「ユリョン」

  Yuryong

 (2001/03/05)


ツッパリどもの「極悪」なんざ甘い甘い

 みなさんは高校時代の修学旅行は、一体どこに行ったのかな? 僕らは高校3年の時、およそ1週間あまりかけて九州一周旅行をした。あれは修学旅行って言っても、ちょっと長すぎだったよね。

 その当時僕が通ってたのは、某私立大学の付属校。だから受験のパニックにも巻き込まれずに、比較的おっとりと旅行なんかしてたわけ(もっとも、僕自身はよせばいいのに、外の学校受験して見事に浪人しちゃったけど)。でも、旅行も4日以上になると、旅の華やいだ気分も薄れてくる。

 僕が通っていた学校は男女別学だから、ムサい男の子たちがバスに詰め込まれたまま移動しているわけ。その間ずっと聞かされるBGMはというと、キャロルのロックンロールだったんだよね。

 どうしたってクラスの2割から3割は当時ツッパリと言われたちょっと不良がかった子。髪形もだいたいリーゼントにして、カバンぺっちゃんこにしてた。こうした旅行に来るとなれば、ラジカセとキャロルの曲がギューヅメに入ったカセットテープが必需品だ。で、バス移動の際にこれを延々とエンドレスで流しっぱなしにされるから、こっちももうキャロルが好きだ嫌いだって問題じゃなくなるんだね。好きじゃなかったとしても、僕らの世代の奴ならカラオケで歌わされればそれなりに歌えちゃう。それと言うのも、すべてこんなふうに無理やりに聞かせられたからだ。もう教育勅語と同じ(笑)。「ファンキー・モンキー・ベイビー」とか「ルイジアンナ」とか、もう何度も何度も聞かされた。実際は彼ら自身だってウンザリしていたのに違いない。でも、意地でも楽しまなきゃならなかったんだろうね、ツッパリはツラい(笑)。

 しかし、その時期に九州に修学旅行に来てる高校生は、当然のことながら僕らだけじゃなかった。だから休憩や昼食の他さまざまな名所旧跡などに行った時も、他校の生徒とハチ合わせしちゃうことも多かった。で、そういう他の学校にも僕らの学校と同じく何人かツッパリ連中がいるわけだよ。すると、いきなりバス降りた駐車場でニラみあいが始まる。意地の張り合いツッパリ合い。なぜかヨソ者どうしが顔を合わせるといつもこうなるんだよね。で、一触即発状態になったところに両校の先生が割って入って、何とか毎回事なきを得ていた。くわばらくわばら。

 てな感じに、1週間の旅行中はずっとキャロルのロックンロールとガン飛ばし合いに明け暮れていたツッパリ君たち。バスガイドの言うことなんか聞きゃあしないで、ヤジ飛ばしまくり。もっとも言うこと聞かないことにかけては、ツッパリでない僕らだって大して違いはなかった。ホントにあの年齢の男の子ってのは手に負えないよね。いろんな名所旧跡で真面目な説明が行われている時だって、平気でオチョクるんだもの。常識を期待するほうが間違ってる。

 そんな僕らが長崎の原爆資料館に、キャロルのロックンロールがまだ耳に響いたままなだれ込んだんだ。ひでえ事になりそうな気がするだろ? ここで騒いじゃさすがにマズいと僕らは分かってたけど、あのツッパリどもがおとなしくするはずもないと思ってた。案の定、館内の見学始まってるのにクスクスガハハと笑い声がしていて、周囲の見学者の白い目を浴びた。まぁ、原爆だ戦争だ平和だと言ったところで、あの連中にはどだい分かるわけないよな。

 ところが驚いた。ものの5分もしないうちに笑い声も会話もとぎれた。それから館内を回っている間、何と一切無駄口が聞こえないんだ。こりゃ一体どうしたんだ?

