「60セカンズ」

  Gone in 60 Seconds

 (2000/09/04)


ウツ脱出の特効薬 

 今から2〜3週間くらい前、僕はちょっと落ち込みのドン底にいたんですね。その前まで極端にハッピーな気分でいたから、まさにリバウンド状態。まぁ、いつも僕は躁鬱の気があるんで仕方ないんだけどね。

 ご多分にもれず、憂鬱の第一波はネットから押し寄せてきたんだけど、これについてはここんとこ何度も対処してきたから、大体やり過ごし方がわかる。今回も一時的にネットからサッと退いてしまってしばらくどこにも出没しなかった。そうすると、いろいろな面倒事からも開放されて、これがなかなかいいんだね。

 ただ、今回はいろいろな要素が不可分に絡まりあったもんだから、正直言ってどうしていいかわからなくなった。ここんとこウソみたいにうまくいってたんで、急におかしくなってとまどってしまったんだね。本来、僕は何でも悲観的に考えるタチだからね。

 それにしても、今回のウツは自分で言うのも何だけど本当にキツかった。何日間も放心状態になったり、飯が食えなくなったり、夜眠れなくなったり。こんなにひどいのは正直言って生まれて初めてではなかったかね。僕はスッカリ感情的に無防備な状態になってたから、ダメージがストレートに襲ってきたんだよ。もしあんな時に映画見たとして、それが事もあろうに「ポーラX」だったりしたら僕は自殺したかも(笑)。あれはウツでなくても死にたくなるか。「リプリー」だってヤバかったよね。

 そう、僕ってやっぱり映画にのめり込んで見たいクチだから、その時の精神状態が映画の感想にすごく影響を受けるし、また映画の内容が自分の精神状態に影響を与えることだって結構あるんだよね。だから、こういう時に見る映画って大事。本格的にウツに突入直前に見たのが「ハピネス」だったのも、どう考えても回り合わせが悪いよな。

 だから、映画なんかも見たいって気がしなかったんだけど、一本だけ例外があった。それがこれ、「60セカンズ」。

 見る前からゴキゲンじゃないかとの予感があったわけ。内容なんか空疎かもしれないけど、見ている間はキッチリ楽しませてくれるんじゃないかと。

 で、ちょうどウツまっただ中のある日、試写会に誘ってもらったんだよ。これがバッチリ予感的中。これ以上ないって程、欝脱出アイテムとして機能してくれましたよ。

 以下に述べるのは、そんなウツにドップリ浸かった状態の男が見た「60セカンズ」の感想。だから、今までの映画感想文とはちょいと違い、ウツ解消度に重点を置いて鑑賞したわけ。その点を念頭に置いて読んでいただきたいと思うんだよね。

 

伝説的な車泥棒のお帰り

 犯罪都市ロスの夜は熱いぜ。今日も今日とて、クルマ屋のショールームに飾ってるポルシェを若僧ジョバンニ・リビージたちの車泥棒一味が狙う。いきなりショールームのでかいウィンドウをブチ破ってポルシェを疾走させるが、こんなハデなことやって大丈夫なのかというヤボは言うまい。ロスは危険な街、ロス市警も忙しいのだ。僕の脳味噌の中にあったウツのいちばん軽度の部分は、ポルシェがウィンドウを粉々にカチ割った時点でス〜ッと晴れつつあった。よ〜しよ〜し、この調子で頑張ってくれよ〜。

 このリビージ、何だか妙にせっかち&バカ単純って感じの男。手堅く帰ればいいものを、車の中で女とイチャついてる男を目撃すると、自分は女とご無沙汰で溜まってるもんだから余計な挑発をして、結果的にスピード違反で警察に目をつけられてしまう。やっぱり男は定期的にヌカないとロクな事になりません。女はアレなくても平気とか言うけどホントなのかね〜? ウソだとうれしいな(笑)。倉庫街にあるアジトでは、仲間のウィル・パットンがまだかまだかと待っている。倉庫には世界の名車がズラリ。これ全部盗んだの? だけど、リビージのドジが警察連れてきちゃったから、せっかくコツコツ盗んできた車全部手放して逃げなくちゃあいけない。一味は全員無事だったものの、これが後々ジワ〜ッとたたってくるんだね。そして、現場に駆けつけたのは、「ロミオ・マスト・ダイ」じゃあヤバい橋渡ってたデルロイ・リンド刑事。連中のアジトを嗅ぎ回っているうちに、往年の勘が蘇ってくるんだね。

