「チャーリーズ・エンジェル」

  Charlie's Angels

 (2000/11/20)


サービス精神が裏目に出ると

 先日テレビ見てたら、何だか考古学関係のオッサンが釈明会見してた。そう、みなさんご存じの例の事件。やたら遺跡ほじくって大発見を連発していた「神の手」と異名をとる考古学研究家が、実はインチキで自分の埋めたヤラセ石器を掘って「発見」してたってお話。何だかマスコミはこいつの事ここぞとばかりブッ叩いてたけど、俺は何だかこいつが憎めないんだよなぁ。

 何でもこいつ、宴席が盛り下がってるような時には率先して裸踊りして盛り上げるような、サービス精神に富んだ男だったんだろう? どうも悪い奴に思えないんだよ。

 そういえば、僕の高校時代の友人たちってのもサービス精神旺盛だったよな。宴会盛り上げがうまかったし、自分たちもそれを楽しんだもんだけど…。

 時は1990年、僕らの仲間うちで長い春に終止符を打ってゴールインしたカップルがいた。その時の結婚披露宴の二次会たるや壮絶。異常なまでの盛り上がりで、僕はもう今後あれほど興奮する宴会には出ることはないだろうね。

 しかし一回それをやっちゃうと、それが「標準」になる。次に仲間うちで別の男の結婚が決まった時、みんな物凄く期待したね。また盛り上がるぞ〜、興奮するぞ〜。

 例によって我々が二次会の企画を立てて準備するのだが、もう最初から盛り上がることを前提に話を進めてるの。だって、このメンツだろ? あいつの結婚式だろ? 盛り上がらないわけないじゃん。

 で、いよいよ当日。一同が式場から移動して、長いインターバルをはさんで問題の二次会がスタートした。

 盛り上がらないんだよ。

 ご歓談ください…とか言ってみんながベチャクチャしゃべりだしたが、何となくシ〜ンとしてるの。なぜだか分からないけど。みんな焦って円陣組んで作戦会議だよ。

 まず問題になったのは、人数に比べて部屋が広すぎること。これは誤算だった。

 そして部屋の室温が低すぎるんじゃないかということ。これはエアコンの調節で解決できた。

 しかし、それ以外の問題点は分からないんだよ。たまたま今日、ノリが悪いってだけのことかもしれないんだ。弱ったねぇ。そのうちカラオケパーティーが始まっちゃった。こうなりゃ、俺たちがサクラで盛り上げるっきゃないぜ。

 我々の仲間うちが次から次へとステージに立って、もう「グレイスランド」のハーベイ・カイテルもかくやという程の熱演が展開。あまりの異常なエキサイトぶりに、さすがにお客さんたちも笑って盛り上がってきた。ここらでトドメを…との命を受け、僕ともう一人の仲間がステージに立った。正直歌なんか歌うの好きじゃないんだが、こうなったらそうも言えない。それに当時流行っていた歌といえば、数日前に会社の人と行ったカラオケで、若い女の子が歌ってたプリンセス・プリンセスの「ダイアモンド」しか知らない。それもウロ覚え。でも背に腹はかえられないのだ。

 歌いましたよ。歌って踊って、血管ブチ切れそうになりながら二人でステージ狭しと、「ウッドストック」のザ・フーみたいに暴れまくった(笑)。これはウケた。若い女の子からすればオッサンがプリプリの歌を、ニコリともせず人でも殺しそうな切迫した表情で、大暴れしながら歌っている姿がアナーキーでおかしかったんだろう。ともかく異常な盛り上がりまで持っていった。もう無理やり。あの時の僕らなら、観客の興奮の点でナチ最盛期のヒトラーの演説にだって勝ったと思うね。無理やり盛り上げるという点でも、この両者は妙に似通ってるよな。

 でも、終わったあとの僕らはまさに抜けガラ。実際疲れたよマジな話。疲れ切った。だからこれ以降僕らの間では、宴席を無理に盛り上げるのはやめようという暗黙の了解があるんだね。やっぱり無理は良くないんだよ。

 例の考古学男にしたって、いつもいつも大発見してるから、何も見つからないとは言えなくなっちゃったんじゃないか? みんなに喜んでもらいたくって、ついあんな事しちゃったんじゃないか? サービス精神旺盛だった彼は、きっと「もてなし」の心だって豊かだったに違いない。だから、勝手に期待で胸ふくらませてる地元ド田舎の観光協会とか教育委員会とか学会とかマスコミの連中に、石器出ませんでしたとはとても言えなかったんじゃないかと思うんだ。で。無理やりやってしまった。

 「もてなし」って…サービス精神って難しい。この映画見たら本気でそう思っちゃったよ、今年末の話題作「チャーリーズ・エンジェル」を見たら…。

 

面白いはず、面白いに決まってる作品?

