「悪いことしましョ!」

  Bedazzled

 (2000/11/13)


誰かに願いを託したくなる時

 実は先日、ちょっと心配事で暗くなってたんですよ。この歳になるといろいろあるでしょう? 健康上の問題とか。

 で、実は僕、ガンじゃないかって思い悩んでいたわけ。

 胸から背中にかけて突き抜けるような痛みあったんですよ。それがもう、目から火が出そうなほど。かがんだりするのも難しい。いちいち歯を食いしばらないと出来ないほど痛い。でも、それがどうしてガンなんだって?

 実は元々僕はちょっと胸の痛みを訴えることがあって、それが心臓の軽い不整脈だったりタバコの吸いすぎだったこともあったけど、大体がまぁ気のせいみたいなもんだった。誰でもあるでしょ? 変にちょっとだけ胸痛くなったり背中痛くなったりっていうのだったら。

 先週あたりもそんな「気にせいかも?」ふうの胸の痛みがチョコっとあった。で、例によって気にもとめてなかったわけ。ところがそれが突然、胸から背中に突き抜けるような激痛にとって代わったから、僕はこりゃヤバいと思いこんじゃったんだよ。去年の親父の肺手術もあったしね。ガンが身近になったこともある。確認しようにも土日にかかってて、健康保険証も仕事場に置いてきてしまった。おまけにこの痛みときたらじっとしても静まる気配がない。息吸っても吐いても痛い。時として胸の鼓動と合わせて痛くなる。2晩寝ても治らないどころか、ますますひどくなる…という訳で、ガンの疑いは確信に変わっていったんだよな。

 だって、こんな激しい痛みに襲われるなんて、他にどんな理由があるんだ。突然だよ、突然。40歳は歳だと言っても、こういう病気にかかるにはまだ若いほうだ。きっと転移や進行も早いはずだ。あぁ、余命はあと半年あるかないか。どうせ助からないし、心配するから誰にも打ち明けられないよなぁ。気分はもうすっかり「ペパーミント・キャンディー」(笑)。自分の人生が走馬灯のように脳裏に蘇る。

 せっかくこれからだったのに…とか無念な気持ちで暗くなってたけど、そのうち一人で喫茶店でポツリともの思いにふけりながら、自分の気持ちを切り替えていったんだね。思い出すのは「オール・ザット・ジャズ」に出てきた、死に対する態度の5段階変化みたいなやつ。最初は「えっ?まさか」…次が「絶対ゴメンだフザケンな」…次が「神様何とかならないの?」…次が「やっぱりダメかションボリ」…そして最後に「まぁ仕方ないか」…だったっけな。人間は何だかそういった過程を経て、自分の死というものを受け入れていくそうなんだね。で、そこまで小刻みではなかったものの、僕も僕なりに受け入れようとしたわけ。何だかんだ言っても、俺の人生はそう悪くなかったよな…って。

 そう思えたら後は、これからどうしようって具体的な話になる。「DAY FOR NIGHT」なんてやってる場合じゃないから、今年いっぱいで店じまいしようかなとか、東京を引き払っちゃおうかなとか、親しい人に遺書書こうかなとか、いやCD-ROMのほうが面白い(笑)とか…まあ、一度自分の人生の幕引き計画立ててごらんよ。結構いろいろ興味深い企画立ってくるから楽しいよ。何しろ後先考えず失うものもないんだから、思いきり強気になれるしね。

 そんな訳で自分の中ではスッカリ覚悟も定まった月曜日。ようやく医者に行こうというちょうどその時、思い出したんだよね…痛みの原因を

 週末に仕事場で部屋のレイアウト替えとか配置替えとかあって、かつて貨物関係の仕事をやってた僕としては張り切ったわけ。みんなタラタラやってるから、早く終わらせたかったこともあるしね。で、重たいマックのコンピュータ本体とかディスプレイなんかを抱えて、階段を上がったり降りたり。自分じゃあ軽い軽いと思って20代のノリでやってたつもりが、周囲じゃあオッサン妙にハリキッてるなとしか思えなかったかも。

 で、筋肉痛になったんじゃないか(笑)?

