「奇人たちの晩餐会」

  Le diner de cons

 (2000/10/02)


今日の演目:仏蘭西爆笑小噺「奇人たちの晩餐会」

(フランシス・ヴェベール作)

演者:映画館主亭F助

 

(お囃子に乗って演者登場。)

 

 え〜、毎度バカバカしいお笑いを一席。

 世の中にはいろんな人がおりますが、何かというと人をバカにする輩、こういうのは実にいけませんな。

「ねぇちょいと。来年のお正月映画で『バーティカル・リミット』っての、これ面白そうだから一緒に見たいねぇ。でもさ、これK-2って山のお話なんだけど、Kー2って山はホントにあるのかい?」

「バカだなおめえは。有名な山じゃねえか。そんな事も知らねえのかバカ」

「何だい。バカバカってお言いじゃないよ。じゃあおまえさん、K-2ってどこにあるんか知ってるんだろうねぇ?」

「そりゃおめえ…や、山に決まってるじゃねえか」(爆笑)

って、てめえの方がバカじゃあ世話はありません

 こういう手合いは洋の東西を問わないようでして、これはフランスは花のパリーでのお話。でっかい出版者の編集者ティエリー・レルミットってぇのは、ちょいと傲慢なところが目立つ男でして。この男がとびきり極め付きのバカを集めては、そいつらにバカを競わせる、えら〜く趣味の悪い晩餐会を毎週仲間うちで開いているんですな。もちろん、集められたバカは、自分たちがバカにされているたぁ知るよしもない。おだてられては自分のバカを思いっきりさらすハメになるんですから気の毒な話でございます。

 このレルミットってぇ男にかかると、何かつくってみたりコレクションしたり、とにかく下らないことに夢中になってる奴ぁみんなバカってことになっちまう。それじゃあ、ここにお集まりのみなさんやあたしみたいな映画ファンなんざ、すこぶる付きのバカってことになっちまいますわな(笑)。

 今日も今日とて、今度の晩餐会に出すバカが足りないとか、レルミットはそんなくだらない事に頭を悩ましております。

「そうさなぁ…田代まさし(また登場)はつかまっちゃったし…森首相じゃバカすぎてケンカになるし…体操の池谷は最近ウワサ聞かねえしなぁ…」(爆笑)

 そんな時、この男に知り合いから朗報が舞い込んできました。これぞ本物のバカという男が見つかったと言うんですな。マッチ棒でコツコツとエッフェル塔やコンコルドの模型をつくるというこの男、その模型づくりの下らなさもさることながら、その事の自慢となると目の色変わって止まらなくなるというあたりこそ、バカの真骨頂とでも申しましょうか。その男、名をジャック・ヴィルレと申します。

 これを聞いて夢中になったレルミットは、晩餐会に出す前に自宅でオーディションしようと、この男ヴィルレを自宅に招くんです。ヴィルレはもう有頂天。大蔵省で会計係をやっているこの男は、いつも自慢話をしては煙たがられてばかりだから、ぜひ話を聞きたいなんて言われたのが嬉しくてたまらない。レルミットが出版者の人間だから、ひょっとして自分の「マッチ棒芸術」が本になるのではないかと勝手に思い込んで舞い上がる始末なんですな。

 ところでレルミットですが、悪いことは出来ないもので、突然ゴルフで腰を痛めて動けなくなってしまいまして。しかも、元々この男の女房アレクサンドラ・バンダヌートってのがレルミットの開くバカの晩餐会を毛嫌いしてて、この日はその我慢が限界まで来てたんです。

「ねぇ、おまえさん。あんなイヤな晩餐会もうおよしよ」

「ば〜か、おめえも出てみろ、笑っちまうぞ。これがホントのバカ笑いってな」(笑)

「つまんないダジャレ言ってないで(笑)。人をバカにして何がおかしいんだよぉ。そんな事してるとロクな事にならないよ」

「バカをバカにして何が悪いんだよ」

…とまぁ、何とも思い上がった男でございます。

「あたし出ていくわ。もうおまえさんには付き合いきれないよ」

「え? おいおい。ちょっと待てよおめえ…あ、イッテテテテテ」

…てな具合で、何とも間が悪いことに腰痛で女房を止められない。唖然とするレルミットの目の前で、女房は毅然と立ち去ってしまうんですな。

 そこへ例のバカのヴィルレが、自作のマッチ棒芸術の写真持参でやってくるというわけで、さすがに落ち込んでたレルミットも、急にとってつけたようにレルミットの愛想が良くなるわけです。

「こりゃこりゃ、どうぞヴィルレさん。遠慮せず上がっておくんなさい」

「いや、もぅタ〜イヘンなんですけど。あれ?腰痛めたんすか? カラダだけは大事にしてくださいよホントに」

ってこれじゃあ三平師匠だって(笑)。

 で、この男の話を聞き始めると、確かにとてつもなくくだらない話を延々とまあ話すこと話すこと、こりゃあすこぶるつきのバカだわい。レルミットはゴキゲンになって、知人宅で開かれている例のバカの晩餐会に、このヴィルレを連れて出席しようと張り切るんですな。で、ヴィルレの肩を借りて歩こうとするんですが、なぜかヴィルレが蹴っつまづいて、二人は床にバッタリ倒れるはめになっちまう。レルミットはたまったもんじゃございません。

