「デンジャラス・ビューティー」

  Miss Congeniality

 (2001/06/18)


 

 

 

 

 

 この映画の前にゴチャゴチャ言っても意味ないね。今回はすぐに映画の話から始めます。

 

 

 

 

 

 昔むかしあるところに、可愛げはないけど曲がったことが大嫌いで、腕っぷしがめっぽう強い女の子がおりましたとさ。ある時ちょっと優しげでマジメそうな男の子がイジメっ子に難癖つけられているのを見て、女の子はついつい黙ってられなくなりました。でも言ってモノを聞くようなガキじゃありません。ええい、ままよ。女の子は自慢のパンチでイジメっ子をノックアウト。イジメっ子はわんわん泣いて立ち去りました。その場に残されるマジメそうな男の子と強い女の子。女の子は内心ドキマギしながら、自分が助けたその男の子が実は好きだと打ち明けます。しかし男の子はそんな彼女の胸の内なんかお構いなし。自分が彼女に助けられたのにも関わらず、「女に助けられるなんてサイテー」などとまくしたてます。あげくの果てに女の子をブス呼ばわり。女の子は悲しい思いを胸に、好きだったこの男の子にパンチをお見舞いしてその場を去りました。

 その日女の子は、自分の中の優しい気持ちをそっと心の中の小部屋に封じ込め、扉にカギをかけて固く閉ざしたのです。

 以来、幾年月…。

 

 FBI女性捜査官のサンドラ・ブロックは、髪形も服装もまるで構わないガサツな女。シャツにケチャップやソースが垂れたってお構いなし。笑えばブタみたいにブヒブヒと鼻は鳴る。そのタフでカラッとした性格から同僚の男性捜査官ベンジャミン・プラットらとはうまくやってはいるが、それはあくまで男の同僚と変らない扱い。逆に女扱いでもされようもんなら怒る荒れる相手をバカにする。もっとも、何せガサツなキャラクターだから誰も彼女をレディ扱いしない。愛敬なんて望むべくもない。当のブロック自身が自分のことをガサツで結構と思っているし、お上品とか身なりを気にしたりなんてチャンチャラおかしいと思っているんだから仕方がない。

 今日も仲間と一緒にレストランでガサ入れだ。パクる相手はロシアン・マフィア数人。ところが首尾良くいくはずが、お互い銃を構えてにらみ合いの状況になっちまう。おまけにロシアン・マフィアの一人がノドにナッツを詰まらせて顔が赤、青、紫にどんどん変色。FBIのボス=ジョン・ディレスタはそんなもん放っておけと言うが、ブロックその性分が黙っていられない。ついついナッツを吐かせてやろうとロシアンマフィアに駆け寄って、あんたみたいなワルにナッツごときで死なれたらたまらないなどと憎まれ口叩きながらナッツ吐き出させようとするが、実はそれって彼女が生来から持っている優しさの現われなんだね。

 でも、彼女のそんな優しさはまたまた裏切られた。ちょっとしたスキを突かれて銃撃戦が発生。ロシアン・マフィアを全員捕えることは出来たものの、同僚一人が重傷を負うことになってしまった。ブロックの心には苦々しさだけが残る。

 さて翌日のこと、FBIをキリキリ舞いさせている連続爆破犯から、またまた脅迫状が舞い込んだとあって捜査官たちは騒然。だが、いつもこの脅迫状は暗号が難しすぎて解読出来ず、後手後手に回ってきた。もちろんブロックもこの事件の解決にはえらくご執心なんだね。

 ボスのディレスタはブロックの同僚プラットを、本件の捜査チームのリーダーに任命。元々自信満々のプラットはゴキゲンだ。アタシは?…と気負い込むブロックだが、先日の作戦でディレスタの命令に背いたことで謹慎必至。これにはブロック荒れる荒れる。家に帰ってもあらゆるモノに当たり散らす。さんざん当たったあげく、ションボリ悲しくなってくる。もう、人なんか信じない。自分の優しさなんて出さない。優しい顔を見せれば、いつも自分が割をくう。だからいつだって人には攻撃的に出ると決めているのだ。それなのに…。そんな彼女の気持ちなんか誰一人として分かっちゃくれない、やりきれないブロックではあった。

