「TATARI」

  House on Haunted Hill

 (2000/08/07)


真夏に贈る茨城の怪談(笑)

 幽霊って見たことあるかい?

 僕は鈍感なせいか幽霊って見たことないんだよ。あれ、見る人はジャンジャン見るらしいね。街なんか歩くと、そこらじゅうに幽霊が隠れたりうずくまったりしてるのが見えるらしい。聞くところによれば、明け方あたりがよく見えるとか。しかし、そんなの見えたからって、そいつのこと全然うらやましくないな(笑)。

 だから私は、自分の人生の中でホラーめいた体験なんてほとんどしたことがないのだが、強いて言うなれば、たった一度だけ私自身これはヤバいと思う体験があった。…これは昨年夏のホラー特集でも簡単に書いたことだけど、それ読んだ人もちょっと我慢してつき合っておくんなせえ。

 当時、私はPR誌づくりの仕事で毎週くらい茨城県に行く用事があった。最初は遠出が面倒くさかったのだが、だんだん土地になじみ茨城の人の人情に触れるにしたがって、取材や打ち合わせに茨城を訪れるのが苦どころか楽しみになってきたから不思議だ。行く場所も、勝田であったり水戸であったり、あるいはひたちなかであったり、まぁ茨城県は一通り回った。というのも、私が所属していた会社が茨城に支店を持っていて、そこで働く営業担当の人たちがみな現地採用であったから、土地勘はバッチリだったわけ。ちょっと山奥に足を伸ばしてうまい蕎麦の店なんぞ発見しては、私だけの茨城旅行マップが着々とできあがっていったわけだ。

 そんなある日、私はデザイナーの人とカメラマンと一緒に、水戸の老舗の納豆屋に取材にでかけた。それは気が滅入るドシャ降りの雨の日。一通りインタビューを終えて写真撮影を済ませると、雨の中をずぶ濡れになりながら、我々はトボトボと水戸駅まで戻っていった。水戸駅は駅ビルがデパートのようになっていて、中に喫茶店やら食事どころもある。激しい雨の屋外にはもう出たくない我々は、食事もお茶もここで済ませてから東京に戻ることにした。

 雨のせいで、駅ビル内はひどくごったがえしていた。家族づれ、子供、年寄り…こんな連中がひしめき合ってベチャクチャ。我々は、食堂のフロアの真ん中あたりにある喫茶コーナーに席をとった。

 私たちは終始しゃべり続けていて、その話題はというと、先ほど取材した納豆屋がどれほど金を儲けているかというバチ当たりな話。カメラマンなんか電卓取り出して計算始めちゃった。しかしそのうち、デザイナーの人が話に乗らなくなってソッポを向き始めた

 あれ? 人の稼ぎをどうこう言うなんて卑しいと思ったのかな? とは思ったものの、カメラマンとはその話はまだ持続していたので、相変わらずベラベラしゃべり続けた。そして、カメラマンが計算していた電卓から顔を上げて私の顔を見たとたん、ポカ〜ンと口を開け、やがて…。

 「え、Fさん…?」

 そのカメラマンの顔を見た瞬間、何かただならぬことが起きたとわかった。そして、それまでソッポを向いていたデザイナーの人がようやく口を開いた。

「ほらな。見たんだろ? 俺、最初っから見えていたんだよ」

 えっえっえっ? 何のこと? わからぬのは私ばかりなり。

 二人の話を総合すると、どうも僕の隣に一人の女の幽霊が見えていたらしい。まず、デザイナーの人がそれを目撃して、目をそむけた。で、次にカメラマンがチラッと私のほうを見て、女がそこにいるのを見た。その時はまるで生きている人間のように生きいきと見えていたらしく、僕が地元に女の知り合いでもいたかのように思ったらしい。何しろ女は僕の肩に手をかけ、隣にピッタリ腰かけていたらしいから。だけど僕の隣に椅子はなかったんだけどね。第一、いくら頻繁に茨城に行ってたからって、ピッタリ寄り添ってくるほど親しくなった女なんていなかったし、そんな女がいたって仕事の後で呼び出したりしないって(笑)。

 で、カメラマンがなぜ顔色を変えたかと言えば、その女の姿が見ているそばからゆっくりと消えていったから。そりゃあ、この世のもんじゃあないだろう?