 手口はヘタクソだが、こりゃあヤツの匂いだぁな。

 さて場面替わって、子供向けゴーカート教室の先生やってるのが今回のヒーロー…メンフィス・レインズことニコラス・ケイジ。そんなところへ、さっきヤバイ場面から逃げ出してきたウィル・パットンがやってくる。あれぇ?パットンとケイジって昔なじみみたいだぜ。ケイジは今でこそカタギの暮らしをしているが、かつては自動車窃盗団を組織して荒稼ぎしてた「伝説の人」。その頃、パットンも加わっていたんだね。

 で、実はさっきドジ踏んだリビージってこのケイジの弟なわけ。今のクルマ泥棒ギョーカイ(笑)は殺伐としちゃってるから、ドジ踏んだリビージは命がアブない。何とかしないと…と教えにきたパットンであった。やれやれ…と重い腰を上げるニコちゃんことケイジ。いやはや、今時はどの業界でもシビアーですって。

 で、伝説の人ケイジが、ロサンゼルスはロングアイランドに帰ってきた。さっそく愚弟リビージの身柄もらい受けのため、車泥棒組織のボスでキザ陰険なヨーロッパ野郎クリストファー・エクルストンの元に駆けつける。しかし、どこまでも陰性のエクルストンは、リビージを車に縛りつけて、丸ごとスクラップしてやるぞと脅すわけ。で、陰険ヨーロッパ男が何を言いたいかと言えば、元々の契約通り名車50台を収めれば、弟も助けてやるし20万ドルくれると言うのだ。ふ〜ん、それでいつまで? 72時間以内。

 ひえぇぇぇぇ〜っ!

 でも、それをしないと弟は助けないって言われれば後には退けない。俺は引退したという理屈も通らない。やれやれとタメ息つきながら、イヤイヤ引き受けるニコちゃんだった。オフクロにもよろしく頼むと言われちゃったしな。その割にはリビージ弟、あんまり有難がってなかったよな。

 それだけでも十分過ぎるほど頭が痛いところにきて、「伝説の人」だから街に戻ればすぐに情報が広がる。さっそくニコちゃんは例のリンド刑事と相棒の若僧刑事にからまれる。ニコちゃんとリンド刑事はこれまた昔なじみで、昔から何とかしょっぴこうと頑張ってたリンドとしては、これはまたとないチャンス!と張り切るわけ。ヤだなぁと浮かない顔のニコちゃん。

 でも、ボヤいてもいられない。早速仲間集めからスタートだ。まず、一番の昔なじみのおっさんロバート・デュバルんとこへ行くか。

 するとデュバルのおっさんたら自分の自動車修理工場の奥で、いい歳こいて嫁さんとチチ繰り合おうとしてるんだけど、僕はシルバー・セックスには大賛成だね(笑)。アレ出なくなっても、二人でイチャイチャするのは心にも体にもいいらしいよ。久々の再会に、せっかくのセックス邪魔されても大喜びでニコちゃん迎えるデュバル大兄。でも嫁さんまで上機嫌かどうかはスクリーンからは読みとれなかったね。ニコちゃんが「またやろうぜ」というと、俺もうカタギだからなぁと言いつつも、ニコちゃんの弟の命かかってるしとか、義理もあるしとか、何とかかんとか言い訳しながら仲間に加わってしまう。セックスは途中でやめられても車泥棒はやめられないのかデュバルのおっさん(笑)。

 で、二人でキャッチセールスみたいに仲間に電話かけまくって探すけど、二人ほど見つかった他はなかなかおらんわな。で、ニコちゃん重い腰を上げて、昔の仲間だったある女に会いに行くんだね。これがオスカー受賞で意気上がるアンジェリーナ・ジョリー。オスカーとっても文芸大作とかじゃなくて、こういうのに出てしまうジョリーって俺は好きだよハッキリ言って(笑)。本当にわかってる奴ってのはこうなんだよパルトロウ。自動車修理工の仕事を追えたらバーのウェイトレス…とハシゴして働くジョリーの後をストーカーみたいに追いかけ回して口説くニコちゃんだが、ジョリーはシブい顔で相手にしない。何さ、アタシたちの前からいきなり姿を消したくせに。今さらどのツラ下げて一緒にやろうなんて言えるのよ! そんなジョリーの頑なな態度の訳を知りすぎるほど知っているニコちゃんは、もう言葉続けられないんだね。女の意地なのだ。真夜中のロスに展開する演歌の花道(笑)。

