「ハート・オブ・ウーマン」

  What Women Want

 (2001/02/12)


誇り高くも悲しいワシのイラスト

 女性のみなさんはともかく、男だったらエロ劇画雑誌くらいちょっとは見たことがあるだろうね

 買って読むことはなくとも、中華ソバ屋で待ってる間、チラチラと目を通したりして。あるいは「週刊大衆」とか「実話」とか「アサヒ芸能」とかいったたぐいのイロもの週刊誌。グラビア・ページに「隣りの人妻さん素人ヌード」とかいった企画ものヘアヌードなんかが載ってたりする。

 こうした雑誌は当然広告もそれなりのものを取りそろえていて、決して高級車やらモダンなファッションの広告なんか載ったりしない。載っているのはもっぱら風俗ネタ。はたまた精力剤やら大人のオモチャ…このへんは読んでいるのが男性と言っても若い連中でないことから考えて、まるっきりシャレにならない涙ぐましさ感じるね(涙)。いやいや、他にもまだあるぞ。他の雑誌では絶対にお目にかからない商品の広告が。それはいわゆる「開運グッズ」と称するシロモノの広告だ。

 これが物凄くて、普通の広告みたいにイメージ訴求なんてはなっからめざしちゃいない。商品についてこれでもかこれでもかと細かい活字を並べて解説してる。そこに怪しげな写真。

 例えばアフリカの奥地で命がけで特殊な鉱物を採掘し、これを鋳造してつくったブレスレット。このブレスレットをつけるとあら不思議。仕事が思ったようにうまくいく。いや、実は仕事なんてナマやさしいことは狙ってない。むしろ一攫千金。このブレスレットを手にした男、飢え死に寸前でたまたま拾ったハシタ金を、たまたま宝くじにブチ込んだら大当たり。それを競馬にブチこんだらまたまた万馬券で大儲け。いまや大金持ち…という例のやつだ。

 そこには中国福建省で食うや食わずの生活をしていた男が、今や香港にビルをいくつも持つ億万長者になったとか、ロサンゼルスでホームレスやってた男がハリウッドのスーパースターめざすほどにのし上がりリムジンで送り迎えされる身分になったとか、とんでもないサクセス・ストーリーが決まって写真付きで紹介されている。果たしてその食うにも困る時代の写真を誰が撮ったんだ(笑)とか、スターめざしてるはずの売り出し男がどんな作品でのし上がったのか分からない(笑)とか、考えなくてもオカシイ点は多々あるんだけどね。

 そして、これらのサクセス・ストーリーの最後を飾る記念写真ってのがまた凄くて、たいがいベッドの上に札束を山のように並べて、そこに裸の女たちをはべらせているという図(中に必ず金髪女がいるのはご愛敬だが、ナンシー・ブラックマンさんじゃありませんので念のため)。いや〜、実に分かりやすいサクセスのイメージ! 金、とくれば次はオンナなのだ

 もっと分かりやすいものになると、金が儲かってから…と言わず、開運グッズを身につけただけでなぜか女が寄ってくるとうたってるものもある。フェロモンまで振りまくのかどうかは知らないが、まるで女に相手にされなかった男がたちまちモテモテになっちまうし、女という女がみんなホテルに誘ってくる。いったいそのグッズ、どんな化学物質で出来てるんだ(笑)。まるでネコにマタタビ。

 そんな開運グッズの広告の最も分かりやすいものに、ワシの爪のキーホルダーというのがあった。前に働いていた職場で女の子たちが、誰かが置いていった男性雑誌を広げてみんなでクスクス笑っていたんだが、そこで彼女たちが見ていたのがその広告。そのビジュアルが何て言ったって凄いんだ。

 でっかく羽根を広げて飛び立とうとしているワシの勇ましいイラストがそれなんだが、ただのワシの絵じゃない。両足に何かをぶら下げている。片足にはドルのマークが大きく書かれた袋を下げ、もう片方の足にはセクシーなドレスを身にまとった金髪美女をぶら下げているのだ。「金」と「オンナ」。これほど分かりやすい表現もあるまい。そしてでっかいキャッチ・コピーがど〜ん! いわく、「男の願望をすべて実現!」

 女の子たちはずっと笑いっぱなしだった。いやいや、言いたいことは分かるよ。「男の願望ってこれしかないの?」

 それしかないの(笑)。

 ただねぇ、さんざなぶりものにされ笑い飛ばされているそのワシくんを見ていたら、何だかワビしくなってきた。男の人生ってつまんねえもんだよな。せいぜいツキがあっても、そんなもんしか欲しくないのかよ。こんな夢しかないものか。確かにこれじゃあバカにされても仕方ない。しかし、だからと言ってこれだけ女たちに思いきりバカにされているのかと思うと、それも決して愉快ではないね。そりゃあ確かに男はバカだよ、このワシ見てれば俺だって笑っちゃう。でも、こんなにこのワシにツバひっかけて踏みつけにするほど君たち偉いのか

 久しぶりに、そんな悲しいワシくんの勇姿を思い出しちゃったよな、「ハート・オブ・ウーマン」なんて映画見ちゃったらさ。

 

マッチョなメルギブは「女の時代」にウンザリ

 シカゴの広告代理店に勤める花形クリエイティブ・ディレクターのメル・ギブソンは、仕事も私生活も自信マンマン。「やる気まんまん」は「日刊ゲンダイ」に連載のエロマンガで、男のナニがオットセイの格好して「イクぞ〜」とか言ってやんちゃなんだからもう。もちろんギブソンのオットセイもやんちゃそのもの。ショーガールだった母親の影響で歪んだ女性観を植え付けられたか、男性的な魅力も十分だし活動的社交的なのだが、実は本人が気付かないながらも大事な部分が何かゴッソリと欠けていた。そう。再婚決まったかつての女房ローレン・ホリーも、ロクすっぽ面倒見なかったのですっかりソッポ向いてる娘アシュレー・ジョンソンも指摘する通り、それは女に対するデリカシーの決定的な欠如だ。

 今日も今日とて朝から掃除洗濯に雇っているオバチャンをチョイとからかい、出勤前にコーヒーショップで可愛い店員マリサ・トメイを口説く。厚かましい奴とニラまれても動じない。俺様の魅力を持ってすればどんな女でもイチコロ。落とせない女はいない。あと一歩でオチる手応えをつかむと、後はお楽しみにとっておいて颯爽と出社だ。

 会社ではみんなが実力あるクリエイターとしての俺をチヤホヤしてくれる。同僚のマーク・フェアースタインとの男っぽいオヤジ話題もいい調子。おまえの女をオトす手並みは大したもんだよなぁ、いやぁチョロいチョロい、ハッキリ言ってオンナなんて所詮はコレよ、軽くこの俺様のリーサル・ウェポンがモノを言うだけのこと、それとも「パトリオット」ミサイルかな(笑)? もちろんわが社じゃ飛ぶ鳥落とす勢いの俺様だからして、会社の女の子たちもみんな俺に平伏す。だけどそんな事で偉ぶる俺じゃない。どの女の子にも軽口叩いて気さくに話かけるから、きっとみんなに人気があるハズだ。もちろんどんな会話も、俺様の男くさいスパイス=オヤジ風味が若干きいている。これがウケるための隠し味なんだよな、わっははは。

 今日も社長からお呼びとくれば、待望のクリエイティブ部門の部長のポストが転がり込んでくるのに違いない。いやいやお祝いお祝い。何たってクリエイターとしても絶好調の俺だもの。これくらいは当然だよな。最近は「女の時代」とか何とか言って、どいつもこいつも女にへいこらしやがってアホくさ。チャラチャラした広告ばっかつくってるから、カッコばっかつけて中味はどれもこれもカラッポ。やっぱり最後は、俺様の男くさい広告の実力が真価を発揮するんだよ。ケッ、女の時代だって? クソくらえだよまったく

 ところがアラン・アルダ社長と面会してみると、何だか風向き違ってる。それもそのはず、ギブソンの昇格どころじゃない。その部長ポストには、他社を辞めて移籍してきたバリバリのクリエイター=ヘレン・ハントが座るっていうじゃないか。なぬ〜?こ、この俺を差し置いて女ぁ〜?ど、ど、ど、ど〜なってんですかシャチョ〜?

 仕方ないんだよギブソンくん…と慰めるようにアルダ社長が言うには、今は何せ女の時代だからねぇ。何だよまた女の時代か。でも、モノを売るマーケットとしての男はとっくに終わってる。だから我々広告業界も女の視点が必要なんだ。君じゃ女になれんだろ?

 アッタマきた!

 でも、ハント女史が入社してくるのを止めることなんて出来ない。その初お目見えの日、彼女はさまざまな武勇伝を引っ下げて、肩をいからせやってきた。いかにも「アタシ実力あります言いたいこといいます頭いいです文句ある?ヨロシク」キャリアウーマンを絵に描いたような感じ。男性路線で頭打ちのこの会社を、女性路線に転換させて成功させると豪語する彼女の言葉に、悪ダチ二人組メルギブとフェアースタインはまるきり聞く耳持たない。ケッケッケッこ〜りゃ面白ねえや、アンタは偉れえよ、ハイハイと。そんなみんなにハント女史が配ったのは、箱詰めされた女性グッズ…生理用品やら下着やら化粧品やら。これ見て勉強しろというアピールなんだけど、ハッキリ言って例の二人組に対してはケンカ腰。まぁハッキリ言ってどっちもどっちなんだけどね。

 そんなメルギブにはもう一つ悩みのタネがある。前の女房ローレン・ホリーとの間に出来た一人娘のアシュレー・ジョンソンちゃんが、そのホリー再婚のハネムーン期間中だけ彼の家に転がりこんでくること。だけど親父のことなんざバカにしちゃって、てんで言うこと聞かないんだよね。おまけに頭の中はプロムナイトと年上のボーイフレンドと初体験の事で一杯。

 あ〜あ、どいつもこいつも女、女、女。メルギブ自宅に帰っても気分はすこぶるすぐれない。気分転換にシナトラ聞いて、男臭さが美徳だった時代を懐かしんでみても、そんなものアンコールワットの遺跡並みに滅びちゃって朽ち果てるがまま。仕方ねぇ、何とかその「女の気持ち」とやらになってみる努力をしてやろうじゃないか…と思い立つだけこの男はまだ見どころがある。

 そうなりゃBGMもシナトラって訳にはいかぬ。ちょうど転がりこんでる娘のバッグからCD取り出して、メレディス・ブルックスのヒット曲「ビッチ」かけながら、化粧品使ったり下着を身につけたりもうヤケクソ。やってみると、いやはや女って大変だ。こんなこと毎日やってるなんて奴ら気が狂ってる。

 そんなところに、間が悪いことに娘のジョンソンちゃんがボーイフレンドを連れてご帰還。女装まがいのメルギブの格好に、ボーイフレンドは驚いて帰った。娘は娘で自分のCD勝手に聞かれたと大激怒して、部屋に閉じこもってしまう。あ〜あ、だから俺イヤだって言ったんだよこんなもの。

 そんなフテった油断が死を招く。つい誤って水の入ったバスタブにザブン。おまけに、そこに稼働したまんまのドライヤーが落っこちたからたまらない。

 ビビビッ!

…たって松田聖子のこの前の失敗した再婚の話じゃない(笑)。感電したメルギブ、普通ならこいつ死ぬところだが、さすがにマッドマックスは不死身だね。翌朝手伝いのオバチャンに起こされて目が覚めると、何だかオバチャンいつになく機嫌が悪いのか、メルギブの悪口をブツブツブツブツ言っている。どうしたのぉオバチャン?

 調子狂ったまま街に出ると、何だか「アンタのケツがいい」とか何だとか、ずいぶん女たちがアケスケにものを言ってくる。だが、そのうちに気がつくんだよ。こりゃ彼女たちがしゃべってるんじゃない。彼女たちの心の声が聞こえてくるんだ…と。

 「いい男ねぇ」とか言ってる声が聞こえてくるうちはよかった。慌てながらも出社してみると、ここでも女の心の声が聞こえてくる点では同じ。ただ問題なのは、聞きたいことばかり聞こえてくるわけじゃないってこと。「あんたの冗談って寒いんだよ」「コロン付けすぎで気持ち悪い」「ダイエットしろなんてウルセエんだよ」「エラソーな奴」「一流大学出の私にお茶汲みさせるなんてサイテー」…いやはや、罵詈雑言のオンパレード。俺いつだってモテモテ人気者だったんじゃないの? こんなに女に嫌われてたわけ? が〜〜〜〜〜ん。ショックは大きかった。さすがのブレイブハートもボロボロ(笑)。

 仕事の時間となって「上司」のハント女史の前で意見を言わねばならない時でも、この外野の罵倒がウルサくって気が散って仕方がない。「ダッサ〜」「何考えてるのこのオヤジ」…バリバリなクリエイターだったはずのメルギブも、女たちの陰口にはてんで形無しだ。う〜ん自閉症になりそう、サンダードームにこもりたい(笑)。だが待てよ? この女たちの「本音」をまんまパクれば、俺だって女心をゲット出来るかもしれない

 最初は何とかこの「女心の声」を聞かないようにしたい、元に戻りたいと焦りもがいていたメルギブだったがここで発想を転換、これを有利に利用しない手はないと完全に開き直るんだね。会社の中では女たちの本音を聞き出して先回り。たちまち彼の評判は上がった。反抗しまくりの娘の気持ちも、こいつで何とつなぎ止めようとする。もちろん宿敵ヘレン・ハントの気持ちも読んで先回りだ。これであいつを出し抜いてメルギブな落とし前つけてやるぜ。なめんなよ…ってのは何度も言うけどガクラン着た猫のこと(笑)。

 ところがそんな彼女の心を読んでみれば、その突っ張らかった肩の下にもう一つの彼女の顔がかいま見えた。何とかナメられまい、コケまい、落ちこぼれまいと必死な、不安と孤独と緊張におののく本音があった。そんな彼女を出し抜くために近づいていったメルギブにも、それは意外な彼女の一面ではあった。

 そして同じ会社で働いていながら、普段から単なるお手伝いとして全く顧みられてなかった女の子の孤独な心の叫びを耳にしたメルギブ。彼が柄にもなく彼女に気を止めて優しさを見せた時、彼女の心の本音が聞こえてきた。

 「この世にも親切な人っているんだわ」

 その時、インターセプターで暴走していた時にもイギリス軍皆殺しにしてた時も、もちろん相棒のマータフ刑事と暴れ回ってた時も微動だにしなかったメルギブの胸の内で、何かが起こった。どうしたんだろう? シカゴ広告界でこの男ありと言われ、野心自信にやる気もマンマン、女なんてベッドのお供、いつも調子よく景気よくがモットーのこの俺様メル・ギブソンの心の奥底に浮かんできた、この淡く不思議な初めての感情は?

 それは、他人の気持ちを気づかい人の心の痛みを知るという、まったくマッチョな彼らしくない感情だったのだ。

 

女性監督がメルギブの魅力にゾッコン

 この映画の一番の見せ場、メル・ギブソンが女の心の声を聞く能力を得て会社に出勤してみると、自分に悪夢のように襲いかかってくる女たちの罵詈雑言…というシーンは、やっぱり実感あったよね。あれは誇張なんかじゃないよ。女は本当にあんな風に思ってる。

 僕は子供の頃に病弱で寝たきりになっていたので、朝から晩まで母親と一緒にいた。そして聞かされること聞かされること、親父への不平不満バカアホクソ。主婦連中が家に集まって話す話題がまたこれ惨すぎるもので、とても男どもには聞かせられない。あんなのずっと聞かされてきたおかげで、女は男なんて大嫌いでバカにしきっているということ、それを気取られないように騙しおおせているということを痛いほど知ったわけ。こいつら徹底的に信用できないぞ。この子供時代の経験は不幸だった。

 だって男はアホバカクソ、女はウソつきで独善的で怖いってのが原体験なんだよ。確かに親父は昔の男で、言われても仕方ないところ多かった。だが、母親に明らかに非があるような場合でも都合の悪いことは全部棚に上げて、それ以外の男の傲慢さ馬鹿っぽさと混ぜこぜにしてしまって罵倒してしまう。あぁ、女ってこういう考え方をするんだと知った子供時代以来、どっぷりトラウマ(笑)。

 その一方で女にあれほどバカにされても仕方ない、男という生き物の低脳さ傲慢さ無神経さにもガッカリさせられた。しかもそんな男の資質なら、自分だってたっぷり持っている。自分もこれから陰で延々女たちにバカにされる人生を送るんだと思うとゲッソリ。どうしてこんなに男も女もテメエ勝手でデリカシーに欠けているんだ。…ってことは、俺も負けず劣らずデリカシーに欠けているってことか。あぁ、ウンザリだよ俺も含めて人間どもには。やっぱ男も女もどいつもこいつも信用できねえ。

 そんな子供時代からの気分が蘇ってくるみたいで、この映画の前半部分はちょっとばっかり悪夢だったんだよね。面白おかしく楽しくつくってあるとは思うけど。これただ純粋に笑える人は、自分だけは違うと思える人だ。俺もそうなりたい。でも、本当にそうなのか?

 こんなお話をガチガチなフェミニズム振り回してやられたひにゃ、見るに耐えないものできちゃうところだけど、今回はこの映画ナンシー・マイヤーズの監督ってことで、安心して見てたんだよね。だって、彼女がそんな旗降ってハチマキ巻いて行進するような映画撮りっこないもの

 ナンシー・マイヤーズっていうと、従来ダンナのチャールズ・シャイヤーと組んで映画つくってきた人。このコンビはまず二人で書いた脚本をシャイヤーが監督、マイヤーズが製作に回ってダンナをバックアップというかたちで映画づくりを進めてきた。それが「ファミリー・ゲーム/双子の天使」からはマイヤーズの方が監督に回ることになった。今作「ハート・オブ・ウーマン」はマイヤーズの監督第2作。ただ、なぜか脚本もいつもの二人の作品ではないし、そもそも今回ダンナのシャイヤーの名はスタッフ・クレジットのどこにも見えないのが気になる。うへ〜まさか別れたんじゃないだろうな。この映画ってマイヤーズの男に対する恨み節なのかい?

 ただご心配は無用。二人が別れたか別れてないかは知らないが、マイヤーズって人、女性監督だからって変にフェミニズムの力コブつくった映画なんか撮る人じゃない。「赤ちゃんはトップレディがお好き」「花嫁のパパ」「アイ・ラブ・トラブル」、そして「罠にかかったパパとママ」のリメイク「ファミリー・ゲーム/双子の天使」…とくればお分かりだろう? 少なくてもおしどり夫婦で映画づくりを続けていた今までは、明らかに昔懐かしいハリウッド・ロマンティック・コメディの再現を試みるのがこの人の持ち味だった。うまくいったかどうかは別だけど、とにかく狙いは都会の洗練とシャレっけに溢れたもの。 キャスト的にはゲーリー・クーパー、ケイリー・グラント、ジーン・アーサー、キャサリン・ヘップバーン…などなどが頭に浮かんでくるような世界だね。

 今回はメル・ギブソンが圧倒的にいいんだよ。シナトラの歌に乗って、窓の外のビル街の夜景バックに踊りまくるシーンがあって、ここがこの映画一番の見せ場かも。おお〜、メルギブなかなかやるじゃないか。すごく素敵。大体、最近映画でこんなシーンにとんとお目にかかってないよね。

 だから今回のヘレン・ハントのキャリアウーマンの設定って決してフェミニズムぶん回してなくて、実はこのオールド・ハリウッドでのそれ、例えば「オペラハット」でのジーン・アーサーの女性新聞記者ほどの意味しか持ってない。…というかねぇ、実はヘレン・ハントは一応メルギブと対等の共演というかたちにはなっているけど、やっぱりあくまで「メルギブの相手役」の域を出ていないよね。だって、彼らの恋愛模様って実は添えものっぽい感じなんだよ。あまりマイヤーズもそれ描くの興味ないみたい。

 それより何よりメルギブなんだよね。くだんの踊る彼といい、偉そうで調子いいマッチョな彼、やる事なす事うまくいかずにコケまくる彼、落雷をわが身に受けてマトモ(?)に戻ろうとする時の、雷雨に向かって両手を広げる大げさなポーズの彼、女に優しさ見せ始める彼、あんなメルギブこんなメルギブ、すべて大公開って感じなんだよ。特に女になり切ろうとするくだりのオカシサなんて、男性的なアクションスターの彼がやるから最高に笑える。しっかしこの人、こんなに芝居の引き出しがあるというか、魅力の底が深かったのかとちょっと驚いちゃった。まだまだその一端しか見せてなかったんだねぇ。「リーサル・ウェポン」だけじゃもったいないよな。マイヤーズも、メルギブのまるで昔のハリウッドスターのような、ボリューム感ある堂々とした男優としての魅力にシビれちまったご様子。だから、正直言ってフェミニズム話は一つの口実に過ぎないんだよね。女性監督ドノ自身が主演男優にメロメロなんだもの(笑)。

 でも、それだからよかった。前述のような子供時代のトラウマ持ってる僕にとっては、この映画がコメディ趣向で描いてる「女の本音」くらいでも、昔を思い出してゲッソリしそうだったんだもの。そこをあくまでソフィスティケーテッド・コメディで抑えてくれたから、楽しくおかしいメルギブ映画が出来上がった。そのへんの節度というか、メッセージよりも映画の面白さというエンターテイナー指向は、このマイヤーズの美点だね。ここの彼女の2作見ても、どうやら監督としてはシャイヤーより上かもよ。

 ただ、さっきのヘレン・ハントの件も含め、この映画にはちょっとバランスの悪さ感じるところもある。この映画、この二人の他にマリサ・トメイ、ベット・ミドラーなどのスターがさりげなく出演してる。ミドラーなどは完全にスターのゲスト出演でお楽しみって感じだけれど、トメイは役も結構ツラい役だし、何だか単なる脇役にしか見えない。これはどうしたことなんだろう? 若くしてオスカーとったはいいけれど、彼女その後は作品に恵まれてないよね。あぁ、あのオスカーが仇となっているのかな。…あるいはそれより僕は、監督がメルギブの魅力に目がくらんでの、バランス崩した結果だと思うのだがいかがだろうか? メルギブとハントの恋愛模様が盛り上がらないのもきっとそのせいだ。

 終盤、メルギブは自分のせいで解雇されたハントの家に押しかけ、すべてのカラクリを告白する。自分は過ちを犯してしまった弱い人間だと。この話だけでハントがあの奇想天外な女心の掌握術を納得できたのか(笑)?という疑問はともかく、真相を知ったハントは、自分が復職したらメルギブをクビにすると冷たく言い放つのだ。

 この先バラしちゃえば、映画はこの後でお約束のハッピーエンディングとなる。最終的にはハントが彼を許してキスシーンになだれこむ。このあたりは、それまでの恋愛模様がうまく描けてなかったこともあり、正直言ってあまりシックリこないけどね。

 だが、大事なのはその前。メルギブをクビにする…と、いかにもバリバリでクールで根性悪そうなキャリアウーマン的結論をブチ上げたヘレン・ハントが、急転直下、彼を許すに至る理由がちょっと感動的なのだ。間違いを犯したことを悔い、謝りにきたメルギブを冷たく切り捨てようとしたハント。だけど彼女はその直後、自分も同じ間違いを犯しそうになったと言って彼を許すんだね。この映画のテーマも、このヘレン・ハントの一言にすべて尽きるのではないか。人は誰でも間違いを犯す。それを自ら認めて悔い改め、謝ることが出来るのか。そして相手はそれを許すことが出来るのか。 人を断罪する前に自分の愚かさを気付けるか。そこには…フェミニズムもマッチョもクソもへったくれもない。そして、それは実に単純なことだ。無論男だ女だってことも、実は全く関係がない。アメリカ人だってインド人だって火星人だって、人が二人以上いたら誰だってやることだろう?

 それが、他者と生きていくということなのだから。

 

 

 

 

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