 やがて今回の爆破犯の脅迫状が、どうも次のターゲットを「ミス・アメリカ」のミスコン会場をターゲットにしているらしいことが分かる。武者震いして初陣を飾りたいプラットは意気盛んだが、気合いばっかりで空回り。そんな彼をさりげなくブロックはフォローして、捜査の段取りをアドバイスしてあげるんだね。で、このミスコンにおとり捜査官を忍び込ませるべきだとの話になってくる。

 さぁFBIにミスコンに参加させられるような捜査官っているか? どいつもこいつも帯に短しタスキに長し。コンピュータでミスコンの水着姿にシュミレーションしてみても、どうも適材がいない。面白がって同僚みんなをシュミレーションし、ボスのディレスタまで水着姿にしたあげく墓穴を堀ったプラット。だがお遊びでシュミレーションしたブロックの意外にサマになっている水着姿に、ちょっとプラット驚いた。うう〜む、ままよ。

 そう。何とプラット、このガサツで潤いゼロで口のききかたもマナーもゼロで何でもやたら攻撃的な、サンドラ・ブロック捜査官をミスコンに派遣することを思いついたわけ。

 それ聞いたら、今度はブロック本人が驚いた。驚くと同時にトサカに来た。だって、ミスコンなんて自分と対極のところにあるもんだと決めてかかっていたし、どちらかと言うと顔はきれいでも頭カラッポのアホバカ女がやることとまるっきり見下していたもんね。普通の時なら一も二もなくこんな任務は願い下げなのだが、いまや窓際に追いやられそうなブロックにとっちゃ、まるっきりマズい話だと調子こいて無下に却下するわけにもいかない。だがいくら何でもミスコンとは…そんなブロックの気持ちを知ってか、プラットは彼女と格闘技の勝負をサシでしながら、何とかかんとか説得を試みる。これを蹴ったら捜査の最前線にはいられなくなるぞ! いつも自信まんまんデリカシー・ゼロに見えたプラット。今も格闘技でブロックをねじ伏せて言うこときかせようと、女扱いせずにしゃにむに取っ組み合いこそしているが、実は気がきかない彼なりのブロックへの心づかいだったのか。確かにブロックのショゲぶりを見るに見かねての、今回のおとり捜査への彼女の起用と思えなくもない。だがブロックは目の前のミスコン参加のイヤさに気をとられて、そこまで機転が働かない。それに元々そこまで気が回るタマじゃない。お互いを格闘技で痛めつけあったあげく、ついに根を上げたブロックはおとり捜査を引き受けることになったんだね。

 さて、早速ミスコンの本部に出かけて捜査の協力を…ということになったが、自らもかつて何代目かのミスで現・理事長のキャンディス・バーゲンは、おとり捜査官をミスコンに参加させることに大反対。それがまたガサツが服着て歩いてるようなブロックだと知ってなおさら怒り心頭だったが、あくまで捜査のためということで渋々オーケーが出た。そしてブロックがミスコンに出てもおかしくないように、ミスコンを知り尽くした知り合いの美容コーディネーターも紹介してくれた。

 その美容コーディネーターが、おネエ言葉も身のこなしも並みの女よりよっぽど女らしいマイケル・ケイン御大。だが、レストランでのブロックとの初顔合わせで、ケインはこの仕事が思った以上に前途多難だということに気がついた。彼女、単に男まさりとかそういったレベルじゃない。周囲の人に最低限でも品良く好印象を与えようという、ほんのちょっとした気遣いすらもカケラもない。ガブガブ飲んでムシャムシャ食ってガハガハブヒヒ笑い。ソースや飲み物は平気で服に垂らす。そのアリサマは、まるで何かに復讐でもしてるみたいに、あえて自分はことさらにガサツに振る舞っているのだと言わんばかりの酷さなのだった。

 これじゃダメだわと投げ出したくなるケインだが、引き受けたからには彼には彼なりのプロの意地がある。それに、実は言うに言われぬツラい事情も…。かつてはミスコン連戦連勝のスペシャリストとして名声を博していたケイン、だがある時に自分が担当した女の子が歌の審査で立ち往生。あげく、ケインにシゴかれすぎて精神的にダメージを負ったせいだと言ったために、彼の評判は一気に失墜。いまや彼に頼む客は一人とていない状態。イヤでも無理でもこのガサツなブロック改造計画にすべてを賭けるより道はなかったのだ。しかしどうやったらあと数日でここまでミスコンと程遠い女を改造出来るのかしら?

