「JSA」

  JSA - Joint Security Area

 (2001/06/11)


 

 

 

映画を見てから読むことをお勧めします

 

 

 

 

 

 

アナウンサー:さて、次は大リーグで活躍する新庄選手の話題です。ニューヨーク・メッツの新庄選手は日本時間の昨日、フロリダでのマーリンズ戦に6番先発出場。5回にレフト方向へのタイムリー・ツー・ベースを打ち、2日連続満塁で二塁打を放つ好調ぶりを見せました。新庄はこの日2安打2打点。打率も2割8分4厘に上げて好調ぶりをアピールしています。Fさん、新庄が好調みたいですね?

コメンテイター・F:そうですねぇ。まぁ野茂以来、日本のピッチャーは向こうで活躍出来るということが分かってましたから、例えば佐々木あたりが活躍することは想像つきましたし、野手でもイチロー・クラスなら通用するとは言われてましたけど…言っちゃあ悪いが新庄がここまでやるとはねぇ

アナ:メッツがバレンタイン監督ってことも幸いしてるんでしょうかね?

F:それもあるかもしれないけど、何しろあの勝負強さでしょう? スタメン落ちしそうになるたび何かやってくれる。アメリカ人受けしますよね。

アナ:これなら阪神時代に本気出して欲しかった(笑)?

F:いや。それは何があっても申しません(笑)。ノムさんが監督のうちは、やる気なくなしても仕方ないですよ。選手の悪口言ってるヒマに、てめえのブサイクな女房の不始末を何とかしろ…と(笑)。それはともかく、新庄はあれだけ精神面での弱さを指摘されていたのに、この大リーグへの適応ぶりがすごいですよね。

アナ:普通外国に行くだけ、やっていくだけでも大変だけど、そこでプレーして活躍しちゃうんですからね。

F:そうなんですよ。だが、彼はそれを全然苦にしているようには思えない。元来、新庄はこちらで「宇宙人」とか言われていましたけど、細かいどうでもいいことは気が回らないんでしょうね。

アナ:野村監督が言うようなことはどうでもいいこと(笑)?

F:ええ。こっちローカルでしか通用しない下らないこと(笑)。そのくせてめえの女房は…ま、いいや(笑)。でも新庄はそんな事やら国境なんか関係なく、何も屈託も邪心も疑いもなくやっている。行きたいから行く。元々細かいことは考えられない(笑)。ただ、それがなかなか普通は出来ないんですよね。

アナ:すでに物凄い収入が保証されていたのに、すごく安い年俸で向こうに行ったんでしょう?

F:実際のところ、何も考えてないんじゃないかとも思うんですが(笑)。でも、彼は楽天的というより信じてるのかもしれないですよ、自分も向こうの国も何もかも。そこに疑いが入る余地がない。むしろ、どこだって何も変らないじゃねえかってね。だいたい何が一番マズいかと言って、擬心暗鬼が一番マズいんです。自分を取り巻く環境もそうだし、他人に対してもそうだし、自分で自分が信じ切れなくなってダメになってしまうことが何より問題です。国境だカルチャーギャップだ歴史だ何だかんだと自分から壁をつくっちゃって自滅するのが何よりマズいんですよね。セコいローカル・ルールとか「ノムラの考え」とか(笑)、指揮官やら指導者への気がねとか下らんことヌキで、実はな〜んも考えないのが正解かもしれない。日本じゃあ「宇宙人」扱いだけど、地球人としてはあっちが正しいよね。なんでもかんでもひねくれて悪く考える野村とか森じゃ、21世紀はダメですよ(笑)。

アナ:新庄選手の活躍、今後もますます楽しみですね。スポーツは以上です。

アナ: では、ここで板門店で起きた銃撃事件の続報です。

この事件は韓国と北朝鮮の国境付近、共同警備区域「JSA」内にある通称「帰らざる橋」周辺で起きたものです。両国軍による銃撃戦の結果、北朝鮮軍兵士2人が死亡、1人が負傷、韓国軍兵士1人が負傷するという事態となり、雪解けムードになっていた両国関係は緊張状態へと一転しました。このため、スイス軍とスウェーデン軍から構成される中立国監督委員会ではただちに調査官を現地に派遣。真相究明のための捜査や両国関係者への事情聴取を始めることになりました…。

 

 それは雨のそぼ降る寒い晩に起きた。韓国・北朝鮮が国境をはさんで対峙する板門店、正式には共同警備区域(JSA)内にある、両国の国境をまたいで架かる橋「帰らざる橋」。その橋を見下ろすかたちで、それぞれ両岸に両国の歩哨所が建っている。

 そのうち北朝鮮側の歩哨所で一発の銃声が響いた。さらに何発も立て続けに響く銃声。やがて歩哨所の扉が開いて何者かが出てくる。足を痛めてびっこをひきながら出てくるのは、韓国軍兵長イ・ビョンホン。やがて両国軍の援軍がやってきて川をはさんだ派手な銃撃戦に発展。力尽きて橋の途中で倒れたイ・ビョンホンは、助けにきた友軍に引きずられるようにして連れて行かれた。最初に表面化した事件のあらましは、ざっとこんなところだった。