 いきなりボンド・シリーズみたいに飛行機上から飛び降りる大アクション・シーンが展開。これ本筋とは関係ないけど、勇ましくってカッコよくって、いいじゃんいいじゃん。21世紀を目前にして、あの戦う強い女が帰ってきた!

  重信房子だ!

…じゃなかった、チャーリーズ・エンジェル(笑)!

 キャメロン・ディアズ、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューの3人のニュー・エンジェルを紹介する導入部としては、これ以上望むべくもない仕上がり。そして、この映画の元ネタになったあの有名なテレビシリーズのテーマ曲が流れて、画面が3分割されるテレビシリーズそっくりのオープニング。この映画版だからといってリニューアルしすぎない、あえてテレビ版のチープさをとどめているようなオープニングにはうれしくなった。で、どうなるわけ?

 この映画のストーリーを説明することほどヤボな事はないね。手短にいくと…あるコンピュータ企業の創立者サム・ロックウェルが誘拐され、同時に彼の開発した音声認識ソフトも盗み出されたので奪還してくれと、同社の社長にして彼のパートナーのケリー・リンチからエンジェルたちに依頼があった。容疑者は世界有数の情報ネットワーク企業のリーダー、ティム・カリー。早速捜査を開始したエンジェルは、カリーが通う中華風マッサージ店に潜入したり、彼の道楽であるレース場に登場したり、彼の主催するパーティーに参加したり…と大活躍。途中、謎の「やせ男」クリスピン・グローバーの襲撃に悩まされながら、無事にロックウェルの奪還に成功する。しかし、音声認識ソフトの回収がまだだった。そこで厳重な監視を潜り抜けてティム・カリーの会社のホスト・コンピュータに侵入。そこに自由にアクセスできるようにしたのだが…。ほとんど、これで一見落着かと思われた時、エンジェルたちが一斉に命を狙われたのだった。果たして敵は誰か…。

 これでも詳しく書いてるつもりだけど、それでもこれで収まってしまう。何でいつもみたいに面白おかしくストーリーを紹介しないんだって? よせよ、この映画はもうすでに面白おかしくつくられているはずだろ? それをさらに無理矢理面白く語るなんて、そんな事やって本当に面白いのか? 実は、今回のこの感想文のテーマはそれなんだけどね。

 僕はこのテレビ・シリーズ大好きでね。で、今回の映画版は大期待だった。しかも、キャメロン・ディアズにドリュー・バリモア、まぁルーシー・リューはさておき(笑)。そしてボスレー役にビル・マーレーだろ? こりゃ面白いに決まってる。バカ映画好きだしね。「オースティン・パワーズ」とまではいかなくても、その続編「デラックス」ぐらいまでいけば、上の部類ではないか?

 それに今回は銃を使わずカンフーで戦うらしい。あの有名なロゴマークもみんな銃持ってたのが素手に変わってる。な〜るほど。「マトリックス」がヒットし、ジェット・リー主演作「ロミオ・マスト・ダイ」が公開され、中国映画「グリーン・デスティニー」にコロンビア映画の資本が投下される2000年のハリウッド。そこではワイヤー・ワークで縦横無尽に暴れ回るカンフー・アクションが新しいんだ。だから、今回のエンジェルはカンフー・エンジェル。何でルーシー・リューなんか3人目に連れてきたのかもよく分かった。あの東洋系の顔が必要だったんだ。時代はチャイニーズ、アクションはカンフー。このへんの新しい感覚は、プロデューサーにも回ったドリュー・バリモアさすがだと思ったね。ちょっとポッチャリ気味の彼女が、果たしてカンフーなんて出来るのかどうかは別にして(笑)。

 何だか制作現場ではかなりモメたらしいけど、このメンツなら大丈夫。エンターテインメントとは何かを知り尽くしている連中だ。きっとやってくれるはず。

 実際にでき上がった映画見始めたら、やっぱりカッコいいオープニング。ほらほら俺は最初から面白いと思ったよ。で、最後まで見終わった…。

 面白かったよ、…期待ほどじゃなかったけど

 何か割り切れない気持ちが残ったけど、まぁ面白かったかな。ただ、エンジェルたちのサービスショットなんかがやたらあったのは、女向けとは言えないかも。もちろん僕は男だからすべてオッケー。

 でもね、大絶賛とまではいかなかった。「映画好きなら絶対面白いはず」とか「これを楽しめない人は映画が分かってない」とか、かなり強く推す人たちもいたみたいだけど、それはちょっとばっかし言い過ぎじゃないかと思えるんだよね。僕には、まぁそんなに悪くはないんじゃない?…くらいのシロモノとしか思えない。

 では、強く支持する人が大半の映画「チャーリーズ・エンジェル」は、僕にとってどうして期待するほどの出来ではなかったのか?