 厄介はまだある。地元の若僧軍団が、本当は俺達の仕事のはずだったのに…と逆恨みして、何だかかんだかとからんでくるのも頭痛のタネ。誰か俺の足引っぱらない奴はいないのか!とボヤきの一つも出そうなものだが、ニコちゃん黙ってプロの仕事を続ける。

 ああ、それなのに。弟リビージはありがたいと口では言っていながら、相変わらずさほど兄貴を有難がっていない。腕もないくせしていっぱしの車泥棒の口をきく。彼はニコちゃんが突然自分も仲間も捨て、引退してカタギになった訳がわからないのだった。この弟はお兄ちゃんの気持ちなんか、貴乃花なみにまるっきり分かっちゃあいない(元フジテレビのア〜パ〜女子アナの女房もらってないだけ、まだマシ)。ニコちゃんが何で車泥棒をやっていたかも分かっていないのだ。ニコちゃんはうっとりしながら語る。

 クルマがさぁ、どいつもこいつも盗んでくれって俺に言ってくるんだよぉ。

 それは、まるで女の話でも語るかのような、甘ぁい口調なんだね。俺だってさらってくれって女が言ってくれれば、さらってきますよ60秒で(笑)。ホントは言われなくたってそうしたい。とにかくニコちゃんにとって、クルマは金儲けの手段じゃない。根っから心からのクルマ好きが高じての車泥棒だったわけ。

 それでもねぇ、全然メンツが足らないわけよ。欲しいクルマがどこにあるのか調べなきゃならないし、どうやって盗むかも考えなきゃならない、実際盗む時だって人手がいるんだよね。結局なんだかんだ言って一晩で50台全部やっちゃうことになったので、もう人海戦術ってことになっちゃうわけ。

 で、俺たち使ってくれよ…と偉そうにリビージ弟が自分のガキの手下たちを連れてやってくる。でめえ!誰のせいでこんな事になってると思ってんだ、とニコちゃんさすがに激怒するが、デュバルおやじに猫の手でも借りたい時だからと説得され、仲間に入れる。コンピュータとかにやたら強い奴以外、どう見たって足手まといにしかならない連中ばかりって感じだけどね。

 でも、ここぞって時にアンジェリーナ・ジョリーが来てくれた。あくまで弟の命を救うためと言いながら。いい女は多くを語りません。

 さて、デュバルとっつぁんの号令一過、たった一夜の大作戦の準備が急ピッチで進められていった。フェラーリ、ジャガー、メルセデス…さまざまな名車の名がリストに挙がる中、ニコちゃんが最も心を砕いているのが、憧れのクルマであるマスタング。今まで何度も盗もうとして、意のままに操れず断念したいわくつきのクルマ。だからニコちゃんは盗むための下見をしに行った時、思わずその車体の緩やかなスロープを、ベッドで横たわる女の背中でも優しく愛撫するがごとくゆっくり手で撫でながらつぶやくのだった。「今度は頼むぜ。俺につれなくしないでくれよぉ、なぁおまえ」 これにはアタシの入る余地もなしって感じで、ジョリー嬢も嫉妬すらしない。

 でもねぇ、リンド刑事だってその目はフシ穴じゃあないよ。決戦は金曜日だか何だかわからないけど、今晩が勝負だって見当ついちゃったんだよね。で、極め付きの名車を張り込んでいれば、絶対パクれるとへばり付くわけ。リンド刑事だって勝負かけてますよ。ところで女って、本当に“ここぞ”って時は勝負パンツ履いてるの(笑)?

 で、いよいよ大作戦のはじまり〜となるんだけど、その出陣式みたいなのが何ともオカシイわな。たぶん昔からニコちゃんずっとそうやってきたみたいで、昔からのお仲間にはおなじみになっている感じ。ラジカセかけて音楽流してリズムに快く体をゆだねながら、ニコラス・ケイジはおもむろに目をつぶって、く〜っと念力かけるみたいに力んだあげく、「オーケー、レッツ・ライド!」と一発気合いを入れて出発する。それがねぇ…何ともオカシくもカッチョええのよ。あれはマネしたいな。

 いざ始まるとプロの手つきで次から次へとかっさらってく。一度なんか銃突きつけて車盗もうとしてきた男をブチのめしたりもして、さすがのプロの心意気を見せつけてくれるんだよね。車盗む時にはヤボっちい銃なんて使うな!