 ともかくサンドラ・ブロック、ベンジャミン・プラット、マイケル・ケインらFBI御一行は、専用ジェットでミスコン会場のあるテキサスへと乗り込んだ。

 貸し切りの飛行機格納庫を即席の前線本部にして、着々と準備を進める捜査官たち。まるで「未知との遭遇」ラストの秘密基地みたいに各種装備を備え、捜査員やスタッフが忙しそうに駆け回る格納庫内で、ヘア、メイク、スタイリストなどあらゆる美容のスペシャリストたちを総動員して、サンドラ・ブロックの外見が大改造されていた。むろん油っこいものなど食べるのは厳禁。一晩徹夜状態で全身ひっかき回されたあげく、捜査官たちを待たせに待たせた翌朝のこと…。

 秘密裏に閉ざされた格納庫の扉が重々しく開き、中から美容の各部門のプロたちが一仕事終えた充実感あふれる顔つきでゾロゾロと出てくる。その最後に現われたのは作戦の総指揮を執ったケイン御大と、さっそうと現われた…。

 何と!まるで別人のように美女に生まれ変わったサンドラ・ブロック嬢ではないか!

 思わず予想外の成功を喜びながら、驚きをかくしきれないベンジャミン・プラット捜査官。だが口を開けば憎まれ口、歩き出したらヒールでコケるとくれば、これはあのガサツなサンドラ・ブロックその人に他ならない。プラット笑っちゃいるが、実はブロックの事ちょっとは見直した。ケイン旦那もさすが往年のスペシャリストの面目躍如だ。アタシってさすがプロ中のプロよねぇ。

 さぁ、外見は何とかいけそうな気がしてきた。だが問題は中味だ。しかし、ともかくミスコン会場に乗り込まなくては。

 ブロックは問題起こして失格となったミス・ニュージャージーの後釜に収まることとなり、他のミスたちと合流する。慣れぬハイヒールにニッコリスマイルもさることながら、キンキラピカピカ笑顔の他のミスたちと一緒にバスに乗り込み、清く正しく美しい小学校唱歌みたいな「ミス・アメリカ」のテーマソングをみんなで合唱させられるに及んでは、思わずウゲッと吐き気がしそうなブロックではあった。

 まず顔合わせ昼食会。テーブルを囲むミスたちは、それなりにライバル意識と自意識過剰でヒリヒリしてる。頭ん中は空腹で食い物のことだけのサンドラ・ブロックは浮きまくり。中にはロードアイランド代表のヘザー・バーンズみたいにフレンドリーな感じの子もいるが、結構最初からツノ突き合ってるのもいたりしてギンギン。ウワサ話に伝え聞くところによれば、このミスコンの理事長のキャンディス・バーゲンも司会担当のウィリアム・シャトナーも、今年限りで降板だとか。何だかあの人たちって、いくら何でも時代遅れな感じだもんねぇ。

 夜になるとブロックの部屋に例のロードアイランド代表のバーンズがやってきた。ホット・チョコレートを飲まないかと言ってきた彼女は、緊張感にギンギンになっている女の子の中では例外的に人の良い子のようだ。ただ、ちょいと人が良さが過ぎるかも。清純で真面目で誠実という絵に描いたような「いい子」。ミスコンやら彼女の特技のバトンやら、まるっきり興味のない話を話しかけられたブロックは正直言って退屈しないでもなかった。だがバーンズの好ましい人柄のせいか、彼女が本当にそれを好きで打ち込んでいるということは納得出来たし、そのことをケナす気もしなかった。彼女は本気で誠心誠意それに努力しているのに、誰にそれをバカにすることなんて出来よう? いつもなら冷笑的に見てしまうか頭っからバカにするはずのブロックが、苦笑しながらもいつか好ましく見ていたこと自体が実はすごい変化だったのだが、この時点の彼女はまだそれに気付いていなかった。