 デザイナーの人とカメラマンの話を総合すると、女の年齢は30前後、髪は肩ぐらいまでの長さで、黒い服を着ていたということまで話は一致していた。これは口裏を合わせていた形跡がなかったので信用できる。元々このお話自体、デザイナーの人とカメラマンのでっち上げなのではないかって? だけど、この日は別に幽霊の話なんか出なかったし、そんなことで僕をからかう理由がない。何にもなしで唐突に幽霊話が出たんだもの。

 で、それって地曝霊なのか僕に憑いているのかという話になった。僕もこの時点では事の重大さがわかっていなかったから、一緒になって面白おかしくしゃべっていたが、実はこれがシャレにならない出来事の始まりだったのだ。

 まず、次から次へと怪我したり事故にあった。夜中に家の階段から転げ落ちるということも。極めつけが、夜の真っ暗な東海村の駅のホームでの出来事。電車がホームに入ってきて停車し、ドアが開いて乗り込もうとしたところ、何者かに突き飛ばされて電車とホームの間のすき間に落ちてしまった。幸い命に別状はなく、すぐに引き上げてもらえたが、僕の左脚のすねの部分はえぐれてしまった。いや〜これは痛かったよ。出血もひどかったし気絶しそうになった。今でも傷痕が残っていて、寒くなると痛むんだ。

 だけど、これなんか不思議なんだよね。突き飛ばすって言っても、あの時のホームには人なんかいなかった。すごく寂しくて怖いくらいだったもんね。でも、確かに何者かが突き飛ばしたんだ!

 これでさすがに冗談じゃないと心配になった。確かに何かいる! そして、このままじゃケガじゃ済まないかもしれない。あわててお払いを受けに神社にすっ飛んで行ったよ。馬鹿な奴と笑わば笑え。しかし、あの時はとても偶然でかたずけられる感じではなかったよ。そんな不思議なことってやっぱりあるんだね。

 それからはずっと憑きものが落ちたようで、安全に毎日送っている。でも、あれは一体何だったんだろう?

 目に見えぬ存在って確かにいるんだよ、間違いなく。

 

いわくありげな「白い巨塔」の廃墟 

 丘の上にそそり立つ巨大な塔…それが悪名高いバナカット精神病院。かつて何十年も前にここでは忌まわしい事が平気で行われていた。それは入院患者を使った人体実験だ。医師たちは外界から隔てられた病院ということをいいことに、やりたいようにやっていた。生きながら意識を持ちながらの人間の解剖なんて当り前。この病院の院長やってた奴が、例のエイズで人を殺した安部教授みたいなアブない医者だったわけ。だから、この精神病院は文字通り「白い巨塔」ってわけだよね。

 だけど、やはり何でも悪行は長続きしない。ある日、患者たちが暴れ出して医師や看護婦が襲われ、病院内は阿鼻叫喚の大騒動。火災まで発生して多くの人々が死んだわけ。この事件で外部の調査のメスが入り、病院の悪事も暴露された。そんな悪い評判もあって、この病院は今もガラ空きの廃虚となってそそり立っている…というのが、今回のお話の前フリになっているわけ。

 で、ここまでの説明はテレビのワイドショーか何かの内容として、一気に観客の我々に説明されるんだけど、それをたまたま見ていたのが何となく高慢ちきそうな女ファムケ・ヤンセン。近々行われる自分の誕生日パーティーに、この病院跡の建物を使ったら面白いんじゃないかと思って、自分の亭主に電話するわけ。

 このヤンセンの亭主はというと、おっかなさが売り物のアミューズメントパークなんかつくってるプロモーターのジェフリー・ラッシュ。「恐怖」ならまかせとけと豪語するケレン味たっぷりの俗物男だが、女房ヤンセンとの電話のやりとり聞いてると仲良くなさそう。いや、むしろ冷え切ってると言ったほうがいい。ただヤンセンの言った、この精神病院跡の廃虚での誕生パーティーというアイディアだけは気に入った。で、せっかく嫁さんがつくって送ってきた招待客リストをゴミ箱にポイ。自分なりに勝手に別の招待客をこさえて、嫁さんヤンセンをギャフンと言わせてやろうとハリキル。でもねぇ…ラッシュがパソコンでこさえたその新たな招待状リストも、何者かがパソコン上でつくり変えちゃってるのには誰も気付かなかったんだよな。(幽霊もパソコン使うのか?)

