「ことの終わり」

  The End of the Affair

 (2000/11/06)


それは決して浮気なんかじゃなかった

 第二次大戦終了後間もない1946年のロンドン。ある雨がシト降る晩のこと、私ことレイフ・ファインズは帽子と三揃いのスーツでキメてコウモリ傘という、「アヴェンジャーズ」もびっくりの典型的英国紳士ルックで街を歩いていた。おっと、わが生涯の汚点「アヴェンジャーズ」の事は思い出したくもなかった(笑)。どうかあの作品の話はお許しいただきたい。

 とにかくその晩のこと、私はかつて親しくしながら今ではすっかり疎遠となった、高級官僚のスティーブン・レイとバッタリ出会ったのだ。ある時はIRAのゲリラくずれ、ある時は元バンドマンのコンドーム売りと、全くうだつが上がらないのがお決まりだったレイなのに、いつの間に出世して高級官僚?…とのヤボな詮索はともかく、彼はこのドシャ降り雨の中を、傘もささずに歩いているではないか。思わず私は「奥さんは元気か?」と尋ねてしまった。散歩に出ていると答えた彼は全く生気がない。気になって心ならずも彼を家まで送るハメになってしまった。

 家に上がると、レイは驚くべき告白をした。自分の妻が浮気をしているらしいと言うのだ。探偵事務所の名刺を見ては、踏ん切りがつかずため息のレイ。私もその話を聞いて、心穏やかではなくなった。

 やがて彼の妻が帰ってきた。そこで私は、レイと同じく2年ぶりの再会になる彼女を一瞥しながらおいとま。サッサと帰ってきたけど、それは他人の事に深入りしたくなかったからじゃない。

 彼の妻ジュリアン・ムーア…私がかつて愛を交した相手。確かに彼女は夫ある身ではあったものの、それは決して浮気なんかじゃない。本気も本気。私が生涯真に愛したと言える、たった一人のひとだった…。

 さて、この夜のレイの発言がどうしても気になる私レイフ・ファインズは、翌日、早速例の探偵社に出向き、ムーアの身辺を調査するように頼んだ。分かるよ何言いたいか。私も自分もかつて夫レイの目を盗んでは、彼女と好き放題にしていた男だ。調子いいにも程があると言いたいところだろうが、何しろ私は本気に愛してた。そして、それが一方的に終わっちゃったんだ。正直言ってまだ彼女を愛してもいるし、何しろ気になって仕方がない。私はどこかの相撲部屋のおかみさんをタラしこむ若い医者なんかとは訳が違うんだよ。

 ところが何と、当のムーアから会いたいと電話で言ってきた。彼女との仲は2年前に終わってたのに…。しかも関係を断ってきたのは彼女の方からではないか。何を今さらフザケるなこのクソ女…と言いたいところだが、どうせ私ははねつける根性もないヘナチョコ「アヴェンジャーズ」(笑)。世界の映画ファンの期待を失望に変えた私が、どのツラ下げて毅然とした態度がとれよう。でも、私には「イングリッシュ・ペイシェント」ってオスカー作品賞受賞作だってあるんだよ。結局何だかんだとムダな抵抗したあげく、彼女と会う約束をする私だった。

 いつもの店で落ち合い、いつものレストランで食事。あんなに会いたがってて覚悟も決めた私なのに、会ったらいきなりグチグチとイヤミの言い放題。極東の島国のFとかいう男も、いつだったか同じような事して墓穴掘って女に逃げられたとか言ってたっけ。私レイフ・ファインズはそんな男よりずっと男前だが、女心の分かってなさでは負けていなかった。会うんじゃなかったと立ち去るムーア。昔だったら悪かったとすぐに追いかけて抱きしめるところを、「アヴェンジャーズ」ショックからなかなか立ち直れない今はただ呆然としているのみの私レイフ・ファインズであった。

 やがて探偵事務所からジョン・レノン激似(笑)のイアン・ハートなる男が訪ねてきて、私に調査結果を報告してくれるようになった。彼は頬にアザのある自分の息子サミュエル・ボールド少年を助手に調査を進め、やがて浮気の現場らしきものを突き止めたのだ。早速、私はその家にうまいこと言って押しかけ、探りを入れようとした。そこにいたのはジェイソン・アイザックスなる、「パトリオット」に出てた時から見てて胸クソ悪くなるいけ好かない男。私がメル・ギブソンならとっくの昔にブッ殺してるところだが、生憎私は腰抜け「アヴェンジャーズ」のレイフ・ファインズ(笑)。しかもこのアイザックス、何と神父ではないか。逆にムーアから私のことをいろいろ聞いているなどとヌカしやがるから、さんざゲスの勘繰りをしたあげく収穫なしで引き上げた。このあたり、大金かけてつくったにも関わらず大コケの「アヴェンジャーズ」主演者らしい情けなさと言われても、全く返す言葉がない私。ユマ・サーマンにだって責任はあるのに(笑)。

