「白い刻印」

  Affliction

 (2000/07/31)


おまえらに親の資格あんの(笑)?

 いったい親になる資格ってあるんだろうかね?

 いきなり、何でそんなこと言ったかって言うと、まぁ僕らの年齢になると人の親になっているケースが大半だからね。それどころか僕の高校生時代の同級生なんか、高校生を頭に3人の娘の親。コギャルですぜ。我々が遊びに行くと、娘たちはさも父親の友達なんて顔見るのもイヤって感じの応対で、まったく「ヴァージン・スーサイズ」ってな風情じゃござんせん(笑)。まぁ自分が子供の頃を思い浮かべてみても、親父の友達が家に来ると、酒臭くって煙草臭くって馴れなれしくってすごくイヤだった記憶しかないからね(笑)。

 そんな中、いまだに子供を持たない…どころか、独身でいる奴なんてもう少数派だ。うるさいよぉ回りは。だけど、親や親戚から何か言われるならまだわかるけど、自分の友人連中から何だかんだ偉そうに言われるほどイヤなものはないね。そいつらと友人になった学生時代には平等だったものが、何らかのかたちで向こうが上の力関係になったと思わされる一瞬だ。だけど、平等だから友達なんであって、もし自分が僕より目上になったような錯覚をしている輩がいたら、そいつはもう友達ではないとこっちは考えてるけどね。そうすると、かなりの奴らがもう友達なんかじゃない(笑)…ここだけの話だけど。

 実際の話、親になるってのはどういう事なのか、僕には本当のところがわかってないんだ。ただ、自分がまだ大人になりきってさえいないのに、とっても親なんて…と思っているところはある。そうそう、とっても夫なんて…というところもね。だって、自分の親のていたらくを見ていれば、こうはなりたくない。もっとちゃんと自分が大人になってからじゃないとダメだなと思っちゃうからね。俺は大人なんかじゃないですよ。

 でも、そんな俺でも、ひょっとすると近い将来には人の親になるんじゃないか、なってもいいかな…などと、傍から見たら笑っちゃうようなことを考えたことが実は一度はあるんだ。その時に、どうやって自分にも出来ると納得させていったかと言うと、ハッキリ言って自分と同年輩の連中だって結婚して子供つくってるんだから…ということに尽きる。

 みんな夫となり父親ともなれば、やっぱりそれなりの事を言いたくなるようで、急に僕に対する態度も変わってくる。何かどいつもこいつも判で押したように態度がデカくなるんだね(笑)。とにかく忠告とやらをしたがるようになる。話の終わりは「俺はおまえのためを思って言ってやってるんだ」が必ず付く。だけどねぇ、悪いんだけど傍で見てて、おまえらがそんなに成長したようにはちっとも見えねえんだよ(笑)。まあ、夫婦生活、子育てがいかに大変かを語り尽くすんだけど、別に俺がそうしてくれって頼んだ訳じゃないしねぇ。そんなにイヤなら女房と別れりゃいいんだし、ガキだってつくらなけりゃよかったじゃねえか。いちいち偉そうに言うなよ。そんなザマを見てると、こいつら成長したどころか、謙虚さが消えたぶんだけ確実にバカになってるとしか思えないんだよね。こんな程度の奴らでも夫になり親になれるなら、俺にだってやって出来ないことはないんじゃないか(笑)? こいつらのやってる事の反対をやればいいんだろ? 正直言って俺にもできる…と思えた理由はそこだった。怒らないでくれたまえ。でも、あながち思い上がりとも言えないと思うぜ。

 その点、一番早くから子育てしてきた冒頭の3人の娘の父親・母親は、そんなバカなことは言わないね。彼らはとっても謙虚ですよ。大したことない奴に限って威張る。第一、あんな気色の悪いもん一回ピュッと出したくらいで、偉そうな顔するのはよしてくれ。そんなことだけならブタだってやるよ。問題はその後、きちんと子供を育てていけるか。子供に親としての自分を見つめられて、恥じないかどうかじゃないのか?

 では、そこのところを踏みはずしちゃうとどうなってしまうんだろう? 久々のポール・シュレーダー監督作「白い刻印」が指摘するのは、そこなのだ。

 

この忌まわしい環を断てずに

 雪深いアメリカの田舎町。ハロウィーンの夜、警官のニック・ノルティが娘をパトカーに乗せて飛ばしているが、助手席の娘の表情がサエないことにまったく気づいてない。娘は離婚した女房に引き取られているが、今日は泊りがけで彼と過ごすことになっているのだ。だが、町の公民館での催し物に連れては来たものの、娘は帰りたいだの何だのとグズり始め、あげくの果てにちょっと目を放したら母親に電話しやがったからノルティの面子丸つぶれ。クサった彼が町の連中とウサを晴らしに出て行った隙に、離婚した元女房とその再婚相手が娘を取り戻しに現われて、またまた偉そうに文句を言われるハメになったから余計面白くない。そうかそうかよ、全部俺が悪いのかよこの馬鹿野郎。キレそうになるが耐えなければ。ここで暴力に訴えればあいつと同じになってしまう…。

 今日も今日とて、ノルティはそんな満たされぬ思いを弟ウィレム・デフォーに夜中の長電話でブチまける。そんな弟デフォーも今では大学教授さまで、都会に出て行ってしまった。それでも、こんなに境遇の違った弟にしか不満を打ち明けられない訳は、あの何とも忌まわしい記憶を共有しているのが、この弟デフォーだけだからなのだ。

 子供時代、家に君臨していたのは飲んだくれの親父ジェームズ・コバーンだった。親父はデカい声を張り上げては理不尽な振るまいをして子供たちを苦しめ、殴りつけた。母親は何も言えず、おとなしくしているしかなかった。地獄のようなあの記憶。

 だから、ノルティは早くそんな世界から抜け出し、自分はこうはなるまいと誓っていたのだった。弟デフォーは都会に去った。そして俺は…田舎町からは抜け出られなかったものの、あんな親父のような道は歩むまいと努力して…少なくても俺は違う! 腹の立つことは多いけれども苦虫噛みつぶして何とかやり過ごそうとしている。しかし、何だか最近やたら腹の立つことは多いし、キレやすくなったようにも感じる。おまけに歯が痛くてたまらないんだ!

