「スペースカウボーイ」

  Space Cowboys

 (2000/10/30)


歳をとったら気持ちも萎えるの?

 人間も40年ぐらいやっていると、もう世間的には立派にオッサンということになるんですかね。

 若い女たちに言わせると30くらいからオヤジと決めつけるけれど、あれは若さゆえの傲慢さとでも言うべきもの。どうせそいつらがババアになった時(そんなもんすぐだ)、萎びたオッパイと衰えた肌をさんざん自分たちが言った100倍バカにされるだけのことなんで気になんかしてない。まぁ低能無教養品性下劣デリカシーゼロの女どもには言わせておきゃあいい。だが自分でわが身を振り返ってみても、さすがに40となると後戻りできない…いよいよ来るとこまで来たって感じなんだよな。何よりもう自分で自分のことを若いと騙せなくなってくる。

 例えば何だか物忘れがひどくなっているんだよね。さっき手に持っていたボールペンをどこに置いたか分からなくなっている。傘をどこに置いてきたか忘れてる。

 それより深刻なのが人の名前を忘れるというやつね。例えば「リプリー」の監督アンソニー・ミンゲラをネルソン・マンデラと言ってみたり(笑)。これは違う名前でも何か出ただけいい。もっとひどいと、ア〜ウ〜と唸ってみても名前がひとかけらも出てこないことだってある。先日、毎年恒例の正月映画座談会をまたやったんだけど、その場の参加者全員が40歳以上だったので、「え〜と、あれ誰だっけ?」「もう少しで出そうなんだけどな〜」なんてみんなでやってた。「もう少しで」なんて…いくら考えたって出やしないって(笑)。しかもこれ、横文字カタカナ言葉ほど忘れてるってところが情けないよね。だから例えばあのスペイン映画「オープン・ユア・アイズ」、すっごく映画は面白かったのに、監督の名なんて全く覚えることできなかったもんね。これはマジメに恐怖です。ハッキリと衰えてきた証拠なんだから。

 それと、これは僕に限って言わせてもらえば、映画館の中で座るポジションが変わった。以前は真ん中の指定席エリアの少し前に陣取って、大画面を満喫して見ていたものだが、最近ふと気がついてみると、知らず知らずのうちに後退して指定席エリアのすぐ後ろに座るケースが多くなっていた。やっぱり大画面を近くで見ることに目が耐えられないのかねぇ。それって老眼か??

 いちばん寂しいのが、体を使った後の痛みがインターバルをおいて出てくること(笑)。ちょっと遠出したり買い物したり荷物持ったりするとてきめん。普段、運動なんてろくすっぽやってないから、体動かした後で痛くなるのはまず仕方ないとはいえ…。何だか体の節々が痛いけど昨日あたり何か体使うことやったっけ?なんて考えると、実はそれ2日前3日前なんてことがザラ。付き合ってた年下の女には「おじさま」なんてバカにされて、情けないやら痛いやら(笑)。言ってろよ、おまえだっていつか歳とるんだからな!

 でも、そんなに歳とった気でいるのかと言えば、そうでもないんだよ。昔、40歳の人間を見た時には、そいつらが恋愛したりバカ話したり何かに夢中になったり…そんな大人げないことするようには思えなかったのに、今の自分はまるで昔とちっとも変わらない感じでそんなガキみたいと言われることをやっている。もちろん妻帯者の友人の中にはすっかり分別くさくなって、僕が独身で子供もいないからお気楽なんだと言う者もいる。しかし妻帯者でも生きいきしている連中だっている。結局萎れている奴は女房子供がいるからじゃなくって、ただ単にそいつが元々そういう奴だから萎れているだけだと思うんだよね。

 体は衰えつつあるかもしれないが、実は気持ちは中学生の頃とあんまり変わんない…っていうと、この映画のイーストウッド御大たちみたいなもんなのかな(笑)?

