The World Is Not Enough for KOREAN FILMS

「シュリ」と韓国ニュー“ニューウェーブ”映画

"SHIRI" and Korean New 'New Wave' Films


Fは「シュリ」をこう見た

F's Review of "SHIRI"

では、Fこと私は、この話題作「シュリ」をどう見たのでしょうか? 率直のところ面白いのか面白くないのか。一切を包み隠さずお話いたします。


 男と女を隔てる「国境線」を越えて

  Over the "Borderline" between a Man and a Woman

 夫馬 信一

 by Shinichi Fuma

 

プロローグ・わが国の韓国映画公開史上記念すべき日

 1月22日午前10時、新宿歌舞伎町のミラノ会館周辺は騒然とした雰囲気に包まれていた。ミラノ座入口から長蛇の列が始まり、新宿東急の横を曲がって伸びる。その最後尾に私もいたんだけど、実はすでにこの時点でここまで列ができているとは予想もしなかったんであわてた。ただ、なぜか虫の知らせがあったのか、すでに開いていたプレイガイドに飛び込み、前売り券を買っておく機転が効いたのは我ながら天晴れ。劇場側は寒い中にお客を長い間待たせるわけにもいかないと思ったか、10時30分前には開場してお客を中に入れた。さすがに土曜日でも朝っぱらの第1回上映。新宿歌舞伎町でも最大キャパの映画館ミラノ座だけに、そうそう満員にはならないものの、それでも見た限りじゃ7〜8割の入りというところか。まずまずという感じ。上映開始までの場内の雰囲気は、話題作に特有のあの感じ…これから始まる映画に対する期待感と、自分たちがそれを目撃する最初の人間(試写会や映画祭での上映など例外はあるものの)になるという高揚感でギンギンになっているのがわかる。いや〜、こちとら相当すれた観客になっちまってるから、正直言って映画見る前にこんなに緊張したの久しぶりやわー。

 話は上映後に飛んで、見終わったお客さんたちの反応はともかく、トイレに行って帰ろうと思って驚いた。客席の両側の出入口には、次のお客が列をつくっててギッシリともの凄い人だかり。とてもトイレなんか行けるような状況じゃない。

 何だ、何なんだこれは? 「スター・ウォーズ」の新作か? ウワサの「インディ・ジョーンズ4」か? それともディカプリオの「ザ・ビーチ」か?

 それはまぎれもなく北朝鮮工作員と韓国諜報員との戦いをサスペンス・アクション仕立てで描いた100パーセント混じりっけなしの韓国映画、「シュリ」の東京での初日風景だったのだ。

 「シュリ」が相当凄い…というウワサは、実は昨年の早い段階で、私のようなちょっと韓国映画に関心のある人間にも届いていた。当時は「シュイリ」とか「シュエリ」とかいろいろな呼ばれ方をしていたこの映画は、東京・渋谷で開催されていた「韓国新世代映画祭」の時も話題にのぼってたし、「八月のクリスマス」公開時点で主演のハン・ソッキュの話題の新作としてすでに知られてもいた。

 そのうち韓国での異常とも言えるバカ当たりぶりが伝えられるとともに、「八月のクリスマス」が好評で受け入れられたこともあって、わが国の一般映画ファンの関心をにわかに集めることになった。と同時に、北朝鮮工作員の描き方がかなりドライに乾いていて、旧来の反共映画のような臭みが皆無であること、何より映画自体が旧来の韓国映画独特のアクのない、エンターテインメント性が強い作品(そのアクこそが魅力と言えばそうなのだが、ビギナーにいきなりあれは正直言ってキツい)であることが、話題として浸透していった。

 こうなると元々「面白い」映画には貪欲な映画ファンだ。誰よりも先にこの話題作を見ておきたい。日本では、東京国際映画祭がその最初の舞台となった。しかも、韓国映画というと十八番の「シネマ・プリズム」部門でも、コンペティション部門でもない。リュック・ベッソンの「ジャンヌ・ダルク」などと同じ扱いの、特別招待作品としてお目見えすることになったのには驚いた。だが、もっと驚いたのはその後だ。上映会場にお客が入りきらず、あわや暴動寸前だって? ホントか? これホントに韓国映画に起きている出来事なのか? 別項に書いた通り、これでもちょっとは韓国映画をかじり関心を持ち続けた人間としては、信じがたい事態が発生しているとしか思えなかった。

