「ファントム」

  Phantoms

 (2000/06/12)


知らないほうがいい事だってある

 世の中、知らないほうがいいって事もある。そんな経験、みなさんにはおありだろうか?

 それは、大学時代ちょっとだけ付き合った女の子のお話。例によって例のごとしで、僕の何とも腑甲斐ないヘタな女扱いの末に、これまたひどい結末を迎えて数年後。自転車に乗ってブラブラとあたりをフラついていた僕は、たまたまデートの帰りによく送っていった彼女の家の前まで来た。そうそう、このあたりでいいムードになって顔と顔が近づいたところを、無粋なバイクのヘッドライトが照らしたりして、何とも不完全燃焼な気分になったりしたっけ。

 自転車に乗ってそんなセンチメンタル・ジャーニーに浸っていた僕は、彼女の家を見て唖然となった。

 彼女の家は空き家になっていたのだった。

 いや、単に引っ越して空き家というなら、別に驚くことはないのだった。問題はその家の状態だった。2階建ての一軒家が彼女の家だったのだが、もう何年も空き家になったままらしく荒れ放題。塀の上にズラリと置いてある鉢植えは、みんなカラカラに枯れていた。小さい猫の額ほどの庭も当然のごとく草が茫々生い茂り惨憺たる状況。玄関の小窓のガラスは割れ、1階2階とも雨戸が閉まったまま。まぁ、早い話がお化け屋敷同然といった雰囲気だったのだ。

 その後、何度かここに足を運んだが、状況は一向に変わらなかった。そして、この家が見捨てられてから1年や2年ではきかないことも、明らかに見てとれた。

 でも、これだけでは僕が何を言いたいか、まだわからない人もいそうだよね。では言い替えると、東京のそれも杉並区のベッドタウン真っただ中で、これだけの物件がただ寝たままになっているという事態はきわめて異常なのだ。普通、ただ一家が引っ越しただけなら、この家はしかるべきかたちで転売されるか改築されるか、とにかくこのようなお化け屋敷状態で放置されるはずがない

 仮にこれが彼女の父親の会社の社宅で、父親の定年とともによそに移ったにしても同様だ。それに何より、塀の上の植木鉢が説明つかない。あれは数年前、彼女とつき合っていた頃から塀に乗っていた。そして今、それがそっくりそのまま干からびている。あの植木鉢は、この一家の立ち退きがえらく慌ただしいものだったことを物語っているように思えたのだった。

 思い余った僕は、プライバシーの侵害とは思ったが、通りがかりの近所の人にこの家の元住人の消息について聞いてみた。しかし、「ある日突然いなくなった」みたいな話しか聞けず、要領を得ないままだった。

 しかし、その謎の一端に触れる機会は、意外に早くやってきた。それは僕が新宿の地下街で友人との待ち合わせ場所に急いでいたときのこと。

 彼女が、いた。

 間違いない。あの彼女だ。見覚えのある顔。だが、それ以外の彼女の外観は驚くほど変わっていた。

 グレーのカーディガン、こげ茶のスカート、手にはクシャクシャの紙袋、そして彼女の髪はまるで初老の女性のように、白髪がたっぷり混じった胡麻塩頭になっていたのだった。僕のヤボくさい服装をバカにし、アカ抜けたセーターを買わせた彼女。「流行通信」が愛読誌で、自分の会社のクリスマスパーティーではキリリとタキシードを着て粋に演出した洒落者。…それが今僕の目の前で、まるで灰色とこげ茶の毛糸のグシャグシャになった塊みたいになっている。僕は何とも複雑な気分になっていた。

 おずおずと話しかける僕。彼女も僕を覚えていた。「久しぶりだねぇ」などと型通りの挨拶をする僕。僕らの付き合いの末期の頃の、ウンザリするようないがみ合いは、もうすでに僕らの間にはなかった。で、つい例の話に触れてみた。

 「前の君の家に行ってみたんだよ」

 「そう?…なつかしいなぁ。もう、今じゃ親とも一緒に住めなくなってるんだけど」

 一体彼女一家に何があったのか、その真相を聞きだしたくとも、何とも聞けない雰囲気が漂っていた。それでも最後には好奇心が勝った。思えば俺も愚かなことを聞いたものだ。

 「一体、何があったんだい?」

 彼女は黙って俺の目を見つめると、静かに、しかし断固として言った。

 「それを知ったところで、どうなると言うの?」

 呆然と立ち尽くす僕の前を、ゆっくりと彼女は去って行った。新宿地下街の人ごみに飲み込まれていく彼女の後ろ姿を見ながら、僕は二度と彼女を見ることはないだろうと悟った。知ったところでどうなると言うの? そう。どうするつもりだったと言うのだ? 世の中、知らないほうがいいという事だってある。重苦しい気分でその場を去った私の胸は彼女への深い同情でいっぱいだった。

 しかし今の僕には、そんな僕の彼女への思いがまるでお門違いなものだったのではないかという気がしてならない。すっかり疲れた外見だった彼女に同情した僕。だが、彼女の目に写った僕はどうなんだ?