 

夢かなわずして破れ、以来幾年月

 昔むかしある所に…っていうか、時は1958年…僕が生まれる1年前。アメリカ空軍では人類を宇宙に送り込むプロジェクトを計画し、いわゆる「宇宙飛行士」を養成していた。その来たるべき宇宙旅行のために訓練を怠ることなく続ける彼ら4人のテストパイロットを、「チーム・ダイタロス」と呼んだんだね。その面々、今日も今日とて超音速機に乗って大気圏の限界ぎりぎりまで飛んだりしていたけれど、操縦のムチャがたたって飛行機は失速、墜落。乗っていた奴らは助かったものの、てめえのおかげでどんな目にあったと思ってるんだ、いや俺は悪くない…と内輪ゲンカが始まった。だが、空軍の上のほうでは彼らとはまた別の思惑が働き出していた。これで何機の超音速機をオシャカにしたことやら…と、このプロジェクトをいささかお荷物に感じ始めたんだよね。

 で、来るべき時が来た。宇宙計画は新たに発足したNASAが引き受けることになり、空軍は一切手を引くことが決まったのだ。記者会見では地球最初の宇宙飛行士としてチンパンジーが紹介され、それと無理やり握手させられるチーム・ダイタロスの面々。そう言えば人間とチンパンジーの「あいのこ」オリバー君が来日した時、子づくり実験させられてたポルノ女優とかいたけど、あんな事やろうとした彼女は偉かったよなぁ(笑)。というわけですっかり面子をつぶされ、苦汁を飲まされた「チーム・ダイタロス」の面々。彼らはこれで宇宙開発のフロントラインからすっかりはずれ、そのまま夢を断念することを余技なくされてしまった。以来40有余年…。

 

 21世紀目前の現代、NASAでは専門家たちが深刻な顔をして頭をひねっていた。ロシアの前時代の遺物みたいな人工衛星アイコンが、どんどん軌道をはずれて最終的には大気圏に落ちてしまうからだ。そんなもん落ちれば大気圏で燃え尽きちゃうから、放っておけばいいじゃないかと言いたいところ。ところがロシア側は、現在新たな通信衛星を打ち上げる余裕がないので何とか元の軌道に戻したいと言ってきた。しかし何せガタピシいってるオンボロ衛星だから、今さら地上からの作業では誘導装置がピクリともしない状態なんだね。…で、この誘導装置はどんなシロモノかというと、えらく旧型で今時の若い技術者には全く分からない。だが、待てよ…この誘導装置、スカイラブ時代にアメリカで開発した装置の全くのパクりやないか!バッタもんやで。

 で、誰がこの装置を扱える?

 今回のプロジェクトでスタッフを勤めるマルシア・ゲイ・ハーデンは、その時にある事を思い出したのだった。

 その頃、例の「チーム・ダイタロス」メンバーだった一人クリント・イーストウッド御大は、ヨメさんと自宅ガレージでイチャつき中。いや〜お若いですな!え?自分はそんな歳になってヨメさんとイチャつけるか自信ない?ごもっとも。でもヨメさん老けたせいにはするもんじゃないよ。その前に自分のナニが衰えてる。やっぱり早くから鍛えておかないとね。うっうっ…。ところが突然の来客に、恥ずかしいところをバッチリ見られるイーストウッド御大。何が恥ずかしいんだって? いや、御大ほどご立派ならば恥ずかしくもないですが、こちとらのお道具ときたら…。若いうちから濡れタオルか何かでピシャピシャ叩いて鍛えればよかったんだろうか(笑)?