 腰や脚に来ていないのは、歩いて疲れたとかではないから。何で今まで気付かなかったのかと不思議に思ったが、自分がまさかそんな事でこんなに体を痛めるなんて、思いもよらなかったんだね。まだ若いと思ってたんだよなぁ、トホホ(涙)。

 案の定、心臓も肺も検査の結果、異常なし。その話を人にしたら、さんざ笑われちゃったけど。でも、あの時の気持ちは本物だったんだよ。せっかくこれからだったのに…って気分はさ。

 だからもしその時、誰かがこう耳元で囁いたら、僕もどう反応したか分からない。「あなたの望み、かなえるわよ」って…。

 

やさしい悪魔エリザベス・ハーレー

 サンフランシスコのコンピュータ会社に勤務のブレンダン・フレイザーくんは、人が良いのが取り柄の、ハッキリ言ってパッとしない男。みんなと仲良くなりたくて誰彼ともなく分け隔てなくフランクに声かけるんだけど、元々真面目で融通のきくキャラクターじゃないから冗談言っても寒いだけ。それが妙に馴れ馴れしいんでみんな辟易してるのに気付いてないんだね。回りの他人行儀な連中は、彼に付きまとわれるのが迷惑なんで、随分邪険に扱っちゃってる。でも、人のことを悪意に受け取らないし、めげないのもいいところかな。俺もワハハなんて人に親しく接してるつもりが、結構顰蹙ものなんだろうけどね。

 この日も仕事帰りにいっぱいどう?なんて誰彼問わず誘うんだけど、みんな忙しいと消えて行った。ところがフレイザーくんが寂しい気持ちをこらえてフラリと立ち寄ったお店に、彼をソデにした連中がみんな来てるじゃないか。マズイっと困惑するみんなに向かって「まさか僕が嫌いなんじゃないよね?」と笑いながら話しかけるブレイザー。そのまさかなんだよ。シャレになってないのに気付いてないのがせめてもの慰め。でも、そんな彼がお人好しなのをいい事に、バカにしきってる同僚たちも同僚たちじゃないか。

 ところが、そこに同じ会社で働く美女フランシス・オコーナーが出現すると、にわかにフレイザーくん落ち着かなくなる。そこんとこを、悪意たっぷりの同僚たちにすかさず見透かされてしまうのも、この男の人の良さなんだろうなぁ。さんざからかわれてバカにされる。話しかけたこともないんじゃないの? 図星であった。確かに声をかけたことはあったけど、外は雨ですねとかどうでもいい言葉だけ。同僚たちは彼を追っ払いたいのとバカにしたいのの両方で、彼女に声をかけてみろとフレイザーをけしかける。でも、フレイザーくん本来真面目な人だから、とても女に声なんかかけられないんだけどね。

 みんなの手前、彼女の前に出ざるを得なくなっちゃって、ハ〜イ!なんて声はかけたものの、誰でしたっけ?なんて調子でまったく存在すら覚えられてない。おざなりな会話で彼女は行ってしまった。あ〜あ、やっぱりそうだよな。でもフレイザーくん、今夜という今夜は、天を仰いで思わず願わずにはいられなかったんだね。

 お願い神様、彼女と付き合えるんだったら、僕は何でも捧げます…。

 「ことの終わり」のジュリアン・ムーアのように、「サクリファイス」のエルランド・ヨセフソンのように、ついつい彼も天に祈ってしまう。これが後あと高くつくのも、彼らと同じなんだけどね。

 いきなりビリヤードの玉が彼の足元に転がってきて、ふと彼が振り返ると…そこにはセクシーな美女、エリザベス・ハーレーが立っていたんだよ。

 大体、常に自分とは縁のないような美人が目の前に立ったら、ロクでもない事が起きると僕は思ってたんだよね。だから、そういう場面は迂回することにしてた。あるいは、そういう美人には素っ気なく接するとか。あるいは、思いっきり無礼に扱うとか、あるいは…いやぁ、これはちょっと言えないな(笑)。昔はひどいこともやったよ。そういう悪意と偏見捨てたのはつい最近のこと。美人も悪い奴ばかりじゃないね(笑)。

 でも、元々フレイザーくんはそういう悪意とかバリアを心に築かない人。だから、彼女に対してもナイーブに接するわけ。これは罠だなんて思わないわけよ。

 で、彼女が7つ願いをかなえてやるって言っても、信じなかったのは悪意からでなく、まさかぁ…って素朴な気持ちから。それでも細かいながらもいくつかチッポケな奇跡を見せられたら、彼だって信じざるを得ない。それならおすがりしちゃおうかなっと。その頃には、元々あんまりなかった彼女に対する警戒心がまるっきりゼロになっちゃってて、彼女が自分の事を悪魔と名乗っても、あんまり悪い人に思えなくなってたんだね。

 そう! エリザベス・ハーレーは悪魔なんだよ。まぁ、昔から女は魔者とは申しますが。貢がされたりアッシーさせられたり、せっかくやめてたタバコをまた復活させられたり(笑)…どんな女にも多かれ少なかれ悪魔的な側面はあるもんかもしれないけどね。女はそんな手を焼かせるとこがいいんじゃない(笑)。ちょっと気をひくカワイ子ちゃんのことを、小悪魔的とはよく言ったもの。

 

願いはかなったのに、何でこうなるの?

