「アイアン・ジャイアント」

  The Iron Giant

 (2000/07/03)


「遠い空の向こうに」のネガ

 この映画のことはだいぶ前から聞いていて、実は本サイトの特集への参加でもお馴染みの、予告編制作者さとう氏にも試写会のお誘い受けていたんだよ。しかし、仕事があったんで行けなかったですよね。いや〜残念。で、その後もこの映画とはことごとく縁がなかった。とにかく上映されるのが本来ワーナーマイカル系のいわゆるシネコンばかり。東京のシネコンっていうと思いっきり盛り場から離れちゃうから、見に行きたくてもいけなかったのだ。

 で、すっかりあきらめていたら、わが家から比較的近い場所…練馬にこのシネコンができたって言うじゃないか。しかも、もう終わってしまったとばかり思っていた「アイアン・ジャイアント」を、まだ細々やっている! そこであわてて駆けつけたという次第。

 映画が始まると、まず「1957年」のクレジット。そして、地球を回る軌道に乗った人口衛星スプートニクが…。スプートニク? そう…あのロケットボーイズの活躍を描いた快作「遠い空の向こうに」の舞台にもなった1957年だ。これは単なる偶然という訳でもない。スプートニクに象徴されるものを描いて、「アイアン・ジャイアント」と「遠い空の向こうに」の2本の映画は、ある意味でネガとポジのような関係を成しているように僕には思える。そして今回「アイアン・ジャイアント」こそが、紛れもなくその「ネガ」であることは間違いないんだね。そのキーワードは?

 「なりたいものになれる」ってことだよな。

 

時は1957年…スプートニクの時代

 ありふれた田舎待ちの少年ホーガースは、ダイナーのウエイトレスしながら女手一つで彼を育てているママと二人暮らし。何だか「アメリカン・グラフィティ」みたいな懐かしい雰囲気が漂って、アニメながらもいい感じ。ここで少年はちょっとニヒルでかっこいいアンチャンのディーンと知り合ったりするんだが、それはまた後のお話。それより少年は、漁師たちがしゃべっている事を聞いて仰天する。その漁師たちの一人が大シケの晩に、空飛ぶ円盤だか何かを見たと言うではないか。それを告白した男は仲間内から思いっきりバカにされたけど、こっそり聞いた少年はすっかり信じこんだね。何と言っても時はスプートニク時代だったし。

 そんなある晩、ママが残業で帰り遅くなった。少年は禁じられていたテレビの怪奇映画を夜中まで見てご機嫌。僕も親の留守に、普段見れないテレビ番組よく見てました。僕の中で思い出深い「親にこっそり見たテレビ番組ベストワン」は、テレビ版の「おさな妻」のドラマ。ちょうど「初夜」(笑)というタイトルのエピソード放送の時に親が家を空けたんだよ。ドッキドキで見た。しかし結婚式終わってもヒロインは親戚の人とか近所のオバサンなんかとダベってて、なかなか新婚旅行に出かけない。もう、下半身どうにかなりそう(笑)。やっと出発して旅館に落ち着き、夕飯食って風呂入って…イライライライラ。ついに二人で布団に入って…ずっと年上の亭主が「おさな妻」に、「いいんだね」と一言。コックンとうなづく「おさな妻」。く〜っ!これを待ってたんだ! ところが途端に画面が海と灯台を映すじゃないか。ザザ〜ッと波の音。…「つづく」(笑)。

 まぁ、それはさておき(笑)…ひょんなことから少年は何者かが森に潜んでいることに気付くんだな。漁師の話でワクワクしていた彼は、おもちゃの銃なんか持って森に探りに行くわけ。この夜のシーンなんか、「未知との遭遇」なんかを想起させて、なかなかいいムード出してる。

 で、森で少年が何を見たかというと…巨大な鋼鉄のロボットが、変電所の鉄板ひっぱがして食っている現場にブチ当たるんだねぇ。ところが高圧電線に触れてロボットは感電。身動きできなくなってしまう。少年は何を思ったか気の毒に感じて、電源スイッチを切ってやるんだなぁ。

 それがこの少年と巨大ロボットの最初の出会いだったわけ。

 