 で、来たのはNASAから来たスタッフの男女。先ほどのマルシア・ゲイ・ハーデンと感じ悪い若い男ローレン・ディーン。

 実は…ということで、前号までのあらすじを述べるハーデン。で、この誘導装置は旧式すぎて扱える者がいない。で、設計したのがイーストウッドということで、彼に協力依頼がきたんだね。若いスタッフに技術を教えてほしい…と。

 ところが、NASAから来た2人のうち若い男ディーンのほうが、不用意に言った言葉がいけなかった。「こんなのちょっと教えてもらえばすぐリベンジしますよ、なにせ俺は西武ライオンズの松坂ですから。そこんとこヨ・ロ・シ・ク!」

 古兵イーストウッドにも意地がある。おもわずカチ〜ンときた。

「ケッ、おめえにゃムリだよ。俺は痩せても枯れても冬季五輪スピードスケート銅メダリストの黒岩だ。そういうヨタはメダルとってから言うんだな」

 軽く返されたディーンはカチンときたんだね。「何を〜このジジイ。堤オーナーに言いつけてやる。俺は松坂大輔さまだぞ!ロケット型巨乳女子アナとだってやってるんだ!」

 ゲイ・ハーデンは何とか協力を…と思ってたけど、何せバカ殿の若様松坂様が怒っちゃったから帰らざるを得なかった。

 2人が帰って御大の怒りも収まってから、ヨメさん優しくささやいた。

「あんたはいつもそれね。協力してあげたらどうお?」

「フン。何がロケット型巨乳アナだ、女を乳のデカさで判断するうちゃあ、まだまだ乳くせえガキだぜ。デカさでなくて感度なんだよいい女ってのは(笑)、なぁおまえ? この黒岩さまが出なきゃ話になるまいて」

 日を改めて、黒岩イーストウッドはわざわざ西武本社ならぬJOCならぬNASAにやってきて、ゲイ・ハーデンに協力を申し出る。ただし…。

「この仕事は若僧じゃ無理だ。シドニーでメダル取りたいんだったら、やっぱりメダリストだぜ。ジャンプの笠谷、水泳の鈴木大地、柔道の山下…じゃなかった、俺たち「チーム・ダイタロス」でなければ協力はできねぇな」

 これを聞いた堤オーナーことジェームズ・クロムウェルは怒る。

「何をフザケたことを抜かしやがる。俺は自分一人のためだけに電車を走らせるヒトラー堤様だぞ!虫ケラどもがたわけたことを」…実は約40年前に、イーストウッドたちの宇宙への道を閉ざしたのが誰あろうこの堤クロムウェル。その頃から両者の確執はあったわけ。ところがさすがJOCのおエラいさんをやっているだけある堤クロムウェル、裏の権謀術数やら政治的な企みには長けている。サマランチにだって接待浸けワイロ浸け。長野の高級風俗店にどっぷり。だから最初は怒ったものの、すぐに裏で悪企み始めたわけ。

「ここで黒岩イーストウッドに協力すると見せかけて、松坂ディーンに全部教えさせてしまえばいい。なぁに、いざとなったら交通違反か何かの身代わりにして、黒岩なんて警察に突き出して知らん顔してしまえばいいんだ」…本当に心底悪党だねこのオーナー…じゃないクロムウェル(笑)。

 そこでクロムウェル、「チーム・ダイタロス」にチャンスは与えるが、控えとして若い奴らを付けること、「チーム・ダイタロス」の面々も普通の宇宙飛行士と同じ条件を満たすこと…とクギを刺す。

 黒岩イーストウッドは大喜びでかつての仲間3人を探しに向かった。

 

ロケット型巨乳と本物のロケットは違う(笑)

 さて当時の仲間はどこ行ったって言っても、何せもう40年が経っている。例え見つかったとしても、今回のプロジェクトで使い物になるかどうかは分からない。

 まず口説きに行ったのが、神父になって教会でシラケ説教をやっているジェームズ・ガーナー。えらく老け込んでるが、一も二もなくオーケー。

 次に今はジェットコースターなどの設計者になったドナルド・サザーランド。これも、最初は冗談だろ?なんて言ってたが、宇宙に行きたい気持ちは同じ。

 ところが最後の三人目が難物だった。今では曲乗り遊覧飛行機の操縦で食っているトミー・リー・ジョーンズ。超音速機の無謀な操縦で墜落し、そのため計画もおじゃんになったと思ったイーストウッドとは、その時からずっとケンカ腰。当然ずっと会うこともなかった。案の定、会ってみても素っ気ない返事。