 そして、今またこの共同警備区域(JSA)に一人の訪問者がやってきた。スイスとスウェーデンによる中立国監督委員会が派遣したスイス軍女性将校…と言っても、顔だけ見ればまるっきり朝鮮半島の人そのものの彼女、その名をイ・ヨンエという。スイス人の母に韓国人の父を持ち、この国の言葉も話せる彼女は、その特異な来歴により中立国監督委員会に抜擢され、全権を委任されて捜査に当たることになった。だがそんな彼女、実は祖国の土を踏むのはこれが初めてなのだった。

 まず韓国側で事情聴取を行う。韓国軍のおエライさんは事の次第を自分たちに有利に運ぼうと、偏見に満ちたモノの見方をあれこれ押し付けてくる。だがイ・ヨンエ将校はそんなもの軽く一蹴して、すべて自分ペースで事を進めると宣言するんだね。捜査の責任者として大抜擢されたという気負いと、初めての母国にヨソモノとしてやって来た気後れ、男尊女卑の儒教思想が根強いこの国の、それでなくともマッチョ体質な軍人たちにナメられまいという覚悟…こうした諸々の思いからか、スイス軍将校イ・ヨンエは必要以上に突っ張り、カワイイ顔にも関わらずコワモテを通しているかのようでもあった。

 まず誰よりも事件の中心人物、イ・ビョンホン兵長に会わなければ。北朝鮮軍の懐に単身飛び込みながら敵兵を2人も殺して逃げ帰ってきた彼のことを、同僚や上司はさんざ英雄と褒めそやす。ある時など、ちょっといなくなったと思ったら地雷を見つけて信管をはずしてきたなどと事もなげに言ってたこともあると言う。まるでメッツ新庄=宇宙人伝説がごとき武勇伝中の人物。しかしそんな評判とは裏腹に、イ・ビョンホンその人はただただ放心状態でうつろな顔を見せていた。だけどこの放心しきったアヘ顔を見ると、こいつ本当にどことなくあの新庄に似ているではないか。いわゆる典型的ホスト顔とも言うが。

 女性将校イ・ヨンエは新庄ビョンホンのあまりの憔悴しきった顔に一抹の不安を感じながらも、調書に従って彼から事のてんまつを聞く。

 あの晩、新庄ビョンホンは外でケツ出してクソたれようと唸ってた。そこにどこからか賊が現われて、彼を殴って気絶させ、「帰らざる橋」を引きずっていって北朝鮮領内に連れ込んだ。この際、誰が彼にパンツをちゃんと履かせたのかとか、ちょっとはミが出ていなかったのかとか、紙で拭いたのかどうかなんてことを僕に聞かないで欲しい。

 新庄ビョンホンが気付くと北朝鮮側の歩哨所の中。北朝鮮兵士3人が談笑している。気絶したままのふりをしている新庄はコッソリ手を縛った縄をほどき、拳銃をとって撃ちまくった…。

 さて一方今度は北側の言い分を聞こうと、イ・ヨンエは病院で治療中の生き残り北朝鮮士官ソン・ガンホに話を聞きに行く。しかしこっちは放心状態ではないものの、事件の話になると何とも機嫌が悪くなる。それでも彼の言う事件のあらましはこうだ。

 あの晩、北朝鮮側の歩哨所で3人で談笑していると、いきなり扉が開いて新庄ビョンホンが入ってきた。手には拳銃。たちまち歩哨所は修羅場となって…。

 何だか納得出来ないな〜と女性将校イ・ヨンエは、奥歯にキムチ引っかかったみたいにスッキリしない。まず射殺された北の兵士の死体2人のうち、片方が衝動的に乱射されて撃たれているのに、もう片方がえらく冷静に処刑されたくさいのはどういうわけか? また、撃たれた北朝鮮兵士に残された弾痕の数と、撃った韓国兵新庄ビョンホンの拳銃に残された弾の数、さらに現場から発見された弾丸の数が微妙に合わない。これは一体なぜだ? さらに言えば、新庄ビョンホンのパンツを履かせたのは誰か、イチモツの大きさはどうかとドサクサにまぎれて聞きたいところだったが、さすがに軍人と言えどもレディのイ・ヨンエ、そこまで聞くのは遠慮した。

 仕方なくソウルにいる新庄ビョンホンの恋人に会って、彼の人となりを聞こうとするイ・ヨンエ。だが、この「恋人」は確かに新庄と付き合ってはいるものの、さほど彼のことが好きなわけではなかった。何でも新庄ビョンホンとは彼女の兄の紹介で知り合ったのだとか。彼女が言うその「兄」とは、何と新庄ビョンホンの同僚のキム・テウ一等兵。新庄とは同じ「帰らざる橋」の歩哨所で見張りをしている男ではないか。このキム・テウ一等兵、なんともクラ〜い男なのだが、面倒見がよくて文句なくアッケラカ〜ンと明るい新庄…ならぬイ・ビョンホンと知り合ったおかげで少しは明るくなったみたい。そりゃあどんな奴でも新庄と一緒にいりゃあ、イヤでも明るくならざるを得ないよな。妹の彼女はその恩返しで付き合ったげてるようなとこもあったみたいなのだ。女性将校イ・ヨンエが新庄ビョンホンについての証言を集める際には、そのクラさ目だたなさからついつい「その他大勢」扱いしてしまったネクラ男キム・テウ。だがどうもこの二人の親密さは、他の連中とは一線を画したものがあるようだ。

 そして盲点はもう一つあった。弾丸ばかりに気をとられていて気付かなかったが、調べてみると新庄ビョンホンが持っていた銃は彼のものではなかった。では誰の銃かというと、本当はキム・テウ一等兵のもの。またしてもネクラ男キム・テウ。これは何を意味するのか?

