「アタック・ナンバーハーフ」

  Satree-Lex (The Iron Ladies)

 (2001/05/14)


 皆様、長らくお待たせいたしました。

 これより予告篇に引き続き、タイ映画「アタック・ナンバーハーフ」を上映いたします。どうぞ、最後までごゆっくりご鑑賞くださいませ。なお、携帯電話等の電源はお切りくださいますよう、お願いいたします。

 

「タイタンズを忘れない」<予告篇>

 タッチストーン・ピクチャーズのロゴ・フッテージ。

 アメリカがひとつになろうとしていた1971年、バージニア州アレキサンドリアの町で、ひと握りの若者たちの絆が、歴史を動かした…。

 この保守的な南部の町で、白人の高校と黒人の高校の統合に伴い、フットボールチーム「タイタンズ」も統合されることになった。

 率いるのは、教育委員会から送り込まれてきた黒人の鬼コーチ、デンゼル・ワシントン。それを迎える白人コーチのウィル・パットンや、白人チームの若者たちは面白くない。そんなこんなで、統合された学校の内外で、黒人たち・白人たちの緊張は頂点に達していた。

 当然、うまくいかない「タイタンズ」の黒人選手、白人選手たちの連携プレイ。合宿では何かというとイザコザが起こり、ケンカになった。

 ある日の練習の終わり、白人選手のリーダー格の若者が、黒人選手のリーダー格の若者をつかまえて詰め寄った。「おい、おまえらちゃんとチームプレイをやれよ!」

 すると黒人リーダーは吐き捨てるように言った。「これがチームと言えんのかよ?」

 鬼コーチのワシントンは、 そんな選手たちをシゴキにシゴいた末にこうつぶやく。「どこまで憎みあえば気が済むのか。お互いに敬意を持てば、我々は分かり合えるはずだ」

 そんな時、マーヴィン・ゲイ&タミー・タレルのヒット曲「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」がどこからともなく流れてくる。すると…。

 「全米No. 1大ヒット!」

 ロッカールームの黒人選手たちが曲に合わせて楽しげにリズムをとりだす。それを見ていた白人選手たちもだんだんノってきた。そしてなんと、黒人白人みんな合わせて一緒にノリノリで踊り出すではないか。

 それにつられたか、選手たちのプレイも絶妙に噛み合いだす。当然、チームも連勝街道まっしぐら。そのうち彼らを見ていた町の連中のムードも変わってきて、いい感じになってきた。何と、チームは全国大会決勝へ!

 しかし好事魔多し。その前夜のこと、例の白人選手たちのリーダー格の乗った車が交通事故に…。

 あわてて病院に駆けつけた黒人選手のリーダー格の若者。そこにはすでにチームメイトたちが沈痛な面持ちで待っていた。

 そんな白人リーダーの病室に招かれる黒人リーダー。痛々しくベッドに横たわる白人リーダーはつぶやく。「最初は君らのこと嫌っていたんだ」

 すると黒人リーダーの若者、泣かせることを言うじゃないか。「いつか一緒の町で暮らして、一緒に歳をとって、一緒にデブになろう…」

 さぁ、ついに迎えた決勝の日。ロッカールームで鬼コーチのワシントンは感極まるみんなに言った。「俺たちはいがみ合ってた。だからこそ俺たちは強い。誰にも俺たちの絆をジャマさせるな!」

 いや〜、何とも出来すぎな話とシラケちゃいそう。だがこの映画の監督ボアズ・イェーキンの演出は、悪く言えば凡庸でキレも鋭さもないが、良く言えばケレンがなく実直でナチュラル。まるでふた昔くらい前の映画みたいで、ちょっとヤボくさいくらい。いろいろ仕掛けをつくりこまずにひたすら地味で控えめ。だからこんな展開にもイヤミはなくて、見る側も何とか受け入れられるんだね。それに何より、次のこの一言が効いている。

 「この物語は実話であり、登場人物たちは今もこの時の思いを胸に活躍している」

 これじゃあ文句は言えまい。実話なんだから。そう考えればこのメッセージも素直に心に入ってくるはず。

 「お互いに敬意を持てば、我々は分かり合えるはずだ」

…ただ、どの程度まで実話なのかねぇ?

