「ホワット・ライズ・ビニース」

  What Lies Beneath

 (2001/01/08)


映画作家たちを金縛りにするヒッチコックの呪縛

 今年2001年の正月元旦に、実はこのサイトでもおなじみのネット映画ファン、あむじん氏と会ったんだよ。で、二人で今年一番お正月らしい映画「シックス・デイ」を見た。見ながらあむじん氏、何度もウトウトしちゃったってのは、また別の話だけど(笑)。

 その後、あむじん氏の自宅に招かれて、ご自慢のDVDを見せてもらいながらダベってた。その中で一番興味深かったのが、あの「サイコ」リメイク版だったんだよね。

 実はこの「サイコ」リメイク、僕は見逃しちゃったんだよ。で、一回見たいと思ってたわけ。でも、あむじん氏はあんまりいい顔しない。あむじん氏も興味持って買ったけど、失敗したってボヤいてた。その理由は見始めてすぐに分かったんだよね。だって、あまりにモロ「サイコ」まんまなんだもの。

 で、本編はやめてメイキング・ドキュメント見始めたんだけど、これは文句なく面白かった。冒頭にいろんな映画人やら一般の映画ファンの声が入ってて、これが傑作。どいつもこいつも「サイコ」なんてリメイクするのはバカげてる、やめたほうがいい…って言ってるんだよ。

 監督のガス・ヴァン・サントって結構面白い映画撮ってる才人じゃない? その彼が何を血迷ったか「サイコ」の丸ごとコピー。彼が独自の解釈で、今の「サイコ」つくるんなら分かるんだよ。ところが全く同じなんだからね。あれにはマイッタ。

 あれだけの完成度の作品なんだからイジる必要なし…とか、ヴァン・サントも訳のわかんないこと言ってる。だったらリメイクしなくていいじゃん。

 アングルから使ってるテクニックまでほとんど一緒ってのには驚いたけど、ヴァン・サントは大まじめ。彼とにかくヒッチコック版オリジナル「サイコ」が好きみたいなんだよ。で、自分でもつくりたくなった。でも、大好きだからそのまんま。撮影現場のモニターで、オリジナル版を確認しながら撮ってるんだから恐れ入った。

 これほどの才人にして、作品成立のための善悪の判断を分からなくさせるほど、ヒッチコックの呪縛って凄いものなのか。このメイキングを見て、逆に今更ながらヒッチコックの偉大さというか、そのオリジナリティの強さを思い知った次第。そういう僕も年末には「北北西に進路を取れ」と「めまい」のDVDを買っちゃった(笑)。やっぱり面白かったし凄かったよ。

 現代第一線級の映画作家たちを魅了し捕らえて離さない、離さないのが勢い余って金縛りにあわせちゃう物凄い映画作家アルフレッド・ヒッチコック。そのヒッチコックの生け贄として、またハリウッドの実力者が一人捧げられるハメになった。その生け贄の名は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で名を上げ、「フォレスト・ガンプ/一期一会」で大物となったロバート・ゼメキス。作品の名はこのお正月映画の目玉の一本「ホワット・ライズ・ビニース」だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

映画見る前に読まないほうがいいです

 

 

 

 

 

 

 

中年夫婦を襲う謎の怨霊?

 ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーの中年夫婦は、手塩にかけて育ててきた一人娘を大学の寮に一人暮らしさせ、また二人きりの生活に戻ることになった。フォードは学者でただ今ライフワークともなる論文の追い込み真っ最中。だが、このフォードの今は亡き親父はさらに高名な学者で、実は自分の話になるといつも親父の名が出てくることが内心面白くない。美しい湖畔に建った親父の邸宅に引っ込んだ際に、原型をとどめぬほどの大改築をほどこしたのも、そこかしこに漂う親父の臭いを何とか消したい一心だったのか。そんなに親父の臭いがイヤなら、エアーシャルダンでも買ってくればいいのにネ(笑)。

 ファイファーはというと、愛する娘を手放して大泣きに泣き、何となく心の中がポッカリ。田舎の家は静まり返って、フォードが出勤した後はそれでなくても暇はありあまり。ついつい、結婚によってあきらめたチェロ奏者としてのキャリアを思いだしては惜しんだり。こうなりゃフォードが帰宅した夜には、やるこたぁ一つしかないでしょうが一つしか(笑)。

 隣に最近引っ越してきたのは、フォードと同じ研究所に勤めるジェームズ・レマーとミランダ・オットーの夫婦。ところがこの夫婦、昼間っからド派手な大喧嘩。大丈夫なのかと心配していると、夜は夜でド派手にナニをやらかして、嫁さんの声がまる聞こえ。確かにケンカの後って妙に興奮したりしますよネ(笑)。ともかくお隣り夫婦の激しい声に刺激され、思わずいい歳こいて夜の営みにも気合いが入るフォード、ファイファーのお二人でした。

 ところがある時から隣の様子が変だ。隣の嫁さんが何だか怯えるように泣いている。そのうち嫁さんまるっきり出てこなくなる。しまいにゃ人ぐらいの大きさの荷物持ったレマーが家から出てきて、車に乗せて運び出すところも目撃した。

 ファイファーは暇なもんだから、引っ越し歓迎のご挨拶をと自分に言い訳しながら、隣の家に偵察に行った。すると誰もいない上に血染めのサンダルなんか落ちてるじゃないか。

 それと時を同じくして、自分の家でも異変が起きていた。玄関のドアが何度閉めても勝手に開く。パソコンが勝手にスタートする。変な空耳が聞こえる。いつの間にかバスタブに水が入ってる。そこで見ちゃったんだよね、おっかない顔した女の亡霊を

 キャ〜〜〜〜〜〜!!!!

