「ワイルド・スピード」

  The Fast and Furious

 (2001/11/05)


何かやる時には自分で決めたい

 自分がやろうとした事なら出来るのに、他人に言われると出来なくなっちゃうってことあるよね。

 僕なんか天の邪鬼なのか、どうも他人に命じられた事ってやりたくなくなる。別に大したことじゃないよ。例えば子供の頃、親に勉強しろと言われると、たちまちやる気なくした事って誰にでもあるんじゃないか? 今やろうと思ってたのにぃ〜って(笑)。

 自分は何だかよく分からないのに、全体の雰囲気で流されてしまう。望んでもいないことをやらされてしまうってあるよね。あれって実にヤな感じだよねぇ。まぁ例を挙げるとまた物議を醸しそうだけど、アメリカのブッシュ大統領が、あっちにつくのかこっちにつくのかハッキリさせろって言ったあれだ。その事自体がいいの悪いのってのは別問題。ともかく人の胸ぐらつかまえて「おまえはどっちだ?」とか「旗を見せろ」もないだろう。どういう態度にするのかはこっちの決めることだ。失礼だとは思わないか?

 そもそも「どっち側につく」にしても、賛成する方も反対するほうも、それぞれ他人を「どっち側」に引き込むかに汲々としている。でも、それってどっかオカシイよね。

 どんな主張も集団にまとめられた時に、実感の伴わないものになっていく気がする。一人の人間がどう思うか感じるかとは程遠いものになっていく。そして分からないまま流される。

 でも、何かやると決める時には自分で決めたいよね。

 そんな中で、あの大リーグに行ったイチローが、一つの答えを見せてくれた気がするね。言うまでもない、例の国民栄誉賞辞退の話だ。

 正直言って最近のイチローって、あんまり好きじゃなかったんだね。だってあんまり偉そう過ぎる。確かに凄いことやったとは思うよ。それに日本のマスコミなんてみんなバカで相手にしたくないだろう。だけどアメリカで成功したからオレ様って態度に見えちゃうのは、いかにもガイジンにはヘイコラ身内には高飛車な、イエローモンキーのジャップ根性みたいで寂しいじゃないか。おまえ、日本の野球ファンなんかバカだと思ってるんじゃないの?

 だけど、あの国民栄誉賞辞退の時のキッパリとした態度には感銘を受けた。賞を与える側のセコい思惑がミエミエの、思いっきりキナ臭い状況下でのことではあっても、何せ今までこの賞を辞退した前例がないんだもんね。断った時のコメントにもスジは通っていて失礼はなかった。何より自分が納得できないという姿勢がいいではないか。「俺はこう思う」「俺はこうあるべきだ」…全体が流れに飲み込まれて勢いだけで動こうとしている今だからこそ、「個人」というものの存在を改めて感じさせてくれたんだね。つまり、自分で決めてるってことだ。

 だってそうだろう? 僕らだって自分の身の丈サイズ、自分の感じる範囲内のことしか、確かな事なんて分からないのだから。

 

ストリート・レーサーの世界に仁義を切れば

 ここは闇夜のロサンゼルス。貨物トラックがDVDプレーヤーを山積みして倉庫を出発。それをどこぞに連絡する怪しげな倉庫従業員が約一名。これから一体何が始まるのか。

 果たしてトラックが走っていくと、どこからともなく怪しげな車が3台現れた。おたおたしている間に走ったままトラックに乗り込んでくる賊の男。トラックはたちまち賊に奪われた。

 一夜明けて、汚ねえ店にイカした車でやって来た一人の男ポール・ウォーカー。まるでタバコのマルボロのCMみたいな一場面だが、このウォーカーはここんとここの店に入り浸っては、超マズいツナ・サンドを食って帰る。そんな彼のお目当ては、ローライズ・ジーンズでお腹出して働く店の女の子、眉毛も乳も太くてグッとくるジョーダナ・ブリュースターに違いない。思わせぶりなウォーカーの眼差しに、彼女もまんざらじゃないみたいだ。

 しかしこいつが西部劇なら、街の酒場にふらりと風来坊が現れれば、街のコワモテがからんでくるのがお約束。やっぱりギンギンにチューンナップした車で現れた一団、チャド・リンドバーグ、ジョニー・ストロング、マット・シュルツに紅一点のミシェル・ロドリゲスが、この胡散臭いウォーカーに目を付けた。それもそのはず、ブリュースターはこの一団の中でも特別な存在。実はこの店の奥にどっかと腰を下ろして様子をかがうスキンヘッドの曲者、街のストリート・レーサーの間でもボス的な存在のヴィン・ディーゼルの妹なのだ。中でもマット・シュルツは彼女にゾッコンだったから、このウォーカーの色目にスッカリ気分を壊していた。たちまち始まる小競り合い。ウォーカーにからむシュルツ。たちまち取っ組み合いのケンカに発展だ。そうなりゃ面倒事を仕切るのはボスのディーゼルの仕事。二人を分けるとよそ者ウォーカーに、店に来るなとクギを刺した。今度はウォーカーが面白くない。突っかかるウォーカーが街の自動車用品の店に働きだした店員と知るディーゼルは、店に連絡してクビにしてやると言い渡した。