 バーンズが帰ってさぁ寝ようと思ったら、今度は部屋にプラットがやって来た。そのまま誰もいないガランとした選考会場に連れていかれて、待ち構えてたマイケル・ケインの猛特訓が始まるわけ。インタビューも受けなきゃならない。特技も見せなきゃならない。外見だけじゃない、中味も磨かなきゃならないからミスコンは大変なのよ。だがブロックはブロックで、それを素直に聞かずにいちいち文句ばかり言ってるからラチがあかない。最初は「歌も踊りもダメ」というブロックにケイン旦那は完全に頭を抱えたが、昔覚えていたちょっとした芸を思い出して何とか乗り切ることにした。もう毎日綱渡りだわよぉ。ケイン旦那も冷やひやもんだが、付け焼き刃ながらもミスのミスたる本分を全うするべく一通りのことをやらされる、ブロックのほうがこの大変さに毎日驚かされる日々なのだ。ただきれいでニコニコしてりゃいいって訳じゃあない。これだけの努力を費やす他のミスたちへのまなざしも、当然少しづつ変ってきた

 

 だが翌日、その特技披露の時に舞台の上から怪しげな男を見つけたサンドラ・ブロックは、男がフトコロに手を入れたところに思わずジャンプして飛びかかる。これがまた勘違いで、キャンディス・バーゲン理事長にまたこっぴどく怒られたことは言うまでもない。あぁ、なんて何をやらせてもサマにならないあたし。今まで彼女が避けて通ってきたような事ばかり急にやらされてるのだから、そりゃあうまくいこうはずもないのだが。同時に作戦の指揮を執るプラットも、ボスのディレスタからの大目玉が待っていた。

 おまけに夜は夜でまた特訓。歩き方から話し方から何だかかんだか一から十まで直されるうち、いいかげんブロックもキレまくり。ブーブー言ったあげく何もかも放り出してしまう。どうしてあなたは何でも攻撃しないと気が済まないの?…と言うケイン旦那の言葉も火に油を注ぐが、それと言うのも完全に言われてることが図星だから余計に頭に来るのだ。上司の小言にウンザリ来てたプラットが、頭を冷やそうとザバザバ泳ぐホテルのプールサイド。そこにブロックはドドドッとやって来ると、私には無理だと一気に訴えた。

 考えれば弱音を吐くのが何より嫌いなタイプのはずの彼女が、こんな事を言うこと自体極めて異例だ。しかも先ほどケインの元から逃げ出した際には憎まれ口を叩きはしたが、彼女自身がいちばんケインの言っていることが正しいと分かってる。いつしかブロックの胸の内は、「こんなバカな事やりたくない」ではなく「こんな事も出来ない」自分の腑甲斐なさを呪い恥じる気持ちに変っていた。そして自分の腑甲斐なさを、生まれて初めてごまかさず隠さず吐露する率直さに…。あたしには出来ない、みんなにいい印象を与えて好感を持たれるようなことは。あたしには出来ない、他のミスたちが誠心誠意取り込んでいるようなひた向きな努力は。あたしには出来ない、どうせ一生懸命やってみても無駄だから。だってあたしは持っていないもの、そんな人々を惹き付ける美しい何かを…。

 だがプールの冷たい水がプラットの心根もちょっとは洗い清めたのだろうか、彼も初めて彼女に真面目に向き合う気持ちになっていた。

 君という人をよく知って親しくなれば、みんな君のことを好きになるさ…

 その時ずっと頑なだったブロックの胸の中で、何かが変ろうとしていた。

 

 こっ恥ずかしい水着審査も何とか乗り切った。インタビューではみんながバカの一つ覚えで「世界平和を希望します」と繰り返すのを冷笑しながら見てはいたものの、「凶悪犯罪の撲滅を…」などとおサトが知れそうなこと言いかけながらも「世界平和を希望」と続けて丸く収めるブロック。何でも悪ぶってツッパらかってりゃいいって訳でもないと、彼女も本気で考え始めたんだね。そんなブロックの変化を、さすがのケインも決して見逃しはしなかった。そして同僚プラットはプラットで、更衣室の様子を覗く同僚の目からモニターテレビを隠したりする。いつもだったら一緒になって覗いてるはずのセクハラマッチョな俺が一体どうした? プラットもそんな自分に戸惑わずにはいられない