 そして、それでも現場から発見された弾丸の数が一個足らないのに変わりはない。この弾丸はどこに行ってしまったのか?

 北が南の兵士を拉致しようとして銃撃戦が起きた? 南の兵士がいきなり北に行って銃撃戦をおっ始めた? どちらにせよ誰かがウソをついている。いや、どっちもウソに決まってる

 どいつもこいつも歯がゆい証言しかしないことに業を煮やした女性将校のイ・ヨンエは、新庄ビョンホンに拳銃と弾丸について突っ込んだ質問を始めた。男の歯がゆい発言や頼りない行動には、女っててめえの日頃のあやふや発言を棚に上げてすぐにイラだつ。ちょっと待ってくれ男にだって都合ってものがあると言っても、女はそれを待ってくれない。ところがこのイ・ヨンエの功を焦った作戦が裏目に出た。彼女が新庄ビョンホンを尋問しているちょうどその時、同じ建物の上の階ではイ・ヨンエの部下のスイス軍兵士が、ネクラ男キム・テウの尋問を開始していた。だがこのスイス軍兵士、彼女の命を受けて拳銃の件を聞き出そうとしたのはいいが、まるで情け容赦なくやったからたまらない。大ボケ新庄なら大丈夫でも、ネクラ男にゃキツかった。キレたキム・テウは窓ガラスを割って下に飛び降り、地面に頭をしたたか打って血だらけだ。

 いくらどっちも人が建物から飛び降りる映画だからと言って、ここ「ミリオンダラー・ホテル」ならぬ板門店はだいぶイメージが違う。U2の曲なんか聞こえてくるどころか、新庄ビョンホンも女性士官のイ・ヨンエもこの予想外の成り行きにただただ気分はユウウツ〜(寒)

 怪我より何よりそんな寒いダジャレに思わずクラクラッと意識も遠のいて、頭から血をダラダラ流しながら昏睡状態のキム・テウは、その脳裏でゆっくりと元々の事のあらましを思い出しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは今回の事件に先立つこと数ヵ月前。ある晩のこと、一面のススキの原っぱの非武装地帯を偵察訓練中、韓国軍部隊が誤って国境を越えてしまって慌ててその場を立ち去るという出来事があった。その場にたった一人、新庄ビョンホンを残して…。

 この男、たまたま小便していて撤退命令を聞いていなかったという次第。何でこいつはいつもこうなんだと言いたいところだが、そこが新庄=宇宙人説たるゆえん。新庄ビョンホンはヤバいと焦ってみたものの、焦った時には良くない事が重なる。よりにもよって、地雷のスイッチを踏んじまったじゃないか。もう足を離せない。一度離したらドカンといく。国境越えて一人ぼっちってだけでもマズいこと極まりないのに、もう一歩だって動けなくなっちまったんだから、さすがの楽天野郎の新庄も表情暗くなる。

 そこにやってきたんだ、元気よくお散歩の犬と、それに引きずられるようにやって来た北朝鮮軍兵士の二人組が。

 そもそも立ち小便で隊から離れて一人ぼっちってところがマヌケなら、地雷踏んじゃって身動き出来ないってアリサマも滑稽この上なし。そこに犬連れてノコノコ現われた北朝鮮兵士ってシチュエーションも、考えてみれば相当アホらしい。考えてみればこの両者、他にもいろいろ出会う可能性はあり得ただろうに、よりによってこんな脱力状態で出会うことになったのが良かったのか悪かったのか。ともかく緊迫しなくちゃいけない場面のはずなのに、なぜかどことなくアホらしく笑っちゃう状況で会うことになったのが運命の分かれ道だった。

 新庄ビョンホンは「近づいたらスイッチを離すぞ」と脅すものの、それで北朝鮮兵二人が立ち去ろうとすると、「立ち去ったらスイッチを離すぞ」とまた脅す。 来られちゃ困るからスゴむんだけど、いなくなられて途方に暮れながらここに一人ぼっちというのはもっと困る。ついつい新庄、相手が憎っくき北朝鮮兵士だということも構ってられなくなって、情けなく泣きが入るんだね。

 対する北朝鮮兵士二人のほうも、しょうがねえなぁ…などと言ってやるうちに、コワモテに接しようというタイミングをスッカリ失していた。この情けない状況に思いっきり脱力したまま関わらざるを得なくなったわけ。そのうち二人のうち年上のほうの士官ソン・ガンホが、新庄ビョンホンの踏んだ地雷を何とかはずそうとしてやる。最初はそんなことヤバいからやめろなどと言っていた、若い方のヒョロっとした北朝鮮兵士シン・ハギュンも、情けない新庄ビョンホンのアリサマを笑っているうち、そんな兄貴肌ソン・ガンホを止めようともしなくなるんだよね。

