「オーシャンズ11」

  Ocean's 11

 (2002/02/04)


  

ダマしたかったら弱みを見せろ

 女にモテる男ってどんな男なんだろうね?

 まぁもちろん当たり前のごとく、カッコいい男が最大の条件だ。そしてセンスのいい男。現実的な女が相手なら、金や権力持っている男という条件もあるだろうね。では、これならどうだ?

 結婚詐欺師として成功する男。

 これも当然のごとくカッコいい男? センスのいい男? 金を持ってそうな男…? おや、それが実はちょっと事情が違ってくる

 結婚詐欺師として捕まった男の顔写真なんか見てると、何でこんな男が…と思うような、冴えない男であることが少なくない。いや、ここで「男は顔じゃない」なんておとぎ話を言うつもりはないよ。これはまったく別の話だ。そして、この事は結婚詐欺師が相手にする女の、世の中に置かれたポジションと大きく関わっている。

 では、結婚詐欺師が相手にする女とはどんな女なのか? 不用心で単純素朴な女かというとさにあらず。むしろ男というもんに、あまり夢やいいイメージを持っていない場合が多いらしい。

 そういう女は当然ええカッコしいの男に幻滅を抱いている。あるいは自分など相手にされないと思っている。そんなカッコいい男に言い寄られたら、さぞかし天にも昇る気持ちだろうなどと思うのは素人考えだ。むしろ、そういう女はガードが固い。ええカッコ男が迫ってきたら、こりゃオカシイとさらに用心深くなるのがオチだ。

 だから結婚詐欺師というものは、カッコ良くない男であることが多いのだ。

 カッコ良くない男が言い寄ってくる分にはリアリティがある。しかもカッコ悪い男は悪人に見えない。事業が行き詰まって金がない…なんて話もにわかに現実味を帯びる。ここがポイントなのだ。

 明らかに自分より上だと思える相手に、人はなかなか心を開かないものだ。それ相応の用心をしてかかるだろう。だが自分よりある意味で劣る…と思える部分、鈍くさい部分、ヤボな部分、不器用な部分を相手に見出したとき、人は相手を御しやすい人間と見なして警戒を解く。言うなれば油断するのだ。人間はいつも知らず知らずのうちに、そうやって他人を値踏み・品定めしているものだ。

 相手の警戒を解くには弱みを見せる…これはたぶん、時代が変わろうとも人類不変の法則なんだろうね。

 

犯罪ドリームチームの結成

 刑務所から久々にシャバに出てきたジョージ・クルーニー。ムショから出たとは言え「オー・ブラザー!」よろしくカントリー・ソングが口を突いてくるようなヤボてんとは大違いの伊達男。シャバに出て来るには「もう二度と犯罪には手を出さない」なんて誓いを立てさせられてはいたものの、こいつが懲りてるはずがない。監督官の目の届く範囲にいなきゃならないはずなのに、早速やって来たのはベガスの大ホテルのカジノ。そこにいたバカラのディーラーをやっているバーニー・マックに声をかけたが、彼はクルーニーなんか知らないととぼける。でも、どうやらこいつら旧知の仲らしい

 やがてホテルのバーで落ち合うこの二人は、何のことはないかつての犯罪仲間だった。クルーニーやっぱり次の仕事をたくらんでいるではないか。マックを仕事に誘うと、別のある男の居場所を聞き出した。

 その男ブラッド・ピットはロサンゼルスにいた。腕に覚えのある詐欺師としてのテクニックを駆使して、雪印のオージー・ビーフを国産牛肉と偽って…じゃなくって、ハリウッドの若手スターにいかさまポーカーを教える日々。だが正直なところ、いいかげんスリルのない毎日にウンザリもしていた。そこにオイシいクルーニーの申し出。一も二もなくこの話に乗るブラピだった。その仕事とは?

 先に登場したバーニー・マックがディーラーを勤めるベガスの大ホテル…その地下にある大金庫が相手のでかいヤマ。そこには3つのカジノの売り上げが集まる。そいつをそっくりいただこうという魂胆だ。だが、これほどのヤマを踏むには犯罪のプロが11人ほどはいるし、それを支えるスポンサーも必要だ。では、まず誰に話を持ちかける?