 その頃、今回の脅迫状が例の爆破犯からのものではないらしいと分かった時、何とこともあろうにあの善良なロードアイランド代表のバーンズに嫌疑がかかった。ブロックは彼女からいろいろ聞き出してみると申し出たが、そこにはFBI捜査官としての職務もさることながら、バーンズへの疑いを何とか晴らしたいという思いもあったはず。そしてインタビューがうまくいかずショゲていたバーンズを慰めもしたかった。ブロックは出前よろしく、ピザの特大サイズ抱えて宿舎の彼女のもとを訪ねるわけ。高カロリーのピザは美容の大敵、こんなもの食おうなんて非常識となじる周囲のミスたちも、そのうまそうな匂いには逆らえない。そんな固いこと言わずにみんなで楽しくやろう!というブロックの一声に、ギスギスしがちだったミスたちの気持ちも一気になごんだ。ブロックを囲んでバーンズたちミスの面々は、街に繰り出して飲んで踊って肩の凝らない話に花を咲かせた。なるほどブロックには、みんなを和ませるこんな一面もあったんだよね。そんな飲んで騒いでの会話の中で、バーンズの「犯罪歴」がせいぜいセクシーな下着欲しさのパンティの万引きどまりと知って、ブロックもやっとホッとした。ミスのみんなもブロックのおかげで気持ちがほぐれてきたけど、ブロック自身も一緒に頑張ってきたミスたちに、ちょっと特別な思いを抱いてきたんだね。

 いよいよ最終審査を控えた夜、FBIのうるさい上司ディレスタが会場に乗り込んできて、いきなり捜査本部の撤収を宣言した。それと言うのも、例の連続爆破犯が逮捕されたから。でも、このミスコン脅迫したのは別の犯人では?…とブロックが言っても、ディレスタ上司はまるで耳を貸さない。回りの捜査官たちも上司との間に波風立てたくないので黙ってるしかない。内心忸怩たる思いを噛み殺しながらも、プラットもブロックの加勢は出来なかった。ならば…とFBI捜査官としてではなく、一個人として単身ミスコンに踏みとどまる決意をしたブロック。彼女にはいまや、共に苦楽を共にしてきたミスたちを守らねばならないという、新たな使命感が生まれてきたんだね。

 しかし捜査本部は撤収、スタッフは全員この場を去る事になった。FBIに雇われた美容コーディネーターのケインももう行かなければならない。だが心細そうにしているブロックを、ケイン旦那は君なら大丈夫だと暖かく励ました。そして別れ際に一言。

 あなたのお手伝いが出来て、私は本当に光栄でした…

 その恭しくも敬意を込めた丁重な態度は、ケインが彼女に初めて見せた“レディ”に対するそれだった。

 

 サンドラ・ブロックって女優さんは「デモリションマン」でのシルベスター・スタローンの相手役で注目を集め、続く「スピード」での好演で一気にスターダムに上りつめたものの、どうもあのハツラツとした彼女が近年何だか元気がなかった。考えてみれば「スピード2」がケチのつき始めだったかなぁ。義理堅いもんだから出ちゃったけど(実際インタビューでも「スピード」には恩があると言っていた。いい奴だねぇ!)、あそこで運が悪い方向に向いたかパッとしなくなったんだよね。

 実際は「愛は嵐のように」のような興行的成功作もあったし、その映画の出来も悪いわけじゃなかった。彼女にピッタリの好企画と思えたしね。だがサンドラ・ブロック自身はどうかと言えば、何となく元気がないという印象なんだよね。役柄のせいもあって一概に言えないんだけど、何となく陰りが見えるというか精彩を欠いた印象があった。スターとして一番大切な華がなくなっちゃあ、これはマズいんでないかい?

 それはブロック自身も気付いてたんじゃないか? だから今回プロデューサーも兼ねたこの作品では、彼女の魅力を全面展開する作戦に出た。それが見事功を奏したと言える出来映えなんだよね。

 今回の彼女の役柄…前半ドブスで可愛げなし、後半人間味あふれるミスコンの美女というキャラクターは、それなりに美しいけどハツラツして庶民性が売り物という、まさに彼女のスター・イメージならではのものとなっているんだよね。彼女のイメージの両面を極端にパワーアップしたようなもの。しかもドブスを演じる時の彼女はさすがに徹底的汚なづくりとまではいかないまでも、「シーズ・オール・ザット」のレイチェル・リー・クックみたいに単にメガネはずしたら美女…みたいな領域からは一歩も二歩も踏み出したもの。笑った時にはブヒブヒ鼻鳴らすあたり、「25年目のキス」のドリュー・バリモアといい勝負の捨て身演技ではある。分かってるんだよね彼女は。