 やっとこはずした地雷の信管を渡すと、腰が抜けちゃった新庄ビョンホンに別れを告げて、ソン・ガンホ&シン・ハギュンの二人は闇夜の中を消えていった…。それは夜の闇が見せた、単なる夢か幻か。いや、そうではなかった。

 冬のある日のこと、雪深い山中を行軍する韓国軍の一団が、反対側からやってくる北朝鮮軍の兵士たちと遭遇した。両軍兵士向かい合う中、それぞれの隊長が相手側に歩いていく。やがてお互い対峙した隊長たちは、タバコを交換し合ってうまそうに一服する。国境を隔てて敵対している両国軍とは言っても、他に邪魔されることもないこの人里離れた地域。そこではお互いツラい任務に就いている者どうしだけが分かる一種の連帯感で、このような短くはあっても温もりのある交流がささやかなりとも存在するのだろうか。その後方に控える韓国軍側兵士たちの中に新庄ビョンホンもいた。

 ところがよく見ると、先頭に出てきた北朝鮮軍の隊長は、あの自分を助けてくれたソン・ガンホ士官ではないか。そんなビョンホンに気付いたソン・ガンホは、早速後方のヒョロ助シン・ハギュンに目で合図した。笑いを噛み殺しながらも、三人の胸のうちに暖かいものが流れる。何となく、授業中にうるせえ先公の目を盗んでコソコソ何かの紙まわしてるような楽しい気分。あの奇蹟のような夜は、幻ではなかったのだ。

 昼間、韓国側の歩哨所から見ると、川を隔てた対岸の北朝鮮側の歩哨所には、あのソン・ガンホ&シン・ハギュンがいた。あいつらも俺のこと見ているゾ。何だか楽しそうだな〜。

 こうなると居ても立ってもいられなくなるのが新庄。手紙に重しを付けて橋の向こう岸にある北朝鮮の歩哨所目がけてブン投げる。元々、ピッチャーと野手との両刀使いを狙ったこともある新庄だ、肩には自信がある。「あんたを兄貴って呼んでいいかい?」なんて切々とした思いを綴った命の恩人ソン・ガンホに宛てた手紙は、豪速球のように向こう岸に飛んで行った。すると、何と向こうからも返事が返ってくるではないか。こうしてお互いの過去や近況(何と新庄ビョンホン、やっぱり昔野球をやってたと言うではないか!)、韓国の歌手のミュージックテープなどを、交互に放ってよこすやりとりが何度も何度も続いていったのだった。

 そこまでは、まだ日常レベルであってもおかしくはない出来事だった。

 だが、そこで終わらないところが新庄の新庄たる由縁。向こう側から来た何度目かの手紙を読んである決意を固めた彼は、ゆっくりと「帰らざる橋」を渡っていき、越えてはならない両国国境をも越えて行った。そして北朝鮮側歩哨所に近づくと、ゆっくり扉を開いた…。

 そりゃビックリするよね、北朝鮮側の二人ソン・ガンホ&シン・ハギュンとしては。

 特にソン・ガンホとしては何でこうなるのか分かってないので「何考えてるんだおめえ?」と唖然として言うしかない。実は一連の投げ文はヒョロ助シン・ハギュンがソン・ガンホ「兄貴」をかたって書いていたものだったんだね。そこで面白がってシン・ハギュンが、今度こっちへ遊びに来いよなんて面白半分で書いたら、何と新庄イ・ビョンホンはそれを本気にしちゃってやって来たというのが今回のあらまし。だからヒョロ助シン・ハギュンもビビるビビる。「おまえ、まさか本気にするとは…」

 でもねぇ、そりゃ違う。他の奴には通用する理屈も新庄には通用しない。こいつ国境なんて屁とも思ってやしない。向こう行ったらヤバいとか大リーグじゃ自分の実力が通用しないかも…とかまるで考えない。だからあまりにもビビってる北朝鮮側の二人を見て、「じゃ帰ろうか?」なんてこれまた気楽に言っちゃう。「僕、野球のセンスないから選手辞めます」なんてカル〜く言っちゃうのと同じ。それ聞いてヒョロ助シン・ハギュンはまたまた焦って、「せっかく来たのにそんなにすぐ帰るなんて言わなくても」と引き留めた。

 「離ればなれになって幾年月、民族分断の歴史を乗り越えて、ようこそおいで下さいました!」

 そうなりゃ話は早い。歩哨所の地下に篭って三人で酒盛りだ。銃の早撃ちは俺が一番早ええとか、アッチの早撃ちは俺のほうが早ええ(そんなの自慢にならねえよ)とか、好きな女の子の話とマクラ投げとか、まぁ中学校の修学旅行並み、あくまで新庄のオツムのレベルの話題で楽しく時が過ぎていく。まぁ北と南に分かれてはいても、そこはそれ男の子の考えそうなことは同じ様なもの。一緒に酒かっくらってバカ話エロ話してみれば、気だって合うし許せるんだよね。そして新庄ビョンホンは辺りを見回して、コッソリ橋を渡って南に帰っていった。

