「ソードフィッシュ」

  Swordfish

 (2001/11/19)


 

 

 

映画を見てから読んでください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんにちわ、俺、ジョン・トラボルタ。

 どうしたの? ビックリした? 正真正銘の大スター=トラボルタ本人だよ。自分で大スターって言うなって? そんなことで謙虚がっても仕方ないじゃない。俺が大スターであることは間違いないんだから。それを自分じゃあそう思ってないってフリするほうがイヤミだよね。俺の持ち味ってまず親しみやすさなんだからさ。

 そう、俺の持ち味は親しみやすさや人なつっこさ。それって俺を一躍スターに仕立てたあの「サタデー・ナイト・フィーバー」の時から前面に出てたよね。ブルックリンの庶民のアンちゃん、それが俺様の役柄だったしね。

 でも、その後が続かずツラい思いをしたよ。ちょっと浮かび上がれた「パーフェクト」やら「ベイビー・トーク」も大成功とはいかなかったし、第一その後がなかったもんな。しばらくは低迷が続いてまいったよ。

 それがあのタランティーノのおかげで何とか立ち直って「パルプ・フィクション」に出られて、アッと言う間に返り咲きだよ。やっぱり世間は俺を求めていたんじゃないか? 俺には魅力あるもんな。さっき言った親しみやすさだけじゃない。カリスマがあるわけよ。

 例の出世作「フィーバー」にしたって、庶民ではあっても土曜の夜だけはディスコでキング。もうここからカリスマなわけ。思えば俺って最初っからこんな自分の持ち味にドンピシャな役を当ててもらえてたんじゃない。「フィーバー」はやっぱ俺のすべてだな。

 親しみやすさなら、例えば徹底的に見せると「フェノミナン」になる。あの映画の俺ってあんまりいい奴なんで涙誘ったろ? 俺が画面から退場した直後に流れるエリック・クラプトンの曲まで引き立って聞こえたぜ。あの曲がヒットしたのは俺のおかげなんだ。 クラプトンの野郎、菓子折りの一つくらい持ってきてもバチは当たらねえのによ。何だって? 今の体格から言ってあまり甘いもん食わないほうがいいって? いいとこ突いてくるじゃねえか、確かに俺って首なくなってる(笑)。

 おっと、何の話だったっけ? 俺の持ち味の話だよな。「親しみやすさ」に対する俺のほう一つの持ち味は、さっき言ったようにカリスマ。「パルプ・フィクション」でだって、ユマ・サーマンが俺と踊ってシビれてたぜ。復活後は主に俺のカリスマ性ってワルの魅力を見せるのに使われてるよな。思えば、俺くらいワルを魅力的に演じられる役者って、ハリウッドでは他にいないんじゃねえの? 「ブロークン・アロー」「フェイス/オフ」と連続で出た、ジョン・ウーの力が大きいね。最初はウーなんてマンボじゃあるまいし…とか思ってたけど(笑)。面白かった?今のギャグ。さすがだろ? 俺、ジョン・トラボルタ。よろしくっ。…そうそう、ジョン・ウーの話。実際会っても中華料理屋のオヤジみてえでさ。クエンティンのタラが俺に大推薦しなけりゃぁ、たぶん出なかったんじゃねえの? そういう意味で俺はツイてるね。

 で、もうタラなしでも十分やっていけるとか思ったんだけどさ。調子こいてたら「将軍の娘/エリザベス・キャンベル」とかバンバンとコケだしちゃって。それでも俺トラボルタからオーケーだろうと思って、信心してるインチキ宗教のために大金はたいて映画一本つくったんだよ。えっ?知ってるって?…「バトルフィールド・アース」見てくれたの? みんなはボロクソにケナすけど、ちゃんとSFしてただろ? 俺のサイクロ星人の熱演ぶりも見どころだろ? 何だか新橋の飲み屋でグチこぼすサラリーマンみたいだとか言ってたやつもいるけどさ。

 ところがどうもこれがまたみんなのお気に召さなかったようで、目も当てられない大コケ。せっかく再浮上した俺なのに何だかまたまた先行きが怪しくなってきたわけよ。でも、俺は少しも動じなかったぜ。きっと俺にまたチャンスをもたらすような、「フィーバー」やタラやウーみたいな何かが現われるに決まってる。だって俺、大スター=ジョン・トラボルタなんだからな。