 おまけに今回は彼女を取り巻くキャストの面々が何とも豪華。特に何をおいても美容コーディネーターのマイケル・ケインが傑作! つい先日、「クイルズ」で冷酷な精神科医を演じてた彼を見ていただけに、このオネエ言葉とシャナリシャナリ歩きの変貌ぶりには唖然とともに拍手喝采。しかもアチャラカ演技に徹していても、そこに漂う気品とプロフェショナルの威厳は素晴しい。終盤あたりではオイシイところ全部さらっちゃうあたりは、さすがに仕事選んでないようでキッチリ仕事してるケインらしい。長年ファンやっててよかったよホント、オスカーとったことより俺はうれしい(涙)。

 ミスコン主催側のキャンディス・バーゲンとウィリアム・シャトナーの何となく古ぼけた豪華さも哀しくも楽しい。キャンディスなんて昔はトップスターだったのにねぇ。女優受難の1970年代アメリカ映画じゃあ、スター女優っていうと彼女とフェイ・ダナウェイとジャクリーン・ビセットくらいしかいなかった(しかもみんな今じゃ消えていった)。そんなお久しぶりねの懐かしさと、無残に(と言ってはかわいそうだけど)老いさらばえた美貌と、往年のスターの落日の栄光をしょってなければ、彼女の今回の役柄のニュアンスは出まい。映画じゃご無沙汰だった彼女を誰が引っぱり出したかは知らないが、これは昔の彼女を知る者なら絶妙なキャスティングと言わざるを得ない。ウィリアム・シャトナーも、誰もが知ってる「スター・トレック」艦長だけど所詮はどう頑張ってみたって軽〜いテレビスター、しかも今じゃそれも過去の栄光で「ギャラクシー・クエスト」あたりでからかわれるのがオチというあたりが、わが国でミス・ユニバース大会の司会を長くやってた宝田明のポジションとキャラクター、ステータスにピタリ合致で泣けてくる(笑)。安ピカの哀しさって感じが分かってるキャスティングだねぇ。終盤、爆弾騒ぎで式典の進行がメチャクチャになっても、泣きそうになりながら必死にマイク握って歯が浮く美辞麗句並べたて続けるあたりのオカシサ哀しさ寒さがたまりましぇん(笑)。芸人だねぇ。

 ブロックの同僚役ベンジャミン・プラットって僕よく知らないんだけど、前半自信満々単純セクハラマッチョ男、後半ちょっとナイスガイって役どころは、彼にとってはオイシかったんじゃないか? これは得な役だよね。

 監督はドナルド・ピートリー…って、あまり見慣れない人かもしれないが、この人、若き日のジュリア・ロバーツやリリ・テイラーの出世作になった「ミスティック・ピザ」をつくった人なんだよね。この小品佳作、なかなか登場人物へのまなざしが優しくって、気取りがなくって好きだった。僕はひそかにこの人の新作待ってたよ。今回の大ホームランで報われた気がしたなぁ。

 でもね、今回の映画も最初見る前はちょっとイヤな予感もしてたんだね。ミスコンに格好構わない庶民派ブロック突っ込んでかき回したあげく、やっぱり人間は見かけじゃない心だなんて、どっかのタレントみたいなバカでも言えるような結論(笑)になりそうな気がした。そんな話ならわざわざお金かけて映画つくらなくていい。この映画が優れているのは、そんな事を言ってるんじゃないところだ。

 ヒロインはこの映画の中で磨かれてキレイになるわけじゃない。それくらいなら誰でも見る前から分かるだろう。では、隠されていた美点を引き出されるのか? それは正しいが言いたいことの半分くらいだけだ。問題は、美点はヒロインも気付かずに「隠されていた」のではなく、ヒロインが自分から「隠していた」ところにあるのだ。