 資料館を出てきた時、ツッパリくんたちの顔面は蒼白だった。そして次の目的地に到着するまで、恒例のキャロルのロックンロールもお休み。こんな事もあるのか…と、僕はツッパリくんたちの狼狽ぶりにむしろ衝撃を受けた。おかげで肝心の原爆資料館に何があったか、僕はもう正確には覚えていない。

 今は昔、当時はツッパリくんと言えどもまだまだいい子だったんだと理屈を付けてみても、あいつら悪い時はホントに悪かったからね(笑)。ここはむしろインパクトの大きさを素直に受け取ったほうがいい。やはり本物の残酷さを目のあたりにした時、彼らがイキがってカバンに貼ってたステッカーの「極悪」なんて文字は、いかにも陳腐に感じてしまったんだろうね。あの空前の大量虐殺…それにまさる「極悪」なんてあるか?

 楽しい旅行の真只中に残酷の極致を見せられちゃたまらない、いや、それをむしろ見せることが教育になる…いろいろご意見あろうが、そんな事をここで論じるつもりはない。これは単に一つのお話として見ていただきたい。

 だが、こういう事は言えるんじゃないか。人が悪を平気で為せるのは、往々にしてその悪とは何かを実はよく知らないからだ…と。

 

「死人」ばかりを乗せた謎の潜水艦

 1994年、韓国沿岸では米韓共同の軍事演習が大々的に催されていた。ところがある韓国軍の潜水艦内では、人知れずとんでもない大騒ぎが起きていた。艦長がキレて訓練と実戦を取り違え、今すぐ攻撃開始だとジタバタ。放っておくとミサイル発射しかねない異常事態に、やむなく将校チョン・ウソンはこの艦長を射殺した。しかし、この「止むを得ず」という事情は軍事裁判で全く顧みられることなく、チョン・ウソンは上官殺害の罪で銃殺刑に処されたのであった。

 だが、なぜかチョン・ウソンは生きていた。ただし、死んだことになって外界から徹底的に隔離され、名前も何もかも彼を特定する属性はすべて抹殺された。汚い個室に閉じ込められ煮つまったチョン・ウソン。何だよこれは一体、俺は「ニキータ」にでもされるのか(笑)? レストランまで行って飯も食わずに銃撃戦するなんて俺はイヤだなぁ。

 元々ちょいとクールで言葉少な。キャバクラ行っても普通の凡庸な男だったら女の機嫌とってこっちが話題つくらないとシラケちゃうとこだが、このチョン・ウソンはそのどこか陰りのあるマスクと相まって、女のほうから話題を仕掛けていきたくなるタイプ。だから話しかける相手もいない手狭なこの部屋でも一向に苦にしていない様子なんだね。だけど、そんな彼でもさすがに娯楽全くなしにはウンザリしてきたある日、扉のカギが開いていることに気づく。よ〜し、ちょっと羽根伸ばしてパチンコでもやりに行くか(笑)!

 ところが建物から出てきたチョン・ウソンの目の前に現われたものは…真っ赤な夕日にギンギラ照らされ、巨大な停泊施設にその偉容を横たえた最新鋭原子力潜水艦だった! 何っ?韓国って原潜はないはずだよな。

 そしてチョン・ウソンは知らされるのだ。ここは韓国沖の孤島。そして、この原潜はロシアから秘密裏に入手したもの。チョン・ウソンはじめ同じように名前も過去も捨てさせられた男たちが、秘密任務のためにこの原潜に乗り込むことになっている。韓国は原潜を持ってはいけない事になっているので、この原潜は存在していないはずのもの。だからこの原潜そのものと任務全体をこう呼ぶのだ…「幽霊(ユリョン)」と。

 早速チョン・ウソンは名前代わりに「431」というナンバーをもらう。そしてナンバー「000」の艦長にいろいろと教えてもらうが、それでも任務の全容は見えない。「ベストキッド」のミヤギ役ノリユキ・パット・モリタ似の艦長は人は良さそうなんだが、肝心なことはちぃ〜っとも教えてくれないんだよな。副艦長「202」ことチェ・ミンスが幹部たちと打ち合わせしてる席にもお邪魔したんだけど、何だか凄くおっかない顔でガン飛ばされてタジタジ。俺ってキラわれちゃってるのかにゃ〜。