 まぁ、もっとも作戦が進んでいくにつれて、予定外の事態も起きてくる。それに瞬時に対応してしまうプロのノウハウも見事だよ。例えば、リンド刑事が見張ってる場所じゃあ盗みに行けない。ほかの該当車を探し出したところ、何と警察に引っぱられていったクルマの中にあったッてなノリで、何とこのクルマまで盗んじまう。そうやってどんどん盗んできちゃあ、港に停泊中の密輸船のコンテナに片っ端から収納してしまうわけ。

 そんな作戦進行中、お互いの美しくも手際良い盗みっぷりに改めてホレボレなのが、ニコちゃんとジョリーのお二人。車の持ち主が家の中でセックスを始めたら盗もうと、二人でセックス待ちの待機(笑)となったとき、ついついジョリーは「盗みとセックスどっちが素敵?」などとあんまりと言えばあんまりな台詞を吐くわけ。それ聞いたらニコちゃんだってたまりましぇ〜ん。俺たちもちょっとどう?…なんてその気になったところで、盗みのお時間となりオアズケくらったニコちゃんの顔ったら…(笑)。う〜、俺のナニを誰かどうにかしてくれぃ。イテテテ、デカくなりすぎてハンドルにからみついちゃうよっ…なわきゃ〜ないか(笑)。

 その一方で、やっぱりリビージ軍団のガキどもがお約束のドジを踏んでヤバくなってくれたりと、ハラハラ場面担当としての職務をキッチリ果たしてくれるんだね。いい仕事してますね〜。

 そんな訳で夜は更けてさらに明けていく。刻限は迫っていく。車の残り台数も減っていく。ことごとくドジったリンド刑事にしても、ここまで全勝のニコちゃんにしても、問題のマスタングが勝負…ということになりつつあったわけ。

 で、最後の一台となったマスタングをなでなでしながら、「頼むよぉ、愛してるからさぁ」とヤラセロみたいに女口説く要領で迫るニコちゃん。そこにハゲた頭から湯気立ててるリンド刑事の車がやってくるではあ〜りませんか。

 俺をイカせてくれぃ!

 ニコちゃんの執拗な口説きについにマスタングも燃える。女が本気出したら、今さら何をどうしたって止まりません。街ん中ブッ飛んでパトカーをブっちぎり。ここからのカーアクション場面は、僕なんかもかなりスレた映画ファンのつもりなんだけど、やっぱり相当なシロモノだと言わざるを得ないよね。ハッキリ言ってこのあたりまでくると、僕のウツなんてもう影も形もなくなってる。すっごい効き目だよね。

 で、問題の刻限がやってくる…。

 

今回だけはブラッカイマ−の勝ち

 この作品、1974年に制作された「バニシング in 60''(原題はほぼ今回の作品と同じ、"Gone in 60''")」という作品のリメイクだということは、知ってる人なら知っている。日本じゃかなり地味に公開された作品だけど、クルマ好きの間ではちょっとした話題になった映画らしい。でも日本公開当時、僕は中学生。さすがに劇場公開は見ていないな。僕が見たのは後年テレビ放映のとき。

 この映画をつくったのはH・B・ハリッキーなる人物。この男、元々はハリウッドで名の売れたスタントマンだったらしい。で、スタント稼業に精を出すかたわら、自分自身の作品を誰にも頼らず自力でつくることを夢見て、セッセとお金を貯めていた。そうして貯めたお金でつくった「バニシング〜」、制作・監督・脚本に主演、もちろんカースタントもバッチリと文字通りのワンマンショー映画として出来上がったわけ。

 で、その内容だけど、正直言ってもうハッキリ覚えてないんだよね。ただ、やっぱり所詮はシロウト映画だから、演出やら脚本やらってのは限りなく素人くさくって鈍臭かった気がするね。だけどお金はたっぷりかかってて、クルマ好きが腕にヨリをかけて集めた名車がズラリだから、カーマニアが見たらすごかったんだろうと想像はできる。

 それにカースタントはプロだから、自分のやりたいようにやりまくったこの作品のスタントは、やっぱ他のカーアクションとは一線を画していたと思うよ。

 この作品、そんな訳で決してA級の大作扱いではなく、メジャーのメインストリームで脚光を浴びたという訳ではなかったろうが、間違いなく一部好事家の間では話題を呼んで、それなりの成功は収めたようだ。まぁカルト・ムービー化したんだろうね。で、なければ今回のハリウッド・メジャーでのリメイク(!)なんて考えられない。その後、ハリッキーは好評につき第2弾…とばかり、またまたカーアクションもの「ジャンクマン」をワンマン体制でつくったみたいだが、もう時代が「スター・ウォーズ」の時代に突入していた頃だから、たぶん成功しなかったんじゃないかな。