 そして、ついに迎えたこの日。韓国映画ファンの方のサイトの掲示板のぞいたら、かなり高揚したコメントが続々書き込まれていたけど、私は「マニアでもミーハーでもない映画ファンのサイト」の主宰者として、この映画をみなさんにフェアに見て伝える義務がある。韓国で「タイタニック」を凌駕するほどのメガ・ヒットを飛ばし、かなり見せ場ギューヅメのエンタテインメント大作とのふれこみの「シュリ」、その実際は果たしてどうか? 所詮、一部の映画マニアだけが勝手によがって終わるのか? それとも、みんながビビるほど娯楽性満載の作品なのか? どうだどうだ、どうなんでぃ!

 

 

ここから先は映画を見てから!

 

 

梶原一騎からハリウッドまで娯楽要素を真空パック

 開巻いきなり字幕で、第2次大戦後に朝鮮半島は北朝鮮と韓国に分断されて、同じ民族がにらみ合う状態が続いていた…みたいな説明が入る(なぜか英語で)。これ、英語で書いてあったことから国際バージョンにのみ付いていたオープニングかもしれないが、この「シュリ」という映画の全編が北朝鮮スパイのテロを題材にしているにも関わらず、南北分断に関する言及は何とこの部分だけというのは驚き。あとは敵役の北の特殊部隊リーダーがブツブツ言うぐらい。南北対立のことなんて韓国の人にとっては日常の中にあることだから、あえて言う必要もないとは言え、それにしても過去の韓国映画を見てきた経験から考えると、あまりにアッサリした扱いと言える。考えようによっては「スター・ウォーズ」シリーズの最初に出てくる帝国軍と反乱軍についての説明みたいなこの前フリは、「これから始まる映画は南北問題を背景にしてるけど、政治的なステートメントはなしだよ」と宣言しているかのように思える。

 そしていきなり北風寒そうなススキの原っぱでの、北朝鮮の特殊工作員の演習シーン。そう言えば、北朝鮮の怪獣映画「プルガサリ」でも、舞台は大半が枯れたススキが寒そうな原っぱ。北朝鮮というとススキなのかね? この演習ってのが凄くて、ただ特訓するだけでなく実際に人を殺しちゃったりする。中には銃の組立て競争みたいのがあって、何となく楽しそうでしょ? でも、先に組み立てたほうが、その銃で相手撃っちゃうんだよ。無茶な。しかし、パンフ見るとこのシーンは実際の亡命者の証言を元につくった実話だとか。ホンマかいな。すると、大韓航空機爆破事件の美人テロリスト真由美ことキム・ヒョンヒも、こんな特訓やってたのだろうか? 食い物もないし寒そうだし、「フルメタル・ジャケット」より訓練キツそうだし、やだな〜と思ってると、この訓練の中で頭角を表してくる女の子が一人。なぜか長髪の左翼くずれ(そりゃあ左翼だわな!)ふうのクラ〜い顔の部隊のリーダーも彼女に特別目をかけてるみたい。この特訓の場面の全体のトーンは、まるで「タイガーマスク」の“虎の穴”か「巨人の星」のオズマの秘密特訓みたいで、そこにたちのぼる異様な情念も含め、モロ往年の梶原一騎原作のスポ根劇画を連想さえさせる。やがて特命が下って、彼女は車に乗せられ任務へ…さぁ、いよいよお楽しみの始まりだ!