 ともかく「431」ことチョン・ウソンはミサイル班担当将校ということで役割が決まった。いよいよ「ユリョン」は極秘任務に出発! でも、その任務は誰にも見えてない。前回の任務で日本の自衛隊と米軍に感づかれてヤバい目に合ったくせに、今回も目立ちやすい対馬海峡を通ろうなんて艦長が言い出して、その意図はますます分からない。副艦長「202」ことチェ・ミンスが幹部会議に混ぜてくれたけど、ちょっと思った事を口にしたら態度が急変して冷たくされた。何だか妙な雰囲気だな〜。

 チョン・ウソンはこんな偉そうな奴らより、どっちかというと下の連中のほうが好き。炊事班のコックが禁じられてる家族の写真をこっそり持っているのを見つけるが、それをとがめず一緒にラーメン食ったり、部下のミサイル班の連中ともうまくやってるみたい。あの「ペパーミント・キャンディー」では軍隊でドツボにハマったソル・ギョングもこのミサイル班のメンバーだが、今度は働きやすい職場みたいでヨカッタヨカッタ。それに引きかえ、元々俺は目をギンギラさせて祖国だ何だとブチかますヤボくせえ野郎は気に食わねえんだよケッ…とでも言いたげな沈黙のチョン・ソウンではあった。

 でも、そんな彼も「ベストキッド」パット・モリタ似艦長は別格のようだ。何となく人間味あふれるこの艦長は、自分にもしもの事があったらと、何とミサイル発射用のキーをチョン・ソウンに託す。…もしも、だって?

 その頃、相変わらず目をギンギラさせて怖い顔してる副艦長チェ・ミンスは、艦内で時限爆弾を発見。それでも驚くどころが納得しちゃって、他の幹部連中に何やら指示を出すのだった。

 さぁ、そこからは展開が早い。パット・モリタ似艦長がサウナでも入ろうとしたら、誰かが襲いかかってくる。それを何とか撃退したと思ったら、今度は撃ち殺されてしまう。撃った奴はと見れば、これまたビックリ。目が血走ってギョロギョロの副艦長チェ・ミンスではないか!

 艦長を葬ったチェ・ミンスは、自ら新艦長を名乗って「幽霊」内に厳戒体制を敷く。さすが勘のいいチョン・ソウンは、どうも様子がおかしいと察するんだね。

 果たしてチェ・ミンス「新艦長」からチョン・ソウンに早速お呼びだ。完全にイッちゃってるチェ・ミンスは、艦長命令としてとんでもないこと言い出すんだね。

 日本を核攻撃せよ!

 

「幽霊」の正体見たり…

 本来持っちゃいけない韓国の原潜。それを秘密裏に入手したのがこの「幽霊」だったけれど、前回の航海で日本の自衛隊と米軍に見つかって外交的にマズい状況になってたんだね。そこで韓国政府が下した決断が、日米の見ている前での「幽霊」の爆破。つまり、今回の航海は死出の旅だったわけ。だから正式なミッションはすべて艦長の胸の内に収め、「幽霊」内に時限爆弾を仕掛けて航海を続けていたんだ。乗組員たちがすべて過去を捨てたような連中だったのも、そういった事情による。

 だがチェ・ミンス副艦長は「とんでもない」と頭に来ちゃったんだね。自分たちが内密にこの「幽霊」と共に葬られることになっていたのも気にくわないが、何より日米の連中に頭が上がらない祖国の弱腰に腹が立ってならない。日本だって憲法で再軍備を止められてるのに、読売巨人「軍」を持ってるじゃないか。しかもこの「軍」は毎年巨額の金で軍備増強しているぞ。そのくせ新婚間もないチョ・ソンミンを二軍で干しやがって!おまけに落ち目になって弱ってる「そごう」から、よりによって優勝セールを三越に移しちゃう冷たさ。大体、大理石の床にライオンのブロンズ像でピカピカってババア好みの悪趣味からして、三越ってデパートも巨人と五十歩百歩の成金趣味…じゃなかった(笑)。なんで俺たち韓国が原潜持ったらいけないんだっ。ならばこの船乗っ取って、まずは目の上のタンコブ・日本を巨人と三越ごと地球上から消滅させてしまえ(笑)! さぁチョン・ソウンよ、おまえが持ってるミサイル発射キーをくれ! 目障りな渋谷の生意気尻軽コギャルもナベツネのついでに吹っ飛ばしちまおうぜ…と、まぁ日本憎しで凝り固まっちゃってる。そもそも今日び原潜は韓国のじゃなくたってコワイ。日本にとっちゃあ安保の相手国だって信用できねえなどと考えたくもなるご時世だ。