 それと言うのも、テメエでヌカしては何だが俺って真のスターの輝きがあるからな。「フィーバー」のディスコ・シーン憶えてるだろ? 「パルプ」のツイスト・シーン見ただろ? あれは誰にもマネ出来ない。それどころかCGだって再現出来ない。どうやったってゴマカシっこなしの、正真正銘値千金の輝きがこの俺様にはあるんだぁな。実はそんな輝きがなくっちゃ、ホントにおもろい娯楽映画は出来ない。それでやっぱりこのトラ様がどうしても必要ってことになるわけ。やっぱ男なら中身で勝負だぜ。

 そしたら、ホラ! ちゃんとあの「マトリックス」のプロデューサーからオイシイ仕事が来たんだよな、これまた。そして俺と前から組みたかったなんて泣かせること言ってくれるじゃないの、この〜(笑)。まぁ、こんな風に映画界の浮き沈みを身をもって体験してきたこの俺よ。だから映画にもチトうるさいのは当り前なんだよな。

 例えば「狼たちの午後」。アル・パチーノたちが銀行強盗やって人質とって立て篭る話だけど、あれ良かったよな。でも、俺に言わせれば最高って訳じゃない。じゃあどこがマズイかって?

 あれってみんな主人公の強盗パチーノがいい奴で好きになるけど、ラストで捕まっちゃうからハッピーエンドじゃない。大体何でそうなるかって言うと、パチーノが捜査陣に対して人質使ってホントに脅してないからなんだよな。絶対人質は殺さないだろうということになってる。

 だけどさぁ、あれが要求を呑まなきゃ人質バンバン殺すってやってたら、ラストは全然変わってたぜ。そして本当だったら本気で殺すに決まってる。俺に言わせればあの映画そこが甘いって〜の。

 あ、もう時間? じゃあそろそろ行こうか。コーヒーごちそうさま、おマワリさん。ヒュー・ジャックマンのアンチャンも、向こうで用事あるんだから俺についてきな。はいはい、武装警官のみなさんちょっと道を開けて〜。これから通りの向かい側で俺たちが占拠している銀行に戻るんだから、ジャマしちゃダメだよぉ。おら、俺に銃向けるなって。ヘタなことすると人質にはみんな爆弾を取り付けてるんだからドカンといくぜ。ほいほい、さっさとどけっつーの。

 おやおや、この街の一角は武装警官で包囲されちゃってすごいじゃないの。でも人質爆弾が付いてる以上、手も足も出ないもんね。俺たちをずっとマークしてたらしいFBIのドン・チードル捜査官も、さぞかし悔しそうだがどうすることも出来まい。こういうことだよヒュー・ジャックマンくん、本当にキレた頭の持ち主のやることってぇのはさ。後はおまえさんのハッカーとしての腕前を十二分に見せてもらうだけ。

 あれっ? 武装警官の一人が人質の女の腕をつかんで連れていこうとしているぞ。バカだなぁ、あれって爆弾の設定をはずさないと、この銀行から離れた時点でドカンといくぜ。捜査本部の連中もそれに気付いて、警官に「やめろやめろ」と言ってるが伝わってない。ホラホラ、捜査陣は全員騒ぎ出したぞ。わかってないのは、無理やり人質の女を連れていこうとムンズと腕つかんでる警官ただ一人。ツラ見れば思いっきり体育会系で頭悪そうだもんな。おいおい危ねえぞ、伏せろ〜。

 ドッカ〜ン!

 うわぁ、警官と人質女がこっぱ微塵なのは当り前として、この爆弾は破裂したら無数の金属玉が飛び散るように設定されてるから、もう周囲そこら中に玉が飛んで穴だらけ。パトカーも爆発炎上。周囲の建物のガラス窓はことごとく粉々に割れた。不用意にそのへんに突っ立ってた警官たちも、お気の毒なことにこの玉の直撃受けて大ケガ。もんどり打ってその場に倒れ込んだ。玉がタマタマに当たっちゃってイタタ。こりゃタマったもんじゃないって(笑)。ウケちゃった今の? やっぱ根っからエンターテイナーの俺、ジョン・トラボルタ様だぁな(笑)。まぁそんなこんなで一瞬にしてあたり一面が荒れ果て騒然としたアリサマにゃあ、仕掛けた俺だってさすがに驚いたぜ。

 なぜか銀行を舞台の、この空前の大パニック。一体何でこうなったかと言えば、今からちょい前の話に戻らなければならねえな。

 