 舞台はいきなりソウルへ。SWATチームみたいな大部隊の建物突入あたりから、切れ味いいアクションを見せる。おっ? いい感じじゃん。その中にいるのが韓国情報局「OP」の」諜報員、「八月のクリスマス」も記憶に新しいわれらがハン・ソッキュだ。いよっ、待ってました。うんうん、拳銃持つカッコが様になってるじゃん。とっても田舎町でショボく写真屋やってる病弱のアンチャンと同じ奴には思えません。やっぱ、男のスターは銃持ってナンボだわな。

 彼と同僚で親友のソン・ガンホが頭悩ませているのが、「イ・バンヒ」という名の北朝鮮の謎の女スナイパーの存在。この女、ずっと鳴りを潜めていたのに、ここへ来て久々に復活したのだ。まぁ、巨人の清原なんか毎年復活、復活と騒ぐのに、復活できたためしないんだけどね。きっと今年もダメでしょう。

 一仕事終えてサッパリした顔のハン・ソッキュは、自宅へ帰って熱帯魚屋のお姉ちゃんのキム・ユンジンとイチャイチャ。陽気で健康キャラのキム・ユンジンみたいな娘と、いつまでもベッドでチュッチュできるんならいいねぇ。そんなことできるなら俺はブチ殺されてもいいや。手編みのセーターなんか編んでもらったりして。高校のときもバレンタイン・デーにマフラーとかもらってる奴いっぱいいたな。人間の男には大きく2種類ある。手編みのマフラーもらえる奴と、一生もらえない奴。これは人生を大きく変える重大局面だぜ。女性のみなさんに言いたいけど、君たちは男の人生を左右する部分を若いうちから握ってるんだ。そうねぇ、それは男どものタマキン握ってるのと同じ。

 ハン・ソッキュは、来月このキム・ユンジンちゃんと結婚の予定なんだけど、まだ自分の仕事について彼女に言ってない。というより言うつもりがない。ヤバい仕事だからね。こんな屈託のない笑顔の彼女にそんなこと言えるもんか。

 このカップルに同僚のソン・ガンホを加えて飯食いに行くくだりは、緊迫したスパイ戦を描いたこの作品の中で、主人公にとっても観客にとっても数少ない安らぎのシーン。そうは言っても野郎二人は例の北朝鮮の女スナイパーのことが頭から離れない。この同僚のソン・ガンホって役者さんが演じてる役が実にいいキャラでして、ヤボてんでカッコ悪いだけど男気にあふれてるって「巨人の星」の伴宙太的なキャラ。いい味出してるんだよね。目の前でハン・ソッキュと彼女がイチャついている前でも、嫌がらずパクパク飯食ってるダチ思いのソン・ガンホ。う〜ん、無骨だけどいい奴!

 この帰り道に雨がザーッと降り出して、あわてて家路に急ぐハン・ソッキュとキム・ユンジンちゃんが、熱帯魚の水槽に思わず見とれてかわすキス・シーンは、とってもきれいでグッときますね! これ見たとき想起したのがブライアン・デ・パーマ監督の「ミッドナイト・クロス」、ラストでジョン・トラボルタがナンシー・アレンを抱きかかえ、背景には花火がバーッと上がるシーン。名カメラマン、ヴィルモス・ジグモンドの腕が冴えわたる何とも美しい場面だった。あるいはウォルター・ヒル監督の「ストリート・オブ・ファイアー」。激しい雨に打たれながらの、ダイアン・レインとマイケル・パレのドラマティックなキス・シーン。これに限らず、いいサスペンス映画ってヒッチコック作品などを筆頭に、キス・シーンやラブ・シーンがみんな印象的だよね。ムムッ、「シュリ」も面白くなりそうな予感。

 

 

 

ここで再び停止! 映画見てから読んで。

 

 

 

信じられない、信じたくない事実

 ところで、武器の密売人からタレ込み情報ありと聞いて、落ち合い場所であるスーパーに駆けつけるハン・ソッキュとソン・ガンホ。ところが、途中で急にビビって逃げ出す密売人。あわてて追いかけるハン・ソッキュたち。ところが目の前でこいつを撃ち殺されてしまう。ありゃ〜。でも、なぜ? このことは誰も知らないはずなのに。

 殺された武器密売人が言いたかったことって何なんだ? 探っていくと、国防に関わる秘密兵器の開発を行っている研究所が浮かび上がる。しかし、そこでもタッチの差で怪しい奴を殺されてしまう。ヘンだな〜。研究所の奴を問いつめると、「CTX」と称するとんでもない新型爆弾を開発したとのこと。どんな機械にも探知されない液体爆弾で、光と熱を加え続けることで爆発する破壊力抜群のシロモノ。聞けば今日、それを実験場に搬送している最中とか。ヤバい!