 でも、このエリザベス・ハーレーは本当に悪魔なわけ。でも、キレイだしエッチだし、今のところ俺には良くしてくれるし、悪魔でもいいや。それに、願い事かなえてくれるって言うんだろ? フレーザーくん、悪魔の申し出を前向きに考える気になってくる。「エンド・オブ・デイズ」のシュワちゃんを説得しようとした悪魔も、ガブリエル・バーンじゃなくてこのハーレーだったらよかったのにねぇ。バーンでグラつくのは女だけだよ(笑)。彼じゃシュワはクドけないよねぇ。

 じゃあ願い事かなえる引き替えに何を要求するんだと聞いたら、魂をくれと言ってきたから、さすがのフレイザーもビビる。でもねぇ、魂なんてなくたって全然平気なのよ。現にそんなものない人いっぱいいるじゃない。西武の松坂とか森首相とか田代まさしとか二子山部屋の憲子さんとか英国人元スッチー食っちゃった金持ちとか遺跡から自分で埋めた石器を掘り出した奴とか…み〜んなとっくの昔に魂なんか売り渡しちゃった人たちばかりよぉ…ったって、こんな連中と一緒にゃなりたくないわな(笑)。

 そこをうまいこと説得されて、ともかくフランシス・オコーナーちゃんと付き合うためだからと、去年、広島カープから悪の球団読売ジャイアンツにまんまと引っぱられた江藤のように、フレイザーくんは甘い言葉に誘われて悪魔と契約してしまうわけ。江藤、おまえは魂売ったも同然なんだよ。この球団は女グセの悪い奴ウヨウヨしてるとは昔から思っていたけど、まさか乱暴して警察にパクられる奴が出るほどとは。ここが優勝日本一じゃあ、森が日本の首相やってても何らおかしくないわな。

 では早速フレイザーの願いを聞こうということになって、よ〜く考えて決めろと言われた末に決めたのが、とりあえず1つめということで金持ちでビッグになりたいというお願い。さて、どうなったか?

 ここは南米とおぼしき太陽サンサンのお屋敷。フレイザーくんは口ヒゲに黒髪の長髪なびさせてラテンパワー全開。大勢の使用人を抱える大金持ちには間違いない。パシリの連中にフレイザーの仕事の同僚たちが起用されているのは、彼の内なる願望か? めあてのオコーナーちゃんは彼の妻としてベッドにいる。うひゃ〜夢がかなった! そういえば彼女も何となくキャリオカ入って情熱的な感じだけど、そこは気にしない。情熱的になってエッチ好きってなら大歓迎だよね。いつの間にかラテン語もペラペラ。

 ところが女房のオコーナーのやつぅ、英語教師にと雇った色男と何だかある感じじゃないか。話が違うよ。それに仕事上でもトラブルが。客が文句言ってるというから自分とこの売り物見てみたら何とコカイン! 俺は金持ちでビッグと言ったって、コロンビアの麻薬王になりたかったわけじゃねえよ〜。内輪もめも始まってドンパチ。助けてくれぇ〜!

 お騒がせの末に元のサンフランシスコに戻ったフレイザーくん、そこでなぜか婦人警官に格好しているハーレーにさんざ文句言うけど、彼女全然動じてない。だからよく考えて決めろって言ったじゃない。そりゃごもっとも。

 じゃあ今度は何がお望み?という彼女の問いに、さっきの轍は踏むまいと固く誓うフレイザー。オコーナーちゃん自身の望みを探って決めようと、彼女のアパートに忍び込んで日記を探ると、そこには「ロマンティックで感受性豊かな人がいい」と書いてあるではないか。よぉし、これだ!僕を世界一感受性豊かな人にして!

 今度は夕暮れ時の海辺だ。オコーナーちゃんと一緒のフレイザーは確かに感受性豊かだけど、夕陽を見てると泣き出すわ、いきなり彼女に愛の言葉を捧げるわ、イルカちゃんの歌を歌いだすわ…で、感受性ありすぎ。いいかげんオコーナーちゃんが暑苦しくってイヤになりかけたころに、海辺のならず者たちが登場(またも職場の同僚たち扮す)。こいつら感受性はゼロだけど、逞しさとアッチのパワーはたっぷりみたいで、オコーナーちゃんはさっさとこいつらに鞍替え。ありぃ?キミ、感受性ある男がよかったんじゃないの? ま、こういう事は女にゃありがち。おらおら、口ではああ言ってるけどカラダは正直だぜ…ってAV男優のセリフじゃないって(笑)。いちいち話が違うと女に言ってみたってムダだよ、男はあきらめが肝心。何だか雑誌のブルワーカーの広告に付いてる4コマ漫画みたいな展開になっちゃって、フレイザーはただただ夕陽に涙するのみ(笑)。何でこうなるのぉ〜?

