうし、それがどんなことを意味するのか彼らに腹の底から分かっていたとは言えないのではないか。だが良かれ悪しかれ、重大な局面での決断だけは出来れば自分で決めたいよね。 そうでなけりゃ悪夢だ。

 大事な時には、自分で決しなければ無念が残るはずだから。

 

 

 

 

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