 果たしてウォーカーが店に戻ると、店長が電話で平謝り。ディーゼル一派は街の車好きたちを仕切る大のお得意さまなのだ。だが、そこは何とかクビだけは免れたウォーカー。ここは一発キメねば男がすたる

 そんなロスの夜はストリート・レーサーたちの天下だ。街のはずれにたむろする連中が、思い思いの自慢の愛車を転がして集まってくる。そこに何とくだんのウォーカーがいきなり乗り込んできた。またまたディーゼルとハチ合わせ。おまえいい度胸じゃねえか。

 実はウォーカー、店長に頼み込んで愛車にNOSというジェット噴射みたいな新兵器を積み込んでいた。実はそんなチューンナップしたのはこれが初めて。だが、ここで引き下がってはいられない。大丈夫俺はやれると怖さも飲み込んでこの場にやってきたんだね。

 よぉし、レースやっか?

 ディーゼルとタイマン張ったウォーカーは、負けたらこの車をやるとイキがった。その代わりレースに勝ったら、俺に勝負の賭け金とリスペクトをくれ。俺にもっと敬意を持って接しろよな。

 さぁ、たちまち街の公道を勝手に連中で仕切ってレースがスタートだ。全部で4台の参加者の中で、新入りはウォーカーただ一人。早くしろ、早くしないとマッポが来るぞ!

 スタート!

 一気に発進した4台の車だが、ウォーカーは気合いだけはイッチョマエだが、ドンジリでのスタートだ。だがそこは持ち前の負けん気と根性でジリジリと追い上げ、気がついたらウォーカーとディーゼルの一騎打ちとなった。ここで一発ドカンとNOSを噴かす。

 これはすごい。もう回りの景色なんて見えない。さすがに未体験ゾーンのスピードに、ウォーカーの車はコントロール不能になって立ち往生だ。

 結果はウォーカーのボロ負けだが、それでもイイ線いってたと吹かすウォーカー。これにはさすがのディーゼルも呆れ顔だ。だが、勝負は勝負だから車を渡せよな

 そこに通報があってパトカーが何台もやって来る。あわてて散りぢりのストリート・レーサーたち。ディーゼルは車を隠し、何とか逃げおおせたとホッと一息。だが、元々目をつけられている彼に向かってパトカーが殺到。慌てて駆け出すがパトカー相手に駆け足じゃツラい。

 早く乗れ!

 何とさっきまで敵対していたはずのウォーカーが、車で彼を助けにやって来た。間一髪でディーゼルを乗せたウォーカーの車は、あっという間にパトカーを振り切って安全圏に逃げた。

 さすがに助けられた相手に素っ気なくは出来ない。ディーゼルもウォーカーに心を許した。それにこいついい度胸してるじゃねえか。結構ディーゼルはウォーカーが気に入ったみたいだ。だけど勝負は勝負だからな、車はいただくぜ

 ところが一難去ってまた一難。バイクの一団がウォーカーの車を取り囲み、赤坂芝の中華料理店「龍縁」に連れ込んだ。バイクの連中は地元チャイニーズの不良連中。ボス格のリック・ユーンがいきなりディーゼルにガン飛ばす。ここは俺たちの縄張りだ。勝手に出ばってくるんじゃねえ。捨て台詞を吐くと去り際に機関銃を乱射。あえなくウォーカーの車は爆発炎上だ。

 仕方なく家までトボトボ歩いて帰るディーゼルとウォーカー。だが、その道々歩きながら二人はスッカリうち解けた。まぁ家に上がって飲んでいってくれや。

 仲間たちはディーゼルが例の胡散臭いヨソ者を連れて帰ったからビックリ。だが、俺を救った客人とのディーゼルの言葉に納得せざるを得ない。シュルツも内心面白くないが仕方がない。妹ブリュースターはといえば、兄貴がウォーカーを認めたらしいことが内心嬉しくてならない。太い眉毛と乳をピクピクさせて大喜びだ。ウォーカーだって大手を振って彼女を口説けるぜ。

 翌日からはウォーカーもディーゼル一派の仲間入り。店の仕事が終わったら俺の修理工場で働けよ、一緒にレースに行こうぜとスッカリお気に入り。ウォーカーもここの仲間たちが大いに気に入った。例えばチャド・リンドバーグ。実際はすごいコンピュータの天才だが、精神的に不安定なためオチこぼれたところをディーゼルに拾ってもらった。そんなディーゼルの男気に惹かれていくウォーカー。ディーゼルもウォーカーに惚れ込んで、自分の昔話などを聞かせるようになった。もちろんブリュースターともアツアツだ。面白くないのはシュルツだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからはこの映画見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっちにつくのかハッキリしろ!

 だが、そんなウォーカーには秘密があった。例のトラック強盗を追うFBIとLAPDのおとり捜査官、それが彼の正体だった。続発するトラック強盗に業を煮やした捜査当局の作戦なのだが、彼らが目をつけたのがディーゼルだった。ウォーカーはディーゼルがそんな悪行に手を染めているとは思えないと進言するが、ペーペーの警官ウォーカーの言葉は聞き入れられない。あげくディーゼルの妹ブリュースターに目がくらんだと言われて立場がない。実際のところ捜査はまるで進展していないため、地元トラック野郎も我慢が限界に来ていて歯止めが利かなくなりそう。それを何とかなだめての捜査とあって、当局ももう待ったなしなのだ。

 いいか、ディーゼルはそんな「いい奴」なんかじゃない、ある男を半殺しの目に合わせた凶暴な男なんだ。

 だが、ウォーカーはどうしても、ウォーカーがそんな男には思えないのだった。

 そんなある日、ウォーカーが働く自動車用品店にストリート・レーサー仲間の一団が現れる。そいつらはホンダ・シビックの部品ばかり3台ぶん注文したが、例のトラック強盗の車もシビックとあって、ウォーカーはこいつらが怪しいと睨む。それを探りに車庫に忍び込んだウォーカーだが、間の悪いことにシュルツに捕まった。ディーゼルの元に引きずり出されて絶体絶命。こりゃヤバいというところで、何とかかんとか言い訳をするウォーカー。そこへ例のリック・ユーンのチャイニーズ連中の車庫に一同で忍び込むことになる。話は後だ。

 すると…あるではないかホンダ・シビック。なぜかDVDプレーヤーも山積みだ。これはあの中華不良たちが犯人だったのか?

 例の中華不良の話を捜査本部の連中に聞かせると、たちまちパクれとの指令が飛ぶ。まだハッキリ分かりませんよとウォーカーが言っても聞き入れてくれない。大捕物の末に中華不良たちは次々パクられるが、結局シロと出て即刻釈放。警察とFBIのお偉いさんたちにお目玉くらって、ウォーカーまったく立場がない。だから待ってって言ったのにぃ〜。

 ますます熱くなった捜査本部はウォーカーに何とかディーゼルを挙げろとせっつく。だが、いまやディーゼルの男気に惚れ込んでいるウォーカーは、何ともやりきれない。自分を信じ切っているディーゼルや仲間たちを裏切っている自分が許せない。愛するブリュースターにも面目が立たない。凶悪な男と当局に決めつけられているディーゼルだが、彼の昔話からその理由も分かった。愛する彼の父親が事故死した、その過失の張本人を怒りのあまり痛めつけた結果だったのだ。そんな彼を知れば知るほど、おとり捜査官としての気持ちがぐらつく。そんなウォーカーに、上司のダメ押しが飛んだ。

 あっちにつくのか、こっちにつくのかハッキリしろよ。

 まるでブッシュみたいな言い草にスッカリくさるウォーカーだが、どうにもままならないペーペー公務員の我が身ではいかんともし難い。あぁ、やっぱり海外派兵は免れないのか。

 そんなある日、あのチャド・リンドバーグがよせばいいのにレースに出て、事もあろうにあの中華不良のリック・ユーンに勝負を挑んでボロ負けした。負ければ親父の車を取られるとあって、チャド・リンドバーグはそのまま逃げだし、それがきっかけでまたまたディーゼルとリック・ユーンが小競り合い。

 さらに夜になって、ディーゼルとブリュースターが何やら言い争いをしているのを目撃するウォーカー。だが妹の言葉を聞き入れず、仲間たちと出かけるディーゼル。どこへだ? まさかトラック強盗か?

 意を決したウォーカーは、ブリュースターをつかまえるとツラい告白をしたのだった。

 俺は本当はサツなんだ…。

 

職人魂と個人の誇りの作家ロブ・コーエン

 これ、最初は若いもんが車で大暴れって映画だろうとタカをくくって、あまり見る気がなかったんだよね。またカー・チェースかよ。

 だがある掲示板で、うちの特集でもおなじみ「漆黒のナゴミ」の管理者コージ氏に、ロブ・コーエンの新作と聞いてにわかに血が騒いだ。なにっ、ロブ・コーエン?