 こういうのってオナニーと同じで、一度覚えちゃったらまるで止まらない(笑)。毎晩毎晩マズイと思いつつイッちゃって目の下クマできちゃって真っ黒…じゃないけど(笑)、ついつい夜になると北朝鮮側の歩哨所に足が向く。韓国側歩哨所で一緒に過ごしてる同僚のネクラ男キム・テウは、いつも夜になると真っ先に居眠りこいてるから、新庄がコッソリ出かけるのは全然苦じゃない。でもさすがに毎晩だから、鈍くさキム・テウも何だか薄々気付いてるっぽいんだよね。

 そんな新庄ビョンホンも、生まれついての徹底的ネアカ=ポジティブ・シンキングにも関わらず、最近珍しくホンのわずかながら悩みがあった。今は俺がいるからいいけれど、あとふた月して俺が兵役終えていなくなった後、ネクラなキム・テウが一人でどうやって軍隊でやってくんだろう…。そんなこと考えるあたり生来の気のやさしさを伺わせる新庄ビョンホンではあるが、だからと言って普通こういう展開になるか?…と思いたくなることやらかすのもまた新庄らしさなんだね。友だちがいれば寂しくないはず…との明快なアッケラカ〜ン発想で、このネクラなキム・テウつかまえて国境越えに誘うわけ。それはビビりますよ普通。だけど新庄何とも思っちゃいない。屈託も邪心も何にもないから。ホラ、そんなクラい顔してないでさ。国境なんて越えるのは簡単さ。あっちに行ったらきっと楽しいぜ。なぁキム・テウ、とんもだっち何人でっきるっかなぁ〜ってさ(笑)

 結果的に友だちは二人出来た(笑)。それからと言うもの、夜な夜な楽しそうに遊んでる4人の姿があったとさ。そして語るほどに、ともに時を過ごすほどに、相手が好ましくも親しみの持てる奴らに思えてくる。時に外の原っぱに出て、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!(最近じゃ「ハード・デイズ・ナイト」って言うんだっけ?)」に出てくる若き日の4人みたいにドタバタ体動かしてみたり。童心に返って…というか返りすぎって感じもするが、まぁ中に新庄が一人入ればどうしたって精神年齢が一気に下がっちゃいそうだもんねぇ(笑)。そういえばビートルズの4人もあの映画の頃は、常に人気者ゆえの緊張状態を強いられていて、なおかつ自由がきかなかった。ここJSAで南北に分かれながら歩哨所に閉じ込められてる4人も、極度の緊張状態と不自由という点では共通するところあるのかなぁ。第三者的にはこいつら不用心だなと思いつつも、そんな切ない気持ち分からないでもない。

 ところがある晩のこと。突然呼びだしを受けて、他の連中と出動することになる新庄ビョンホン&キム・テウ。何やら北側で軍事的な動きがあったとかで、えらく緊張感ピリピリで出動だ。行ってみたらただ原っぱで火を燃やしてるだけで意味分からなかったものの、この緊張状態に改めて目が覚めた新庄ビョンホンは、さすがにキム・テウに「もうあっちに行くのよそうか」と言わずにはいられない。そういやヒョロ助シン・ハギュンの誕生日は間近だったな、新庄ビョンホンの除隊も近い、今度をラストにお別れ会をやろう。

 ってな感じである夜のこと、お菓子とか持ちよって思いのたけを語り尽くすお別れ会が始まった。      

 オナラとかウンコとかチ×コとかゲロとか(笑)、いつものように楽しくバカ話をダベってはいても、何とはなしに寂しさがつのる。それはみんな心のどこかで、これで終わりなんだと分かってるから。そんな時につい新庄ビョンホンが、みんなの胸のうちに常にあっても、誰も言わなかった一言をもらすんだね。

 「戦いになったら、俺たちもお互いに銃を向け合うんだろうか?」

 コトが起きた時、お互いを守れるような手だてがとれないだろうか?と、みんなで思案してみても、それはやっぱりどこか空しい。でも、俺たちに殺し合いなんてとっても出来っこないよ。だってこれほどお互いを知り、親しくなってしまったのだから。そんな事とてもじゃないけど、ありえないよな…。

 お互いの住所も交換した、シン・ハギュンに誕生日プレゼントをあげた。だけどそろそろ時間だ。至福の時は終わった。さぁ帰ろうとしたちょうどその時、新庄ビョンホンの目の前で扉がサッと開いた。

 そこにはソン・ガンホたちの上官に当たる、北朝鮮軍士官の驚愕した顔があった…。

 

 何といきなりキム・テウが自殺を企てるという事態の急展開ぶりに、捜査に当たる女性将校イ・ヨンエも困惑せざるを得ない。ついに一挙解決を狙って、生き残りの新庄ビョンホンと「兄貴」ソン・ガンホの二人を同じテーブルに着かせての取り調べをやろうと無茶な作戦に出た。お互いお見合いポジションとなって、複雑な表情の新庄ビョンホンと兄貴のガンホ。でもお見合いじゃないから「若いもんは若いもんどうしの方がよかろう」なんて女性将校イ・ヨンエが席をはずすわけにもいかない。こうなるとヤッパリ新庄のほうが精神的に弱くて、とたんにワ〜ワ〜泣き出した。ん、こりゃあ真相を吐いちゃうかな?