 「アルマゲドン」のジェリー・ブラッカイマー制作、「タイタンズを忘れない」。全国洋画系でロードショー絶賛上映中。ただし、当ネット映画館では上映いたしませんので、上映館をお確かめの上お出かけください。ただいま、新星キップ・パルデュー・ファンクラブ募集中(笑)!

 

「アタック・ナンバーハーフ」

 ここはタイ北部ランパーン県。おりしも、あるバレーボールチームでレギュラーの選考が行われているところ。選ばれたメンバーは監督に呼び出されて喜々としているのだが、それを黙って聞いている選手の一人、長髪のモンは何だか妙に苦々しい顔。結局、呼ばれた選手の中にモンの名はなかった。引きつった顔のモンは監督のそばににじり寄り、今にも怒りを爆発させんばかりの形相でにらみつける。

 「監督、僕がゲイだから選ばれなかったんですか?」

 そう、モンの長髪は女装のため。彼はいわゆる「オカマ」の一人だったのだ。(なお、これ差別語だったら失礼。でも、ここでつっかえると先に進まないからこのまま行くよ。)

 一方、街中の雑踏で大声でわめき散らしながら、屋台で商売しているオカマがまた一人。その名はジュン。そこに通りかかったのが例のモン。二人は旧知の仲だった。マジで受け止めすぎですぐにキレるモンとあくまで陽気で騒々しいが口の悪さが災いするジュンは、えっちらおっちら街中を歩く。バレーボールチームのレギュラー選考の不公平をボヤくモンの気持ちはジュンにもよく分かる。彼いや彼女もかつてバレーボールの覚えがあったのだ。

 その頃、このランパーン県のバレーボール代表チームでも、ちょいとした異変が起きていた。このチーム、エース選手が何ともゴーマンかつマッチョかつムカつく太い眉毛の男で、この男がすべて仕切って監督も口が出せないほど。選手の中でもマジメなチャイはどうもこのギトギト男とソリが合わず、何だかんだとイビられ出る幕なしで耐える日々だった。ところがある日、県の意向で監督が交代となる。固唾を飲んで待つ選手たちの前に現われた監督は何と女だった。おまけにどうやら俗に言う「オナベ」…男役の女らしく、太眉のエース選手はハナっからこの監督をバカにしてかかる増長ぶりだ。一見してこのままではこのチームはダメと見てとった監督は、チームメンバーを一旦白紙に戻して人選すると宣言。冷笑する太眉男を横目で見ながら、メンバー募集の告知を出した。

 さて一方、先ほどのジュンとモンの二人、都会で就職するため列車で旅立ちと相成ったのだが、駅でたまたま貼紙を見たのが運の尽き。それが他ならぬ、バレーボール県代表チームのメンバー募集の告知だったのだ。すったもんだしたあげく、とにかくテストだけは受けようと言うジュンに、モンもしぶしぶオーケーするのであった。

 さて集まってきたジュン&モンをはじめとする応募組に、元々のチームメンバーを混ぜての紅白戦が始まった。バックに流れるのは“あの”タータンチェックがまぶしいイカしたアイドルグループ(笑)、ベイ・シティ・ローラーズの懐かしの大ヒット曲「サタデイ・ナイト」のどこか珍妙なタイ語バージョン。この何とも脱力もののヒット曲のバッタもんに乗って、例の太眉ゴーマン男率いるチームとジュン&モン率いるチームの対戦が展開するわけ。例の冷飯食わされてたチャイも、ジュン&モン・チームに回った。たかがオカマ率いるチームとバカにしてた太眉。ジュンなんかクネクネナヨナヨしっぱなしだしね。ところが、実はこいつらなかなかうまい。結局ジュン&モン・チームの勝ちで、負けた太眉のプライドはズタズタ。あげく改めて選抜されたレギュラーメンバーにジュンとモンが選ばれると、太眉はやってられるかとチームを抜けた。他の連中もそれに同調して次々やめた。結局残ったのはジュン&モンと冷飯食いだったチャイだけ。これじゃあチームにならない。でも監督はちっともアセッちゃいなかった。