 クルーニーとブラピは、やはりベガスのカジノのオーナーであるエリオット・グールドに話を持っていった。最初は全然乗らないグールド。何と言っても話がデカ過ぎる、ヤバ過ぎる。ところがどこを襲うか聞いてきたグールドにターゲットを告げると、これまたグールドまんまと話に乗ってきた。

 実はこの3つのカジノと金庫のある大ホテルは、ベガスのホテル王アンディ・ガルシアの持ち物。このガルシア、えげつない手口で悪名高く、冷酷非道では右に出る者がいない国民みんなの嫌われ者。早い話がベガスの鈴木宗男との異名を持つサイテー男。このグールドとてもガルシアの手でホテル一つを奪われる憂き目にあって、内心強い怒りを抱いていたわけ。あのムカつく鈴木宗男に泣きを見せることが出来るなら、話に乗ってもいいぞ。こうして計画にはGOサインが出た。 でもNGOには横ヤリ入ってNG(笑)。

 次は組閣だ…というわけで、国民の圧倒的支持率…じゃなくってグールドの資金力をバックに、凄いメンバーが集結した。クルーニーとブラピが声をかけていったのは、揃いも揃ったりその道のプロばかり。電気関係のプロであるエディー・ジェイミソン、逃走用のドライバーであるケーシー・アフレックとスコット・カーンの兄弟、中国人の軽業師シャオポー・クィン、爆破の専門家ドン・チードル、半引退状態だった老詐欺師カール・ライナー…そして牛肉サギの雪印の社長…じゃなくって、まだひよっ子ながらスリとして生計を建てていたマット・デイモンといった面々。この中でデイモンだけがちょっと若さゆえに危うい感じがしないでもなかったが、いずれ劣らぬ技術とノウハウの持ち主であることは明らか。

 こうして永田町史上最強支持率の犯罪的上げ底内閣…じゃなかった、ハリウッド史上最強の犯罪ドリームチーム(笑)が出来上がった。早速グールドの豪邸を本部に計画の準備が始まる。

 犯行は、ベガスのスタジアムでプロ・ボクシングの試合がある晩に行う。その夜、ガルシアは試合を見に出かけているはずだ。その隙を見計らって事を進めるわけ。

 ホテルから関係者以外立ち入り禁止の内部に入り込むには、厳しい警備をかいくぐるIDが必要。そこから先は数限りないレーザーによるセンサーがあり、警備員とモニターがあり、何より厳重に閉ざされた金庫があった。この金庫もセキュリティーを解かなければ床に一歩ついただけで警報が鳴る。うう〜む、なかなかしぶとい抵抗勢力どもだわい。さぁどうする??  人っ子一人入れそうにないこの大金庫まで、外務官僚全員敵に回すような離れ技で、無事にたどり着くことなんて出来るのか?

 まずはこの金庫室と寸分違わぬセットをつくって綿密な練習が繰り返された。そしてホテル王・宗男ことガルシアの日常の行動チェック。電気関係やモニターについては、何とかジェイミソンが電気配線室に忍び込んで回路をいじくり、別室にて全てモニター出来るようにした。

 詐欺師レイナーは謎の金持ちとしてカジノに出入りし、ガルシアと面識を持った。犯行当日に鞄を貴重品として預けて、金庫室にそれを保管してもらう算段だ。チードルは地下の配電盤を爆破して、一時的に停電状態を作り出すことになっていた。これでレーザー・センサーは一時的に使用不能になる。

 中国の軽業師クィンは金庫室に保管するための売上金ケースに入り込んで、金庫室に侵入。金庫室の内側から爆薬を仕掛けて爆破して、一味を迎え入れることになっていた。

 ところが予想外の事態が起こった。

 チードルの仕掛けは見破られ、さらに厳しい装置に切り替えられた。何より一番の誤算は一味のボスであるジョージ・クルーニー。彼の狙いは金だけではなかった。かつて彼の妻だったが今は彼の元を去ったジュリア・ロバーツが、いまやホテル王ガルシアの恋人としてこの地にいるのだ。これに気づいたブラピは怒りに怒る。「なんだ、やっぱりおまえのやってることは『オー・ブラザー!』と同じ。女房とヨリ戻すための悪あがきじゃねえか!」 ロバーツが狙いなら俺は降りる…とブラピは激しくいきまいて、女を諦めるか金庫を諦めるか、ともかく三方一両損だとか何とか訳の分からないことをブチかまして国民の目をダマくらかそうとする。結果、女房にはもう手を出さないとクルーニーも確約した。