 だが、おいおい待ってくれ…と熱血副艦長にタジタジのチョン・ソウンは、こんな熱い状況下にもクールに対処しようとする。コギャル&ナベツネ吹っ飛ばすのは大賛成だけど、吉原のフーゾク嬢は助けてやってくれと言ったかどうか。それに2002年ワールドカップのこともあるし、読売ジャイアンツが気にくわないなら東京ドームだけピンポイント攻撃してはどうか(俺もそれには全面的に賛成だ!甲子園を巻添えにするな!)とか、松井だけはツラはマズいがいい奴みたいだから助けてやってくれとか(笑)…とにかく頭を冷やせと再三再四チェ・ミンスに頼む。しかしやめられない止まらないカルビーかっぱえびせん状態のチェ・ミンスに、今は何を言ってもムダ。チョン・ソウンをボッコボコにしたあげく、キーをどこかに隠したと分かってチェ・ミンスは一層逆上。でも、どんな時にもチクリ野郎はいるもんで、コッソリとチェ・ミンスに耳打ちするんだね。「コックの野郎にキーを渡したみたいですぜ」

 さぁ、今度はコックが捕まった。彼はチョン・ソウンに恩義があるもんだから、何が何でもキーを守ろうと飲み込んじゃったのが仇となった。今やえびせんチェ・ミンスは本当に止まらないのだ。このコックの腹かっさばいてキーを取り出せ!

 しかも、その頃日本の潜水艦が攻撃を仕掛けてきた。まずそれを一丁あがりで片付けた「幽霊」は、もはや戦争状態に突入していたわけ。ウカウカしていられん。麻酔効くのを待ってられん。さっさとコックの腹を切らんか!もうチェ・ミンスはマトモじゃなかった。医療兵がためらってとても出来ないと悟るや、自分でメスを握ってまだ意識のあるコックの腹を切り、胃を切り、中に手を突っ込んでキーを取り出した! ぎゃあぁぁぁ〜〜〜!

 「ユリョン」見に来たら、いきなり「カル」状態

 さぁキーを手に入れたし、日本を攻撃だとハリキっていたら、またまた日本の潜水艦だ。ひっそり隠れていた「幽霊」だったが、えびせんチェ・ミンスには次から次へとキレたアイディアが出てくる。よ〜し、釣りとシャレこむか!

 ロープ状のアンテナをスルスルと伸ばした「幽霊」。アンテナはやがて日本の潜水艦まで届き、そのスクリューに巻き込まれて引っかかる。そこでチェ・ミンスは「幽霊」をさらに深く潜行させるよう命じるのだった。どんどん沈んでいく「幽霊」に引っぱられ、日本の潜水艦も沈んでいく。いくぞスーさん、やったねハマちゃん、釣りバカのチェ・ミンスはゴキゲン。日本の潜水艦は水深500メートルまでしか耐えられないけど、「幽霊」は1000メートルまではいける。今、「幽霊」は水深600メートルまで潜ろうとしてるから、日本の潜水艦はひとたまりもないわけ。一生懸命逃れようとしても、アンテナが絡み付いて逃げられない。そんな日本の潜水艦内の阿鼻叫喚を探知させて、「幽霊」艦内放送で流してウットリいい気分になってるチェ・ミンスは、釣りバカというより釣りキチ。キの字がお似合いの変態野郎だ。ただ、チェ・ミンスには分かってなかったんだね、日本の潜水艦の連中が慌て怯え泣き喚くさまを実況中継なんかしたおかげで、「幽霊」艦内にはもうイヤ〜な雰囲気ただよってきた。そりゃあ「タスケテ〜!」なんて人間の叫び声をナマで聞いちゃったら、とてもじゃないけど士気が上がるわけもないよな。日本の潜水艦は水圧につぶされた。「幽霊」の艦内はお葬式みたいに雰囲気悪くなった。