 こりゃあ医者でも呼ばずにはおられんと、動けないレルミットの代わりに電話をかける役目を言いつかったヴィルレですが、何を間違ったか出たのは女なんですな。

「こちらレルミットなんですけど、おまえさんはどなたさんなんです?」

「妹よ。彼、一体どうしたの?」

「おぉ妹さんでしたか。や、もぅタ〜イヘンなんですから。腰は痛める奥さんには逃げられる…」

「待ってて、今行く!」

 でも、そもそもここに電話がかかったのは、アドレス帳で医者の一行下の名前の番号にかけてしまったためなんですなぁ。レルミットはどうもおかしいんでヴィルレを問い詰めます。

「何だか妹さんが出てきましたよ」

「バカ。そりゃ妹でなくイモートって女だ(笑)。色情狂だから困ってるんだ!」

「ありゃ、もぉタ〜イヘンですね」

かなりベタなギャグで困っちゃうんですが、厄介な愛人に来られると面倒だってわけで、レルミットは再度ヴィルレにこの女に電話させて、来ないよう言いくるめさせようとするんですな。

「イモートさん、奥さんが戻ってきたんで来ないで欲しいんすけど」

「彼は大丈夫なの?」

「大丈夫っすよ…そんじゃあレルさん一人にしておけやせんから」

「やっぱりあたし行くわ!!!」(爆笑)

って、まるでイヤがらせやってるんじゃないかという程の大ボケ。レルミットも頭抱えちまうんです。でも、自分は元来ウソがつけない男なんで…とのヴィルレの弁解を聞くまでもなく、頼んだほうが悪かったとも言えるわけでして。

 ただ、ヴィルレという男、元々気持ちは優しい男のようなんですな。レルミットに対するイヤがらせとも思えるほどのおせっかいも、結局は自分が女房に逃げられた時のつらさを他人にも味合わせたくないという善意の現れなわけなんです。で、今度はレルミットの女房バンダヌートの立ち回りそうなアテはないかと言いだすわけですな。

 何を言ってやがると最初はレルミットは相手にしなかったんですが、よくよく考えてみると思い当たるフシがある。それはちょっとレルミットの暗い過去に触れるわけでして。 元々、女房バンダヌートは友人の作家フランシス・ユステールの公私両方のパートナーだったんですが、これをレルミットは仕事のドサクサにまぎれて、うまいこと自分のモノにしちゃったというわけなんです。ひょっとして女房はこの前の男のもとに帰ったんじゃないか? レルミット少々気になってくるんですな。

 しかし、前の失敗に懲りずに再びヴィルレを使おうとするところ、レルミットもあんまり頭がいいとは言えません。この作家ユステールに映画プロデューサーと偽って電話させ、女房が来てるかどうか聞き出そうとするんですが、プロデューサーのふりをして小説の映画化のウソ話をして架空の映画会社の名を考えつくだけで、ヴィルレの脳味噌のキャパは満杯なんですな。電話を切ると、ヴィルレはもう得意満面になっているわけです。

「やった!映画化権取りやした!」(笑)

「で、俺の女房は?」

「もうタ〜イヘンなんです!安く値切れましたよ!」

「それで俺の女房はいたのか?」

「あ…」

「すっかり忘れちまってやがる。…こいつぁバカの上に超がつくぜ」(爆笑)

とまぁ、あまりのヴィルレのバカさ加減に、怒りを通り越して驚くばかりなんですな。

 仕方なくまたユステールに電話するんですが、また何か抜けてる。そんなこんなでユステールには、誰から電話かけてきたかバレバレになっちまうんです。これじゃあNHKの有働アナのカツラの変装よりひどい(笑)。最初からヴィルレなんて電話に出させなきゃいいのに…と思っても、もう後の祭りです。

 それでもヴィルレはレルミットをいたわってベッドに寝かせると、女が家に来たら玄関で追い返してやると勇ましい事を申します。その言葉を信じてレルミットは寝室で休む気になるんですが、実はこいつがいけなかった。

 女房のバンダヌートがせっかく帰ってきたのに、こともあろうに愛人と間違えて、今日は出直しな…なんて言って帰してしまうんですな。それで本人は上首尾だったと満足なんだからタチが悪い。

 そのうち事情を察した作家ユステールが、過去を水に流してレルミットの家にやってきます。ここでユステールは、驚異のバカっぷりを見せるヴィルレの一挙手一投足に目を見張るんですねぇ。

「おぅレルの字。おめえ、自分がバカにしようとしてた奴に、すっかり振り回されてバカにされてるんじゃねえか。いやはや、クックックックックックックックック、カッカッカッカッカッカッカッカッカ…」

 もう「チキチキマシン猛レース」に出てくる犬のケンケンみたいな表情(爆笑)で、全身ガクガク揺すりながら笑いを噛み殺しているんですな。ひょっとしたらこの笑いを抑えようとしてるユステールの顔が、全編で一番の見ものかもしれませんから、ぜひお見逃しなきようお願いいたします。

 さて、ここから先はぜひ本物の映画をご覧になってからにしてくださいまし。

 

 

 

 

 

映画見てからご覧あれ!

