A. I.

「エイアイ」でなく「アイ」と読め

A. I. - Artificial Intelligence


キューブリックが“眼を大きく閉じた”後で

 

 この映画「A.I.」の情報で僕がいちばん最初に接したものは、たぶん「アイズ・ワイド・シャット」公開以前の1998年頃のものだろう。当時夫婦だったトム・クルーズ&ニコール・キッドマン主演で「アイズ・ワイド・シャット」制作中ということは、すでにバンバン報じられていたからよく知ってはいたが、その公開を待たずしてキューブリックの次の作品の報道が雑誌に載っていたのには正直驚いた。いつもキューブリックは新作を発表してからかなり長く時間を取って次回作の企画を発表していたのではないか。それを現在制作中の新作の完成前に発表するなんて極めて異例だ。タイトルはすでに「A.I.」となっていて、人工知能に関する映画だと簡単な内容も紹介されていた。キューブリック久々のSFだ。人工知能と聞けば「2001年宇宙の旅」のHALを思いだしもする。いやが上にも期待は高まるばかり。特に「フルメタル・ジャケット」の後「アイズ・ワイド・シャット」までの間は、今までのキューブリック作品発表のスパンより長くかかっていたので、今回の次回企画発表の早さは大歓迎だった。急げ急げ、それでなくともキューブリックは寡作家なんだ、彼だってもういい歳だろう、早くしないと…。

 不安は現実のものとなった。

 幸いキューブリックは自らの死の直前に、最新作「アイズ・ワイド・シャット」を完成させていた。配給のワーナーも主演者のクルーズもホッと胸をなで下ろしたことだろう。

 だが、手付かずの「A.I.」が残った。キューブリックのことだ。脚本はすでに何稿も書かれているだろうし、空撮などのシーンがあったら何千フィートもフィルムを回してあることだろう(「ブレードランナー」の初公開版エンディングで、「シャイニング」の無駄になった空撮フィルムを流用したというのは有名な話だ)。その他、撮影のためのあらゆる準備は進めてあっただろうし、映画そのもののビジョンも固まっていたのだろう。それがフイになったとは何たる映画界の損失だ。単純に考えてももったいない。

 しかしそれからまたしばらく経って、とんでもない話が海の向こうから伝わってきたのだ。このキューブリックが残した企画を、あのスティーブン・スピルバーグが受け継いで映画化するというのだ。その話を聞いて、まるで貴乃花が宮沢りえと婚約を発表した時(笑)のような気分を味わったのを覚えている。

 そりゃ確かに豪華な顔合わせと言えば言える。だけど片や1ショット50テイク撮影するのが当り前という完全主義の巨匠、片や僕は昔からヒイキではあったが、早撮りでも知られる典型的ハリウッドの天才的娯楽映画監督とくれば、あまりにあまりなビッグネームを並べただけの顔合わせと思えたんだよね。どこにも接点がないじゃないか。結末も貴乃花&宮沢りえと変わらないんじゃないか。どうせ実現しないガセネタか、実現しても散々な結果に終わるだけ。もう今から眼に浮かぶ、スピルバーグがキューブリックの企画を汚した!と喚き散らすナチみたいな映画ファンどもの白眼むいた顔(笑)。

 ところが元のキューブリックの側近側もスピルバーグ側も、どうも本気みたいなんだよ。そのうち伝わってくる情報では、スピルバーグはキューブリックの知人で、この「A.I.」の企画もいろいろ相談されていたと言う。そんなの聞いてねえよ(笑)。あまりにあまりな顔合わせだから、急にそんな事言われてもちょっとマユにツバものだったんだよね。

 やがて昨年あたりから劇場で極めて短い特報ながら予告編が上映されるようになる。やっぱり本気でつくるんだ。そのうちキャストも発表になって、それを見てまたまた心配のタネが増えたのだけど、それはまた後で説明する。ともかく僕はスピルバーグの長年のシンパではあるから、どう考えてもケナされるのが分かり切ってるこの映画を引き受けて、彼が傷つくのを見るのがしのびなかった。だが、実は正直言ってファンであるにも関わらず、こうも思ってしまったんだよね。

 スピルバーグではキューブリックの遺志を継ぐなんて無理だ。言わんや今のスピルバーグは…。

 なぜなら長年のファンであるこの僕でさえも、近年の彼には全幅の信頼を置くことが出来なかったからなのだ。

 

 

 

 次ページへつづく

 To Be Continued...

 

 


 

 to : Review 2001

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME