「ハイ・フィデリティ」

  High Fidelity

 (2001/03/26)


ハイ・フィデリティ=本心に忠実?

 ミジメだから映画を見るのか? 映画を見るからミジメなのか?

 ハイ、僕は映画館主・F(ジョン・キューザック)。映画館主ったって、本当に映画館経営してるわけじゃない。いつもみんなに誤解されるんで困ってるんだけど、そこんとこはちゃんとホームページの玄関に「ネット映画館」って書いてあるよ

 そう。僕はここ何年か、ホームページを開いている。ご想像の通り、映画の個人サイトだ。ホームページっていうと掲示板がつきものだけど、僕のところには置いてない。そこが「映画館主」のこだわりのつもりなんだが、みんな分かってくれてるだろうか?

 僕のサイトでは大体月イチで特集を実施し、いろいろなネット上の映画ファンに登場してもらったりもするが、初めの頃にはたま〜に登場してもらっていたあむじん氏(ジャック・ブラック)には、ずいぶん居着いてもらうことになっちゃった。

 まぁ、「マニアでもミーハーでもない映画ファンのサイト」なんて看板掲げて、偉そうなこと言っちゃってるけど。 中には「ホントは映画ファンのことバカにしてるんでしょ?」なんて言ってくる人までいて、ドキッとしちゃうけどね。

 そんな僕のサイトを読んでくれてる人ならご存じだろうと思うけど、映画感想文には僕のプライバシーに触れた内容のものも少なくない。このあたりの是否については人によってかなり意見が割れるところだろうが、僕にとっては「その映画をどう感じたか」ということが、自分の個人的感情とか過去の経験と深く結び付いているような気がするんだ。そういったものと結び付かない感想ってどこか本物じゃない気がする。だって映画に感動するって、とっても個人的なことだろう?

 だから恋愛映画を見れば、自分の個人的恋愛体験が蘇ってくるよ。そうやっていくうち、付き合った女たちのなかには、「自分のことを書くな!」と怒って言ってくる人もいる。まぁ一方的に書かれれば反論も出来ないし僕の勝手な思い込みもあるし、それに正直言えば無意識にどこか美化したり、都合よく脚色してるところだってあるだろうしね。気持ちは分かるし一理ある。でも、それなしに書く感想文なんて意味ない気がしてたんだよね。まぁ、自分なりに本心に忠実ってつもりだったんだよ。

 だって、僕は映画の感想文に託して、自分の感情を語っているんだから。中には過去の女たちに自分なりの愛情を込めた文章だってある。僕という人間そのもので語るのではなく、映画に託してでなければメッセージを伝えられないところが、やっぱり一種の「オタク」だと言われても仕方ないのかもしれないが。そのへんのところも含めて、知人の年上女性アインのママさん(ジョーン・キューザック)にはよくイジワルくも厳しい指摘を受ける。ワガママ勝手に女の悪口を書くな…ってね。あるいはキズつけられただの何だのってウルサく書くけど、本当は全部自分が悪いんじゃないのか?…とか。

 ともあれ、これを機会にここで振り返ってみようと思うんだ。そんな僕が、今まで愛した女たちへの思いを込めた感想文の数々を。

 おっと、その前に本編をご紹介だ。今回のお題は話題の音楽オタク映画「ハイ・フィデリティ」だよ。

 

本編のはじまりはじまり 

 中古レコード店を経営するロブ(ご存じ若手クセモノ役者ジョン・キューザック)は、自他共に認めるポップスおたく、レコードおたく。彼のレコード店は一部好事家の間では人気だが、なにせこの店お客を選んじまうから始末に負えない。それというのも、店員のバリー(実際にコメディ・バンドのシンガーをやってるジャック・ブラック)とディック(監督もやってるトッド・ルイーゾ)がロブに輪をかけたようなオタクだから。特にバリーときたら、「分かってない客」にはレコード売りたくない店員なんだから、鼻持ちならないと言えばこれほど鼻持ちならない輩もいない。まぁ、その点においては当のロブ自身もあまり変わり映えしない男ではあるけれど。

 そんなロブもここんとこは絶不調。それと言うのも、一緒に暮らしてた恋人ローラ(寒い北国デンマーク出身、「ミフネ」で注目のイーベン・ヤイレ)からいきなり三下り半を叩きつけられたから。「今度こそ」と思ってたロブには大ショック。そう。彼が恋人に逃げられるのはこれが初めてじゃない。彼自身別れた女のトップ5をすぐにでも挙げられるほどなんだから。強がるロブは出ていくローラに「おまえなんか別れた女トップ5にも入りゃしないぜ」とイキがるが、そもそもそんなもんに入りたがる女なんているのかね?