 すると突然ソン・ガンホが星一徹みたいにちゃぶ台ひっくり返して大暴れ。南の野郎ただじゃおかねえとかテメエこの野郎とかマンセ〜マンセ〜肉の万世〜とか、そういや秋葉原にある肉の万世本店の建物は「肉ビル」っていうの知ってたか〜(笑)とか、まぁわめく吠える荒れる。とたんに部屋ん中は一気に騒然。取り調べはその場でお開き。女性将校イ・ヨンエの起死回生の企てはすべて水泡と消えた。

 捜査中に自殺者は出る、両軍のおエライさんだろうと何だろうと言いたい放題ドヤしつける、にもかかわらず捜査は一向に進まない、正直言って真相なんてどうでもいいから南北双方とも穏便に済ませたがってるのに揉めさせてばかりいる…と、とにかくそんなこんなで周囲から不評さくさくの女性将校イ・ヨンエだが、ここへ来て泣きっツラにハチの事態が発生した。彼女が幼い頃生き別れた父親が、実は北朝鮮に渡っていた…という衝撃的な事実が発覚したのだ。これによって彼女の中立性、公正性は揺らいでしまった。彼女は今回の捜査の責任者を解任され、ほどなくこの地を離れることになってしまったのだ。

 しかし、ならばもう事の決着うんぬん関係なしで事件の真相を知りたい。どうせ失うものも何もない。人生のダークサイドとして自分でもまったく触れず、忘れた気になっていた父の正体が、その父の国ここ韓国ではからずも明らかになってしまった今…キレイごとやら何も無かったふりなど、したってまるで意味がない。こうなれば自分の功績も事の決着もヌキで、真実だけが知りたい。新庄ビョンホンを呼び出した女性将校イ・ヨンエは、手持ちのカードを全部出してブッちゃけたところを腹を割って打ち明けた。

 今のところ分かっている捜査資料だけでも、生き残った新庄ビョンホンとソン・ガンホは厳罰くらうのは避けられない。こうなったらこんな資料は捨てちゃって二人ともかばってあげるから、自分にだけは真相を話してくれない

 そこまで腹を割ってこの場に臨む彼女の覚悟に、新庄ビョンホンもようやく重い口を開き始めた。

 あの寒い雨の夜のこと。北朝鮮側歩哨所の扉が開いて、北朝鮮軍士官の驚愕した顔が覗く…。この士官も新庄ビョンホンも、ほぼ反射的な素早さでお互いに拳銃を構えたんだね。

 まさに一触即発。予想外の事態に唖然とするソン・ガンホ、シン・ハギュン、キム・テウの面々。歩哨所内の雰囲気は一気に凍り付いた。そして事はその場の誰もが望んでいない、最悪の展開を見せたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは絶対映画の後で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この映画、昨年日本で大ヒットして、韓国映画を一気にメジャーなものにしてしまった「シュリ」の記録を本国で塗り替えた作品として、だいぶ前から話題になってたんだね。よく出来たサスペンス映画としても、ドラマとしても実に面白い。そこにはこの国特有のシリアスな事情があるからやっぱり重みが違うなんてことは、映画見る前からどんなバカだって言えること。ただ、この映画の真価はそういう事情を心底理解しているわけでない日本人には到底分からない…だなんて、にわか南北問題専門家みたいに知ったふうなゴタクは聞きたくないな。

 板門店の巨大でリアルなセットを建造しての堂々たる撮影やら、観客の興味をずっと引き続けることに成功しているミステリアスな脚本やら、サスペンス映画として押さえるべきところはキチンと押さえた正攻法の演出やら、良く出来た面白い映画特有の美点をキッチリ備えてし損じなしだ。

 出演者の中では北朝鮮士官のソン・ガンホだけが顔見知り。「シュリ」の時と同様、男の武骨さと人間味を見せる俳優で、この人物の兄貴肌なところや人情に厚いあたりがハマってる。面白いのはこの人物、かなりの軍歴を持っていながら人の良さが災いしてか割をくっている男と描かれていることで、そのあたりが伏線とまではいかないが終盤のミソとなってくるわけだ。ほかにも韓国軍兵長のイ・ビョンホンやスイス軍女性将校のイ・ヨンエなど、なかなかいいツラがまえの役者が揃っていて見せる。余談だが、この感想文中でも書いている通りイ・ビョンホンは瞬間的にはかなりメッツの新庄に似ており、キャラ的にもカブるところ大(お話のはじめの頃はな〜んも深刻に考えてないところ)なので日本人なら二倍この映画が楽しめるよ、阪神ファンなら三倍(笑)。

 それまで比較的小ぢんまりしたマイナー映画のつくり手だったというパク・チャヌク監督については、以前の作品を見ていないから多くを語れないが、初のエンターテインメント大作を扱うにあたってまったく気後れがないようだ。