 こんな嫁さんの具合を重く見たフォードは、彼女を精神科医ジョー・モートンのもとに行かせるが、いくら治療を続けても効果は上がらない。それどころかファイファー、絶対に隣の家の嫁さんは殺されてて、その霊が自分に働きかけているに違いないと思いつめ、旧友のダイアナ・スカーウィドを相手に降霊術やらこっくりさんやらをおっぱじめるアリサマ。あげくの果てにフォードの職場まで押しかけて何とかしろとわめき、勢い余って通りかかった問題の隣人レマーをつかまえて「おうおうおう、黙って見てりゃいい気になりやがって。この嫁さん殺しがぁぁぁ!」とラストのお白州での遠山の金さんばりにタンカを切った。ところがそんなハッタリかませたすぐ後に、死んだと思ってた隣人の嫁さんオットーが夫のレマーに駆け寄ってきたからたまらない。これには神経ブチ切れファイファーもさすがに頭が冷えた。

 あちゃ〜、あんた生きてたのね?

 なまじっか衆人環視の前で得意満面に大見栄切っちゃったばっかりに、近年金さんを当たり役にしてた松方弘樹が離婚騒ぎ以来めっきり元気なくしちゃったのとご同様に、ファイファーすっかり勢い失ってシュ〜ンとなっちゃった。昔は松方も「キツ〜い一発!」とか訳わかんないキャッチフレーズで女千人斬りとか豪語してたけど、今じゃすっかり陸釣りのほうはあきらめて、もっぱら釣り具用品の上州屋のテレビCMで細々と食いつなぐ日々だ。今日び女に嫌われたら芸能界で仕事ないからね。

 それでも身の回りの怪奇現象だけは収まりゃしない。今日も今日とて額に飾った写真が、風もないのにブ〜ラブラじゃなくって(笑)下に落っこちてパリンと割れた。すると額縁に新聞記事のスクラップが隠してあるじゃないの。それは若い女の失踪事件の記事。インターネットでこの失踪者の資料を調べたら、何と!例の幽霊はこの女だよ。

 やっぱりあれは錯覚なんかじゃない。確かに隣の嫁さんは生きてたから間違いだった。でも、この若い女は絶対殺されてるわ

 あの赤っ恥にもまったく懲りてないファイファー、これで墓穴掘らなきゃいいけどネ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレしないつもりだけど

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

ヒッチのテクニック使って魂入れず

 これ読んだだけでも勘のいい方ならすぐお分かりのように、映画始まってすぐに「これはヒッチコック映画へのオマージュものだな」と誰でも感じる分かりやすさ。だから、この映画のここが「裏窓」だの、ここが「サイコ」だのって指摘はイチイチやらないよ。インタビューでも監督のロバート・ゼメキス自らヒッチコックの名前を引き合いに出してるくらいなんだから。

 ゼメキスっていうと、僕は出世作の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」あたりがすぐに頭に浮かぶ。あとは「ロジャー・ラビット」かな? ま、師匠のスピルバーグ直系の童心全開映画だね。

 でも、今の人ならたぶん「フォレスト・ガンプ/一期一会」だろうね。あの映画をどう評価するかはいろいろ意見あるだろうけど、まぁゼメキスも大人になったなぁという感慨が僕の持った印象。この後は、「コンタクト」など見ても分かるようにちょっと作風が一味変わってきた。

 今回の作品も、どっちかというと主人公の年齢設定から言って大人の雰囲気漂う作品。そこにハリソン・フォード、ミシェル・ファイファーというゼメキス初顔合わせで「らしくない」キャスティングを組んでいるところが、かつての「童心」ゼメキスと一線を画すところ。まぁ、このフォード&ファイファーというキャスティングは、往年のヒッチコックが主演にいつもケイリー・グラント、ジェームズ・スチュアート、グレース・ケリー、イングリッド・バーグマン、キム・ノヴァックといったスターを配したがったのをなぞっての事と思われる。ヒッチコックはスターの持つイメージが好きだったし、時に「サイコ」のアンソニー・パーキンスやジャネット・リーなど、そのスター・イメージを逆手にとったサスペンス演出も好んで行っていたからね。

 だけどねぇ、ヒッチコックへの愛は分かるんだけど、結局ゼメキスも金縛りにあっちゃったのかな。あたかも「サイコ」リメイクをつくったガス・ヴァン・サントが陥ったように。