 だけど、そんなスタントマンが金にあかせて趣味でつくったような映画が、こんな大作娯楽映画として生まれ変わるとは。制作のジェリー・ブラッカイマーはいつもいつも大味大作娯楽映画をつくる男で、今回も大味かなと思ったら、意外にも今回は粋な雰囲気が漂っていていいんだよ。そしてスリリングでスタイリッシュ。だけど、スリルといっても息もつかせぬというほどでなくて程のよいスリル。スタイリッシュといっても、見る者の気持ちを寄せ付けないクールさを伴うとこまではいかず、程のよいスタイリッシュ。安心して見ていられるという言葉がピッタリな、ユルみ方まで余裕を感じさせる大人の映画の感じがするんだね。

 主演のニコラス・ケイジもブラッカイマー好みの俳優。しかしブラッカイマーって俳優の選び方には不思議な趣味があって、あれだけマンガみたいな大味映画つくるくせに、役者は渋好みなんだよね。ケイジを娯楽アクション大作に起用したがるプロデューサーって、彼だけじゃないの? どっちかと言うとアブない雰囲気漂う役者だもんね。それを「ザ・ロック」「コン・エアー」と連続起用。それだけじゃなくって、ブラッカイマーは割とインディーズ映画や舞台から味わい深い役者を多く連れてくるんだよね。「コン・エアー」のジョン・マルコヴィッチ、スティーブ・ブシェーミのキャスティングや、それまで一癖ある青春映画出演が目だってたジョン・キューザックに骨のあるアクション演技をやらせるなどの意表をついた起用。「アルマゲドン」でのまたもブシェーミ出演や、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」で頭角を表わしてインディーズ系での仕事が目立つベン・アフレックの起用。で、これだけ意欲的な役者起用をするんだからすごいプロデューサーなんだと思いきや、いつも出来上がった映画は大味(笑)。一体どうやったらあんなに大味になるのかと思えば、マイケル・ベイみたいなロクでもない男に監督させるからなんでしょうな(笑)。

 今回もキャスティングは贅を尽くしていて、隅から隅まで一部のスキもない。みんな各々見せ場があって素晴しいんだが、こいつら演技派揃っていながら一人としてムキになって芝居していない。みんな腹八分目ぐらいでやめて、肩の力抜いて楽しそうに演じているから、見ている方も安心して楽しめるというもの。この余裕が大人なんですよ。中でもデルロイ・リンドの刑事役は、終盤にちょっとした趣向があってオイシすぎる役。いいよねぇ。

 もちろん主役のニコラス・ケイジもいいよ。もちろん娯楽大作だからグッド・タフ・ガイの役なんだけど、クルマを走らせているうち約束の期限も弟の命もどうでもよくなって(笑)、マスタングの性能にうっとりしてイッちゃってる様子がアリアリなのだ。やっぱケイジはこうでなくっちゃ!

 アンジェリーナ・ジョリーもひたすらオスカー演技を演じようなんて気がサラサラなくって、男の目から見た色っぽくてかわいくてアブない女を楽しく演じていてサイコー。こんなもんマジでやられたら、うっとうしくて仕方ないよ。

 どうして今回、ブラッカイマー映画なのに大味じゃないのかと思ったら、やっぱりプロ集団を「感動大作」みたいではなく、あくまで粋に描こうとしたのが成功だったんじゃないか。「アルマゲドン」はそこがマズかったんだよ。もっともあれはエアロスミスの歌を売りたかったんだから、あれでいいんだとブラッカイマーなら言うだろうけど。

 ラストも一つひとつしっかり事件を解決していって、最終的に提示されるその結論たるや何とも簡単な2つ。

 兄弟は大切なもんだ。

 泥棒は割に合わない。

 あれだけスタイリッシュにスリリングにつくった映画の結論が、あっけらかんとこれなんだよ。いや〜、もうアッハッハと笑うしかないでしょう? 天晴れだよ、ブラッカイマー。今回だけはあんたの勝ちだね。

 ウツに入ったみなさんの脱出アイテムとして、この僕が自信を持ってお薦めいたします。

 

 

 

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