 「誰かバレーボールやれるやつ知らないか?」

 こうしてジュン&モンの昔の仲間が集まってきた。軍隊にいる水牛のようにたくましいノン、まるっきり本物の女と見間違うほどの美女で今はショーガールのピア、他にも隠れゲイで親から縁談を進められて困惑してる奴とか、何だか変な三つ子のオカマ兄弟とか。それもピーチクパーチク、ヘラヘラチャラチャラしっぱなし。試合中だって化粧のこと気にしながらってていたらく。こんなんでチームになるのかよ。ハッキリ言ってただ一人のストレート=チャイは複雑な気分にかられっぱなし。残るんじゃなかったよ、トホホ。

 ところがこれが強かった。なぜだか県大会を勝ち進んだ。性別を乗り越えた何ともユニークなクロスオーバー・チームに、マスコミも一般の人々も盛り上がった。人気実力ともに急上昇。自らを「サトリーレック(アイアン・レディーズ)」と称する彼ら、いや彼女らはついに地区代表にまで上りつめ、いよいよタイの国体に出場権を得るまでに至った。

 しかし事ここに至って、ただ万々歳とも言えない事情もいろいろ出てきたんだね。何だかチャラチャラやってるようなオカマ選手たちに真面目一辺倒のチャイは不満爆発寸前。ピアは付き合ってた男に別れ話を切り出されて精神不安定に陥る。縁談進められてた隠れゲイの選手は、ついに素性が親にバレる。そして、こんな連中が国の代表として勝つのは許せないと立ちはだかる、タイのスポーツ界の実力者。

 果たして彼らはこれらの難問を潜り抜け、チームとして一糸乱れず、最後の勝利まで戦い抜けるのか!?

 

 

 一見して面白そうでしょう? すぐに想起したのが「クール・ランニング」とか「フル・モンティ」。コミカルで痛快でラスト感動という、お約束のパターン。で、実際に物語はそれ通りに展開する。大いに笑いをとりながら、ハンパもんと軽視されてた連中がリスペクトを受けるに値する存在になる過程を描いた、いかにも僕好みの映画。コメディのコロモをたっぷり着せた感動作だ。今回は、何と実話がモデルとか。だからすっごく期待したんだよね。

 ところがね、何か違うんだよ

 思った通りの展開をしてるのに、なぜか笑えないの。それは「サトリーレック」のオカマ選手たちの言動の一つひとつがコミカルで、確かに笑いどころとしてつくられているように見えるのに、あまり笑えないからなんだね。ちょっとギャグが泥くさいのかベタすぎるのか笑えない。これをギャグとすると、どれもこれもちょっとありきたり過ぎる。それに大袈裟だしわざとらしいし。コメディだったらもっと無理なく見せるための仕掛けがいる。 まぁ実話って言ったって、こりゃ〜かなり「つくり」が入ってるくさいしね。だったら笑わせるための工夫をうまくやってもらわないと。そういう仕掛けにも何だか乏しいんだよな。

 そのくせオカマ選手が全面に出てこない場面などは、結構真面目につくって自然な演出で、決してヘタクソで不器用な監督の作品だとは言えないんだよ。だから、こりゃダメ映画の一言で切り捨てられない感じなのだ。それともこの監督、真面目に実直に自然につくるのはうまいが、コメディやギャグは苦手なんだろうか?