 あわてて高速道路でCTX搬送中のトラックを追う二人。ヘリに乗っちゃって石原プロの「西部警察」のノリで駆けつける。しかし、またまた間一髪タッチの差で、北朝鮮の特殊部隊の連中にCTXを持っていかれてしまう。何かおかしい。

 そして、この時に残された映像から、北朝鮮の特殊部隊の長髪左翼くずれリーダー(“くずれ”じゃないって)チェ・ミンシクの仕業と知るハン・ソッキュ。実は昔この二人は、あるハイジャック事件で相まみえた宿命の二人。あの時はハン・ソッキュの圧勝だったので、今回は雪辱戦というわけなのだ。この後、この特殊部隊リーダーのチェ・ミンシクは、不敵にもハン・ソッキュたちに電話なんかかけてきたりする。「俺たち北の人間が食うや食わずで苦しんでるとき、おまえら南の奴らは飲み食いしたあげくゲロ吐きやがって」…ダンナ、俺は「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」見てゲロ吐いたやつ知ってますよ(笑)。

 それはともかく、無茶な論理ではあるものの言いたい気持ちはわからないでもないこの男、昔の反共映画の登場人物みたいな単細胞の人物ではなく、ちょっと翳りがあって危ない魅力を持った人物に描かれているのがミソ。魅力的で強力な悪役が出てきて、宿命のライバルのリベンジからんだ対決…とくれば、これはもうアクション映画としては盛り上がらざるを得ないでしょう。

 液体爆弾CTXは持って行かれる、北の特殊部隊の本当の目的はわからない、そこへきて北朝鮮首脳も迎えた南北親善サッカー試合がソウルで開催されることになる。これはヤバいんでないかい? それにしても気になるのは、ハン・ソッキュたちのやることなす事すべて後手後手に回ってしまうこと。情報もれてんじゃないの? 思わずお互い疑心暗鬼になるハン・ソッキュと相棒ソン・ガンホの二人。

 そんなこんなしているうちに、なぜか自分も例の女スナイパーに命を狙われるハン・ソッキュ。ところが、なぜか命拾いしちゃうんだな。ついてるね。…いやぁ、ツキなんだろうか?

 そして、CTXを使ったビルの爆破事件なんかも起きて騒然。長髪チェ・ミンシクはじめ特殊部隊の連中をおびき出してのソウル市街大銃撃戦は、アメリカ映画「ヒート」を思わせる(というよりパクった)かなりな見せ場。最後にはあの女スナイパーも加勢に加わった大乱戦は、何となく決着つかずに終わってしまうが、その女スナイパー追って街をかけずり回ったハン・ソッキュは、彼女を見失ってすぐに自分の恋人キム・ユンジンちゃんの熱帯魚のお店の前に出てきたんで驚く。まさか…。

 そこでハン・ソッキュは、自分の恋人の正体を知ってしまう。信じられない、信じたくない、信じるもんか、絶対信じないぞ俺は! 大昔、私がまだ学生だったころ、好きだった女の真夜中のデート現場を目撃してしまったときのことを思い出した。本当に内臓を全部その場で吐いてしまいそうだった。吐きたかった。吐ければよかったのに。

 彼女がスナイパーだってことは最初からネタバレしてるって? こんなミエミエのことがわからないハン・ソッキュはバカだって? 何を言ってるんだ、それがわからないのが男ってもんなんだよ。俺もあの時、回りの人間からは「わかっていなかったのはおまえだけ」と言われた。いや、本当のところはわかっていたんだ。でも、信じたくなかったんだよなぁ。頭を抱えてうずくまってしまうハン・ソッキュ。そうか、今回こいつが何でこんな拳銃撃ちまくるコワモテの役やってるのかわかった。ドツボに落ち込むハン・ソッキュの横顔には、確かに「八月のクリスマス」のデリケートな写真屋のアンチャンが蘇ってきたではないか。

 改めてコンピュータで彼女の身元を洗うと、済州島の療養センターで病気療養中ということになっている。その療養センターをたずねると、同じ名の女が確かにそこにいて、顔もキム・ユンジンちゃんそっくり。でもどこか儚げで大人しげな人で、日本に行ってしまった姉の話をしてくれた。…姉?

 ここでちょっと説明がいるんですが、字幕では確かに「姉」となっていますけど、ある韓国映画通の方に言わせると、向こうの人は知人のことでも「姉さん」「兄さん」というような呼び方するらしいんだってね。(*注・参照)

 そう。北朝鮮のスゴ腕女スナイパー「イ・バンヒ」は、この病弱の娘に親しげに近づき、整形で顔を借りてハン・ソッキュのすぐそばに潜入したのだった。あの彼女がそんな…俺は信じていたのに。

 俺は利用されていたのか。近づいてきたのは計算づくだったのか。愛は偽りのものだったのか。俺たちの間に流れていた感情は、すべて空虚で無意味なものでしかなかったのか…。

 でも、それは北朝鮮の女スナイパーと韓国の諜報員の間だけに起こる問題じゃないね。38度線が間にはさまっていなくても、そこに彼と彼女がいる限りどこでも起きうること。時々、どんなに信じあい愛し合っているつもり…わかってるつもりの相手でも、そこに信じきれないこと、ポッカリと空いた暗い穴のようなものが見えることってあるんだ。そんな時、お互いの関係を築いてきたこと、これから築いていこうとしていることへの、とてつもない無力感がかいま見えてくるよね。

 じゃあ、お互いの間を近づけていく事って意味のないことか。そこには何もないのか。まるっきり不毛な真空状態なのか、真実のひとかけらもないような…。

 

サービス精神あふれる「シュリ」の真価とは?

 韓国情報局「OP」の連中は、北の特殊部隊の連中が逃亡用の特別機と1000万ドルを要求したので、総出で空港に行っちゃった。だけど、OPの伴宙太ことソン・ガンホが命がけで伝えた情報から、南北親善サッカー試合がヤバいとにらんだハン・ソッキュ。上司にあわてて伝えるが、まるっきり聞く耳なし。仕方がねえ、俺一人でも行くっきゃねえじゃん。車すっ飛ばしてサッカー・スタジアムへまっしぐら。カーラジオからは細川たかしのゴキゲンな演歌が。“♪北ぁ〜のぉ〜特殊部隊にはぁ〜、それよりぃ〜や〜りたいことがあるぅ〜”(「北酒場」のメロディでお願いします)。

 やってきましたスタジアム。何万もの観客で割れんばかりの場内に入って、さすがのハン・ソッキュも唖然呆然。ありゃ〜、俺は一体どこから手をつけりゃーいいんだよー。そして伝説の女スナイパーにしてハン・ソッキュの愛しの彼女キム・ユンジンちゃんも 、もちろんその大観衆の中に紛れていた。

 ど〜しよ〜ど〜しよ〜と焦りまくるハン・ソッキュをよそに、特殊部隊の連中は作戦を着々と進行中。スタジアム内のライトを使ってCTXを爆破させようとする。それに気づいたハン・ソッキュは電気関係のコントロールルームに単身なぐり込むが…。

 さぁ液体爆弾はどうなる? 諜報員ハン・ソッキュは? 北のラーメン屋さんならぬ特殊部隊リーダーのチェ・ミンシクは? そしてキム・ユンジンちゃんとの愛の行方は…?