 

フレイザーVSハーレー芸達者二人による好カード

 この映画は何でもスタンリー・ドーネン監督の旧作のリメイクらしいんだよ。でも、何と言っても元の元ネタと言ったら「ファウスト」にとどめを刺すだろうね。

 で、この後もフレイザーの七変化は続いて、バスケットボールのスーパースター、社交性豊かで知的な作家、リンカーン大統領…と化けていく、その化けっぷりが何ともオカシイ。改めてブレンダン・フレイザーっていう役者の懐の広さにビックリしたよ。

 実は恥ずかしながら、昨年までこの俳優の存在をほとんど知らず、「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」で初めて見た。で、こういう二枚目半的なポジションの人かと思ったら、その後の「タイムトラベラー/きのうから来た恋人」で、この人の芸の確かさと抜群コメディ・センスに舌を巻いた。今回も、その彼のコメディ演技がフル回転なわけ。人はいいけどイマイチってメイン・キャラクターもうまいけど、そこから見せる七変化がどれもこれも絶品。映画つくるほうも楽しんじゃって、ロケやセットから音楽までナリキリでつくってる(コロンビアの麻薬王の巻なんかラテン・サウンド全開でニギヤカ)から、まるで映画を何本ぶんか見たようなお徳用で楽しめる。そこにフレイザーが絶妙に各キャラクターを演じ分けるというわけ。本当にバカバカしく演じてるのもあるけど、知的な作家のキャラの時はかなり二枚目でもいけるんだよ。彼って大した役者だねぇ。

 で、この絶妙フレイザーを迎かえ撃つのが、これまた抜群のコメディセンスの持ち主エリザベス・ハーレー。その素晴しさは「オースティン・パワーズ」ですでに実証済み。きれいでセクシーなのはもちろん、回りにもそう見えてることが分かってる上で、思いきり自分をコケにしたりからかったりして笑わせる事の出来る貴重なコメディエンヌなんだね。これがなかなか出来ないんだよ。「ハリウッド・ミューズ」見ると、ようやくシャロン・ストーンもそれに気付いたみたいだけど。

 その彼女が衣装とっかえひっかえのコスプレ風味で、時に露出オーバー気味に男の目を楽しませながら演じる悪魔は、今のところこの人しか出来ないでしょう。それに、ちょっとこの悪魔、愛敬があっていい奴みたいなんだよね(笑)。で、この絶妙のキャラ設定はフレイザーが彼女を信じて誘いにノるという展開のためにも必要だったのだが、今一度、この映画の終盤にも意味を持ってくるんだね。つまり、神も悪魔もその存在は人間の心の中にいるってことかな。そういやフレイザーが最初に祈ったのも、神様に対してだったよな(あまり神様関係の話をすると、教養のなさがバレて詳しい人に怒られちゃうのでこれでオシマイ)。

 監督のハロルド・ライミスって、「ゴーストバスターズ」なんかにも出てるコメディアンだけど、監督としてもそこそこの作品つくってる。

 でも、前作「アナライズ・ミー」なんか、デニーロとビリー・クリスタルなんて腕利きの役者を見事にカップリングさせ、マフィアに絡んだ面白い着想の話。ものすっごく面白くなりそうだったのに、この題材この出演者の顔合わせだったらこれくらい当り前ってな程度にとどまってしまった。もっともっと手がつけられないほど面白くなっていい。それが、所詮この程度、これどまりのイマイチ監督なんだよねぇ。

 ところが今回はフレイザー、ハーレーという好カードを手に入れたせいか、ちょとヌケた感じなんだよ。それに、笑わせて笑わせて…それでラストはちょっと泣かせるね。

 いよいよ願いもあと一つ。そもそも、そんな願いで彼女を振り向かそうという自分の姑息な手段がマズかったと気付いたフレイザーは、願いを言うのを拒もうとするが今さら後戻りは出来ない。ならば…と彼がとった究極の選択とは?

 

 人間、つい最初の純粋な気持ちを忘れてしまう。でも、最初は本当に心からこう思ってたはずだよ。

 自分のことはいい、相手さえ幸せなら…ってね。

 

 

  

 

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