 地下の配電盤の仕掛けの代わりは、チードルが見つけてきた。一時的に爆発的な電磁波を発生して、30秒だけベガスのすべての電気系統を不能にする装置が近くの研究所にある。そこで一同はこの装置を盗みに行くが、その途中でデイモンがドジ踏んで危うく捕まりそうになった。これだからガキはいやなんだ。しかも悪いことに、この時中国人のクィンが手をケガするアクシデントのおまけつきだ。

 ところがもっと困ったのはクルーニーで、あれだけノータッチと言っていたのにノコノコとロバーツの前に現れて過去の話を蒸し返す。全然懲りてないクルーニーは、そこをガルシア宗男にまんまと見つかってしまうわけ。元女房の前でさっさと出てけと言われ、まるでNGOみたいにつまみ出される始末。まるっきりトホホなクルーニーだが、大事な仕事の前にアンディ・ガルシアに顔を覚えられてしまったからには、彼を仕事に参加させるわけにはいかない。これは俺のヤマだ、この内閣はアタシがつくったのと食い下がるクルーニーだが、ブラピは頑として首をタテには振らなかった。マライア・キャリーだってレコード会社からリストラされるし、田中真紀子だって更迭されるご時世なんだぞ、ビジネスは厳しいんだよ!

 というわけで小泉ブラピはクルーニーをバッサリ切ったわけ。

 で、その代わりにホテル内部に入り込む役に緒方貞子を持ってこようとしたが蹴られて、仕方なくすでに閣内にいた若造のデイモンを抜擢した。だけどこいつで大丈夫なのか? そして、当然のごとくクサるクルーニー。 くそぉ、いつか暴露本を出してやる!

 犯行当日、クルーニー抜きで事を運ぶことになるが、今度は老詐欺師の塩ジイことレイナーが持病の心臓病を悪化させている様子。

 そんなこんなしているうちに、ベガスのスタジアムでプロ・ボクシングの試合が始まる。この試合にガルシアとロバーツが出かけている間に、事を始めようというわけだ。

 さぁ、果たして一同は無事に計画を進めることが出来るのか? ガルシアは異常に気づくのか? クルーニーとロバーツの夫婦の絆は戻るのか? メッキがはげて急落した内閣の支持率は持ち直すのか(笑)? はたまた計画からはずされたクルーニーが、このまま大人しく引っ込んでいるのだろうか?

 

ソダーバーグ意表を突いての娯楽作

 ついに「トラフィック」でオスカー監督にまで上りつめたスティーブン・ソダーバーグが、受賞第一作としてこんなストレートな娯楽作をつくるとは驚いた。

 この人は元々「セックスと嘘とビデオテープ」の人だもんね。そして次が「KAFKA/迷宮の悪夢」ときたもんだ。どう見たってアメリカ映画の中でアウトサイダーの道一直線となるかと思ったもんだ。

 ところが「アウト・オブ・サイト」でえらくスタイリッシュな娯楽作を放って、いきなりメインストリームに躍り出てきた。そして「エリン・ブロコビッチ」といういかにもアメリカらしい庶民のガッツと理想主義をうたい上げる作品で大ヒットをかっ飛ばした。それからの活躍は言うまでもない。

 だけど「アウト・オブ・サイト」にしろ、そのハイセンスぶりには「KAFKA」の知性派ソダーバーグの顔を伺おうと思えば伺えないでもない部分があった。「エリン・ブロコビッチ」だって根本には社会派としての横顔がチラついた。「トラフィック」はその延長線上と言えなくもなかった。あくまでメジャーとなってはいても、やっぱりソダーバーグ印はあちこちにチラチラしてはいたんだね。

 それがオールスターで犯罪映画。メッセージなんかゼロ。センスは相変わらずいいが、この題材ではとことん研ぎ澄まされたようなハイセンスな映像で、スタイリッシュにビシッと固めようもない、往年のハリウッド娯楽作「オーシャンと十一人の仲間」のリメイクと来た。一体いかなる心境の変化なのか? 豪華スター陣は明らかにソダーバーグの名に惹かれての参加なんだろうが、いよいよハリウッドの王道突っ走る気なのかね? 中にはソダーバーグも堕落したなんて嘆く向きもあることは想像に難くない。

 そして出来上がったこの映画、予想通り典型的ハリウッドの面白犯罪映画以外の何者でもない。アンディ・ガルシアたちホテル側を欺くだけでなく、観客の僕らも欺く見事なコン・ゲームとしてしっかりつくられてはいる。

