「DENGEKI/電撃」

  Exit Wounds

 (2001/08/27)


昔から映画を取り巻く偽善は変わらず

 かつて、僕は古本屋の街として有名な神田神保町を時々訪れては、いろんな店を冷やかして楽しんでいたもんだ。この街は古本屋の街と同時に、レンタルビデオ屋から不要になって放出された中古ビデオ販売店の街でもある。ウロウロ一日かけていろいろな店を回れば、欲しいお目あての作品がヒョッコリ見つかることもあるわけ。ピーター・ウィアー監督のオーストラリア時代の出世作「ラスト・ウェーブ」などは、こうして見つけた一本だ。

 もちろん古本もよく探した。この街で見つけた珍しい映画本も数知れずだ。MGM創立50周年記念豪華本を見つけた時は狂気乱舞したっけ。その中でも珍品中の珍品は、昭和30年代の「キネマ旬報」の特別号だ。ここには戦後になってからこの号が出るまでのすべての日本映画の一覧表が掲載されていて、資料として貴重なんだね。この表に載っている新東宝映画のゲテモノ作品のタイトルを追っていくと、見たくて見たくてたまらなくなってくるよ。

 そして戦前の「キネ旬」のベストテン一覧表も便利。だがこの表を見ていくと、一口に「キネ旬」のベストテンと言っても長い間にそのスタイルがどんどん変わっていったみたいなんだね。何よりおかしかったのが、大昔はこのベストテンが芸術映画部門と娯楽映画部門に分かれていたことだ。

 今ではこんなのナンセンスと一笑に付されてしまう「芸術」「娯楽」のカテゴリー分けだが、昔はこんなけったいな区分けで映画を分けていた時期もあったんだねぇ。でも、これって実際どんなふうに分けていくもんなんだろう。映画に「芸術」「娯楽」とレッテルが貼ってあるわけでもないのにさ。ちょっと考えていくと、それって例えばこの夏の映画で言えばこんなふうに区分けしてたんじゃないか?

 「夏至」はベトナムの映画だしフランス資本だから芸術映画。「こころの湯」は中国映画だから芸術映画。「ジュラシック・パーク3」はアメリカの特撮を使った映画だから娯楽映画。同じく「パール・ハーバー」も娯楽映画。

 じゃあこれはどうだ?

 「猿の惑星」はアメリカのSF大作だから芸術性なんかない娯楽映画。だけどティム・バートンの作家性を評価して芸術映画に入れとくか? 「A. I. 」は純粋に映画を愛するシネフィルなら軽蔑して当り前(笑)のスピルバーグ作品だから娯楽映画。だけど、これがキューブリックの監督作だったら芸術映画だなぁ…。

 バッカじゃなかろか?

 こんなシラジラしい偽善はないね。大体この考え方の根底には娯楽映画は芸術映画の下って発想があるんだろう? それ自体がかつて金満日本で文化支援みたいなこと言ってた企業トップのガハハジジイどもとか、ド田舎で金バラまいての村起こし文化事業推進者なみの恥ずかしいセンスの証明だよ。文化を語ろうという人間の発想じゃないね。

 まぁ今どきはこんな事言ってる奴いないって? そんな区別をする奴いないって? みんなちゃんとそのへん分かってるって?

 でも、それって本当なんだろうか。本当にないって言えるのかい?

 現在そのカテゴリー分けは、ミニシアター系映画とメジャー映画という、さらに歪んだかたちで生き残っているんじゃないのか?

 僕が今上映中の中で「これぞというものを一本を挙げろ」と言われたら、最も映画らしい映画としてこいつをとるね。

 力みかえってもいない。テーマを声高に叫ぶものでもない。よしんばつくり手が自分のセンスに自己陶酔してもいない。

 それはスティーブン・セガール主演作、娯楽映画中の娯楽映画「DENGEKI/電撃」だ。

 

今回も問答無用のセガール流

 21分署にスティーブン・セガール刑事あり…とくれば、これはもうハミ出し刑事と相場は決まってる。今日も今日とて呼ばれもしないのに銃廃絶を訴える副大統領の野外演説会に乗り込み、署長はじめ21分署のお偉いサンたちを渋い顔させる。あいつが来るとロクな事にならない…その予感は見事に当たった。演説会は無事に終わったものの、副大統領を乗せて立ち去ろうとした車が正体不明の武装集団に襲われて橋のど真ん中で立ち往生。しかもこいつら警官の格好しているからどっちが味方だか敵だか分からない。シークレット・サービスも次々倒れて絶体絶命。