なりたいものになれれば苦労はない

 そのうちにこのロボットは少年になついちゃう。ギコチないながらも言葉を覚えていくロボットは、まるで三歳児のように無垢な存在な訳ですよ。ジャイアントは少年との会話の中で、幼く拙い感情ながら「悪玉よりも正義の味方」になりたいなどと素朴に思い始める。それは少年の持っているマンガ雑誌を見せてもらいながらの会話なんだけど、悲しいかなその雑誌のイラストでは、ジャイアントはどう見ても「正義の味方=スーパーマン」より悪玉ロボットにそっくりなんだよね。俺なんかも女とデートしてる時とかに鏡に映る自分たち見ちゃうと、金の力で女をたぶらかそうとしているオヤジにしか見えず落ちこんでしまったものです(笑)。情けない。ジャイアントも俺みたいにガックリ落ち込むんだけど、彼の場合は少年が、「なろうと思えば、きっとなりたいものになれるんだよ」と優しくフォロー。俺の場合は女が「友だちみんなが貴方と付き合うのやめろって言うの」と奈落の底に叩き落とすダメ押しの一言(笑)。でもねぇ、俺だってこうなりたかった訳じゃねえんだよ。好きで歳くった訳じゃないやい。俺だって優しくされたい(涙)。

 まぁそれは冗談だけど…実際のところ恥ずかしい話だが、俺にはちょっと致命的な性格的欠陥が昔からあったんだよね。それは他人を心底信用できないこと…。

 あまりにも信頼する人間に裏切られ過ぎた、嘲られすぎた…少なくとも俺は自分一人が被害者みたいな気になって、心を閉ざしてきたんだね。みんな笑っちゃうかもしれないけど、これは何も嘘偽りない話。何もカッコつけて言ってるわけでも何でもない。それが節目節目でいつも僕の人生を少しづつ狂わせていく。手に入れかけていたものまで失わせてしまう。どうにかしたいと思っていても自分じゃどうにもならない。だからあきらめてもいた。とてもじゃないけど「なりたいものになれる」なんて心境には程遠かったんだよ。なりたいものになんて、なれっこないさ!

 そう、やっぱり世の中そうは問屋が卸さない。政府から派遣されたと名乗る怪しげな男がウロウロし始めるにつれて、物語も徐々に暗転していくのである。こいつは姿かたちはディック・トレイシーみたいだけど、中味は対ソ冷戦下のアメリカ支配層の気分を体現するような保守反動男。とにかくジャイアントの存在を明るみにしたあげく、何が何でも東側の脅威として葬り去らねば収まりつかないとヒステリックに思い詰めた「アビス」のマイケル・ビーンみたいな男。こいつが少年に目をつけて、どこまでも追い回すわけ。

 その頃少年はと言うと、町の変わり者でクズ鉄業を営むかたわら抽象アートを作り続ける例のディーンという男にジャイアントを匿ってもらい、楽しい日々を送っている真っ最中。ところがひょんな事から、ジャイアントには殺人兵器としてのとんでもない能力が備わっていることがわかる。実際、オモチャの光線銃を向けた少年を、どうしても抑え切れない衝動で殺しかけるジャイアント。こいつは殺人マシーンだ、悪玉なんだ。そ、そんな…ボクは違う、違うよ…。

 「きっとなりたいものになれる」んじゃなかったの?

 悲しそうにうつむくジャイアントは、目の前真っ暗になって少年の前から立ち去る。しかし何とも間の悪いことに、このジャイアントを破壊すべく軍隊が派遣されていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから先は、映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、ジャイアントがキレて軍隊の戦車とかバンバンぶっ壊す場面では、よくない事とは知りつつ敗戦国の国民としてはスカ〜ッとしましたね。この国の軍隊がギッタンギッタンにされるシーンっていつ見てもいいです。もっとやれ〜ッ(笑)。アメリカ人以外の世界中の奴がみんな内心そう思ってるんじゃない? 例の政府から派遣されたディック・トレイシー野郎がウソにウソの上塗りしてジャイアントを破壊しようとウス汚く立ち回るあたりも、「神の国」がどうしたとかバカな発言した後でウソ八百並べるどこかのゲス野郎みたいで、とってもお茶目(笑)。

 そしてジャイアントが自ら決心して「なりたいものになる」べく選択した道も、予想がつくとは言え感動的。わかっているのに、もう泣けて泣けて…。

 でもね、実はいちばん感動的なのはその後なんだよ。この映画の作者たちは、本当に素敵なエンディングを最後の最後に用意してくれたんだ。

 

 なろうと思えば、きっとなりたいものになれるんだよ。

 僕もなろうと思うんだ…もう一度だけ、いま一度だけ人の気持ちを信じる人に…。

 

 

 

 

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