 一方、腹かっさばかれたコックの近くに縛られていたチョン・ソウンは、見張りの下っ端野郎にボコボコにされてた。制服着た女はエッチで可愛いけど、制服着た男ってのは時として虎の威を借る何とやらで、空威張りして鼻持ちならなくなる奴も多い。巨人の二軍の連中もただジャイアンツのユニフォーム着てるってだけで銀座でイバッてるとか。だからおまえらダメなんだよ。「幽霊」でも見張り兵士が下っ端の分際でここぞとばかりチョン・ソウンをいたぶってたら、所詮は下っ端、ちょっと調子に乗りすぎた。じっと我慢のチョン・ソウンが突然反撃、下っ端野郎はあっと言う間もなくブチ殺された。バカだねぇ。さぁ、ここからチョン・ソウンが単身反撃に乗り出す「ダイ・ハード」状態か?

 まず自分を手助けしてくれる仲間が欲しいと、ミサイル班の部下「ペパキャン」ソル・ギョングをコッソリ呼び出す。こいつ信用して大丈夫なのか?と思ってたら、案の定チョン・ソウンとの顔合わせ場所にやってくるや否や襲いかかるじゃないか。上司ヅラしやがってウザってえんだよ…とか理由にもならない理由で襲いかかるソル・ギョング。やっぱりこいつ「ペパキャン」の時から更生してなかったな。でも情けねえほど弱くて、後頭部にネジをぶっ刺されてオダブツ。今回は「昔に戻りてえよ〜」なんてわめく間もなくくたばっちゃいました。

 さて今度こそ日本を攻撃と思ったチェ・ミンスは、十分な水深まで浮上するのが待てずにミサイルの発射口を開けさせたもんだから、水圧に耐えられずに「幽霊」の艦内各所で浸水が始まった。もう無茶苦茶。仕方ない、浮上を待つか。

 ところがチョン・ソウンはとんでもないモノを見つけた。実はパット・モリタ似の艦長が「幽霊」艦内に仕掛けた時限爆弾は一つじゃなかった。別の時限爆弾を見つけたチョン・ソウンは、これを葵のインロウよろしく前方にかざして、ドドドドッと指令室に殴り込みだ。控え控えい〜っ!

 その頃、指令室ではミサイル発射準備が着々と進行中。照準は日本の代表的都市すべて。ハッキリ言って日本を壊滅させるのには、核兵器2つもあれば十分だと思うんだけどね。あとはアメリカのぶんに使いなよ。そうそう、巨人がキャンプ張るグアムも忘れてもらっちゃ困る。イチローのいるシアトルだけはやめろ。新庄はもうどうでもいい(笑)。

 さぁチョン・ソウンは間に合うか? 日本への核攻撃は阻止できるか? チェ・ミンスとの宿命の対決はどうなる? そしてナゾの原潜「幽霊」の運命は?

 

勇ましい発想の裏側にあるもの

 この作品の冒頭には奇妙なことに海面に浮かぶ死体が登場し、何と珍しや死者のモノローグからドラマが始まるんだね。死後の人間が語りかけてくる映画と言えば、確か日本映画「太平洋の嵐」にそんな場面があった記憶がある。あれも海を舞台にした戦争映画だから、この「ユリョン」に何がしかのヒントを与えたのかもしれないね。

 しかしハッキリ言ってこの映画、発想の原点は「クリムゾン・タイド」があるのはミエミエ。音楽もハンス・ジマー風味丸だしのシンセ・ミュージックという臆面のなさ。このへん、「シュリ」がかなりマジで「ヒート」などのアメリカ製アクション映画をパクっていたことも含め、韓国の新しいエンターテインメント映画のたくましさを感じちゃうね。

 しかも、これも「シュリ」と同じく、根底には一応韓国の置かれた現実が反映しているからナマナマしさが違うのだ。

 特にいよいよミサイル発射準備が整ってからの緊迫感と言ったら…この日本が核攻撃の標的になっているんだよ。指令室のディスプレイに日本地図が映って、そこがどんどんターゲットになっていく。チラッと確認できただけでも、東京がやられる新潟がやられる仙台がやられる札幌がやられる…それは文字通り、平和ボケしてる僕らの頭に喝!を入れるような衝撃的光景だよ。俺たち死んじゃう〜! 以前、新宿歌舞伎町ド真ん中の映画館で金城武主演の「不夜城」見た時以来のナマナマしい感覚だよね。

 だけど皮肉ではあるんだけど、韓国人は日本を大いに意識してるし存在も重要視しているということが、これを見ると改めて再認識出来るよね。恨んでいるかもしれないし、敵と見なしているかもしれない。だが、無視よりはどれほどいいか分からない。アメリカやヨーロッパの映画で日本なんか標的にはしまい。彼らは我々なんか相手にしていない。だから船一隻、原潜でひっくり返しても何とも思っちゃいない。

 そういう意味でこの映画は我々日本人には衝撃的だし、前半は主人公チョン・ソウンの過去の描写など無駄な描写も少なくないが、あわや日本が核攻撃…となる後半の展開などの迫力はすごい。脚本とミン・ビョンチョンによる演出は見応えある。このミン・ビョンチョンがあちらのMTV出身ってとこは今ふうだけど。やっぱりジェリー・ブラッカイマー映画ふう(笑)。

 今回出てくる役者にしても顔なじみは「ペパーミント・キャンディー」が記憶に新しいソル・ギョングだけ。だが、男だけのキャストはどいつもこいつもクールでハードな面がまえ。「U-571」といいこれといい、辛い男の魅力が潜水艦映画の命ですな。

 ただ、どこまでもアメリカンなエンターテインメントかと言えば、コックの腹を生きたまま裂いてしまうあたりとか、沈む日本の潜水艦の内部の音声を延々聞かせたりとか、結構エグい残酷風味も盛り込んであるのがキムチ味かも。昔、大韓航空機爆破事件の映画化作品「真由美」を見たら、ヤマ場の飛行機の爆破シーンで乗客が悲鳴を上げながらバラバラと空中に落っこちていくさまを、これでもかこれでもかと延々描いていたっけ。普通、実際の事件の映画化ということもあるし、被害者の遺族の感情も考慮したらあそこまではやらないもんね。このへん、やっぱりさすがの韓国映画らしさなのかね。

 だけど、この映画のポイントは、その日本潜水艦の音声を聞かせたことなんだよね。「幽霊」に引っぱられ、水圧に耐えられない深みにまで誘いこまれる日本の潜水艦。この映画のチェ・ミンスら急進派はもちろん、そうでない他の乗組員、ひょっとするとこの映画を韓国で見る観客たちに至るまで、日本は「敵」だからやっつけていいと思っている可能性は濃厚だ。だけど、この映画ではそんな日本の潜水艦が沈没に向かっていく様子の悲惨さを延々聞かせることによって、そういう単純な発想が本当は一体何を意味するものなのかを如実に表わしている。人が単純に敵をやっつけろと勇ましく言う時、そこには一体どんな状況が展開するのか…僕らは往々にしてそういう時に極端に想像力を欠如させてしまう。しかし、それが何を意味するのかを本当に知った時には、やっつけろなんて言葉は軽々しく言うことは出来まい。痛みが分かった上で人を痛めつけるのは、なかなか難しいよ。それを具体的に提示しただけでも、この映画の存在意義がある。

 限りなくアメリカン・エンターテインメントに近づきながら、そうしたハートの部分ではどこまでも東洋のそれであるところが、この映画の魅力ではないだろうか。そう言えばエンディングも、冒頭と同じく死後のチョン・ソウンのモノローグで終わるもんね。

 死者の魂を信じる気持ちは、我々東洋人の特質だからね。

 

 

 

 

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