 ロサンゼルス空港で入国審査で捕まった男がいたんだよな。こいつ世界一のハッカーで、だからバッチリと警察からマークされてたのにノコノコ出てきやがって。出てきやがってって、実は俺が呼び出したんだけどさ(笑)。こんなに呆気なく捕まるとは見かけ倒しのトロい男だよな。FBI捜査官のドン・チードルに黒幕は誰だなんてしぼられちゃって、たちまちゲロする寸前。こりゃヤバいって俺としてもサッサと片づけざるを得なかったわけ。

 で、テキサスの汚ねえ寝ぐらに無精ヒゲのやる気なさそうな男、ヒュー・ジャックマンがいたと思いねえ。ここにビックリするよなボディコン美人ハル・ベリーが乗り込んできたので、さすがにこいつビビッたんだよねぇ。だが美人の誘いかけてくるよな視線にはスケベ根性たっぷりだったこのジャックマンも、これが「話を聞くだけで10万ドル」というオイシイ話を持ちかけて来たときにはさらにビビって、早く帰れと追い出しちまった。そりゃそうだ、事の成り行きからしてこれがヤバい話だと立ちどころに分かったからねぇ。そう、もちこのベリー嬢を奴の元に行かせたのもこの俺、トラボルタ様よ。

 実はこのジャックマンもかつては名うてのハッカーで、FBIのシステムに乗り込んで悪さしたためにお縄を頂戴するハメになった。シャバに出てきた時はさすがにおとなしくなって、もう二度とコンピュータには触らないと思い知ったわけ。だってパクられたおかげでクサい飯食わされただけじゃない。嫁さん逃げて家庭は崩壊。娘はとられちゃって会うことも出来ない。それだけなら我慢も出来ようが、この嫁さん今じゃ酒浸りの自堕落三昧、再婚した相手ってのが大富豪のポルノ王って来るから、いくら大金持ちでも娘の行く末考えたらいてもたってもいられないのが当たり前。だけど入れ墨もんのジャックマンがいくらもがいたって親権は取り戻せるもんじゃねえ。裁判を繰り返したって勝てない。何せ相手にはいい弁護士雇える金がうなるほどあるからねぇ。ベリー嬢にはジャックマンにそこんとこキッチリ思い出させろよと、この俺様の作戦を伝授しておいたことは言うまでもない。

 案の定、金の力には目の色変わって「話聞くだけ」との念押しで奴はまんまと乗ってきた。こうしてロスの俺様の元におびき出せれば、あとはもういただいたも同じというわけよ。

 だが、さすがFBIのチードル捜査官もさる者。またまたハッカーの大物ジャックマンがロスの空港に降り立ったとあって、こりゃ何かあると思わざるを得ない。そもそも前にジャックマンをパクった相手がこのチードルだったという因縁つきだあな。

 奴をおびき出したこの俺様トラボルタ様は、まず奴にパソコンつきつけて腹ごなしのテストとしゃれこんだ。もうコンピュータはこりごりなんてゴタク並べやがって、奴はパソコン渡したらヨダレたらさんばかりの顔して、よっぽどキーボードに飢えてやがったんだな。60秒で国防省のシステムに侵入しろと言ったら怪訝そうな顔してたけど、そこは銃を突きつけてコワモテで脅してやった。それだけじゃつまらねえから、俺のオンナたちに奴のナニをしゃぶらせながらハッキングやってもらおうという趣向。気が散って出来ないよ〜なんて泣き入れてやがったけど、そこが面白れえんじゃねえか。つくづくエンターテイナーだよな俺も。「グリース」も見てくれた?

 さすがナニをしゃぶられようと皮ムカれようと噛み切られようと、キッチリやることはやるジャックマンに、今度は俺が惚れ直した次第。ここで俺様はこいつに仕事を任せようと決めたわけよ。

 ところがついついジャックマン、我慢しきれず娘の顔を見にノコノコ出かけてったもんだから、元女房んとこに網張ってたチードル捜査官にとっつかまった。でも、さんざ脅しても口を割らないジャックマンに、仕方なく泳がすことに決めたチードル捜査官。そりゃそうだ。奴がFBIヅラを振り回したら逆効果だって〜の。奴はそんなフィンランド野郎みたいにヤワな奴じゃない。今回は娘と暮らせるかどうかがかかってる。それに元々奴はFBIが気に入らない。前のFBIシステム侵入だって、元はと言えばFBIが市民監視で良からぬシステムつくってやがったから、それに抗議のつもりでのハッキングだったわけ。そこらのコンピュータおたくの悪さたぁ違うんだよ。そこが俺のお眼鏡にかなったところでもある。俺は気骨のある奴が大好きでね。お上ってのはそこんとこの人情の機微に疎いのがいけないな。