 

 

 

 

 

 この後もレルミットの部屋じゃあそんなてんやわんやが延々続くわけなんですが、この映画はフランスの監督フランシス・ヴェベールの作品なんですな。え? そのヴェベール某とは誰か?

 日本じゃあ最近ジャン・レノ主演の「ジャガー」なんかが公開されてるんですが、みなさんあまり馴染みがない。それでは、アメリカ映画で「ファーザーズ・デイ」ってのありましたね。ロビン・ウィリアムズとビリー・クリスタルの。あれの元ネタがフランス映画で、それをつくったのがこのヴェベールさんと言えば、ピンと来ますかどうか。

 この方、なぜか自作がアメリカでリメイクされることが何度かあって、ご自分もアメリカに招かれて何本か撮ってるお方なんですねぇ。アメリカ人になぜか好かれる。…って言うと、まぁ映画が文句なく面白くって、明快な方なんでしょうねぇ。今回の映画も元は舞台劇だそうで、そちらもこのヴェベール旦那の作なんだそうです。で、ほとんどレルミットの部屋だけで展開するこのお話、いかにも舞台劇ふうのお話なんですが、見ている間はまったくそんなことを感じさせません。面白くておかしくて笑いの絶える間もないってんですから、私ら噺家の出る幕ぁありませんや。こんな映画いっぱいつくられた日にゃ、こちとら商売あがったりでございます。

 役者さんじゃあバカな男役のジャック・ヴィルレが圧巻ですが、この人は日本じゃあ「愛と哀しみのボレロ」などなど、ずっとクロード・ルルーシュ映画の常連として知られてるんですな。あと脇で出てくるフランシス・ユステールもルルーシュ映画にはよく出ていた人なんで、このへん偶然だとしても面白い顔合わせというところですか。

 まぁ、こんな私のウンチク話の最中もバカな話は続いているんですが、こいつはこの寄席じゃあなく、映画館かみなさんのテレビのブラウン管ででも楽しんでいただきましょう。

 ともかく大騒動して探していたレルミットの女房ですが、やっとその居所が分かったところで、与太郎ヴィルレには自分がバカにされるために晩餐会に呼ばれたことが分かってしまうんですなぁ。愕然としたヴィルレは初めてその苦しい胸の内を明かすのでございます。

「旦那がたにはバカなマッチ棒細工かもしれないけれど、あたしにゃ女房に逃げられたつらさを耐えるための唯一の助けだったんですよ…」

 その時になって、さすがに傲慢だったレルミットも、自分のした事がいかに愚かだったか痛いほど分かってしまうんですな。そして今までのてんやわんやも、このバカな男がレルミットに自分と同じツラさを味あわせたくないという一心でやった、本当に心からの親切心だったとやっと思い知るわけでございます。しかしもはや万事休す。

 ところがヴィルレは突然立ち上がりまして、レルミットの見ているその目の前で、この男の女房に電話をかけるんですな。

 「今日、奥さんの旦那さんは、あんたに逃げられ必死に探したんでございますよ。その間、腰は痛む、仲違いしてた友達とはヨリを戻す、浮気相手には押し掛けてこられる、それにそれに…」

 その会話を聞きながら、レルミットは初めてこの男が、自分などよりず〜っと懐の大きな人物だったことを痛感するのでございます。

「旦那さんは今夜、人生の大掃除をおやりになったんですよ」

 しかし、一生懸命語るヴィルレの言葉にも、レルミットの女房には一抹の不安がございました。

「あんた、レルミットに頼まれて言ってるだけじゃあないのかい?」

「そんなこたぁごぜぃやせん。あたしが自分で勝手にかけた電話でございやす。それに…」

「それに?」

「あたしは今、外の電話からかけているんですよ。ここには旦那さんはいらっしゃいません」

 それはバカでウソのつけないこの男の、なけなしの知恵を振り絞った一世一代の大ウソだったのでございます。

 

 この映画は最後にチョーンと拍子木が鳴るような、鮮やかな幕切れとなるんですが、それは私ごときがここで話すことではありますまい。

 私も時として、ついつい善意の人間を斜めに見てしまうことがございます。しかし相手の方が本当に心の温かい、懐の広い方だったと気づく時、自分がレルミット旦那のように愚かな落とし穴に落ち込んでしまっていたと思い知るんですな。

 私も今、一生懸命に「人生の大掃除」をやっているところなんです。いい気になってこっちが粗大ゴミみたいに大掃除されちまう前にね(爆笑)。

 

 仏蘭西爆笑小噺「奇人たちの晩餐会」の一席、お後がよろしいようで。

 

(拍手。お囃子の流れるなか演者は退席。)

 

 

 

 

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