 

真のエンターテインメントにはなり損なった作品

 あのねぇ、ここだけの話なんだけど…実は映画「チャーリーズ・エンジェル」はハッキリ言ってスカなんだよ、スカ! でも、のんびり農村巡回映画でも見ている気分でもっさり見てれば、それなりにイケるかな…くらいのシロモノ。これで「映画の何たるか」を語るのはチト無理があると思うぜ。この映画の「楽しさ」って、せいぜいその程度。

 何でこれがつまらないんだ…と反論される方々のお気持も分かる。キャメロン・ディアズにドリュー・バリモア、ルーシー・リューもついでに入れておくか(笑)。そしてビル・マーレー。衣装はとっかえひっかえコスプレ状態。胸チラへそチラ尻フリフリ。そして飛行機やヘリまで駆使しての大アクション。見ろ見ろこれだけ揃ってるんだ、これでつまらない訳ないだろ?

 これが落とし穴なんだよね。

 昔、「ゴースト」って大ヒットした恋愛映画あったよね。その後トップスターになって駄作連発のデミ・ムーアの出世作。やっぱロクなもんじゃなかった(笑)。これ見る時に、恋愛映画好きの僕はすごく期待したのに、全然ノレなかったんだよね。なぜだ?

 いいって言う人は、こう言うんだよ。死んだ男が恋人を見守る物語、キメどころに有名な懐メロ、コメディリリーフにウーピー・ゴールドバーグ、ニューヨークの景色がきれい。こんなグッとくる要素が揃ってるじゃないか。

 だけどねぇ、要素だけでは映画じゃないんだよ。面白い要素が揃っていることと、面白い映画とは違う。アンチョビとベーコンとマッシュルームとチキンと…だけどトッピングだけ並べてもビザはおいしくなんかないだろ? ピザの生地とチーズが決め手のはずだよね? 今回の映画にも、それに近いものを感じるんだよ。つまり、この映画のために揃えられたコマ見ただけで、面白いとみんな条件反射で反応してしまった。ウメボシ見ただけでヨダレ出てくるように。でも、それは映画が面白かったってこととは違うんだよ。ウメボシは実は口の中に入ってないの。

 楽しもうって気がないから楽しめないんだって意見もあるだろうね。でも、むしろ僕は楽しもうとして見たほうだよ。だから、ある程度は確かに何とか楽しめた。前述のいろいろな面白くなりそうな要素のおかげで、最低限ある程度放っておいても楽しめるようにはなってる。でも、それ以上楽しさがふくらむかどうかってとこが、実は「映画」なんじゃないか?

 逆にこれだけの面白くなりそうな題材、素材がそろっているんなら、もっともっと楽しくなったはずなのに…と、僕には思えるんだよな。何でこれ止まり?って。

 やっぱり演出か脚本がどこかうまくいってなかったと思うんだよ。例えば冒頭、キャメロン・ディアズがパンティ丸出しでお尻フリフリ楽しげに踊ってる。楽しげなシーンだよね。見てるこっちも「これは楽しい映画だ、楽しい映画なんだ」と気合い入れて見てる。…にも関わらず、このシーンが長々と続くうちにどこかスキマ風が吹いてくるんだよね。後にソウルトレインのステージでやはりディアズが踊るシーンが出てくるんだけど、ちょっと時代遅れのヘナチョコ踊りを、楽しそうに踊って踊って…。こっちは歯を食いしばってシラケまいとしてるんだけど、どこからともなく寒さが忍び寄ってくる。そもそもこの場面、ディアズの時代遅れ踊りに周囲はドッチラケという設定なんだけど、見ているうちにシラケてるって場面の演出なのか、本当にこの場面がシラケてるのか分からなくなる。そんなシーンが実はそこかしこに点在しているんだよ。