 なに?これがエンターテインメント大作?…と、この文章を読んでて「新庄」が出てきた時点ですでに苦々しく思っていらっしゃるマジメな映画ファンのみなさんの中には、より一層眉をひそめる向きもいらっしゃるかもしれない。もちろんこの映画は「シュリ」がその物語の背景に南北分断を置いたこと以上に、その問題をより一層前面に押し立ててつくられたものだ。実際つくり手も批評する方も、二言めには娯楽映画の「シュリ」と違ってこっちはもっとシリアスだと強調する。だが、それだからと言って即「これは社会派ドラマ」だなんてクソ面白くもないアホな色分けは、おやめになっていただきたい。まず作品の成りたちから見て、この国で史上空前の制作費を投入してつくられた事実一つとっても、この作品が大量の観客動員と巨額の興行収入を期待したエンターテインメント大作であることは明らかだ。例えは悪いがプロデューサー側からの考え方とすれば、作品の出来や志やレベルは大いに違っても「アルマゲドン」とかと出発点は大して変りはない。まぁ「パール・ハーバー」…と言いたいところだけど、あれはまだ僕は未見だし日本人の我々が語るとまた別のニュアンスが出てきちゃうので、ここでは触れないことにする。ともかく真摯な狙いでつくられた作品ではあるが、あまり見る前から有難がって神棚に上げるようなマネはしないほうがいい。大上段から振りかぶったようなテーマを振りかざして、妙にリキみかえって見るのもやめたほうがいい。第一そんな事をしたら、この映画の一番味わい深いところを見逃してしまうよ。

 そりゃ確かにこういった点が分かればもっと見方が変ってくるかも…といったところがないわけではない。先に挙げた南北分断のことだけでなく、例えば劇中流れる韓国のシンガーソングライター、キム・グァンソクの歌とかね。この人の歌は、イ・ビョンホンが北朝鮮の歩哨所に持って行ったテープに録音されていたものとして、BGMとしても流れている。その他にもヤマ場の銃撃戦のシーンとエンディング・クレジットに延々と使われていて、ほとんど主題歌的な扱いなんだね。どうも単なるBGM以上の意味があるらしい。何でもこのキム・グァンソク、その絶頂記に自殺してしまったとかで、向こうの人にとってはかなりインパクトのある存在とか。映画の中には北朝鮮士官のソン・ガンホが「グァンソク、なんで自殺しちゃったんだよ〜」と言う台詞もあるくらいで、つくり手や受け手である韓国の人々には何がしかの思い入れがあるアーティストらしいのだ。

 そう言えば以前、香港映画「ラヴソング」を見た時、ここぞというところでテレサ・テンの歌が使われ、ドラマ上でもテレサ・テンの死がまるでジョン・レノンの死のように衝撃的な出来事として描かれているのに驚かされたっけ。この映画、原題からしてテレサ・テンの歌のタイトルをいただいたものだもんね。たぶん中国語圏の人々にとっては、テレサ・テンってジョン・レノン級のインパクトがある存在だったのだろう。

 今回の「JSA」では、日本で言うと尾崎豊あたりが引き合いに出されるんだろうけど、正直言って尾崎豊には何のシンパシーも持たない僕なんかでは、イマイチ何ともピンと来ない例えなんだね。それにどうも韓国のかつての民主化への険しい道のりもいろいろとダブっているみたいで、実際のところこのキム・グァンソクってアーティストが担ってきたものの重みに尾崎豊あたり持ってきたところで、たぶんかなりの役不足なんじゃないか。

 そんなこんなで、確かに我々には分かり得ない点も少なくないこの「JSA」。 だが前述のようによく出来た娯楽サスペンス映画として純粋に楽しめるし、実はそれにとどまらない部分だって、本当は僕ら日本人にも十分味わえるはずだ。いや、何もこれから南北問題について勉強しろなんてことは言わない。もちろん我々の国が過去にこの国でやってきたことが、そもそもの発端になっているということは言うまでもない。だからここで改めてのお勉強をすることは別に悪くはないだろうが、暴言と分かった上であえて言わせてもらえば、そんな事しなくたってこの映画の良さは分かるはず。だいたい国際政治評論家じゃあるまいし、テレビCMでニューヨークのウォール街やらアンコールワットの遺跡くんだりまで乗り込んで、偉そうにフンぞり返ってビール飲んでた落合ナニガシみたいにならなきゃ面白くない映画なんか、誰も見たくねえよな(笑)。

 実は先ほどこの映画のことで、「脚本がミステリアスで観客の興味をずっと引き続けることに成功している」と書いたけれど、実際のところ厳密な意味でのナゾ解きとしては、物語の中盤でナゾのほとんどの部分を自分から明らかにしているんだね。だから良質のサスペンス映画でありながら、本当に言いたいことはその先にある

 それは北朝鮮の歩哨所での、主人公たちの修学旅行の男子部屋みたいなバカバカしくも童心にあふれた他愛もないやりとりにすべて現われてる。元々同一民族だということもあるが、彼らは実際会って語り合ってみるうち、お互いがとても近しく親しみの持てる相手だと感じられてくる。そうなると、とてもそんな相手とやり合うなんてありえない…とその時は思うんだね。