 ところがチャッカリ他のメンバーとの集合場所には現れたトミー・リー。やっぱりみんな宇宙へ行きたかったんだよな。

 さぁ、このやたら老けた面々は意気揚々とNASAに乗り込むけれど、例の松坂ディーンに堤クロムウェルをはじめとして悪し様にボロクソ言う奴か良くてからかう輩ばかりで、彼らのプライドはいたく傷つく。しかも、そこでメゲてる場合でなくて、限られた期間中に宇宙飛行士の体をつくらなけりゃならなかったのだ。味方といえば、最初から好意的に彼らを見つめてきたマルシア・ゲイ・ハーデンただ一人。

 こんなジジイを連れてきてメダルが取れるのか、あの鳥人ブブカだって歳には勝てない。今度のシドニーは厳しいんだ…じゃなくって宇宙なんだけど、何だかんだと言われてもジイサン聞く耳持たない。耳遠いふりしてる。

 でも、実際に走らされるともうヘトヘトで、いちばんヨボヨボのジェームズ・ガーナーなんて死にそう。てんやわんやの訓練は続く。そのうち、視力検査では内容をその場で暗記してそのまま暗唱したり、彼らも老練な悪知恵働かせてピンチを切り抜けるようになる。サザーランドなんてひどいド近眼なんだけど、女医を口説いてるうちに宇宙で使用できる特注の老眼サングラスつくってもらうなど、周囲の人間も協力を惜しまなくなる。この女医さんが、「アルタード・ステーツ」で公開当時注目の新進女優だったブレア・ブラウン。俺、好きだったんだよなぁ。その後鳴かず飛ばずで残念だったんだけど、今回老けたとはいえその健在振りを見ることができて僕は本当にうれしかったよ(実は「ノイズ」にも出てたんだけど、あれはマジでババアになってて見るのがつらかった)。

 すごかったのはスペースシャトルの操縦のシュミレーションで、周囲の連中がわざと難しくプログラムしていたため、トミー・リー・ジョーンズは最初操縦に失敗してしまう。頭に来たジョーンズは、2度目にはコンピュータがダウンした設定で操縦装置に挑む。本来コンピュータなしの手動操縦による着陸は不可能だと、松坂ディーンはじめ若手連中は半ばバカにする感じ。ところが、これで無事着陸できたから快挙もいいとこ。彼らに対する周囲の見る目が変わっていくんだね。例の松坂ディーンだけ冷ややかだったけど。

 そしてさらに援軍現る。マスコミがこれをかぎつけて大騒ぎ。世論の後押しもあって、彼らをどうしたって宇宙へ送らざるを得なくなった

 どうなってるんだ、あいつらリタイアさせるはずだったんじゃないのか?…NASAに今回の衛星の修理を頼みにやってきたロシアの軍の高官は、あんなジジイが行くなんて話が違うとご立腹。それを何とか抑えるNASAのおエラいさん堤ことクロムウェル。だが、堤=クロムウェルに裏があるように、どうもこのロシア軍高官も腹にイチモツ、何か隠しているような。ロシア東欧とくればドーピングか?コマネチだってチャウシェスク大統領のバカ息子のなぐさみもの。

 その一方で、ずっと彼らを応援し続けてきた女性スタッフのゲイ・ハーデンとトミー・リー・ジョーンズとの間にも淡い感情が流れる。聞けば彼女も宇宙飛行士になりたかったのを断念。だから、あきらめず宇宙をめざす彼らを応援したいんだね。

 ところがそんなトミー・リーに運命は非情な現実を突きつけるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから読むこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に宇宙へと出発した「チーム・ダイタロス」プラス松坂プラス若いの一名を待っていたのは、予想外の現実だった。問題のロシア衛星に接近してレーダー電波を飛ばしたら、急にその刺激で異変が起きて、あちこちから武器みたいなものが飛び出してくる。

 単なる通信衛星にも関わらずこのコワモテぶりに、おかしいとすぐに気づくのは凶悪犯と戦い続けたダーティ・ハリーことイーストウッド御大ならでは。案の定コワゴワ近づいてみると、この衛星はただの通信衛星じゃない。核ミサイルを満載した軍事衛星そのものじゃないか!イーストウッド以下ジイサンどもは怒り心頭だ。堤!てめえ騙しやがったな!

