「鬼教師ミセス・ティングル」

  Teaching Mrs.Tingle

 (2000/06/26)


忘れられぬ恩師の思い出

 中学生時代の僕って言ったら、そりゃあ「札つき」だったんだよ。

 いやいや、誤解しないでいただきたい。「札つき」と言ったって、ツッパリ、不良のたぐいじゃない。第一ああいうのは好きじゃなくてね。高校の時なんかツッパリじゃなくたって、みんながみんな学校のカバンをつぶしてペッチャンコに平ったくしてたけど、俺はあれが滑稽に思えてね。だって、本とか入らなくて別にバッグ下げてるんだもの。おまえらバカか?…って感じ。それに、みんなが「右に習え」でやることが、そもそも嫌いなんだよ。だから自分だけ「逆ツッパリ」とか言って辞書とか押し込めるだけ押し込んで、カバンをパンパンに膨らませてた(笑)。俺はツッパってなかったけど、カバンは文字通りツッパってたわけ。まぁひねくれ者だったわけだよね。

 そういや今時のガキ連中も、みんなでダレたソックスはいたり、顔をシャネルズみたいに塗ったりしてるけど、あれはどうしてもみんなでやらなきゃいかんのかね? だらしないねぇ。自分らしさはないのかよ。ツッパってるつもりで若いうちから日本社会に組み込まれちゃってるのか。情けねえ奴らだな。

 それはさておき、まぁ中学時代に「札つき」だったと言っても、そんな勇ましい話じゃなかった。じゃあどうしたのかと言えば、簡単に言うと授業中にうるさかったわけよ。

 でもね、俺に言わせれば普通の低能なガキみたいにのべつまくなししゃべってうるさかった訳ではないんだよ。今だから話すけど、あれにはそれなりの意図もあった。授業にはそれぞれポイントというかヤマ場というか、聞かせどころってのがあるんだよ。でも、どうも学校の先生ってのはケレン味がなくって、おいしいところを逃してつまらなくしゃべってしまう。だから、生徒がみんな退屈して授業を聞かない。これはもったいないだろ?

 僕は授業の面白いところに合いの手をいれて、笑いで印象づけたかったんだ。授業も1時間1時間が、作品のようにでき上がらなくてはいけないはずだ。それもライブで。だから学校の授業ってのは、どちらかと言えばショービジネスみたいなものだと思うんだよね。エンターテインメントの要素がない授業なんて、ダメだとハッキリ言えると思う。で、それに見合った芸人が育っているかと言えば、学校の先生ってのはそのへんからっきしダメなんだよね。中学時代の俺の目から見ても歯がゆいばかりだったよ。だから、俺が面白くしてやったのに(笑)。授業を妨害したとかで職員室呼ばれたり…。別に抵抗したりしないから、大して怒られやしなかったけどね。俺がそこで「授業を面白くしようとした」ってことを訴えたのかって? 言うわけないよ。そんなこと言ったら先生のプライド壊れるだろう? それに、俺は一応東京生まれ東京育ち。都会っ子が昔から自慢なんだよ。そんなヤボなことするかよ、都会人は粋が勝負なんだ。中学生にだってダンディズムはあるんだよ(笑)。

 そんなこんなで好き放題にやっていた中学時代。万事そんな調子だから、ハッキリ言って先生たちにはツッパリ不良たちよりサジ投げられてたはず。早い話がこっちも向こうもお互いバカにしあってる…って、なぁんだ。今の俺とネット映画ファンたちとの関係と同じじゃん(笑)。

 でもね、部活動はちょっと燃えてた。新聞部で結構ガンガンやってたんだよ。1年〜2年は打ち込んでたな。正直言って他の部員なんか脳ミソもやる気もなかったから、部に在籍してたのに何にもやらない連中がザラ。だからいつも俺がほとんど全部書いちゃったりしてたんだ。その頃から「DAY FOR NIGHT」状態(笑)。映画のコラムもあったし。今のほうが特集があるぶんだけ、他の人が参加してる度合が多いかもしれない。それほどワンマンショーだったわけ。

 ここは顧問の先生がまたよくて、短く髪を刈込んでちょっと男っぽくしゃべる、今で言うと「ボーイズ・ドント・クライ」のヒラリー・スワンク入った感じ(変な意味じゃなくってね)のサッパリした気質の化学の女先生が仕切ってた。この先生はとっても厳しくて怖いって評判だったんだけど、俺は一度だって怒られたことなかったよ。僕はこの先生とっても好きで、よくナマイキな事言っては笑われていた。本当は呆れてたんだろうけどね。中学ではこの先生と、担任の若い女教師の2人が何かと僕をかばってくれてたんだよね。恩師と言えばこの人たちかな。