 しかし、そんな時に決まって現れるのがわれらがセガール。敵とやり合いながら、副大統領の命を守ろうと唯一安全な場に連れ出した。問題なのはその安全な場所が川の中で、高い橋から副大統領を突き落としたところ。無事に副大統領は助かったものの、その強引なやり口には非難ごうごう。さすがにセガールと旧知の仲の署長も、今回ばかりは見逃すわけにはいかなくなった。15分署への転属。まぁ体のいい左遷である。

 この15分署というところが、悪の温床のような荒んだ街を所轄している警察署。出勤していきなり事務の女の子扱いした相手がここ15分署の署長ジル・ヘネシーとくるから、セガールも最初から間が悪い。ハミ出しの悪い癖には性格的問題ありと、性格改善のためのセミナーと称するグチたれ集会に参加させられるはめになる。まぁ性格に問題ありの連中ばかり集まって、カウンセラーに話を聞いてもらうという例のやつだが、そんなところにあのセガールがおとなしく座っているはずもない。案の定ここでも大暴れしてメチャクチャにしてしまうが、会に出席していたちょっとキレたテレビの司会者トム・アーノルドはセガールに惚れこんでマブダチ扱い。妙なところで妙な縁が出来てしまう。

 ところでここでお話はちょいと変わって、粋なヒップホップに乗って一人の男が刑務所へとやって来る。この男DMXは、服役しているある男に面会しに来たわけ。二人はガラスごしに「ブラザー」とか言いながら連帯の気持ちを新たにしていたのだが…。さらにこの男DMXは、デブチンのアンソニー・アンダーソンを従えて高級車の店にやってくる。最初は単なるヨタ者の冷やかしと顰蹙かっていたこいつらだが、いざとなると何十万ドルもキャッシュで払う景気良さ。DMXったって自転車買いに来た訳じゃないぜって、そりゃあんたBMXだろう(笑)。とにかく何だかヤケに金回りのいい野郎で、怪しい男なんだね。

 と、思ってたらヤッパリ。このDMXとデブのアンダーソン、夜中にビルの一室でヤクの売人とヤバい取引してるじゃないか。そして、そういう時には必ず現れるのがこの人セガール。大暴れして乗り込んだものの、DMXとアンダーソンには逃げられるし、捕まえたヤクの売人は警察のおとり捜査やってたデイビッド・バディム刑事だったという最悪のパターン。このおかげでセガールまたまた女署長ヘネシーのお怒りをかって、交通整理の警官にまで格下げされるテイタラクだ。

 おまけにこの警察はイヤ〜な雰囲気充満していて、セガールがヤクの売人と間違えたバディム刑事とパシりの脳味噌まで筋肉みたいな警官が新入りをイビるのがならわし。案の定セガールも目を付けられた。スタンガンで電流流して男の我慢大会やろうぜってな言いぐさだが、新入りセガールには飛びきり強烈な電撃くらわせるという汚い手を使ってきた。だが、今度ばかりは相手が悪かった。たちまちセガール大乱闘。そこを多勢に無勢でいたぶろうというバディム刑事とパシリを止めたのは、この警察の良心とでも言うべきマイケル・ジェイ・ホワイト刑事だ。ここにも少しはマシな奴もいるようだが、それにしてもこの警察の連中にはキナ臭い奴らが多すぎる

 いろいろ調べていくうち、たまたま謎の集団による警察の保管庫襲撃に出くわすセガール。そこに居合わせた人たちの命は助けたものの、保管庫からは警察が押収したゴッソリ大量の麻薬を盗まれてしまった。その現場にやって来たのは例のバディム刑事。またまたセガールが首突っ込んでるのを見て、バディム刑事の陰険な顔がいちだんとイヤミを増した。

 この保管庫での手柄もあり、交通整理は辛抱たまらんとの女署長への直訴の甲斐もあって、何とか現場に戻してもらったセガール。でも、こいつの交通整理はもう勘弁してくれとのクレームでもついたというのがホントのところだろう。ともかく理由はどうでもいい。ちょいといい加減で頼りないがいい奴、黒人警官のアイザイア・ワシントンと組んで捜査をスタートだ。

 すると早速出ましたセガール流。いきなりデブのアンダーソンが経営するクラブで大暴れ。そんなこんなでニアミスを続けた末に、例のDMXとがぶり四つに組んでの取っ組み合い。お互いボコボコやり合ったあげくスッキリして、ワッハッハと笑ったあげく仲直りしてあぁ青春だ〜(笑)じゃないけど、なぜか相手を敵と見なすのをやめたDMXは、自分のアジトにセガールを連れていくのだった。

 そこでセガールの知った真相とは? そして敵味方入り乱れての事件の今後の展開やいかに?