 そんなノルティの唯一の理解者は、食堂のウエイトレスをしているシシー・スペイセク。彼女は彼を裁いたりしない。彼女と一緒の時だけ彼はホッとできるのだ。

 そんなある日、町の有力者がノルティの友人ジム・トゥルーをガイドに連れて鹿狩りに出かけ、事故にあって死ぬという事件が起きる。何でも雪に滑って転んで、自分の銃が暴発して死んだとのことだが。しかし、ノルティは何だか解せないんだな。トゥルーの言ってることも何だか怪しげに思える。そういや、あの有力者の義理の息子って奴もムカつく野郎で、今朝この俺も車で轢かれそうになったっけ。待てよ。あの有力者が死んで得するのは、あの義理の息子じゃあねえのか?…推理という名の妄想が広がっていく。

 そんなある日、ノルティはスペイセクを連れて実家に出かける。俺の唯一の理解者スペイセクと結婚することを、両親に報告しに行くのだ。彼女と結婚すれば、俺の人生少しはまともになるかもしれない。娘も寄り付いてくれるかも。そうそう、これからはあの元女房の好きにはさせないぞ。親権を裁判で争ってやる…などと、よせばいいのに妄想がエスカレートしていくノルティ。ところが実家に帰ってみるとコバーン親父の様子がおかしい。何と親父の過失で母親は凍死していたのだった。

 母親の葬儀で、散り散りバラバラだった親族が気乗りしないながらも集まった。しかしコバーン親父は相変わらず飲んだくれてやりたい放題。ところが何を血迷ったかノルティは、この親父の面倒を見るためスペイセクと実家に住むことにする。後あと考えれば、これが決定的な間違いだったんだな。

 調子に乗って見当違いの見込み捜査を続けるうちに、有力者のご機嫌損ねてノルティはクビ。これでますます意地になったノルティは、歯の痛みも手伝って酒の量が増す。そんなノルティへの不安に加え、どうしようもないコバーンのセクハラ体質に音を上げたスペイセク。こともあろうにノルティが娘を家に連れてきたちょうどその時、スペイセクは荷物を車のトランクに入れて逃げ出そうとしていた。おいおい、何やってるんだ? え?ちょっと買い物に。ウソつくんじゃねえこのアマ。…ウソをつかれてますます逆上のノルティはスペイセクにつかみかかる。何だよおまえだけは俺の理解者じゃなかったのか? それを引き離そうとするノルティの娘。やめてやめて、お姉ちゃんがかわいそうじゃない。かわいそうだ?何だ離せこのバカ娘!

 気がついた時には娘は鼻血を流して呆然。あなた何てことするの?とスペイセクがわめき、こんな男の所に幼い娘を置いてはいけないと言わんばかりに連れていってしまう。

 おいおい?何だよ、みんな俺が悪いのか?おまえらが全部正しいのか?俺はかわいそうじゃないのか?何でこうなっちゃうんだよ?

 正直言ってこの場面は正視に耐えなかった。僕もこういった状況に陥った時あるもんね。巡り合わせが悪くって、何もかも最悪の状況に転がっていく。回りの人間が全部正義ヅラして、自分だけ悪者として袋だたきにされる瞬間…あの二階に上がってハシゴはずされたように裏切られた感じ。経験した人間じゃなきゃわからないだろうけれど、あれはまさに悪夢だ。信じていた奴ほどひどい裏切り方をする。どいつもこいつも他人はみんな敵。そんな子供の頃から身にしみて叩き込まれてきた言葉が蘇って…。

 そしてノルティにとって何より忌まわしいのは、自分も子供を殴ってしまったということ…それだけは避けたいと思っていたのに、父親の道を自分も歩み始めてしまったという厳然たる事実だった。そんなノルティの気持ちを知ってか知らずか、そこに呪いか何かのように立ちはだかるコバーン親父。仁王立ちで高笑いのコバーン親父は、今の一部始終を見ていたくご機嫌になり、それでなくても傷ついているノルティに追い打ちをかけるような一言を言ってしまうのだ。

 「おまえも俺と同じだな」

 すべてが最悪のタイミング。どうしてこうなってしまったのか。あっと言う間にそれまでささやかながらやっとこ築きあげてきた物は崩れ去り、どうにも取り返しのつかない事態に向かってまっしぐら。しかも、なぜか全部自分が悪いことになっている。あんなにイヤで一生かかって逃れようとしていた世界に、ほんの一瞬で逆戻り。すべての希望と努力は水の泡。

 あなたには想像できるか? この絶望感。この徒労感。この無力感。この焦燥感。…そして、この何によっても癒されない深い憤り。

 映画はこの後、こうなるしかない結末へとなだれ込むのだが…。

 

 今度こそこの忌まわしい環を断ち切らなければいけないんだ、絶対に。

 

 

 

 

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