 ところが3年になったとたん、状況が変わった。うちの中学では3年になると、名誉職みたいに部長とかにさせられるケースが多い。つまり実務からは離れるわけ。御輿の上に上げられちゃうんだよ。で、僕がたまたま用事で出られない時に臨時の会合が開かれて、僕がいないのをいいことに部長に選出しちゃった。知らない間に部長にさせられちゃったんだから参った。こうなると部の代表として生徒会とか退屈な会議にも出なくてはならない。ウンザリ。

 で、僕は次の会合から部への出席をボイコットしてしまった。誰が何と言おうと出ない。前代未聞、在任中に一度も部に出てこなかった部長が何を隠そうこの僕だ。

 例の顧問の先生も仕方なく出てきた。職員室に呼ばれた僕は、事の次第を説明することになった。

「で、一体何が気にいらないのよ、Fは?」と先生。

「そんなお飾りみたいな部長になりたくて新聞部入ったんじゃないです。いないうちに勝手に決めちゃって」と僕。

「でも、どこかの部には在籍しなくちゃいけないんだよ」と先生。

 で、この先生は苦笑しながら、部長として在籍しながらも部の活動には欠席するという僕の我がままを黙認してくれたのだった。仕方ないなぁと苦笑しながら。信じられる? 昔はこんな先生がいたんだよね。

 それに引き替え今の教育現場は…ガキも確かに腐ってるけど、先生もどうかなぁ。前にも書いたと思うけど、教師になった昔の女友だちと飲みに行ったら、急に逆上しちゃって「セックス!セックス!」って言葉をお店で連発したこともあったしなぁ(やりたかったのか?)。これなんか考えてみても、ちょっと心配になっちゃうんだよねぇ。

 そりゃ、P.T.A.とか文部省とか日教組とか当のガキども自体とか問題はいろいろあるんだろうし、別に聖職だなんて大げさな事は言わないまでも、先生ってやっぱり特殊能力のいる仕事だと思うからさぁ…。

 

いたぶられて当然のアホバカ・ティーン三人組

 レスリー・アン・ウォーレン扮するママの女手ひとつで育てられた、優等生の女の子ケイティ・ホームズが本作のヒロイン。大学への奨学金を手にいれるためがんばっている真っ最中。彼女が付き合ってるダチが、女優志望の女の子マリサ・カフラン。優等生で何でも地味目のホームズに対して、このカフランは派手派手で奔放。お目当てのええカッコ長髪男のバリー・ワトスンに猛烈色目アタック。でも、彼のまなざしは彼女じゃなくって、何だか優等生ホームズのほうにいってるような感じ。あれっ? その肝心のホームズの視線も、何だかウルウルして彼ワトスンに向かっているような…。

 まぁ、一応このティーン三人組が本作の主人公とでも言っておこうか。ただ、彼ら何だか華がないんだよねぇ。同じティーン俳優でも、例えばあのジョン・ヒューズが青春映画の新しい旗手として登場してきた頃の顔触れたるや、モリー・リングウォルド、エミリオ・エステベス、ロブ・ロウ、ジャド・ネルスン、アンドリュー・マッカーシー、ジョン・クライヤー、アリー・シーディー、アンソニー・マイケル・ホールなどなどなど…そして何とあのデミ・ムーアまで。少々大げさに言えば全盛期の黒澤明作品を彩った、三船敏郎、志村喬、千秋実、藤原釜足、仲代達矢、宮口精二といった名優たちなどにはまるで及ばずとも、それはそれなりに文字通り豪華絢爛なもんだったからねぇ。それに引き替えて言っちゃあ何だがこの三人、タヌキ顔の優等生ケイティ・ホームズ、ブタ顔の女優志願マリサ・カフラン、長髪ボンクラ男のバリー・ワトスンとも、何だか魅力という点でイマイチ。特に主役を張るべきタヌキ顔のホームズの魅力のなさは、ほぼ致命的と言っていい。ズバリ言ってブス。しかも愛敬のあるブスは僕もこよなく愛するんだけど、彼女にはそんな輝きもあんまり感じないんだよね。

 で、どうなっちゃうんだと思いながらも見ていると、この主役のタヌキ顔ホームズ嬢、目下の頭痛のタネは歴史の成績で、これでいい点をとらねば奨学金をイヤミなガリ勉女に取られてしまうんだけど、歴史の担当が問題の鬼教師、ヘレン・ミレン扮するティングル先生なのでお先真っ暗というわけ。