 でも本音のところじゃ結構こたえてる。それが証拠に、過去のトップ5女に自分がフラれる原因を問いつめようなんて、バカなこと思い付くくらいなんだから。もう、こんな事思い付く時点で、フラれること必至のキャラクターとは思わないのかこの男。いや、でも「何で?」って事は知りたいのが人情、男の業というものかもね。これは男なら誰でも身に覚えある。

 最初の女は初恋の相手アリソン(シャノン・スティロ)。彼がキスした翌日にもう別の男とキスして鞍替えしてた女だ。思い立ったが吉日と、彼女の実家に電話してみると、何と彼女はその「2番目にキスした男」と結婚してるというじゃないか。それじゃあ俺は最適の相手じゃなかった、俺のせいじゃない…などとご機嫌になったロブは、これが失恋の最良のリハビリとばかりに意を強くして、さらに2番目3番目も探っていこうと決意した。

 そんなある日、ローラとロブ共通の友人であるリズ(またまた姉弟共演のジョーン・キューザック)が店にいきなりやって来ると、ロブに「このボケ!」と悪態ついて帰っていった。それまで失恋に落ち込むロブを励ましていたリズなのに、なぜ? ところがなぜかロブは彼女の豹変をさほど不思議に思ってない。実は予想がついていたんだ。ローラがリズに別れの原因を語るってことが。

 実はロブは浮気していた…だけじゃなくって、それが元でローラは中絶していた…だけじゃなくって、ロブはローラに返せるアテもない借金こさえてた…って、おいおい、フラれて可哀想な男とばかり思ってたら、おまえちっとも同情すべき立場じゃないじゃねえか! しかもロブときたら、ローラが別れの理由とするこれらの事に、自分なりの屁理屈こさえてまるで懲りたふうでもない。

 しかしそんなロブも、ローラに新しい男(なぜかここにティム・ロビンス登場)が現れたと聞けば、いても立ってもいられなくなる、どこまでもてめえ勝手な奴なのだ。これでローラは栄光のトップ5にチャート・インなんて言ってるくらいで、あくまでトップ5の調査を続ける無神経さだ。

  その2番目の女ペニー(ジョエル・カーター)は「させてくれない」ので別れた女。彼女はその後、「させなかった」ので別れたことを気に病んだか、次の男にレイプ同然で処女を奪われトラウマとなってしまった。彼女に一方的に怒りブチまけられても仕方ない有様なのだ。3番目サラ(インディーズ系を中心に活躍のリリ・テイラー)はロブを懐かしがってモーションかけてくるけど、彼女の回りに漂う不幸のオーラに辟易してバイバイ。そこにもってきて、彼女と寝たって「独身族の悲しい文化全体と寝た」ことになっちまう…とかこれまた得意の屁理屈こね回して頭のいいとこ見せたつもりなんだからイヤになる。

 そのくせ荷物を取りに部屋に戻ったローラに、もう男と寝たのか?などとヤボな事聞くんだから、カッコなんかちっともついてないんだよ、てめえは! まだだと知ったら有頂天で、今度は勢い余って知り合ったばかりの新進歌手(ブラック・ビューティーのリサ・ボネット)と寝ちまう節操のなさ。そのくせ一人になると、「寝てない」ということは「これから寝るかも」と不安にとりつかれ、今度はローラにストーカーまがいにまとわりつく。おかげでローラの新恋人には店にどなりこまれるが、そりゃ身から出たサビだよな。

 リズにも当然手厳しくとっちめられる。そうだそうだ、おまえは少しは「男らしさ」ってものがないのか!

 ない。男だから(笑)。

 さすがのリズも、ロブにこう問わずにいられない。「それじゃあ、大体あんた何でそんなにローラに固執するのよ?