 こんな衛星を軌道に戻したら、とんでもないことになる。どうやって地球の引力圏から離そうかと、堤オーナーの言うことなんかシカトでジイサンたちが相談してると、オーナーの言うことに逆らうのかよぉ!と、堤に甘やかされるだけ甘やかされて、魂の根っこまで腐り切った松坂ディーンが偉そうに口出す。俺たちは命令された通りにやりゃあいいんだよ!…だとぉ?このガキャ〜。本当に近ごろの若い奴は自分でモノを考えるということが出来ません。どいつもこいつも長いもんに巻かれやがって、昔は若い奴はみんな強い奴には刃向かうって相場が決まってたんだよ。ファック・ユー!

 ジイサンたちはこんなバカを相手にしませんでしたが、バカの方も黙ってません。ケッ、俺にあの誘導装置が扱えないだって? この松坂様がリベンジしてくれるぅとばかり、リベンジリベンジとバカの一つ覚えの台詞を口走りながら、こっそり衛星に近づいていって誘導装置を勝手にいじり始めた。

 気づいたイーストウッドたちがやめろとどなっても後の祭り。衛星は突然ブッ壊れ出して、軌道を大きくそれて地球へと落っこち始めた。松坂はというと、ブッ壊れのショックで気絶して衛星の回りにブラ下がってる。結局デカい口たたいたあげくメダルは取り損ない、せいぜい決めたのは巨乳女子アナとのパツイチどまり(笑)。ロケット型オッパイ揺すってる女のお相手するのと、本物のロケット乗るのたぁ訳が違うんだ、べらぼうめ。イチローだって呆れ返ってアメリカ行っちまったよ。さぁ、黒岩! おまえの出番だぜ! こんな腐ったガキの交通違反の身代わりなんかやってないで、今こそ真のメダリストの実力見せつけろ! 堤なんか叩きつぶせ! 長野オリンピックでの不正を暴き出せ! サマランチを弾劾せよ! ゴーゴー黒岩(笑)!

 落下する衛星を何とか止めたものの、その状態のままではどうにもならないと気付いたイーストウッドとトミー・リー。この衛星に推進力を付けて月に向けて発進し、途中で核ミサイルを全弾発射してしまえば危険は回避できるが、誰がそんなことをやる? それは二度と地球には帰れない、月への片道切符に他ならないのだ。

「俺がやるよ」とその時トミー・リーが言った。「月に行きたいと思ってたんだ」

 

イーストウッド映画変遷の果てに

 イーストウッドって言えば、「ダーティ・ハリー」あたりで人気を決定づけたあたりから、どうも自分と同格や格上の俳優とは共演しなくなっちゃったんだよね。そこへプロデューサーや監督兼任ときて、まずますワンマン映画の色彩が強くなってきちゃった。だからイーストウッド色は鮮明になっていったけど、どことなく作品がこじんまりとしちゃってもいたんだね。

 ところが、そんな彼が突然強力な共演者を迎えて発表したのが「許されざる者」だった。ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン、リチャード・ハリスと、いずれ劣らぬ大物ぞろい。確かにこれは彼の勝負作だったのだろう。見事オスカーにも輝き、イーストウッドの新たな代表作となった。そしてこれを契機に、イーストウッドは他流試合や大胆な共演者起用を始めるようになった。「ザ・シークレット・サービス」でのウォルフガング・ペーターゼン作品への出演とジョン・マルコビッチとの共演、「パーフェクト・ワールド」でのケビン・コスナー起用、自身の実質的な助演級の出演…などなどなど、一時のマンネリを脱して興味尽きない顔合わせを続々実現するようになったのだ。それはイーストウッドの懐がより広くなったということなのだろうか。