 このティングル先生、とにかく生徒を敵視。特に奨学金をつかんでこの退屈な田舎町から出て、何とかパッとしない現状から這い上がろうというタヌキ嬢については、ことさらに冷たく扱う冷血女なのだ。当然、奨学金も風前の灯か。

 そこで何を血迷ったのか長髪ボンクラ男のワトスンが、タヌキ嬢の気持ちを引きたいと思ったか、よせばいいのに歴史のテストの答案を盗んできちゃった。そこをティングル先生に見つかっちゃうから、もはやタヌキ嬢は奨学金どころか卒業も危ういヤバ〜い状況になってしまう。

 ただ校長がたまたま不在だったため、即チクられることは免れた。そこで三人は夜ティングル先生の家に押しかけて直談判することにするのだが、これが大きな間違いなんだよな。

 大体、こいつら何かプランあったのか? 直談判してどうかなると思ってたのか? ティングル先生にいいように言葉でいたぶられたあげく、住居不法侵入で訴えると警察に電話されそうになったんで、余計なことばかりする長髪ボンクラ男はついそこに置いてあった卒業制作の課題…中世の弓矢でティングル先生を脅すはめに。さらに揉み合っているうちに先生が頭打って気絶するという予想外の事態に発展。先生を寝室のベッドに括り付けて軟禁するというドツボの展開になってしまうのだ。どうするんだ、おまえら?

 

監督ウィリアムソンと主演ヘレン・ミレンの勝利

 「スクリーム」「ラストサマー」「パラサイト」…一連の青春ショッカー、学園ホラーものの脚本で、急速に脚光を浴びたケビン・ウィリアムソンの、これは何と第1回監督作品。この人の作品のこれまでの特色は、とにかくティーンの連中をイキイキと描く手腕の確かさと、身に染み着いたさまざまな映画的記憶の引用。それらは今回も健在だ。

 例えばかなりベタな例で言えば、ティングル先生の見張りに飽きたブタ顔女優志願娘が、一人芝居で演じてみせる「エクソシスト」のパロディなどにもそれが伺える。学園ものということで往年のジョン・ヒューズ作品へのオマージュを捧げるべく、かつての「青春映画の女王」、「プリティ・イン・ピンク」などで一世を風靡したモリー・リングウォルドを脇に起用するあたりも、なかなかファンの心のツボを押さえまくったつくりだ。

 だが、とにかく今回の大功労者は、何と言ってもイギリスの名女優ヘレン・ミレンだ。彼女ほどの大女優がアメリカの、それもティーン向けのブラックコメディに出てしまう…そのへんの度量の大きさにまず脱帽してしまう。「エクスカリバー」「カリギュラ」「キャル」「モスキート・コースト」…それらより何より、今回のヘレン・ミレンはとにかく異様に生きいきしている。完全に主役ティーン三人組を圧倒。体力勝負の肉弾戦あり、三人組の隙や弱みや盲点突きまくりの知力を尽くした頭脳戦あり、そして人間的な魅力と厚みを生かした演技力で勝負の感情戦あり…。つまり、この一本を見れば大女優ヘレン・ミレンのすべてが分かる、魅力のすべてを堪能できるワンウーマンショー。意外にもゴージャスで豪華な作品と言うことができるんだよね。これじゃあ昨日今日出てきたアメリカのティーン俳優あたりじゃあ束になってかかっても相手になりはしない。

 だからどこか甘ったれて、先の見通しもないまま突き進む魅力ゼロの主役三人組が、完全にミレンに負けちゃってる。悪役・仇役であるはずのティングル先生が、何だか魅力的に見えてくる。言ってることまで、何となく一理ある感じがしてくるしね。そこが重要ポイントなのだ。

 往年のジョン・ヒューズ映画って、何だかんだ言っても若い奴らにコビを売ってるとこあったよね、作品によってバラつきはあるものの、やっぱりヒューズ作品の主な観客だった若い奴らをおだてていい気持ちにさせなきゃならないという、商業的要請があったのかもしれない。特にそれがネックになって、妙に登場人物を甘やかしたツメの甘い作品になりがちだったような気がする。

 その点、この作品の監督ウィリアムソンは、モリー・リングウォルドを起用したり、「パラサイト」で「ブレックファスト・クラブ」の設定を引用するなど、過去のヒューズ作品への深い愛着を見せながらも、まったく別ものの作品に仕上げているのがエラい。彼は決して登場人物を甘やかしたりしないのだ。そのためにも、中心にドーンと大人の役者、本格派のヘレン・ミレンを置きたかったんだろうな。このキャスティングがとにかく大成功だ。

 だって、そりゃあそうだよ。学校の先生には特殊な能力がいる。エンターテイナーとしての魅力と才覚がね。

 

 

 

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