 

 

 

 

 

 

 

一応、映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

セガールVSシルバーの楽しさ

 スティーブン・セガールの映画って、実は僕大好きなんだよね。何しろ問答無用の楽しさがあるでしょう? 理屈も何もとっぱらって、まずは楽しませてくれる。最初こそB級の臭いがプンプンしててそこが魅力でもあったんだけど、「沈黙の戦艦」からは一気にメジャーの貫禄も出た。こりゃいいぞと応援したくなったもんだよね。

 だけどそのメジャー化がいけなかったのか、何だか彼の順調なキャリアに陰りが出てきた。それ以降の「沈黙」シリーズ(って言っても邦題だけの偽シリーズだったが)は、変に環境保護メッセージを入れたりして訳分かんないものになっちゃった。あの問答無用の持ち味がモタつくようになってきたんだよね。ありゃ〜とちょっと納得出来なくなってきた。往年のセガール知ってる身としてはちょっと寂しかったよね。

 ところがここでセガールが何と大物プロデューサーのジョエル・シルバーと組むと聞いて、久々に血が騒いだんだよ。

 ジョエル・シルバーとくれば数々のヒット作を生んできた敏腕プロデューサーであることは間違いないが、そこに男性的なアクション大作好みというスジが一本ピ〜ンと通っているのが特徴だよね。アーノルド・シュワルツェネッガーの初期の佳作「コマンドー」、メル・ギブソンのスーパースター化の決定打となった「リーサル・ウェポン」シリーズ、言わずと知れた「ダイ・ハード」シリーズと、映画好きを喜ばせる良質なアクション映画をつくり続けてきた人。この人の映画に出ると、デンゼル・ワシントンですら「リコシェ」のようにアクションせずにはおれない。そんな男とセガールが組むなら申し分ないではないか。実はこの二人、すでに「エグゼクティブ・デシジョン」で顔を合わせてはいるものの、あれは本格的に手を組んだとは言えない。そういう意味で彼らの顔合わせはこの作品が最初と言っても過言ではないのだ。

 シルバーという人の作品系譜を見ていくと、有色人種の人材を好んで起用していることが目を引く。「リーサル・ウェポン」でのメル・ギブソンの相方としてのダニー・グローバーの起用はその代表例だ。ジェット・リーを重用したことも、そのへんの発想から来ているのだろう。

 元々シルバーとしては大ヒット作「マトリックス」でマーシャル・アーツの魅力にとりつかれ、「リーサル・ウェポン4」でテスト・ケース的に起用したジェット・リーに惚れ込み、「ロミオ・マスト・ダイ」というリーの主演作までつくってしまったという経緯がある。この病みつきになった路線を続けたいと思った時、アメリカンのマーシャル・アーツ・スターであるセガールを使おうと思い立ったのはごく自然なことだったろうね。

 だから監督のアンジェイ・バートコウィアクも、アンソニー・アンダーソンやアイザイア・ワシントン以下のアフリカン・アメリカン俳優たちも、バックに流れるヒップホップも、そっくりそのまま「ロミオ・マスト・ダイ」から移植しちゃったかたちになる。そして「ロミオ・マスト・ダイ」という作品、クールなヒップホップと猛烈アクションという売りにも関わらず、物語やテイストはアッケラカンのバカバカしさという奇妙で楽しい作品だった。ここでもシルバーはセガールという逸材を得て、思い切り底抜けな映画をつくろうとしたんだね。

 元来セガールってそのコワモテぶりにも関わらず、歩き方はヒョコタンヒョコタンとカッコ悪いし、顔もいつも眉間にシワ寄せてるけどアホづらだし、あのバカバカしいまでの強さも含めてどこか笑っちゃうところがあるんだよね。「沈黙の戦艦」以降はどこかユーモラスな味わいも出てきたし、あの映画では船のコックという柄にもない役柄を演じて笑わせた。「ロミオ・マスト・ダイ」のジェット・リーがやたら強いのに童顔でガキみたいにニコニコというバカバカしさだったのを踏襲して、性格改善セミナーに出されたり交通整理させられたり、そのズッコケぶりを強調されてるわけ。これがまず楽しい。「ロミオ・マスト・ダイ」でもおかしかったデブっちょアンソニー・アンダーソンのアチャラカ芝居も笑えるし、トム・アーノルドもコメディ担当として配されてて申し分なし。シルバーは完全にこの映画を笑わせようとしてつくってるんだよ。