 だから予想通りに面白いし、豪華な配役陣たちもみんな楽しそうだ。気楽に楽しめる映画としてよく出来てるよ。

 だけど強いて言うならば、実はその緻密なごまかしとやらがあまり効果的に機能していない部分も散見されるんだね。

 最初からクルーニーがロバーツにチョッカイ出すのが三味線だって分かってしまうのが、その最大の部分だ。まぁ主役なんだから引っ込みっぱなしじゃないだろうと察しはつくものの、もうちょっと意外に思わせるかと思いきや予想以上にアッサリ。最終的に彼が参加することがミエミエになっても、それがあわやどうなるかというハラハラがもっとあってもいいのではないか? 老詐欺師レイナーの心臓発作も嘘だろうとすぐに分かる。他にもいくつか観客をアッと言わせるはずの趣向が、早々に底が割れてしまうんだね。これってどうしたことか?

 こうなると思ってしまう、やっぱりソダーバーグの知性派たる部分が邪魔をしているんじゃないか?

 今までが今までというイメージもある。そして導入部からしてカチッとカッコよくつくっているのはいつものこと。ここまでちゃんとやられちゃうと、アクシデントも折り込み済みでつくってるんだろうと観客だって思っちゃう。もうちょっとヤボな部分があれば客もダマされるんだろうが、この知的な手つきが見えちゃうときっと仕掛けがあるはずと思わされちゃうんだね。さてはソダーバーグの頭の良さ、理に落ちたところが災いしたか?

 だけどそう考えているうちに、それもソダーバーグの手の内なのかも…と思えてきたんだね。

 手に汗握るサスペンス一杯の作品も面白いだろう。だけどこれは元々シナトラ一家が遊び心満載で、お仲間集めて内輪で楽しみながらつくったような「オーシャンと十一人の仲間」(1960)のリメイク。逆にそんな研ぎ澄まされた映画をつくるなんてヤボじゃないか? みんな豪華スター共演を楽しみたがってる。何かと言えば自分はシリアスや役者だと言いたがっているようなブラピだって、ここでは思いっきり楽な顔して遊んでる。それが楽しいと言えば楽しいじゃないか。ひょっとして犯罪は不成功に終わるのではないかなんて不安は、観客は一瞬だって抱かない。ハラハラだってあまりしない。安心してスターたちのお遊びに楽しくつき合える。これはそういう映画だとハラをくくったんじゃないか?

 そもそもソダーバーグが今何でこんな映画をつくろうとしたのか考えてみると面白い。オスカー監督になってやりたいことが出来るようになって。何で「KAFKA」の監督がこんなオールスター・リメイク娯楽映画? 俺はこれほどメジャーな監督になったと、ハリウッドでの権力を誇示したくなったのか? バカな。もっとカンヌに勝負をかけるような作家性の高い作品を手がけるべきじゃないか?

 実は社会派にして知性派のソダーバーグ、オスカー監督になったのは嬉しいながら、そんなものに右往左往するなんてバカらしいと思ったのではないか? オスカーが何だ。オスカーを取ったら急に巨匠然とする監督は山ほどいる。ソダーバーグはそんな風潮や周囲の目をせせら笑っているのに違いない。オスカーなんてお笑いぐささ。だから俺はオールスターのリメイク娯楽作をとってやる。それが俺なりの、ハリウッドへのオトシマエのつけ方さ! だから、ソダーバーグが観客を欺いたのは映画の物語の中ではない。むしろこの映画の成り立ち、コンセプトからしてすでにコン・ゲームだったんじゃないか?

 そう考えると、あえて緩い映画をつくったソダーバーグの気持ちも何となく分かろうというもの。大体ポスターを見てみなよ。誰だってクルーニー、ブラピ、デイモンの旬のスターと共に、メイン・キャストでデカい扱いのガルシア、ロバーツも犯罪ドリームチームの一員だと思ってしまうよね。そこからして、ソダーバーグが観客を欺くコン・ゲームはスタートしていたのかもしれない。

 一見、ハリウッドでの成功に酔いしれたかのように見せたソダーバーグ。やはりただ者じゃないね。だって彼には最初から周囲の目なんか折り込みズミだったんだ。

 相手の警戒を解くには、弱みをみせるもんだと分かっていたのだから。

 

 

 

 

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