 しかし、大胆な顔合わせで見せるようになった近年のイーストウッド作品の中でも、今回の作品ほど大胆なそれはなかったね。大物スター4人の共演。イーストウッドはリーダー格とはいえ、ほぼ4分の1の比重。しかも一番おいしいヒロイックな役は、今一番アブラの乗ったトミー・リー・ジョーンズに譲ってる。こんな謙虚な姿勢も今までにはないことだ。そして何よりこれらの共演者の顔がイーストウッドの隣に立つとは思いもしない意外性。しかもしかも、何とイーストウッドがSFXを駆使した宇宙での物語をやるという驚き。何から何まで新鮮そのものだ。

 だけど実際には、イーストウッドはもっとコテコテのSFX大作「ファイアーフォックス」を、とっくの昔に発表済みなんだよね。だから、こんな題材を手がけてもちっともおかしくない。一般にとらえられているより、もっと大胆で柔軟な発想の映画作家なんだよ。

 ところで、現代アメリカ映画のアイコン化しているイーストウッドの出演作の中で、あなたはどれが一番好きだろうか? 僕なら何のためらいもなくこの一作を挙げる…彼の作品の中でも異色の人情コメディ「ブロンコ・ビリー」だ。現実社会ではしがない人生の敗残者たちが、ドサ回りのワイルド・ウエスト・ショーを上演しながらアメリカ縦断の旅がらす生活。そんな人生に疲れた悲哀をにじませながらも、心の中は大西部への夢を自分たちが現代に体現しているのだという誇りと喜びに満ちている。イーストウッドはこの旅芸人一座のリーダー役。ブロンコ・ビリーなるカウボーイを演じて、観客に夢とロマンを与えるのがその役どころ。バカバカしいとさえ言える情況なのにマジメな顔で西部男になりきったおかしさを見せて、快調のコメディ演技を見せていた。

 この笑っちゃうほどの律儀さで自分の流儀を守り、仲間と助けあい、夢に生きる男というキャラクター…そして「カウボーイ」というキーワード…これをそのまま宇宙に持っていくと、何とまぁ見事に今回の「スペースカウボーイ」に重なるのである。だからこの作品の原点は間違いなく「ブロンコ・ビリー」のワイルド・ウエスト・ショーにあるわけで、決してこれはSFなんかじゃないんだね。

 しかもそのバックボーンとして、あの名作「ライトスタッフ」でサム・シェパードが演じた超音速パイロットの、孤高の西部男イメージを巧みに折り込んでいるところがまた憎い。今回の「スペースカウボーイ」が、イーストウッド作品としては異色づくめなのに、どこか親しみがあって違和感を感じさせないものとなっているのは、そんな理由からなのだ。あくまで「カウボーイ」映画だから…なのである。

 そして今回のイーストウッド作品の最大のテーマは「老い」である。前作「トゥルークライム」で骨のある一匹狼体質のジャーナリストを演じたイーストウッドは、現役バリバリでやれる男を演じてはいたが、画面上ではすでに年齢的にムリがあった。人妻との不倫シーンなどもあったが、肌の衰えが著しくて見ていて痛々しいほどだった。そこで今回はこうした無理を重ねるのをやめて、自らの「老い」を前面に出したのだろうか。それが何とも言えぬ味となり、今回かえっていい結果を生んだようなんだね。

 

本作品最大の見どころはドナルド・サザーランド!