 ヒロインたちはいつも楽しげでノリノリだけど、実はこのシラケの原因はそこにあるんじゃないか? 本作のもう一つの目玉であるビル・マーレーを見てごらんよ。生かされてない…というより、本人のノリもイマイチ良くない感じ。この作品の制作が難航したっていうニュースをまるっきり鵜呑みにする気はないけど、どこか現場はうまくいってなくて、それを無理やり盛り上げよう盛り上げようとしたんじゃないか? 彼らはみんなプロだから、それくらいは当然やるだろう。でも、どうしても「楽しぃ〜ッ」って言いながら青スジ立っちゃってるとこが、見てるほうに伝わっちゃうんじゃないのか。だから大きく楽しさがふくらんでこない。ボーッと見てても自然と楽しくなってくるのが、この手の映画の本来の面白さじゃない? 問題点はオヤジにコビたサービスカットが多いとか、そういう問題じゃないと思うな。

 まずエンジェルたちがどいつもこいつもシマりがなくて空回り、終始笑いっぱなしでアホっぽいのもマズかったと思う。この題材だったら、どこか一つくらいクールな部分をつくるべきだったと思うんだ。特にキャメロン・ディアズの役はアホすぎ。アホな演技をなりきりでやって偉いとかいう問題じゃない。もし、仮にアホならアホを大マジメにヘラヘラせずにやるべきだった。キャラクター設定段階での誤算だったと思うんだよ。

 ウケるジョークを言うコツって何だか分かるかい? これは面白い話なんだって顔で、ニヤニヤ笑って言わないことだ。クールな顔してケロッと言う。これがポイントなんだね。笑いながらダラダラ言うとキレが悪くなるし、笑い顔ですでにジョークの意外性が失われてる。サプライズとスピードとストレートさ。これがジョークやギャグの真骨頂だ。すべての作品にあてはめるのは無茶だけど、少なくともこの映画にはそれが致命的に欠けてると思う。

 でも、アクションはかなり頑張ってるよ。「マトリックス」なんかにも関わった香港のアクション・チームを連れてきた甲斐あって、3人ともかなりやってくれる。さすがにカットで割っててフルで動いてる部分は少ないものの、それを香港アクションと比べてどうのと言うのはナンセンス。だって、これは「チャーリーズ・エンジェル」なんだからね。問題はアクションの大半を彼女たち自身がやっていることで、スローモーションなどで撮ると、それがハッキリ分かるところが凄いんだ。こういうアクションやらせるとキャメロン・ディアズなど脚が長いので、やっぱりカッコよくキマるよね。

 3人のエンジェルの中では、ドリュー・バリモアがプロデューサーまで買って出ただけのことはあって、さすがにかなりな頑張り。下馬評では一番アクション苦手と思われていたが、後半イスに手を縛られながらのカンフー・アクションには正直目を見張った。この場面、他のアクション・シーンと比べてカット割りが少ないことからも、その意気込みが感じられるじゃないか。派手なアクションが終わって敵を全員倒したあと、ドリュー・バリモアが楽しそうな表情で、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」の前奏に乗ってムーン・ウォークをちょっとだけ見せるくだりは、たぶんこの映画のベスト・ショットであると断言できる。

 だから、バカバカしい題材を大々的にやろうとしたという点は買える。それで、僕もそれなりに楽しめたんだ。これを文句なく面白いと言う人たちの言い分も分かる。そもそも、ムキになってホメるケナすって映画じゃないことは百も承知。ただ、「ムトゥ」みたいのが出てきちゃってシブヤでオシャレにバカ当たりしちゃってから、バカ映画は何でもかんでも笑えないとヤボって空気があるんだよね。バカ映画は楽しまなきゃ人にあらずって。でも、楽しめないバカ映画まで楽しまなくてもいいじゃないか。眉間にシワ寄せて冷や汗かいて笑わなくても。それだとデミ・ムーア主演「素顔のままで」まで笑わなくちゃならないよ(笑)。この映画はサービス精神があるのは確かなんだけど、それが方向間違ったまま加速しちゃったから、結局遺跡に自分で石器埋めちゃったようなアリサマになってしまった。それを、「歴史が書き換えられた」なんてマジで受け止めちゃマズいでしょ(笑)?

 この作品はエンターテインメント映画の典型だよね。そして、頑張ってるけど真のエンターテインメントにはなり損なってる。エンターテインメントって英語には「もてなし」って意味もあるんだよ。

 「もてなし」ってのは、とっても難しいことなんだよな。

 

 

 

 

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