 これで終わりでは私の気が済まない。私から黙って去っていったあげく、いまだに私の心をかき乱すムーアにも腹が立ちっぱなし。ついでに私のアソコも立ちっぱなし。どうしてくれよう。私は亭主のスティーブン・レイに探偵を雇ったことを告げて、一部始終をチクったのであった。あぁスッキリ。ところがこれを聞いて温厚なレイが怒りだした。ムーアに…ではない、この私にだ。おいおい、せっかく男どおしでクソ女を罵倒して楽しくやろうと思ってたのに…。

 でもレイはすぐにガックリ肩を落として、「スティル・クレイジー」を彷彿とさせるショボクれよう。やっぱりレイはこうでなくっちゃ(笑)! で、つぶやくのだよ。

「昔、君と女房とはいい仲だったんだろ?」

 あちゃ〜、そこんとこ突かれると痛い。ついにバレちゃったの?

 

二人の転機となった、ある「事件」

 1944年、戦時下のロンドン。戦争でみんなが浮き足立ってるのをいい事に、私レイフ・ファインズはムーアとおイタのし放題。朝から晩まで絡まり合ってて…羨ましいだろ(笑)? 空襲なんてかえってコーフン。まるでボディソニック付きのベッドのあるラブホみたいだぜ(笑)。

 ところが調子に乗ってたら、本当に近くで爆弾が爆発。すっ飛ばされて階段から落っこちる私は、しばし気絶したらしい。やっとこ起き上がって部屋に戻ってみると、何だかムーアが膝まづいて祈っているではないか。私が戻って来たのを見てとると、まるで幽霊でも見たかのような表情。彼女に言わせると、さっきは確かに死んでいたとのこと。おいおい、足はちゃんと二本あるよ。三本目だって真ん中にちゃんとある(笑)。

 だけど、彼女は明らかに様子が一変した。急に服を着ると慌てて立ち去った。最後の言葉がまた分からない。

「愛は終わらないわ。例え二度と会わなくても」

 その言葉通り、彼女と会ったのもそれっきりになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜなんだ、どうして彼女は私の前から消えたの? そんなに「アヴェンジャーズ」ってつまんなかった(笑)? そんな私レイフ・ファインズの2年ごしの問いには、例の顔にアザのあるボールド少年が答えてくれた。彼がレイの家に忍び込んで、彼女の日記をカッパラってくれたのだ。さぁて、興味しんしん読んでみると…。

 

ジュリアン・ムーアの日記より 1944年某月某日

 私ジュリアン・ムーアは「ブギーナイツ」でマーク・ウォルバーグ坊やのデカいナニもブチ込まれたけど、レイフちゃんのナニはやっぱ最高。やっぱり男のナニはデカさじゃないわね。こういうものは相性なんだわ。

 というわけで、今日も今日とて彼のお部屋でねっちりとお相手。ところが空襲がひどくなり、彼が下の様子を見に部屋を出た時、近くで爆弾が爆発したのよ。あっと声を上げる間もなく、彼は下に吹っ飛ばされたわ。

 あわてて倒れてる彼に駆け寄ったけど、息をしていなかった。確かに彼は死んでいたの。私はなすすべもなく、部屋に戻って膝まづき、誰とはなしに祈ったの。

「彼を死なせないで。私から彼を取り上げないで。彼を助けてくれるなら、私は彼と二度と会わなくてもいい

 そしたら、彼が部屋に戻ってきた。

 私は祈った。そして、それは叶った。あの時、確かに彼は死んでいた。これは何よりも私には真実なの。どこの誰かは分からないけれど、その「誰か」は私の願いに応えてくれた。気のせいなんかじゃない。

 私もその「誰か」との約束を果たさなければならないの。だから彼に言った。

「愛は終わらないわ。例え二度と会わなくても」

 もう彼には会えないの、彼を愛しているから。彼を誰よりも大切に思っているから…。

 

 …私ことレイフ・ファインズは、これを読んで目の前が真っ暗になってしまった。あれは私に冷たくしてた訳じゃなかった。私を愛するがゆえ、大切に思うがゆえのつれなさだったのか。何だよおまえ、それならどうして、そうは言ってくれなかったんだい…?