 確かに一つ明らかに致命傷と言える欠陥は指摘出来る。それは選手として登場する俳優たちがバレーボール・プレイヤーとしては素人なので、ゲームシーンをあまりマトモに描けなかったらしい点だ。仮にも一応スポーツ映画の体裁をとっているにも関わらず、この映画には真正面からプレイの面白さや迫力で見せる見せ場に乏しい。だから、観客の興奮がどうしても不完全燃焼になってしまうきらいがあるんだね。

 この映画の監督ヨンユット・トンコントーンは、このハンディを知りつくし熟考した上で、大半のゲーム場面に真正面からプレイをとらえないで済むような工夫を施した。例えば国体出場までの「サトリーレック」の大活躍を、すべてテレビのスポーツニュースのビデオクリップとして処理してしまっている。そのおかげで、スポーツ映画なのにスポーツが前面に描かれていないという作品的な致命傷も、最低限で抑えられているんだね。しかもリアルなスポーツニュースのフッテージとしてちゃんとビデオ収録して本物っぽくつくってるからチャチさが出ない。このへん、むしろある種のセンスを感じさせるよね。決してガサツで不器用なやっつけ監督の仕事ではないはずなんだよ。

 じゃあ何であんなにもオカマ選手たちの言動を描いている時の手つきは、コメディ音痴というか工夫不足に見えてしまうんだろう? その訳は、映画が終わってエンディングクレジットがローリングし始めた、最後の最後まで見てようやく分かったよ。

 そこには映画のオマケとして、この映画のモデルとなったホンモノの「サトリーレック」の面々のビデオ・ドキュメント映像が、試合の実況やらワイドショーに出演した時に収録したものやら次々出てくるわけ。実は僕はこれを見て唖然としたんだよ。

 だって、そこに写っていた「実物」たちの姿って、映画に出てくるキャラクターとしての彼らと寸分違わないんだ。試合中だろうが何だろうが、チャラチャラクネクネナヨナヨヘラヘラしてばっか(笑)。映画がわざとらしく笑いをとろうとしてるとばかり思ってたら、元々実物がそんな人たちだったんだよ!

 この国のいわゆる「オカマ」の人々の振る舞い方ってどんなものか僕はよくは知らないんだけど、こういうたぐいの人々が日常で目に触れる度合はわが国の比じゃないらしい。だから、向こうの国の人にはオカマの人々の振る舞いや言動ってきっとごくありふれたもの、よく見知ったものなんだね。そして、わが国のこの手の人たちともだいぶ違うみたいだ。そこを僕も見落としていた。

 タイの人々はあれを見ても、少しもオカシイとかわざとらしいなんて思わないんじゃないか。事実あれ通りなんだったら(笑)。元々タイのオカマの人たちの普通の言動が、僕らの目にはわざとらしく映るたぐいのものだったんだよ。

 だからこの映画の監督トンコントーンは、決してあざとく笑いをとろうなんて思っちゃいなかったんだ。だってオカマ選手が出てくる以外のシーンでは、自然でさりげない演出ぶりじゃあなかったか? 僕が気付かなかっただけなんだ。この監督の演出方法は、実はオカマ選手の場面も他の場面も何ら変りはしなかった。ただただリアルに自然に撮ってただけなんだ。コメディじゃなかった(笑)。結果的に笑いをとることはあっても、普通のリアルなドラマを撮ってるのと全く姿勢は変らなかったんだ。それも実話ならではの自然で控えめな手つきでね。

 と、いうことは?

 僕はこの映画を試写会で見たんだけど、一緒に見に行った若い人が、その時に実にうまいこと言ったんだ。そうだ、そうだよ。自然で真面目で控えめなタッチの実話の映画化って…この映画「アタック・ナンバーハーフ」は、「クール・ランニング」でも「フル・モンティ」でもない。そんなギャグで笑いをとることを前提にした作品じゃない。真面目も大マジメ。要はタイのバレーボール版の「タイタンズを忘れない」だったんだ。そういやいろいろ似てる。まさに言い得て妙。だからこの「アタック・ナンバーハーフ」のキメの言葉も、本当はこうでなくちゃいけないよね。

 「この物語は実話であり、登場人物たちは今もこの時の思いを胸に活躍している(笑)」

 

 

 

 

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