 そうだよ、なぜだ?…なぜなんだろう?

 

映画館主のつぶやきその1

 さぁて、映画「ハイ・フィデリティ」は楽しんでもらってるかな? ここでご存じ、映画館主のFのヨタ話にちょっとだけつき合ってもらおうか。

 僕もロブに見習ってトップ5を披露しようと言うわけだ。題して、今まで愛した女たちへの想いをつづった映画感想文トップ5とでもしゃれ込もうか。思い起こせば、自分のプライバシーを映画感想文で切り売りするなんて悪趣味と、ずいぶん責められたもんな。確かにこれは露出狂的な精神病かもしれないね。ならば、ここでいっそ全てブチまけといくか! 面倒くさいから年代順でいってみよう!

 まずナンバー1、中学から高校時代に好きだったA代(シャノン・スティロ)。これは「ヒマラヤ杉に降る雪」の感想文に出てくるな。上品で優しくて頭がいい彼女にベタぼれ。あげく大学まで付属蹴って受験したら、彼女すっかりキャラが変わって男出入りの激しい女になってた。それで俺はトラウマになっちゃっただと? いやはや、何とも情けない話だね。だって、彼女に何もアプローチ出来なかったくせに、勝手に俺を裏切ったって恨んでるんだもんな。改めて読んだらウンザリしちまったよ。俺がこの女に愛されなかった最大の理由は、まずここにあったんじゃないのか? そのくせ、チャッカリ最初は別の本命がいたなんてこともバラしてる。そう。僕はそんなに純粋に一途に彼女を愛してたって言えないんじゃないのか? 調子いいぜまったく。

 次いってみよう、ナンバー2、大学時代ちょっとだけつき合ったB子(ジョエル・カーター)。これは「シャンドライの恋」だな。こともあろうに、こんな大人の恋愛映画の感想文にガキのバレンタイン・デーの話を持ち出すとは…まったく恥というものを知らないね。これも度胸がなくって踏み出せなかった男の子の話じゃないか。しかも、いざという時には必ず自分の逃げ道だけはつくっておく卑怯な男。これじゃあ、うまくいくものもうまくいかないぜ。何でこんなにガードが固いんだよ、おまえ?

 あ〜あ、イヤになってきた。ナンバー3は自分がお遊びでつくってた8ミリ映画に出てもらってたC恵(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)だね。感想文は「美術館の隣の動物園」。これはサラッと触れるだけで逃げてるな。さすがに言えなかったんだろ、映画つくるの口実に彼女にアプローチしたくせに、結局トンビに油揚げだったとは。最終的に自分は映画づくりに夢中だったから女を口説けなかったなんて言い訳してやがる。ウソだよこんなの、ウソ! だらしないだけのくせに。自分はアマチュアでもいっぱしの映画作家きどりだったから出来なかったなんて、カッコつけだけなんだよ。

 ナンバー4は誰だ? あぁ、我が生涯の汚点。わざわざ海外まで追っかけていって、ひどい目にあったD美(リリ・テイラー)だな。感想文は「Go! Go! L.A.」だ。これもねぇ、向こうが来い来いって言ったから行ったのに冷たくされて…ってグチたれ放題。何て可哀想な俺、悪いのは全部女だって言ってるけどね。向こうだって困ったんじゃない? 来たら来たで仕事一番忙しい時期だし、何から何までオンブに抱っこだし。

 そんなこんなで女はコリゴリって思ってたら現れたのが最後の超大物、ナンバー5のE子(イーベン・ヤイレ)というわけだな。感想文は「U-571」ってのも凄いね(笑)。これは珍しく俺としては積極的にいった。だって、彼女は今までになく僕が理想とする女だったから。そして彼女とうまくいったんだけど…って話。おいおい、一体おまえ何が不満なんだよ!