 

B級テイストあふれるユルい怖さ

 やってきました、ヤンセンのお誕生日。お互いが誰だかわからない客たちが、例の精神病院の廃虚に呼ばれてくる。迎えるのはこの建物の権利者の子孫と称する男だが、やたらビビッておびえてる。建物の中ではラッシュ旦那がみなを出迎えるが、全然招待した覚えもない面子が来てる不思議は、女房のヤンセンが自分の裏をかきやがったということで理屈がついてるつもり。集められたメンバーは、医者のピーター・ギャラガー、そして元プロ野球選手と女のヤング・エグゼクティブ、落ち目の女性タレント。ところが、女房のヤンセンもこのメンバーには覚えがなくて、こっちはこっちでラッシュが何か企んでいると勝手に思ってる。

 実際のところ、ラッシュはこの廃虚にいろいろ仕掛けをしてたんだけど、そのうち仕掛けとはお構いなしにいろいろ異変が起き始めるんだね。

 そしていよいよ地主くんが怯えてジタバタしているうちに、オートマティックの雨戸(笑)が全館でバタバタと閉まって、窓や扉が塞がれて建物を外界から遮断してしまうんだね。ここから恐怖の始まりとなるわけなんだよ。

 で、薄気味悪い病院の廃虚の中で、次々と不気味な出来事が起きるわけ。 

 この映画、「TATARI」なんてフザけたタイトル付けられてるからイカモノだと思われちゃうかもしれないけど、よくよく見るとジェフリー・ラッシュやピーター・ギャラガーやら、一流スターも出演しているA級作品なんだよね。それにしちゃどことなくB級の構えなんだけど。

 昔むかし、ウィリアム・キャッスルという映画作家がいたのをご存じだろうか? とはい言っても僕もよく知っていた訳じゃないけどね。リアルタイムで知ってたら、一体おまえは何歳だということになっちゃう。1950年代あたりからB級恐怖映画のつくり手として活躍していたキャッスルは、単なる映画作家というだけでなく、劇場のイスにビリビリと電流が流れる仕掛けをつくったり…といった見世物小屋感覚を映画に持ち込んだ人物として知られている人らしい。いい意味でのケレン味というか、安っぽい楽しみというか…でも、それって映画そのもののことだよね。

 で、この作品はこのキャッスルが製作した「House on Haunted Hill」のリメイクなんだよ。それも、あのロバート・ゼメキスと、「マトリックス」などのプロデューサーのジョエル・シルバーが組んでつくったホラー専門新会社の第1弾。だから、結構、力入ってるんですよ。

 でも、こういうののリメイクって変にいじって大作めいてつくったおかげで、全然面白くなくなる「ホーンティング」みたいなケースが大半なんだけど、この映画はちょっと違うね。それに怖いかというと、実はそんなにギッチギチに心理的に追い詰めていくような怖さはなくて、結構ユルユル。でもそのちょっとユルい怖さが、昔の見世物小屋的怪奇映画の持つ味わいを再現している感じで、何となくいいんですよ。だから一流映画人が参加して明らかにA級作品のはずなのに、どこか安い楽しさがある。この映画の持つ魅力ってそこんとこに尽きるでしょう。

 それにお話のオチとして、一番怖いのはシャバの人間の欲得づくのスケベ根性だと言ってるあたりも、そのセチがらさセコさがB級スピリットたっぷりでいいよねぇ。

 そういう意味では、「TATARI」なんて安っぽいタイトルも、かなり雰囲気出してるのかもしれないね。

 

 

 

 

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