 この映画、大変なエンタテインメント大作として宣伝されてて、その娯楽性で大受けしたと言われる。確かにそうだと思う。あの手この手の見せ場をめいっぱい盛り込んだそのサービス精神には脱帽。しかもハイテク機器等の描き方もかなり力入っててチャチさがほとんどない。やっぱりこれは韓国の娯楽映画の歴史の中でも大変な作品なんだなと思うよ。

 でもねぇ、「ハリウッドを超えた」は言い過ぎだよねぇ。ハリウッド・エンタテインメントをかなり意識・勉強してつくってて、例えば音楽ひとつとっても、「クリムゾン・タイド」あたりのジェリー・ブラッカイマー製作のサスペンス・アクション映画の音楽の感じをうまくいただいてきてる。でも、やっぱりパクりだからね(パクりを悪いとは言ってないよ。それで映画が面白くなるなら大いにやるべし!)。はっきり言ってハリウッドを超えてはいません。それは言い過ぎ。贔屓の引き倒し。この映画を気に入った上で応援したい気持ちはわかるが、それじゃかえってこの映画のためにならない。この映画に失礼だよ。でも、見ててチャチくて寒くなるような箇所はないから、もちろん娯楽映画としてかなり堪能できることは確か。この熱気というか勢いは近来の映画随一のものです。そういう意味なら、確かにこの映画「ハリウッドを超えて」いるかも。

 この映画の「ハリウッドを超えて」ない惜しい点は、アクション場面のさばき方のキレがもうちょっとだけ足りないこと。ホントに惜しいんだよ、ちょっとだから。例えば、君が手持ちのデジタル・ビデオ・カメラ使ってアクション場面を撮ろうとする。その時にもっとも重要なのは、(1)空間全体をどうやって観客に認識させるか、(2)アクションのきっかけをどうつくるか、(3)アクションの進行状況をどうわかりやすく見せていくか、そして(4)アクションの流れ・テンポをどうつくっていくか…の4点だ。「シュリ」ではかなり頑張っているとは思うが、残念ながらこれらがちょっとづつ足りない場面がいくつか見受けられた。この点「やっぱりうまい」とうならされたのが、昨年「RONIN」を発表したジョン・フランケンハイマーのアクション演出だ。ムダがなく、観客に何が起こっているのかを瞬時でテキパキと伝える。あんなの地味じゃないかと言うなかれ。アクションの凄さは爆発で上がった炎の高さでも、壊した車の台数でもない。第一、それなら演出に頭なんかいらないじゃない。いやはや、困ったもんだね今どきの映画ファンには。

 でもね、このカン・ジェギュって監督はかなり頑張ってうまくやっているほうだよ。正直言って「MTV」がはびこって以来のハリウッドでは、ダラダラ音楽を流しっぱなしにする演出が多くなったり、ミュージック・ビデオ上がりの監督がのさばっちゃったりして、このへんだいぶヘタになってきてるからね。ずばり言って、「トップガン」「ビバリーヒルズ・コップ2」のトニー・スコット、「ザ・ロック」「アルマゲドン」のマイケル・ベイあたりの作品は、アクション状況の空間設定がまるでなっちゃいない(ありゃ? これも全部ジェリー・ブラッカイマーの映画だ)。たまにうまい奴がいるなと思えばジョン・ウーだったりするから困る。それに比べりゃ、カン・ジェギュが独力でここまでやってるのは今時天晴れ。若いファンなんかこれだけで完璧って思っちゃうかも。あとフランケンハイマーにちょっと教えてもらえればバッチリだよ。スピルバーグに教わってもいいね。マイケル・ベイ? あいつは見込みないな、頭悪そうだから。

 それと苦言ついでにもう一つ課題を挙げると、この映画は中盤あたりから演出も脚本もかなり粗っぽくなる。ひょっとしたら、もっと長いフィルムをチョン切ったのかもしれないが、ちょっと舌足らずなのは否めないかも。それも、パワーとスピードで押し切っちゃうあたりは凄いけどね。