 彼女は僕のワガママ勝手をずいぶん我慢してたみたいだけど、それも限度があったらしくついには黙ってられなくなったっけ。その「彼女が僕に黙ってなかったこと」トップ5は自分でも苦笑ものだよ。

 まずナンバー1、何でも悪く受け取ってしまうところ。単に悲観的というだけでなくって、相手の言うことも何でもかんでも悪意に受け取ろうとするんだよね。

 ナンバー2、あわてすぎ。ちょっと何かあるとビビってジタバタする。そこに上の悲観的なとこが加わると始末に負えない。

 ナンバー3、すぐキレる。これもナンバー1や2のバリエーションかな。

 ナンバー4のモノを捨てないとか、ナンバー5の見てくれを気にしないとこなんて、まだカワイイよ。それだって相手の事考えれば、イヤだろうなと想像ついてもよかったのに。結局、相手の側に立った見方が徹頭徹尾出来ないからこのザマだったんだよ。

 こういうの見てると、俺のそもそものマズい点がだんだん見えてくるよな。そう言えば、僕の大好きなウディ・アレンの映画「アニー・ホール」を彷彿とさせるところもある。あの映画で僕が一番感銘を受けたのは、冒頭でウディがカメラ(ってことは観客)に向かって話すグルーチョ・マルクスについての小話。ライオンズ・クラブみたいな名士の入るクラブに入ろうとしたら、グルーチョがユダヤ人ということで断られた。後で人気スターだと分かってからクラブから誘いが来たが、その時にグルーチョはこう言って断るんだ。「私は自分が入れるようなクラブには入りたくない」

 僕は自分が本当に愛した女には、結局素直になれずじまい。そのくせ、それほど…と言っては語弊があるが、思い入れがあまりない相手だとホイホイいけちゃう。それでいつも痛い目にあった。それって本当に愛してた相手にとっても、それほどでもないのにホイホイいった相手にも失礼なのに、てめえの事は棚に上げて、自分はひどい目にあった傷つけられたトラウマになったと騒ぎ立てる。女の事は分からないとグチる。分からなかったのは、たぶん女の方じゃなかったのか? 彼女たちは、自分が何でこんな仕打ちを受けるのかまるっきり分からなかったんじゃないのか?

 そんな迷いなしに熱を上げられるほど自分の理想通りだった女が現れれば、今度はうまくいくかと思ったけどこれがそうはいかない。何だかんだと理屈をこねくり回し、気に入らないところを見つけようと必死だ。これは話がうますぎる、何かマズいことが起きるに違いない、俺の勘違いに決まってる。そして女を責めるグズるワガママ勝手を言う。自分があるがまま受け入れられちゃマズいとでも思ってるのか?

 そういや、僕はいつだって自分の状況を素直に受け入れられなかったんだよな。こんなはずはないって文句ばっか言ってた。今だってそうだ。昔はヘタっぴーでもチャチでも映画つくってたのに、今は自分があんなに忌み嫌ってた映画評論家ごときと大差ないじゃないか。つくりもしないで人の映画にケチつけたり。最初から見る側ならいいよ。俺は「つくってた」んだ、それが今はただ「見る」だけ「文句言う」だけ。こりゃ堕落だと思ってたんだよ。大きな声では言わなかったけど。でも、実際にはただ映画を見て、何だかんだ言ってる自分がいる。それって否定すべき事なんだろうか?  それに「つくってた」って言ったって単なるお遊びじゃなかったのかい?

 結局のところ、自分を肯定できないって何だ? そんなことして、偉いことしてるつもりなのか? でも、人間はいつかどこかで自分と折り合いつけなきゃいけないはずだよな。それなのに、「まだこんなじゃ満足出来ない」って、いつまで俺は自分の結論を延ばしのばしにしておくつもりなんだよ!

 なんだよなんだよ、トラウマトラウマって。全部俺の勝手な妄想の産物じゃなかったのかよ?

 可哀想にって? 俺が? そうじゃなくて、女たちがかい? やっぱり俺が悪いの? そうだよな。俺も今になって分かったよ。俺に心を開いてくれた女性もいる。彼女は僕に寛大だった。忍耐強くつき合ってくれた。俺のあるがままを受け入れようとしてくれた。そんな彼女に俺がしたことって…。

 わかった、分かったよ…アインのママあたりに毒舌くらわされそうだ。「このボケ!」って。

 なぁ、頼むからそろそろ映画に戻っていい?