 映画では子供時代の一エピソードが冒頭に出てくるが、その時に心に受けた傷が彼女から素直さを奪い取ってしまった。あるいはその後のヒロインの半生でも一貫して同じような思いをさせられ続けてきたのかもしれない。それは映画の冒頭でのロシアン・マフィアとの大立ち回りでもいくらか伺うことが出来る。自分の美点であるはずの優しい気持ち…それを素直に見せてあげても、ちゃんと受け止めてはくれない周囲の人間。むしろそれを出せば出すほど自分が割りをくう。ならば、そんな連中に素直な自分の美点を出してやることはない。そんな価値などない。どうせ愚鈍な他人どもには分かりはしないのだ。こんな奴らにはそのまんまそのガサツぶりを返してやる…。だからことさらにガサツで無神経に見えるヒロインの振る舞いは、そのまま彼女を取り巻いていた人間たちそのもの、鏡に写った愚劣な姿なんだね。

 しかし悲しいかな、それをどこまでも押し通していくうちに、そんな愚鈍さが自分のものとなってしまうのも人間なのだ。そして周囲もそれが彼女だと決めつけて嘲り笑う。バカにバカ扱いされたらどうだろう? しかし分かってくれるような頭もない愚かな他人に何も期待出来ないとなれば、こいつらを挑発するようにさらに愚鈍ぶりをエスカレートさせていくしかないだろう。そして、どこまでが本当の自分だか分からなくなっていく。愚鈍な自分にイヤ気がさす。結局、自分が嫌いになっていく。いつも何かに怒り、バカにして反発していた彼女の苛立ちは、そんなやり場のない怒りだったんじゃないか?

 だからこの映画で言いたいのは、キレイになれなんてことじゃない。自分の美点を磨けなんてことでもない。本当の素直な自分らしさを隠そうとする、空しい努力から自分を解放しろと言うことなのだ。

 それが証拠にこの映画では、変化はヒロインだけに訪れはしない。ベンジャミン・プラット演じる同僚のFBI捜査官は、セクハラマッチョでキレイキレイな美女が好き…と自分でも思っていたのに、それがだんだん変ってくる。引き金は確かにヒロインが意外に美女だったという驚きだったかもしれないが、いつしかヒロインに惹かれていくうちに自分の中に本来あった親切で思いやりのある紳士の部分に目覚めていく。マイケル・ケイン演じる美容コーディネーターですら、かつてはミスの女の子を精神的に追い詰めるくらい「つくられた美」を追求することがプロなのだと信じていたが、いつしか人が本来持っている魅力こそが美なのだと初心に返って思い至る。彼らだって、FBI捜査官なら学生時代から男社会の職場に至るまでにセクハラマッチョこそが男らしさなのだと思い知らされ続けただろうし、美容コーディネーターなら厳しいミスコンの競争の世界でとにかく「美で勝つ」ことこそ善なのだと頭に焼き付けられ続けたはずだ。人間はみんな誰でもいつしか自分以外の誰かにさせられてしまっている…いや、自分で自分以外の誰かになる道を選択してしまっているのだ。

 この映画が言いたいのはそこだ。自分を自分でなくしてるものを取り除け。自分でなくなった自分で、君は本当にいいのか…。

 映画の本当のラスト、事件も解決してミスコン会場を去ろうとしているサンドラ・ブロックたちが呼び止められて…というくだりは、だから一見娯楽映画の常道のオチと見えて、実はこの映画の訴えたかったことがすべて含まれる重要なシーンなんだよね。ホテルの大広間に呼ばれていった彼女は、そこで一緒に苦楽を共にしたロードアイランド代表ヘザー・バーンズをはじめとするミスたちに取り囲まれる。彼女たちは自分たちを和やかな気分にさせてくれた、そして最後に体を張って守ってくれたブロックに感謝の気持ちを込めて、「ミス・好感度」として表彰するんだよ。

 この時すでにブロックが美女の姿ではなく、最初の頃ほど汚くはないものの本来の飾り気のない姿に戻っているのは象徴的なことだ。むろんここで言うヒロインの美点は、そんな見た目のことじゃない。だが、彼女は明らかに変っていた。ミスたちの申し出をシラケずフテくされず、心から喜んで受けた。なぜなら、それは彼女がずっと昔から求めていたのに、望んでも手に入らないと諦めていたものだったから。それって…?

 会場から去っていく時、彼女は同僚のプラットをからかうように、ちょっぴり誇らしげにささやかながら自信を持って歌うのだった。「私をかわいいって思うでしょ? 付き合いたいって思うでしょ? 結婚したいって…」

 それは実は人に好かれる、認められる…ということでもない。自分を好きになるということだから。

 

 

 

 

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