 その反面、この映画の一番の美点は、良質のエンタテインメント作品をつくるためのセンスというか、バランス感覚の見事さ。また、悪役になる北朝鮮特殊部隊のリーダーの扱いを含め、南北問題の緊迫性をドラマの迫力に利用していながらも、それでイデオロギー的に何か発言しようなどとはハナっから思っちゃいないこと。そういう描写は抑えに抑えてる。単なるサスペンスの道具立て以上に見せようとしていない。そして、そこまで抑えに抑えていればこそ、最後見終わった後こぼれるように胸に浸みいる感慨が、忘れがたく深いものとなる。そりゃ一部のファンが言うように、この話の根本には民族分断の問題があるよ。だけど、それを前面に打ち出した社会派ドラマみたいのとは違うスマートさが、この作品の売りなんだからさ。せっかく広い層のお客さんに楽しんでもらえそうな映画なんだから、一般映画ファンが引いちゃうようなことは言ってほしくないんだよな。それはお客さんに見てもらってからの話だ。

 そして、前に脚本が粗っぽいと書いたが、それはあくまでアクション描写や段取りに関してであって、人間描写に関しては伏線も生かしながらなかなかデリケートで緻密につくってる。大スタジアムでの大捕物の際に、OPの中でいつもコネ入社とバカにされている冴えない男が、意外な大活躍を見せるあたりもユーモラスで粋な語り口だ。そしてその見事な話術は、映画の終盤にいちばん生かされている。大風呂敷をめいっぱい広げるだけ広げたスタジアム・シーンの後に用意された、ちっちゃくてささやかな海辺のベンチでのシーン。それこそが、実はこの「シュリ」の真価が最も発揮されるシーンなのである。

 

 

 

もう一度念押し

ここから先は映画を見てから

読んでください。

 

 

 

 

エピローグ・そこに真実がある限り

 爆破作戦が失敗に終わったときは南北要人を銃殺せよ…このように命令を受けていた女スナイパーのキム・ユンジンには、他に選択の余地がなかった。もちろん韓国の諜報員ハン・ソッキュにも他にとれる道などあろうはずもない。かくしてお互いが考え得る最悪の選択をせざるを得なかった。苦いにがい思いが残る。

 留守番電話には、彼にあてた彼女のメッセージが残っていた。スタジアムに爆弾がしかけられていること、何が起こっても自分の前に現れないで欲しいこと…彼女は覚悟をしていた。そして最後に真実を残していったのだ。編み上がったセーターとともに。

 このまれに見るエンタテインメント大作の幕切れは、ごく慎ましやかでひっそりとしたものだ。ハン・ソッキュ扮する諜報員は、最後に済州島の療養センターの病気の女性のもとに再びやってくる。そこで語られる、さまざまな微笑ましい思い出。

 「お姉ちゃんは寝相が悪くて、ベッドから転げおちてた」

 「ハシの使い方がヘタで、食べ物をはじき飛ばしてた」

 ベンチで彼女の隣に座り、静かにうなずく彼。どれも自分が鮮やかに憶えている“あの”人の面影

 そういえば愛しい人の面影って、キレイだったり素敵だったりしたことより、おかしかったことカッコ悪かったことのほうが鮮やかなものかもしれないね。ラーメンをすする時いつも鼻水が出てしまうあの娘、合気道で太くなった二の腕を気にしてる彼女、方向感覚が全然なくていつも道に迷いキョロキョロしてる君…そんな素顔のほうが、すましたよそ行きの顔より何倍も何十倍も愛おしい。それは自分が見つけた愛するその人の、ウソ偽りのない正真正銘真実の姿だから。そんな真実の姿が、そこに存在したことこそが重要なのだ。

 ならば、その真実の姿を信じて、我々も乗り越えようではないか。私とあなたを、男と女を、そしてこちらと向こう側を無粋に隔てるあの細く長い線を。

 そこにわずかでも真実がある限り、それは決してできないことではないはずだから。

 

 

 

(*注:この部分については、大阪の巻田純さんのサイトの「ネタばれOK シュリ掲示板」におけるやりとりを参考にさせていただきました。ありがとうございます。)

 巻田純のページ

 http://www.threeweb.ad.jp/~makita/

 

 


 

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