 

ここで本編に戻ります

 ロブは何でローラにあれほど固執するのか? 自問自答する彼は、またもお得意のトップ5に自分の気持ちを託さずにいられない。じゃあローラのいいとこトップ5って?

 ナンバー1、ユーモアのセンスが抜群! これって大事なんだよな。

 ナンバー2、お人柄。何でも悪いことを人のせいにしないのが良かった。

 ナンバー3、匂い。とっても好きだったよね。

 ナンバー4、歩き方。格好良かったよ。

 ナンバー5、眠れない時のくせ。ベッドで足をスリスリしてるのは素敵だった。

 こうなるといいとこしか見えないロブ。それなのにローラは去っていった。何で俺を捨てたと問いつめた時、ローラはこう言い残したっけ。

 「あなたって変わらない。自分も人も変わることを許してくれない

 そう言えば例の別れた女トップ5の大物、チャーリー(何と登場したのは、これも大物キャサリン・ゼタ・ジョーンズ!)との再会を思い出す。

 やっぱりチャーリーは昔も今も輝いてた。家に招かれると、そこでは知人を集めたパーティーが宴もたけなわ。会話も軽妙洒脱。だけどそのパーティーに列席しているうち、ロブには分かってくるんだよ。彼女の軽妙洒脱な会話って、実は何となく空虚で意味なんかない。第一、彼女は人の話なんか聞いてない。何とも見事にカラッポな人付き合いなんだよね。こんなのを昔はいいと思ってたのか?

 それより何より、いつでもてめえ勝手、人の話聞いてない、会話や思考の中身カラッポって、まさしくこの俺そのものじゃないのかい?

 あぁ、そんな俺に少しは人間らしい何かを吹き込んでくれたローラじゃなかったのか?

 ロブを取り巻く人間関係にも、少しづつ変化が見えてきた。あんな根っからおたくと思ってたバリーが、何とバンドで歌うなんて言い出した。大丈夫なのか、あいつで? すると気弱そうに見えたディックまで、素敵な彼女が出来たと言うではないか。十年一日のごとき連中と思ってた奴らが、みんな何かを見つけて変わろうとしている。変わり映えがしないのは何とロブばかり。俺だけなのか、「変わろうとしない」、成長しようとしない情けない奴は?

 そんな折りもおり、ローラから電話が来た。喜んで飛びついてみると、何と彼女の父親が亡くなったと言うではないか。

 お葬式の日、さすがに落ち込んで泣くじゃくる彼女を前にして、ロブの気持ちは決まってた。

 「すまなかった」

 今まで何から何まで自分中心、てめえが悪いなんてさらさら思わなかったロブの、それは彼女に初めて見せた謝罪の気持ちだった。

 その夜、ローラはロブの部屋に戻ってきた。

 

映画館主のつぶやきその2

 「ハイ・フィデリティ」って、どこか先に挙げたウディ・アレン作品、それも「アニー・ホール」あたりを思わせる作品だ。どこか「おたく」心を持った男の情けない恋の物語。しかし、この「おたく」を「こだわり」というところまで解釈を広げると、大概の男がここに入ってしまうんじゃないか? そう、これは男全体に言える、普遍的なお話なんだよな。男って変な理屈やスローガンやお題目をありがたがってぶら下げてるところあるからね。

 で、普通はこの手の映画って、そんな男のダメなところ情けないところを暴き立てながらも、どこか「しょうがないわねぇ」と暖かく見つめ、共感持って愛すべきものとしてとらえるものだ。例に挙げた「アニー・ホール」しかり。そこが似たようなところを持つ男たちには心地よいし嬉しい。それでいいんだよって言ってもらえるみたいだし。この手の作品ってこういう男たちには忘れがたい名作みたいに恭しく扱われることになる。だって「しょうがない」けど何となく肯定されてしまうからね。男ってこんなもの…で片付けられてもらえるから。

 ところがこの「ハイ・フィデリティ」、ストーリーを見てもらえれば分かる通り、同病の男たちをあんまり心地よくはしてくれないんだよ。ダメさ情けなさをそのまま見せて放り出してしまう。愛すべきものとはしないで、まんま提示するから救いがないんだよ。見ていていい気分にさせてくれない。