 さっき、ここが「裏窓」、ここが「サイコ」って指摘できるって書いたけど、本当にマジでヒッチ的につくろうとして、あんまりにも「モロ」すぎ「まんま」すぎなわけ。僕はヒッチの巧みな設定をこう取り入れたよ、ヒッチのテクニックをこう使ったよ…って言いたいのがアリアリなんだよね。でも、いくらテクニックを駆使したところで、ヒッチ映画のハートの部分はパクれない。

 それに、ヒッチより脚本も演出もずっとあざとくて、観客に対するダマしのテクニックもうまくないみたいで、何だかアンフェアな納得できない気分だけが残っていくんだよね。

 特に後半にいくにしたがってマジの幽霊がバンバン出てくるあたり、これはもうヒッチじゃないんだよ。まるでB級ホラー並みで結構エグい描き方。事件の解決をはじめ、ドラマの展開の要所要所が結局この幽霊のおかげと受け取れるつくり方。だけど物語の原動力を幽霊のおかげ、超自然的なもののおかげにしちゃったら、最初からこの映画はロジカルなミステリーではなくなっちゃうんだよね。超自然的なものが事態を動かしていくのなら、それはオールマイティーな存在なんだから、何も苦労していろいろ段取りつけてドラマ組み立てていく必要なかったんじゃないの?と言いたくなる。

 また、仮にあの幽霊があくまでファイファーの頭の中でつくり出されたものだとするなら、今度はつじつま合わなくなってくる。とにかくミステリー・サスペンスでいくと見せてるのなら、幽霊見せちゃダメだよ。こういうの出した時点で、もう「何でもあり」になっちゃうんだから。

 正直言ってこの幽霊の登場は、ヒッチというよりもゼメキスのもう一つの好み…B級怪奇映画指向が出ちゃった結果なんだろうね。最近、往年のB級ホラー作家ウィリアム・キャッスル作品のリメイクを企画し、その一作目として「TATARI」を発表したゼメキスだから、この展開はうなづける。だけどロジカルなスリラーやサスペンスと超自然的なホラーって、最近でこそゴチャゴチャに混同されるけど、実は両者相容れないものだと思うんだよね。今回の作品で何だかイヤなダマされ方しちゃったみたいな気分になるのは、そのへんの構成がいいかげんだからじゃないかと思っているんだけど。都合の悪いところからホラーになっちゃう…みたいなズルさを感じさせちゃうわけ。

 あと、気になるのが「2大スター」だよね。フォード、ファイファー共演でゼメキス演出とくれば、前ならすごい黄金カードだと思えたし、今でもそうだと思って使われているんだろうけど、なぜかその輝きがない。特にフォードが著しく精彩に欠けるのは一体どうしたことだろう?

 彼みたいな大スターで、一貫してヒーローや善玉を演じてきた俳優が今回の作品に出るには、それなりの覚悟も理由もあったろう。これを言ってはお気の毒ながら、フォードの場合は「6デイズ7ナイツ」、「ランダムハーツ」と主演作が連続でコケまくったという背景があったはずだ。だから強力スターとの共演、実力派監督の演出というパッケージが必要だったし、新生面の開拓が急務だった。ある意味でカミシモ脱いでなりふり構わずエグい作品への出演もやらねばならない必然があったと思うんだよね。ところがそれが見ている側に伝わるのか、何だかジリ貧という言葉がピタリ当てはまりかねない雰囲気が漂っている。あのヒーロー=フォードが??という意外性を重視したキャスティングだったんだろうが、今回彼は画面に登場しても何となく元気ないのだ。少なくともかつてのように、出てくるだけで絶対な安定感、信頼感を醸し出してはくれない。本来だったら、従来のそうしたスター・イメージに加えての、新たな魅力の創出となり得たところだろうけど。これはフォードという大スターにとっては大変な危機かもしれないね。彼が今ごろになって飽きあきしたと言ってたはずの「インディ・ジョーンズ4」の企画にご執心なのも分かる気がするよ。

 ミシェル・ファイファーも、前作は「ストーリー・オブ・ラブ」だもの。成功作がノドから手が出るほど欲しかったはず。こうした思惑が見え隠れしちゃうところが、この作品の最高に怖いところかも(笑)。

 確かに企画の勝利か、アメリカでは大ヒットを飛ばしたこの作品だが、関わったフォード、ファイファー、ゼメキスたちのキャリアにとってプラスになるかどうかは、今後を見てみないとちょっと分からない。だって彼らは多くの映画人がその囚われ人となり運命を狂わせた、タチの悪い亡霊に手を出しちゃったんだからね。

 そう。この映画の亡霊って、実はハリソン・フォードの不倫相手が死んで出てきた亡霊のことなんかじゃないんだよ。だからなおさらタチが悪い。

 それは今でもハリウッド界隈を取りつく相手を探してほっつき歩く忌まわしき存在、誰あろうアルフレッド・ヒッチコックの悪霊なのだから。

 

 

 

 

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