 4人の「カウボーイ」たちについては、まずリーダーのイーストウッドはともかく、トミー・リー・ジョーンズがさすが最前線現役バリバリ主演級スターの実力と貫祿で、イーストウッドも思わず華を譲るオイシイ役どころ。泣かせてくれます。

 だがこの作品への起用&出演が意外なら、ぐ〜んと好感度アップの楽しげな演じっぷりも意外なのが、ここんとこ万年脇に回っての悪役が相次いでいたドナルド・サザーランドだ。サザーランドといえば出世作「マッシュ」あたりの若い頃はひとクセあるユーモアで売り出していたが、ベルトルッチの「1900年」で変態ファシストを演じたあたりから、数多くの映画の脇でチョコチョコと悪役を演じる存在になっていったよね。「バックドラフト」「ディスクロージャー」「アウトブレイク」「ロックアップ」…などなどでのサザーランドの役柄を覚えていらっしゃるだろうか? たぶん悪役をやった人…くらいの印象しかないだろう。ところがこの作品では近年の彼のステレオタイプなイメージをブチ破り、味わいがあってユーモラスな役柄を飄々と演じてさすがの役者ぶり。何かと言うとそこらじゅうの女を口説きまくる老ドンファンぶり、老眼を隠して暗記で視力検査を乗り切るしたたかなタヌキぶり…役の大きさからいっても要求される演技からいっても、サザーランド久々にその役者としての実力と魅力に見合った作品と出会ったのではないかな? ここにサザーランドを持ってこようと思いついたイーストウッドも偉いな。正直言ってこの「スペースカウボーイ」、明るく楽しいドナルド・サザーランドが最大の見ものと言ってもあながちウソじゃないもんね。

 で、他の3人と比べるといささか損な役回りなのがジェームズ・ガーナー。たぶん、この人がカウボーイズ最高齢じゃないか? 元々トボけた味のユーモアで売っていた人なので今回のような作品にはうってつけのはずなのだが、脚本での彼の役の描き込みがとにかく足らない。だから印象も一番薄くなってしまった。本来の持ち味のおかげで、ハードなトレーニングでバテバテになるくだりなんかは何とも言えないおかしみがにじみ出てくるのだけれど。…まぁとにかくこうした面子とイーストウッドという顔合わせが何ともおかしいんだね。で、今回ばかりはイーストウッドが全てを仕切ってる感じに見えないのが、またミソなわけ。

 でも、勝手が違う宇宙に行って、かつてのワンマンではなく4人での団体行動を強いられるイーストウッドも、それはそれでチャーミング。年老いてこその新鮮さとは言えないかい? 実るほど頭を垂れる稲穂かな…じゃないけど、この年齢にして今ひとたび「謙虚」に徹するイーストウッド。実はこれこそが、今回の作品で最大の野心的試みだったのではないだろうか?

 お話的にもどことなく「アルマゲドン」を連想させてしまうこの映画だけど、言っちゃあ悪いがこっちの4人と比べると、「アルマゲドン」はメンコの数がまだまだ足りない。だから「アルマゲドン」には文句言った俺も、こっちには素直に泣けた。

 この映画の最後には、月を眺めるイーストウッドがヨメさんにシミジミ言うんだよ。

「あいつ、ちゃんと月に行けたのかなぁ…」

 こんな謙虚な態度のシンミリしたイーストウッドを見るのは初めて。それもとっても素敵だけど、この映画はその後の本当のエンディングこそが実は最も素晴しい。

 画面が月面に転じて、いつしかシナトラの歌う「Fly Me to the Moon」が流れて…。いや〜、こうこなくっちゃ。ここはエアロスミスの演歌みたいな歌じゃあいけませんや。

 時は西暦2000年、2000年の夢は21世紀まで続く。じっと抱いてきた願いはきっとかなうのだと、ここはみんなで信じようじゃありませんか。

 僕だって、ずっとそれを信じているからね。

 

 

 

この映画感想文はフィクションであり、登場する松坂、堤、黒岩、笠谷、鈴木大地、山下、イチロー、ロケット型巨乳女子アナ、サマランチ、コマネチ、チャウシェスク大統領のバカ息子、西武ライオンズ、JOC…等の人物・団体名はすべて架空のものです。似たような名称の人物・団体が存在していたとしても、単なる偶然ですのでお間違えなきよう(笑)。

 

 

 

 

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