 映画の前半での主人公ロブの姿には「あるある、こんな事」とか「こいつ俺みたい」とは思わされても、映画はそれを冷たく突っ放してるから、刃は見る側(ここでは共感する男たち)に向けられたまんまなわけ。これはツラいよ。

 このへんが従来の同種作品とはハッキリ一線を画してるところで、実はそれこそが監督スティーブン・フリアーズの資質なんではないかと思うんだね。例えば失敗作と見なされてはいるけど、ダスティン・ホフマン主演の「靴をなくした天使」なんか分かりやすい例だ。典型的アメリカ風刺コメディの題材なのに、そうはならない。主人公はイヤな奴で、ずっとイヤな奴のまんま。安易に共感させホッとさせてはくれない。きれい事では終わらせてくれない。だから多くの場合、見た後が心地よくない。

 こういう資質って、作品的には全く異なるけれど、どこか同じイギリス出身のマイケル・ウィンターボトムなんかともどこか共通するテイストかもしれないね。確かにカタルシスは滅多に味わえない。でも本当は人間ってそんなもんじゃないか? 彼らの映画に共通する点は、主人公も見る側も安易に甘えさせてはくれないってことだね。 でも甘ったれてどこか自己中心、自己完結しちゃってる男たちには、それでちょうどいいのかもしれないね。

 結局ローラとヨリを戻したはずのロブ。しかも彼としては清水の舞台から飛び降りる覚悟で、若い有望アーティストにチャンスを与えようと、インディーズのCDつくろうなんて言い出した。だが、その発売記念でロブがDJをやるイベントやりましょうなんてローラが言い出すと、すっかりビビる。おまけにうまくいってるはずの関係なのに、何となくまた悪い浮気の虫まで騒ぎ出す。これでいいのか? このままのだらしない俺で…?

 映画はここで一つの結論らしきものを提示する。とにかく変わろう成長しようと一歩踏み出すことが大切だと主張するんだね。でも、それって自分の気持ちを裏切ってまで変われと言ってるんじゃない。実は自分を裏切っていたのは、自分自身なんだよ。「アニー・ホール」冒頭のグルーチョ・マルクスの小話を思い出してもらいたい。あれって本当だよなっていい気分になっているうちはダメだ。この映画は本当の自分って何なのだ、本当にしたいことは何なのかということに目を背けていることをやめて、直視しろと迫ってくるんだね。本心に忠実であれってことだ。

 

 さて、これが映画「ハイ・フィデリティ」の物語だ。僕はとても気に入ったよ。なぜなら、これこそ自分の物語だと分かってるから。そして、ひょっとしたらあなた自身の物語かもしれない。ちょっと見方を変えてご覧よ。僕はこれを「男のお話」だと言い続けてきたけど、ロブと同じ病は女だって誰だってどこかに持っているのかも。

  ただ、ずっと僕は自分のプライバシーを垂れ流ししてるって言い続けてきたけど、ここでちょっと釈明したい。これはただの文章だ。どこまで本当かは保証の限りではない。面白おかしくつくってる部分だってウケ狙いだってあるからね。それに人間って本音を言っているつもりでも、口から出た時どこか変わってしまうものだもの。

 そうだ、僕もロブにあやかって自分の心底愛した彼女のいいとこトップ5を挙げてみようか? この感想文のラストには、これがふさわしい。

 まずナンバー1、信用できるとこ。これって一番大事だよな。

 ナンバー2、偉そうにしない。ハッキリ言って謙虚な人だった。

 ナンバー3、忍耐強い。俺とつき合えるなんてそうでなきゃ無理だったろう。

 ナンバー4、フェアだ。自分の悪いところは悪いと思える彼女は偉かった。

 ナンバー5、モノの見方がユニーク。僕は彼女を通して日常を見ることで、まるでこの世界を再発見しているようだった。

 どうだろう? これでいくらかなりとも僕のかつての行いの贖罪になっているだろうか?

 おいおい、これは本心なのかって? そうだね、どこまでそうかは僕にも分からないけれど、そうであろうと努めてはいる。そのことだけは本当だ。

 だって自分の心の原音に忠実でありたいと、それだけはいつも思い続けてきたのだから。

 

 

 

 

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