 

果たさねばならない神様との渡世の「義理」

 この作品は大好きなニール・ジョーダンの最新作なんだよね。僕がいかにジョーダンを買っているかということは、当サイトの「My Favorite Directors」の項を参照されたい。この人の作品はいいの悪いので極端に出来不出来が分かれる。大体今まではハリウッドに色目を使うとスカになるのが大半だったみたい。今回はというと、長年の盟友スティーブン・レイを配して万全の布陣。さすが、仕損じなしでした。

 しっとりとしてデリケートなタッチは、往年のトリュフォー作品をも思わせるほど。マイケル・ナイマンの音楽もいいし。この人の音楽、世評はえらく高いんだけど、僕は正直いってあのギコギコしたストリングス・サウンドが苦手だったんだよね。どこか偉そうじゃない。俺は「チャーリーズ・エンジェル」みたいな仕事は引き受けなくて、頭がいいからミニシアター作品一筋…みたいな。だからこの人の「何様」サウンドが好きになれなかった。だけどここんとこ、「ひかりのまち」といいこれといい、さりげなくいい感じの音楽を付けてる。さっきの話の延長でいけば、トリュフォー作品常連だった作曲家ジョルジュ・ドルリューにも似た、切ない想いを奏でるような音楽。この音楽のせいで、トリュフォー連想したのかな?

 ジョーダン作品の中でも屈指の出来の2本…「モナリザ」と「クライング・ゲーム」には、それぞれアッと驚く謎があった。今回はグレアム・グリーンの小説を脚色した作品ながら、やはりある「謎」が物語のポイントとなって登場する。旧作2本と比べるとささやかで小ぢんまりしたものだが、実は物語の原動力となるこの「謎」、今回は神がからんでいるのが私たち日本人には厄介かな? 神がいるんだかいないんだか分からない日本の社会。だから、何でジュリアン・ムーアがあんなに思い詰めるのか…が、今一つピンと来ないかも。でも、僕は思い出したんですよね、この作品見て全然関係ない映画を。それはアンドレイ・タルコフスキーの遺作「サクリファイス」

 金も人望もあるひとかどの人物が、別荘に人集めて楽しくやってると、突然テレビで核戦争が勃発すると言ってくる。一転して重苦しい雰囲気。主人公は思いつめちゃって祈るんだ。

 神様お願いテンプターズこの世を救ってくれるなら、私は何もかも捨てましょう…。

 そんな悪夢の一夜が過ぎると、世界は何もなかったように平和なんだよ。あれは夢だったのかな?…確かにそうとも言える。でも神様にはバックレられない。約束は約束だもんな。だから主人公は家に火をつけると、狂人として精神病院に送られちゃった。このお話、ただ聞いてたら「なんで?」だよね。こいつアホとちゃう?

 逆にこの「サクリファイス」を名作傑作とホメそやす評を読んでみても、やれバッハの音楽がどうのイコン画がどうのって、ボクちゃん頭いいでしょ的知識の羅列に終始してちっとも読む側の心に届かない。実はおまえら何も分かっていないんじゃない? タルコフスキーだから一応ホメとくか、ホメとかないとバカにされるからな…どうせそんなとこだろう。「マルコヴィッチの穴」の時も同じだったよね。感想読んでみると、一握りの人たちを除いて(もちろん僕を含めて)誰も何も分かっていなかったのミエミエだったのに、分からないって正直に申告した奴は皆無だった。どうして分からないって言えないんだ。だから俺はおまえらに失望してるんだよ、バカどもが(笑)!

 だが、こう見てみたらどうだ? 神だ何だとモロに言っても日本人にはピンと来ない。そうでなくて、かつての華やかりし頃の東映仁侠映画でも見たと思いねぇ。そう考えてみれば…義理と人情ハカリにかけりゃ、神様との義理が重たい男の世界。笑っておくれ皆々様よ、馬鹿な男のナニワ節。金もいらない、女も捨てた、俺の人生今捨てる。この世のしがらみに火を付けて、パッと咲かすぜ炎華(ほのおばな)。チャカチャンチャン、チャカチャカチャンチャン…。タルコフスキーの思いのたけ、この一線だけは俺には譲れねえんだよというタンカが聞こえてくるでしょう?…ちょっと脱線したか(笑)?

 かなり回り道したけど、この「ことの終わり」のジュリアン・ムーアにもそれが言えるんだよね。でないと、何であんなに思いつめるの?…で終わっちゃう。それは生まれついてからず〜っと引きずってきた、神様との渡世の義理ってやつじゃあござんせんか。

 

 女の愛にようやく気づいたファインズは、再びムーアとの愛の暮らしを取り戻そうとするんだけど、その時にどうしようもない運命が襲いかかってくるんだね。

 てめえは精一杯女を愛してるつもりだが、結局愛がよく分かてないし信じ切れてもいない。何で俺を捨てたとグチュグチュと訳も分からずグチとイヤミをタレ流し、真相を知ったら今度は得意満面でバカみたいにハシャぐ。大人づらしてカッコつけて、世の中全部分かっちゃったツラしてたら最後に思わぬアッパーカットくらってグロッキー…。レイフ・ファインズが男のアホさ身勝手さガキっぽさ見栄っぱりぶりを体現して身につまされる。これ見ると、フェミニズムが骨の髄までトコトン大嫌いなこの俺でも、ホント女に申し訳なくなる。ごめんなおまえ、もう言い訳なんかしない。

 みんなこの俺が悪かった。

 

 

 

 

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