 さて俺が用意した豪邸に籠もって、ジャックマンにやってもらおうという大仕事ってのは何か。昔、麻薬取締局ことDEAって役所が極秘作戦をやった時、裏金ため込んでやがってさ。外務省にしろどこにしろ、役人ってえのは裏金が大好き。その金が銀行預金になってて、利子が利子を呼んで今じゃ95億ドルにもなっていたわけ。この金利の悪い時期でもこんなうまい話があるんだあな。俺たちはこれを銀行のシステムに侵入して、チョイとかすめ取ろうというわけだ。全部別の口座に移してズラかるわけ。ジャックマンにも報酬として大盤振る舞いの1000万ドルをやろうというから悪い話じゃない。それにジャックマンもまたキーボードの味をしめちまったから、イヤとは言わないよな。

 ところがさっきのベリー嬢、ジャックマンに妙に色目を使いだしたわけ。普段は俺のオンナみたいにはべっているんだけどね。本当は俺のオンナなのかどうなのかって? そりゃ男と女だ、そこを明かしちゃつまらねえだろ? まぁいろいろあるってことよ。

 そんなベリー嬢が着替え中のところに、ジャックマンが間違えて部屋に入って来たと思いねえ。実はこれ俺の知らないことだったんだけどな。この時のベリー嬢ったらブラとパンティってゴージャスな格好だったわけだが、おまけに妙なコードが体に巻いてあったんだな。おいおい、そりゃ俺があいつにバイブか何か仕掛けて、遠くからスイッチ入れたり切ったりして楽しむなんて、AVまがいのお楽しみをしようとしたとは思うなよ。こう見えても俺は紳士なんだ。悪のカリスマ。そこらのエロオヤジと一緒にしてくれるなよな。

 実はこのベリー嬢、DEAのおとり捜査官だと言うんだよな。必死に黙っててくれと頼む彼女に、ジャックマンも俺にはダンマリを決め込んだ。この時、俺はそれを知ってたかって? さぁそれはどうだかな? 俺にだって知らないことぐらいはあるかもな。ともかく、それでなくてもこんがらがった事情を抱えたジャックマンは、腹の中が不安でいっぱいになったわけ。

 ところで俺だって何も伊達や酔狂でこんな悪事を企んでるわけじゃない。俺にもそれなりにバックってもんがいて、それが上院議員のサム・シェパードってお偉いさんなわけ。だけどこのシェパード、例のFBIの動きにビビりやがって、作戦中止だなんて言いやがる。前にも言ったように俺は気骨のある奴が好きで、いよいよという時にビビる奴なんて屁とも思わねえんだよ。こんな根性なしの議員風情の言うことは無視だよ無視。ところが今度は俺の周辺にオカシナ刺客がウロウロし始めやがった。大方シェパード議員の野郎が差し向けたあたりに相場は決まってる。ちょうどお気に入りのジャックマンを相棒に、車で街をドライブ途中に追っかけてきやがってよ。ハンドルをジャックマンに預けて、俺も自動小銃でバリバリ撃ってギッタンギッタンにやっつけてやったよ。もちろん銃を撃つときだってポーズはぴっちりと決める、「フィーバー」時代もキメる時はキメたこの俺よ。もちろんその後には、あのフニャチン議員のシェパードにもきっちり落とし前つけさせたやったがな。

 そうしてる間もジャックマンはキーボードに向かってノリノリ。その姿を見たこのトラボルタ様も、やっぱり「フィーバー」での俺自身の晴れ姿を思い浮かべてはついつい涙がにじんだぜ。こうしてお膳立ては揃った。だが、肝心のシステム侵入は、もっとそれなりのシステムの中心に近いところでやらにゃいかんということになった。

 ならば…とここは惚れ込んだジャックマンならばと見込んで、俺様の正体を明かすことに決めた。実は俺は祖国アメリカを脅かすテロリストを、問答無用で叩きつぶす秘密組織の一員なんだあな。世界に散らばるアラブ野郎、アフガン野郎、あと何だジャップ野郎だっけ? 何でもいいや。そいつらをヤミからヤミへと葬るわけ。もちろんそりゃ合法じゃねえよ。だが、奴らにゃそうでもしなきゃダメなんだ。それを動かすためには金がいる。だから今回の裏金強奪は単なるコソ泥なんかじゃねえ。いわば浄財として頂戴するわけよ。なあ、気骨のある男ジャックマンだったら分かるだろ? 俺たちゃ世界の治安を守る「X-メン」だもんなぁ。