 そこにヒップホップのスターというDMXが登場するんだが、さすがにこの人は崩さずに二のセンで使ってる。でも冒頭の刑務所面会シーンを例に挙げると、彼が画面に登場するや否やいきなりヒップホップがクールに流れてくるというあまりのタイミングの良さ。そこにこのDMXがマジな顔してマジな芝居をやってると、何だかどこからともなくオカシサがにじみ出てくるんだよねぇ。それって、かつて「新春スターかくし芸大会」か何かで、普段芝居をしないような歌手が中国語劇とかのドラマをマジな顔してやっていた時のオカシサに似てる。まぁ、早い話がこのDMXって芝居ヘタなんだろうが、これ笑わすつもりじゃないのに笑えるシーンになっちゃったのかねぇ? どうもシルバーの意図を考えると、狙ってるのでは?と勘ぐりたくもなるけど(笑)。

 お話は一見ワルに見えたDMXが実は…とか、善悪の見分けがハッキリつかないのが今回のお話。そういう意味ではドンデン返しの妙味が今回のミソと言えるのかもしれないが、そこがそうは見えないところがセガール映画(笑)。冒頭の警官に化けた武装集団が伏線になっているのに、まるで関係ないように見えちゃうとか、かなり活躍しそうだった女署長が車の事故でグロッキーのまま画面から消えちゃう(あれって死んだのか?)とか、伏線とか面白そうなキャラとかが全然活かされてないんだね。セガールの馬鹿力でストーリーを進めている印象が強いので、行き当たりバッタリな脚本という感じが強いのだ。でも、今回はセガールの強さとバカバカしさを楽しむ映画と目的がハッキリしているから、これはまぁこれでもいいか(笑)。ヤボは言うまい。

 今回のセガールはズッコケぶりもバラエティに富んでいれば、暴れっぷりもふんだんに見ることが出来てお得。もちろん素手でボコボコ暴れるのはもちろん。今回はチラッとだけだがワイヤー・アクションも見せる。これ、ワイヤー大好きのシルバーがミリやり入れたんだろうねぇ(笑)。たった一回だけチラッと出てくるのがオカシイ。そしてカー・アクションにバイク・アクションにガン・アクションとあれこれやってくれるのだ。しまいにや飛び去ろうとするヘリコプターを止めようと、ブラ下がってるナワバシゴにしがみつく。まぁマーシャルアーツに一家言ある人だと、あのセガールのアクションが云々といろいろ言いたいこともあるだろう。「ロミオ・マスト・ダイ」の時もジェット・リーの古くからのファンが何だか言ってたしね。だけど、僕も含めた一般のお客はそのへんのこと別に知らないからなぁ。それに先に書いたように、ハッキリ言って今回のもっとも大きなねらいは「笑い」だ。だからここまでやってくれれば、僕はもう他に言うことないよ。

 エンディングはトム・アーノルドのテレビ・ショーにデブちんのアンダーソンが出てきてバカ話を延々やっている始末。これがくだらなくって下品で全然意味ないんだよね(笑)。一体何の映画だか忘れちゃう。これ見たって、スリルやサスペンスがメインのつもりでつくってないことは明らかだ。

 それにしても監督のバートコウィアクって人、元々は撮影監督としてシドニー・ルメット作品とか硬派の作品ばかり手がけていたのに、何で監督昇進してからは「ロミオ・マスト・ダイ」とかこれとかアホっぽいアクションばかりやらされてるんだろ? 本人の真意を一度確かめたいねぇ(笑)。

 ユルんでてお話も何だか変なオカシな映画「DENGEKI/電撃」。こういう映画はとかくバカにされちゃうし、実際くだらないって言えばくだらない。アホな趣向も少なくない。でも単純にお金払って切符買って見に行くことを考えたら、ハッキリ言ってお高くとまったトラン・アン・ユンの「夏至」の10倍は楽しめる映画だよ。じゃあ、映画としての出来はどっちがいいのかって?

 そりゃ誰がどう見たって「DENGEKI/電撃」のほうが遥かに上に決まってる(笑)。確かにアホ映画には違いない。でも、所詮はバカなくせに利口ヅラしてる気取ったミニシアター映画より、テメエのバカをバカと分かっている娯楽映画のほうが潔いじゃないか。そこんとこ、つくるほうも売るほうも見るほうも何か勘違いしてやしないか?

 だって映画ってまずはどうあれ、多くのお客さんを楽しませるためのものなのだから。

 

 

 

 

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