 みんなコーエンと聞けばコーエン兄弟に草木もなびくご時世だが、僕にとってコーエンと言えばこの人。ロブ・コーエンに何と言ってもとどめを刺す。

 ロブ・コーエン…この人って地味なフィルモグラフィーのためか知名度は低いが、実は本当に面白い映画のつくり手で、いつも確かな腕前を見せる人として注目してきたんだよね。

 良質のファンタジー「ドラゴンハート」、スタローン映画の中でもなかなかの出来で、往年のパニック映画の再現のような「デイライト」など、どれもこれも面白い。だけどその中でも傑出しているのが、「ドラゴン/ブルース・リー物語」なんだよね。

 これって題材からもブルース・リーの人気に便乗したキワモノっぽく思われがち。だけど聞くと見るとでは大違い。運命に抗して生涯戦い続けた男のドラマを描ききった感動大作なんだよ。絶対見てみて。見れば分かるから。どう考えてもキワモノ題材なのに、気品と風格に満ちている。そして溢れんばかりのサービス精神。彼の映画は、まず何よりもお客さんを心底楽しませることで群を抜いている

 この「ワイルド・スピード」でも、ガンガン今風な音楽流して若いやつに媚びているフリを見せつつ、実はその職人としての腕が冴えわたる。もう死ぬほど見ててゲップが出そうなカー・アクションも、この人の手にかかると斬新でスリリングな映画的興奮に生まれ変わる。映画始まってすぐのストリート・レース場面での、NOS噴かしての壮絶なカー・アクションは手に汗握る。燃料がエンジンに送り込まれて噴射され燃焼されるまでをCG使って見せるあたりから、今まで見たこともないものをお客さんに見せようという心意気を感じさせる。何でこんなに平凡なはずのカー・アクションが、凄まじく見えるのか? マイケル・ベイ、ちゃんとこの映画見て勉強しろよ! 後半の見せ場であるトラック強盗シーンの悪夢のようなサスペンスも、一刻も目が離せない本物の映画の興奮だ。

 だが、コーエン映画の醍醐味はそんなサービス精神にとどまらない。彼の映画にはアート映画の作家にも負けない、この人ならではのテーマがいつもしっかり刻印されている。それは何か?

 それは何者にも侵し難い個人の尊厳だ。

 あの大傑作「ドラゴン/ブルース・リー物語」もそうだ。「デイライト」も「ドラゴン・ハート」もそうだ。ちょっと期待はずれで残念だった前作「ザ・スカルズ/髑髏の誓い」にだって、それは明らかに刻印されていた。組織や運命や因習や既成概念や偏見や世間の冷たい目に対して、そこを何とか個人の思いを貫いていこうとする一人の人間の姿を、面白おかしいお話を通して肩の凝らないかたちで見せてくれるのがこのコーエンなのだ。

 今回もおとり捜査官としてダブル・スタンダードに揺らぐ主人公を通して、コーエンは十八番のテーマをうたいあげて見せる。オマワリとしての常識や任務に忠実でいれば安全だ、あるいはレーサー仲間の身内意識に流されればそれもいいだろう。だが、この主人公はそのいずれのスタンダードにも乗らず、自らの流儀やポリシーをもがきながらも追い求めようとする。それは結果的にどちらの支持も受けないかもしれない。だが、それを貫かねば自分は何なのだ。そんな主人公の姿は、ともすれば何かに流されがちな僕たちに、本当に大切なものは何かを教えてくれる。

 ラスト、主人公は、真犯人として逃走しようとするディーゼルに、自分の車のキーを差し出す。確かに花も実もある親分肌のディーゼルに共感しての行為とそれは見てとれる。でも、それは犯罪者に対して甘いんじゃないのか? この決着の付け方に異論のある方もあるだろう。だけど、僕はこれをそうとは受け取らなかったんだね。

 この車をやる。これで貸しはチャラだ。

 あくまで逃がすんじゃない。レースの賭けで負けた借りを返すんだ。そう言う主人公の言葉は、単に言い訳ではない、個人としての尊厳に満ちていると僕は思う。

 大儀や正義なんて分からない。神様も政治も関係ない。法律も掟も知った事じゃない。社会の常識も身内・仲間意識も、実はどうだっていいことなんだよね。そんなデカくて掴みどころのないものは、人間一人ひとりには実感出来ない。結局のところ最後の最後になって本当に僕らに確かに分かることは、自分と相手との間で交された、あくまで個人としてのつながりまでだろう。それ以上のことに確信なんか持てるか?

 確かなのはあくまで身の丈サイズの、自分に信じられる真実だけなのだから。

 

 

 

 

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