 だがこいつは気骨があるこたぁあったが、その正義感の持ちどころはこのトラボルタ様とはチト違ってた。まぁそれも何となく分かってはいたんだがな。だから、こいつの娘を人質に頂戴した。そしてシステムに直結した大銀行に、バスを仕立てて完全武装で殴り込みだぁ。怒ったジャックマンは敵だったはずのFBIのチードルを呼んだが、娘をとられちゃあ手も足も出まい。こうして俺たちが立てこもる銀行にやって来たわけ。な、これで冒頭のシーンにつながったろ? 俺のもう一つの出世作「パルプ・フィクション」を彷彿とさせる話のつながり具合だったよな。

 さてさて、これからどうなるって? そりゃ映画の画面で見てくれよ。俺の粋な悪党っぷりと一緒にな。

 

 この映画、何よりあのジョエル・シルバーのプロデュース作品と聞いて、誰しも思い浮かべるイメージってあるよね。

 「ダイ・ハード」「リーサル・ウェポン」シリーズ、「プレデター」などなど、この人のつくる映画はアクション大作として娯楽味たっぷり。しかも不思議とどれもジェリー・ブラッカイマー作品みたいな大味感は少ないんだよね。

 そこに最近じゃあちょっと面白い味も加わった。それまでハリウッド・アクション大作には見られなかった新しいものを盛り込もうという試みだ。「リーサル・ウェポン4」から起用したジェット・リーを、さらに全面的に使った「ロミオ・マスト・ダイ」…と、現在のハリウッド・オリエンタル・アクションの先鞭を切ったのがこの人。それはあの「マトリックス」で全面的に開花したけど、このようにいつもアクション大作に新しい見せ方を盛り込もうとしている姿勢がかい間見えるよね。

 今回もどうやらそうした新しさを出そうとしているらしいと、みんな察しがついているだろうね。実際、それは期待通り。かなりスタイリッシュな映像で、見た目のカッコよさ重視の演出。あげくの果てに冒頭の物凄い爆発シーンだ。「マトリックス」に次いでまたやったか?…と誰しも思う。

 冒頭のワーナー・ブラザース・マークからして、ビデオの走査線がミエミエの荒れた画面で登場だ。いかにも今ふうのカッコいい絵がバンバン出てくる。ストーリーはバンバン飛ぶ。カッコよさ優先ってあり方は、やっぱ「マトリックス」って思っちゃうよ。そこにハッカーだの何だのってCG画面もバリバリ出てくるし。

 ここで再三白状しなくてはいけないのは苦々しいんだが、僕って公開時に「マトリックス」をケナした一人でね。何せカッコいい絵づくりに終始してドラマがカラッポじゃないかとか、キアヌがいつもより以上にバカっぽいとか酷評並べたわけ。それがなぜ気が変わったかについては、「五条霊戦記」あたりの感想文を読んでね。僕もそれを告白するのはツラいんだから(涙)。とにかく、あれはあれで新しい時代の娯楽映画のあり方としてアリ…なんだと思わずにいられなくなったんだね。

 じゃあ、この「ソードフィッシュ」はどうか?…と言うと、正直言って見てる間は心地よくカッコよく見ていられる。それは認めてやらないといけないね。確かにある程度面白くはあった。でもねぇ…。

 でもねぇ…って、何が気に入らないんだって言うと、やっぱりドラマがスカスカって言わざるを得ないんだよ。まぁまぁちょっと聞いてくれ。まず、この映画って、実質の主人公たるヒュー・ジャックマン演じるハッカーも観客もものの見事にだます、一種のコン・ゲーム的映画って宣伝のされ方しているね。ラストまで見て、確かにそういう趣向があったなと後で思い浮かべられることは確かなんだけど、やった〜ダマされた〜って快感に意外に乏しい。これってどういう訳なんだろう?

 カッコいい絵づくり優先でドラマがスカスカ。だけど「マトリックス」は今になってみると良いと言うんだろ? はいはい、その通り。では何でこの「ソードフィッシュ」は気にくわないわけ? そう、まったくそこなんだよな。

 それを言うなら、予告編でも売り物になっているこの映画最大の絵としての見どころ、例の爆発シーンに触れないわけにいかない。あれってプロデューサーのシルバーが「マトリックス」で開発された技術を応用して、360度から回って被写体をとらえるカメラ・アイで超高速度撮影しているって疑似映像をつくり出しているんだよね。今回も基本的にそれは同じで、普通では捕らえられない映像をモノにしてるわけ。そりゃ大したもんではあるよ。

 だけど、それが一体何だって言うの?