 人間同士が親しくなった時、自分たちが何かで激しいいさかいを演じることになるなんて、とても想像が出来ない。そして相手に親しみを感じた時には、相手を思いやる気持ちも出来るし信じようと思う。普段は閉ざしてる心の扉を大っぴらに開けて見せようという気になる。自分のごくプライベートなことや秘密だって見せようとするだろうし、弱みも見せるだろう。相手が落ち込んでいる時には慰めもしよう。誕生日が来たらプレゼントをあげよう祝ってやろう。何より自分の相手への好意をかたちで見せよう言葉で聞かせよう。それが本当に親しい人間同士のしるしなのだから。

 でも、事態はいとも簡単に変る。さっきまでの信頼出来る好ましい相手は、得体の知れない信用できない他者へと姿を変える。普段は僕らもあまり自覚していないけれど、人と人の関わりって実はとっても不確かであいまいな、空気みたいなものだ…だからこそ尊く得難いものなのかもしれないのだが。とにかくそれが他人というものなのだ、そこに境界線があろうとなかろうと

 そして、それまで信じていたものが全く信じられなくなった時、気を許してしまったそのみじめさ悔しさ恥ずかしさ、自らの弱さから何からさらけ出してしまった焦りや恐れから、人は自分を守るという名目で相手を叩きつぶそうとする。僕らだって相手に向けて冷たい言葉の弾丸を発射することに、何らためらいを持たないだろう

 そんな時、以前は自分たちの間にどんな感情が流れていたのか、人は往々にして忘れてる。お互いがうまくいっている時にはそれの存在を確信出来るのに、目がくらんで見えなくなってしまった時には、さっきまでそこにそれがあったなんて誰にも信じられない。そしてその代わり、お互いを隔てるものだけがクッキリと見える。疑いだけが見えている。なぜなら実はそんな時、人はそれだけを見たいと望んでいるから

 親しさも信頼も、そして愛情も、実はそれを示すものはどこにも存在していない。それを見ることだって本当は出来ない。誰かと親密である時には、それを見たいと望んでいるから目に見える。信じるということだけしか、人には出来ないのだ。

 逆に言えば自分たちを隔てる忌まわしい何かも、本当は目で見ることの出来ないもの…実態なんてない人間の頭が作り出したに過ぎないものなのだ。その時に人が何を見ようとしているのか、何が見たいのか…そこに違いがあるだけだ。

 どんな時も、ハッキリと確信出来ることはたった一つ。それはその場に自分たちが「いた」ということ、あるいは今でも「いる」ということだけだ。

 そして思いだして欲しい。我々にはこの映画の主人公たちを決定的に隔てたあの境界線はない…という幸運を

 

 この映画のラストのラスト、取り返しのつかないようなこの悲劇を締めくくる最終カットは、まさに見ていて鳥肌が立つような瞬間だ。しかし、そこには別に何もビックリするようなものが写るわけではない。そこに写し出されるのは、ある象徴的な一枚の写真だけだ。

 実はこれに先立つ映画の中盤あたりで、まだ主人公4人がそれぞれ仲良くやっていたころの板門店のある日をスケッチしたような場面が出てくる。韓国側の板門店ツアーの観光客が大挙してやってきた時、たまたま強風が吹いて客の一人の帽子が吹き飛ばされ、国境の向こう側北朝鮮領内に落ちてしまった。帽子を拾った北朝鮮士官は、その場にいたアメリカ軍兵士にそれを手渡す。その一部始終を別の観光客がカメラでパチパチと撮影し、居合わせた韓国軍兵士に制止される…。ただそれだけの描写だ。

 その写真。

 そこにはこの事件の主役たち…韓国側の二人、そして北朝鮮側の二人が、たまたま偶然顔を揃えて写っていた。一人は帽子を拾った北朝鮮兵として、一人はその後方で行進する北朝鮮兵として、一人は国境線そばで警備する韓国兵として、一人はカメラ撮影を制止する韓国兵として…。とても全員揃っての記念写真など残すべくもなかった彼らにとって、皮肉にも一堂に会して写したかたちの唯一の写真。そこには確かにあの楽しげで和やかな雰囲気はないけれど、忌まわしい境界線が彼らを隔てているようにもとても見えはしない。そこに写っているのは、彼らが確かに「一緒にそこにいる」という事実だけだ。そう、誰が何と言っても彼らはその時一緒にそこにいた。

 

 人と人との関わりがうまくいかなくなった時、それでも相手を信じろと言うのは難しい。しかし、疑いたくなる気持ちを一時だけでも抑えることなら、何とか出来るかもしれない。そこに確実に存在するものだけに目を向けることなら、たぶん出来るだろう。だから目がくらんだ時、道に迷った時、僕らはまた元からあったその地点=Joint Security Areaに立ち戻り、そこからやり直してみることだって出来るんじゃないか?

 自分と相手がここで向き合っているという、ただそれだけのところから。

 

 

 

 

 to : Review 2001

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME