「レッド プラネット」

  Red Planet

 (2001/01/15)


火星まで行っても修学旅行気分の面々

 2050年、地球環境はもはや修復不可能なまでに破壊されていた。そのため人類は新たな居住地を宇宙に求めざるを得なくなった。それが赤い惑星、火星である。

 まず火星に居住環境をつくりだすべく、藻類を送り込んで酸素を作り出そうとした。しかし、途中までうまくいったかに見えたこの計画も、なぜか途中で酸素が再び減少し始めて失敗に終わろうとしていた。

 そこでその原因究明と居住環境の準備のために、火星に有人宇宙船を送り込むことになった。その船長が、頭もキレれば度胸もある、顔もスタイルもグーなキャリー=アン・モス。乗り込んだクルーも多士済々で、頭は悪そうだが体で勝負の機関士ヴァル・キルマー、科学分析チームのリーダーといいながら、これも頭より体タイプのトム・サイズモア、ベテラン科学者のテレンス・スタンプ、環境整備の専門家ながら何だかイジケ根性チラつくサイモン・ベイカー、それに副船長のブライアン・プラットといった面々。

 あと、人間ではないが火星では役に立ちそうなロボットのエイミー。こいつは一見、愛犬のように人間に忠実に見えるものの、元々が軍の持ち物だけに一度戦闘モードに入ると狂犬に化けるというおっかないシロモノではあった。

 火星までの道中にはいろいろある。スタンプの禅問答に頭の悪いキルマーすっかり煙に巻かれたり、イキがってるベイカーにキルマーがエイミーをけしかけて脅したり、船内でつくった密造酒で飲んだくれた勢いで、サイズモアがアン・モス船長を口説いてはフラれたりと、僕らの回りの学校や会社でも行われているよな光景。っていうか、これは修学旅行のノリだあな。しかも引率の先生なしだから言うことなし。人類の危機を救うなんて気概はこれっぽっちも感じない。

 途中、アン・モス船長がシャワーを浴びてるところにキルマーが入ってきて、彼女のナイスバディを見ちゃう一幕もあったりするが、そこはさすがのアン・モス、私を姉とでも思いなさいと軽くいなす。でも内心では失礼な男ねとムカついてるんだよね。あいつには用心しなきゃ。それにしても、ジロジロ無遠慮に彼女の体を眺め回すキルマーもキルマーだ。いやぁ火星よいとこ。そういや修学旅行でも、女子の風呂場とかのぞきに行こうって言う奴、必ず一人はいなかった?

 さて、そんな事やってるうちに宇宙船は火星の軌道に入った。着陸しようかと思ってたとこに好事魔多し。太陽のフレアとかで放射線が飛んでくる。機械はブッ壊れて火花がバシバシ。アン・モス船長はクルーを全員着陸船に逃がし、自分は母船に残って何とか体制立て直そうとする。早くも一人脱落者が出るんでイヤ〜な予感がただようクルーたち。

 ガタきてる機械をダマしダマし、最後は手動で着陸船を切り離したアン・モスだったが、今度は母船内で次々火災発生とあってはウカウカしてられない。でも消すそばから火が出ててんやわんや。

 着陸船の方も機械がダメージ受けて思うように動かず、着陸装置も切り離さざるを得なくなった。そこにはあのエイミーも入ってるんだけど、この際そんなこと言ってられない。何とか手動で着陸しようとするが、もう着陸予定地点がどうとかの問題じゃないね。カッコよく着陸することも望んじゃいない。大気圏突入していよいよ地面が見えてきたら、船の回りにエアバッグみたいな風船いっぱい膨らませて、ゴツい地面にハード・ランディングだ。

 母船の火災は手がつけられないとこまできたんで、アン・モス船長一計を案じて宇宙服を着ると船の扉を開けた。船外に空気が吹き出して火災も鎮火してきたのはいいけれど、危うく自分まで船外に放り出されそうになるアン・モス。そこを股関節で踏ん張ったのはお見事、さすがアッチも日頃から鍛えてるぜ。

 ボヨ〜ンボヨ〜ンと派手に火星の地面をはずむ着陸船は、ゴロゴロ転がって止まらない。着陸したとこがこれまたひどくて、岩場、谷底がいっぱいあるんで、どこまでも転がり落ちていく。中のクルーもモミクチャ。やっとこ止まって何とか船を出たクルーだが、事前に火星に送り込んでおいた居住施設は遙か遠くだ。でも、そこまで行けば何とかなる。食料も水もエネルギーも機械も医療品も全部あるんだから。

 しかし、何だかスタンプの表情はサエない。機械で検査してみたら内臓破裂しちゃってるというではないか。ここでスタンプは、もう歩けないし手遅れだからとリタイア宣言。さすがにイギリスから来た男も音を上げた。これにはスタンプとの禅問答がよくわかんないながらも親しくなってたキルマーは大ショック。でも、薄情なベイカーはサッサと先に歩き出してるぜ。酸素には限りがある。居住施設はどこにあるか分からない。夜ももうすぐやってくる。現実は「アメリカ縦断ウルトラクイズ」よりキビしいわけ。しかしスタンプ、たったこれだけのためにこの映画に出たの?

 その頃母船では何とか火を消して一息ついたアン・モスだが、機械は壊れてるし通信は切れてるしパワーは回復しないしでガックリ。これを何とかしなくちゃあと、まるでワンパク盛りのガキに洗濯したそばから服汚されるお母さんみたいに疲れ切ってる。あたしも火星に降りたかったのに、何でこんなとこでこんな面倒くさいことしなくちゃならないのよぉぉぉ〜。

 

火星探検クルーの受難は続く

 さて、火星の砂漠をエッチラオッチラ歩いてるクルー一行。そういう時には抜群の生命力でリードするキルマーは、何とかかんとか居住施設まで一同を引っ張った。ところが、たどり着いた施設は何者かにメチャクチャに破壊されて使い物にならないじゃないか! 何とかここまでやって来た一同は、ガックリ肩を落とした。第一、酸素が底をつく。万事窮すか。何もやる気がなくなった。座り込んじゃったキルマーはのんびりサイズモアと一緒におしゃべり。アン・モス船長いい女だったよな、俺惚れてたんだぜ…とか、またまた修学旅行の夜の男子中学生なみの会話で時間つぶす。何だかこの二人、肉体派どうしでウマが合いそうだね。

 一方、ベイカーとプラットのほうは谷底まで歩いていって、火星の景色を見納めとシャレこんだ。しかし、こんな状況になってもベイカーの奴ときたらグチグチグチグチとボヤきまくり。プラット副船長におまえの操縦ミスでこうなったとグチたれまくり。せっかくこれだけの絶景を前にして、くだらないグチをイヤと言うほど聞かされたプラットはさすがにたまりかねて言い返す。操縦ミスじゃないし、うまく着陸できても居住施設があのテイタラクじゃどうにもならなかったじゃねえか。それでもベイカーのグチは止まらない。プラットも怒った。おめえときたら、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女みてえな野郎だな!

 このセリフにベイカーは逆ギレ。何だとぉ?俺のどこが、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女みてえな野郎なんだよ? だからその言いぐさが、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女みてえな野郎だって言うんだよ。何をっ? もう一度、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女みてえな野郎って言ってみろっ! おう、上等じゃねえか、おまえは、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女みてえな野郎だよ。なにぃ、クソ〜、これでも言うかっ?

 いきなりベイカー、プラットを突き飛ばして谷底に叩き落とすんだよ。プラットは不意打ちくらって、「バーティカル・リミット」のクリス・オドネルでもビビりそうな谷底に一気に落っこちてく。あぁぁぁ〜〜〜だから俺はあんな、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女みてえな野郎と一緒に火星なんか来たくなかったんだよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜って、このセリフ全部言えるくらい谷底は深かった(笑)。

 さすがにプラット落としちゃったベイカーは、てめえがデートに遅刻してきたくせにやれディズニーランド行ったら混んでたとか飯がマズかったとか暑かったとかグチグチ文句たれるワガママ女が、直後に男から別れ話切り出された時みたいに、サッと青ざめちゃった…って、ちょっとしつこすぎましたね(笑)。

 やりすぎちゃったなぁ。でも、ここは火星。俺ももうすぐ死ぬんだし、まぁいいか。ベイカーはテクテクと他の二人の所に戻って、あいつ身投げしちゃったぜとか、誰も聞いてないのに言い訳しちゃってさ。キルマーもサイズモアもそれどこじゃないから、フ〜ンなんて感じでロクに聞いちゃいない。そんなことしてるうち、本当に酸素なくなってきた。

 く、く、く、苦ちぃ〜〜〜〜〜〜〜っ!

 キルマー我慢しきれなくなって、思わずヘルメット脱いじゃった。パンツまで脱いで死ぬ前にひとコキと思ったかどうか。その時、ハタと自分が息してることに気づいたんだね。おいおい、みんな酸素があるぜ!

 あわてて、ヘルメットを脱ぐ他の二人。ホントだ、薄いけれど酸素がある!

 この際、何でないはずの酸素があるのかなんて誰も考えてない。だけど他の二人にボソッと、プラット身投げしなけりゃよかったのになぁ…と言われると、そ、そ、そ、そうだね…と浮気してきたのに嫁さんに優しくされたダンナみたいにオドオドして言うしかなかったベイカーであった。

 そうこうしてるうちに夜が来る。寒さが骨身にしみる三人は、施設の残骸燃やして暖をとる。すると、なつかしやあのエイミーちゃんがやって来るじゃないか! おまえ生きてたか!と忠犬ハチ公見たようにハシャぐ一同だったが、実はこのエイミーは狂犬。いきなり襲いかかってくるから一同ビックリ。どうも墜落のショックで戦闘モードに入っちゃったらしい。サイズモアが襲われ肋骨折られるが、すぐにエイミーは引き上げていった。何だ、あいつ戦闘モードになっても情がある奴だなとヌカ喜びするサイズモアに、バ〜カゆっくり苦しめて殺す気だよと冷たく言い放つキルマー。火星には娯楽がないからな。

 さて翌朝、重い足取りで出発するクルーたち。どこへ行くんだって? 昔の火星探査機がチャチな無線機積んでたんで、それで母船と連絡取ろうというわけ。ここでもリーダーシップ発揮のキルマー。

 その頃何とかかんとか復旧作業を続けるアン・モス船長は、どうやら地球と交信することが出来た。引き返してこいと言われた彼女は仲間がいるからと突っぱねるが、彼女とて彼らが生きてる確信なんてないんだね。母船からのカメラでブッ壊れた施設の状況見たらなおさらそう思う。そして、引き返すにはタイム・リミットがあると聞いて愕然。それまでの間は何とか待つか。

 そこへやっとこキルマーから連絡が。大喜びするアン・モス。あれぇ?無礼な男と思ってたんじゃないの? 実はあの無礼な一件以来、何となくキルマーが気になるアン・モスだったのだ。そうそう、こっちは好きな女の子に優しく優しくしてたのに、結局一番失礼な男にかっさらわれちゃったことあったよな。結局女はこれかよ。いやよいやよも好きのうちってか?頭くるぜまったく、やってられねえよな。

 アン・モスがいろいろ調べた結果、連中からちょいと離れたところに、ロシアの昔の探査船が着陸してることをつきとめる。運良ければそれ動かして離陸することが出来るから、それで母船に帰ってきてねダーリン。だけど、それは二人しか乗れないんだと聞かされ、複雑な面もちのキルマーだった。

 ところが今度は火星名物大吹雪。一歩も進めず穴ボコに避難の三人。穴の中でこれといった話題も猥談も出尽くし、トランプも枕投げする枕もないので、ついロシア探査船が二人しか乗れないと打ち明けちゃったキルマー。でも、修学旅行の夜なんかについ気を許して好きな女の子の名を打ち明けたら、それ聞いた奴にチャッカリ抜け駆け先手必勝キメられちゃったりするから、不用心に何でもしゃべっちゃいけないんだよ。マズいと気づいて、おまえらが乗ってくれ俺残るからと付け足すキルマーだが、ここでイジケ男のベイカーが本領発揮した。おまえら俺がプラット殺したって思ってんだろ?そんな俺をおまえらが助けるたぁ思えねえよと言わなきゃいいことブチまける。バカだねこいつは誰もそんなこと聞いてねえって。根性曲がりは他人も自分と同じくらい根性曲がってると決めつける。このバカのおかげで余計気まずくなって、穴ん中で居眠りこくしかない一同だった。

 だけどベイカーは抜け目ない。吹雪やんだと見るや眠りこけてる二人を横目に、せっかくの無線機かっぱらって一人で穴を出た。だけどこいつは忘れてたんだね。とんだ道連れがいたってことを。

 

飾りも無駄もない冒険映画の醍醐味

 この映画、とにかく描写の一つひとつが妙にリアルなんだよね。で、起きる事件もビックリすることが起きない。最近のハリウッド娯楽映画はとにかくケレン味ハッタリがたっぷりあるのが定石なのだが、この映画は確かに手に汗握る描写もSFXもふんだんにあるけど、実際起きそうな事件しか起きない。ロボットとかは出るけど、妙ちきりんなエイリアンとか出てこないしレーザー砲とかもない。だから、ある意味で淡々とした映画と言えなくもないんだね。それが、最近の映画に慣れきったお客さんの目には単調でおとなしく写るかもしれないが、僕にはむしろ好ましく思えたよ。火星という舞台設定は確かに新しいが、これは冒険映画としての王道をいってるわけ。ある意味でコロンブスの航海の話なんかと大した違いがない。そこが逆に新鮮なんだよ。

 こうした感触に何か似通った映画あったよなと考えていたら、あったあった。1965年のソ連SF「火を噴く惑星」が。金星探査に出かけたクルーたちが遭遇する、奇妙な冒険の物語。確かに変な生物とかは出てくるし、金星そのものの科学考証も今の目から見たらお粗末そのものだけど、娯楽映画につきもののケレン味がなく淡々とした描写。火山の噴火とかに出くわしたり金星の海を渡ったり、それが見る者の冒険心のツボを快いほど刺激するんだよね。こういう映画は、かつては宇宙探検ものとしてそれなりにあったと思うけど、SFXが発達してCG描写が大流行の最近のアメリカのSF娯楽映画ではとんとお目にかからなくなった。ただ、ひたすら未知の世界で予想外の事態に遭遇するクルーたちの姿を、非情に見据えるハードで辛口の描写がどこまでも大人のそれなのだ。アン・モスとキルマーに通いあう恋愛感情が、ちょいと甘いとは思うがそこはそれお約束。そんな懐かしい冒険アドベンチャー、探検映画の醍醐味を、火星という新しい舞台で最新テクノロジーを駆使して堂々と描ききったところが面白さなんだよ。

 キルマー以下のキャスト陣も何だか華のない連中だなと思ってはいたが、そのキラキラがないところがリアルで辛い面白さなんだね。今回のキルマー、飾り気がなくってなかなかよかったよ。

 監督のアントニー・ホフマンってこれまでCF撮ってた新顔だけど、この無駄のない演出でアクションとかサスペンスとか撮ったらいい味かも。テレンス・スタンプの使い方とかちょっともったいなかったとは思うけど。いささか地味ながら、このハードな味付けは好ましく思ったね。

 それに何だかんだ言っても、クルーたちの受難がアクシデントと人為的ミス、そして人間の浅はかさから起きてるってとこが説得力あるよ。キルマーは火星なんてファック・プラネットなんて言ってたけど、ファックなのは火星のせいじゃない

 地球でも宇宙に出ても、よしんばそこが火星であっても、人間の足を引っ張るのはいつだって人間なんだから。

 

 

 

 

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