 「ソードフィッシュ」はダメで「マトリックス」はダメって理由を述べるには、ここで「マトリックス」のスタイリッシュ映像をもう一度振り返ったほうがいいね。最初、僕も古い頭であの映画を見たから、カッコばっかでドラマがないなんて言っていた。この「ドラマ」がない云々はいろいろ異論もあるからここでは詳しく言わないけど、少なくとも「マトリックス」はそういう映像スタイルである必然性があったと思うんだよね。未来のバーチャル空間での物語という前提が大命題としてあった。だから、スーパー・リアル映像で本来あり得ないものが見えている、起こり得ない事が起きているって絵を、とにかく観客に見せて理屈抜きで納得させなければならなかった。もち結果的にそれは前例のないカッコよさと見えたけどさ。

 しかるに「ソードフィッシュ」はと言うと、確かにハッカーだシステムだと新しさのある設定はゴロゴロしているけど、それって理屈抜きなあり得ないものではない。僕らの日常の延長線上にあるもんだよね。そこでダマし引っかけの仕掛けが働かないといけない。

 なのに、ここでは非現実映像で「現実」が描かれている。確かに普通は360度で見えはしないけど、銀行前の路上で爆発が起きればこうだわな…という場面が現出してるわけ。なら、何で360度回転で描かねばならなかったの? それはカッコいいから(笑)。

 確かにこの映画は「ミス・ディレクション」というダマしのテクニックがまことしやかに語られる。何かに気を引いて、裏でうまくやって出し抜くという手品のテクニックだ。だから、この爆発シーンも観客のドギモを抜いて気を散らせてだな…って言いたいとこだろうね。でも、そりゃあ確かに360度回転でビックリもするけど、それでドラマのダマしに引っかかるか…というと、それはまた別の話だと思うんだよ。

 冒頭のビデオ映像のワーナー・マークからして、デジタルなイメージ見せたいから…まぁサイバーなんとかってイメージで物語を盛り上げたいのは分かる。だけど、ハッカーがどうのって言っても所詮は銀行強盗の話だからね。実はドラマの骨子はよくある犯罪サスペンスの典型なんだよね。だからあの360度ぐるぐるとは直接何の関係もない。あの表現がそうでなければならない必然性がない。そうなると、ただ「カッコイイ」だけということになりはしないか? これって「マトリックス」の発想とは似て全然非なるものなんだよね。

 実はこの脚本がうまい引っかけダマし話になっているかどうか、僕には確信が持てない。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。と言うのも、画面のそうしたチャカチャカで目がくらまされて、お話なんかどうでもよくなっちゃってるからなんだよ。もしダマし脚本としてよく出来てたら、これはもったいない事だよな。仮に映画は「絵」さえよければ…と言っても、話がこういった設定なり語り口(=ダマし話)を選択した以上、それはある程度全うするべきだと思うんだよ。そうでなければ、今度はこの脚本や物語に必然性がなくなる。最初っからダマしなんか仕掛ける必要がないってことになる。

 意地悪く言えば、ダマし引っかけ脚本としてイマイチだったから、映像でごまかして見せちゃえって作戦だったのかって邪推も成り立つ。なるほど、確かにミス・ディレクションだったかもしれない。だがそれは主人公や観客を物語上でミス・リードするためのものじゃない。この映画の出来映えを粉飾するための、ホコロビをごまかすがゆえのものってなっちゃう。それは主客転倒だろう。

 悪のカリスマ演じるジョン・トラボルタの貫禄やクサい芝居っぷりはなかなか楽しいし、出始めた頃のメル・ギブソンを彷彿とさせるヒュー・ジャックマンも次世代スターの片鱗を伺わせていいところ見せてるだけに、これはちょっと安易で惜しい出来映えと言わざるを得ないんだな。 手駒は揃ってる。いい映画をつくろうと思えばつくれた環境だったはずだけに、ジョエル・シルバーというこの敏腕プロデューサーの誤算が残念でならない。だって、それって基本じゃないか。男なら中身で勝負だろ?

 ホントにおもしろい娯楽映画をつくりたいなら、どうやったってゴマカシっこなし、正真正銘値千金の輝きが必要なのだから。

 

 

 

 

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