 そのときすでに僕が見つめる鏡の中には、大学生の頃のハツラツさをすっかり失い、髪の毛が激減した額にシワを3〜4本深々と刻んだ中年男がいた。

 真相を知らないほうがいい、謎は謎のままにしたほうがいい…世の中にはそんなことがいっぱいある。彼女の身に一体何があったのか…ということだけじゃない。実際その時の彼女の目には僕がどう見えたのかということも…。むしろ同情されたのは、老いさらばえてくたびれ果てた、この僕のほうだったのかもしれないのだから(笑)。

 

町中がガラ〜ン、ベン・アフレックが口ポカ〜ン

 人里離れた山間部の町スノーフィールド、今この小さな町に向けて車を走らせる姉妹がいた。ジョアンナ・ゴーイングの姉がロサンゼルスからローズ・マッゴーワンの妹を無理やり連れてきたみたいで、この二人いろいろ複雑な家庭事情があるようだが、正直言ってこんな山奥に連れてこられるならマッゴーワン妹じゃなくたってイヤだと思うけどな。

 で、やってきました田舎町スノーフィールド。町の大通りを通る間、なぜかエンジンかかりっぱなしで停車した車が姉妹の目にとまるが、そのときはまさかそんな大事だとは夢にも思わなかったんだね。

 で、おウチに帰る。お手伝いのおばさんが美味しい料理つくってくれてるわよなんて言いながら…。

 ところが誰も答えない。人けがない。ナベには火がかかったまま。ありゃ?倒れてる!

 おばさん、すごく顔色悪くなってひっくり返ってるのだ。何だ強盗か疫病か原発の放射能漏れか? とにかく姉妹はパニクって保安官事務所までドタバタ。

 しかしここでも気色悪い死体。どうなってるの?

 ハタと気付くと、町中が何だかガラ〜ンとしてるではないか。誰もいないのか? みんな死んだのか?

 知り合いのパン屋に駆けこむと、作業台の上に手首がゴロリ。しかもパン焼き機の中からパン屋夫妻の生首がベロ〜ンと出てきて、キャ〜ッ! もう、焦るあわてる大騒ぎ。ドタバタやってたら、何者かが姉妹をフンづかまえた。ヒエ〜〜ッ!

 出てきたのは、ベン・アフレックの口ポカ〜ンと開けた人の良さそうな顔だった(笑)。

 実はその場にいたベン・アフレックと、あとリーブ・シュレイバーともう一人は、緊急連絡を受けて別の町から急行した保安官たちだったのだ。

 あぁ助かったと一瞬安堵する姉妹。しかし、安心するのはまだ早い。なぜだかよくはわからないが、町中の電灯がピカピカ。サイレンや警笛がビービー鳴りだす。ビビりだす保安官たち。

 町の古ホテルに入るといきなり妙なオールディーズソングが流れ、あわてて部屋中を探し回ると、そこには死体やら何だか得たいの知らない痕跡。そしてバスルームの鏡には口紅で書いた謎めいた言葉が…。

 そんなうち、保安官の一人シュレイバーがだんだんおかしくなって、本性をさらけ出し始めたというか、変にニヤニヤし出して言動もおかしくなり始める。そしたら、保安官の一人が殺される。だんだん、これはヤバいと思い始めるアフレックは無線で例の口紅で書かれた言葉を知らせるとともに応援を求めるが、これがまた雑音入っちゃってちゃんと伝わったかどうかわからない。

 シュレイバーはニヤついて、アフレックに「おいしそうな姉妹だな」とか「おっぱいがプルルン(笑)」とか「おまえは姉、俺は妹にしよう」とかしょーもないこと言い出す。アフレックは思わず「何てこと言うんだ」と怒るが、これはハッキリ言って正義感からと言うより図星つかれたからだと見た(笑)。だって、アフレックはヨダレたらしそうな口半開きでポカ〜ンと姉のほう見てたりしてたもんな。この姉妹もちょっと好きそうだし(笑)。

 ところが、こんな不埒な発言がてきめんに効いたか、突然の停電とともに窓から信じられないほど特大の蛾が飛び込み、このニヤけシュレイバーに襲いかかる。頭部をなめ回すように食われたシュレイバーはそのままオダブツ。蛾もどこかに消えた。

 どうなるんだ一体…とエッチな叶姉妹ならぬ美人姉妹や、まるでボーイスカウトのリーダーみたいで全然頼もしそうには見えないベン・アフレックならずとも、見ている我々まで先行きを案じ始めたちょうどその頃、お話はとんでもない所で急展開を見せていた。

 FBIが、例の口紅の文字の中に書かれていた人名の当人を突き止めていたのである。

 それが貫祿で登場の超大物、ピーター・オトゥールの演じる風変わりな学者なのだ。

 

 異端のSFホラー作家ディーン・クーンツ自身が脚本まで手がけたこの映画、お話はこの後ピーター・オトゥールの学者とともに「アウトブレイク」に出て来そうな防疫服に身を固めた特殊部隊なんかが出てきちゃって、ド派手になってくるかと思いきやこの特殊部隊がてんで弱い。コテンパンにやられちゃった後にオトゥールがこの怪現象の説明を一気に行うが、何の根拠も証拠もなしで思いっきり力強く自説をまくしたてる「JFK」エンディングのケビン・コスナーも真っ青の空疎なカラッポぶり。そのうち、ピーター・オトゥールとベン・アフレックという、到底うまくいきそうもないタッグによる敵の宣滅作戦が展開するが、この映画、前半はなかなかいや〜な感じを出してていい感じなのに、実は大物オトゥールが出てきて謎を解いた段階でシラ〜ッと腰くだけになっちゃうんだよね(笑)。だから、それまでのプロセスを楽しんだほうがいい。

 やっぱり何でもわかりゃいいってもんじゃない。どこかに謎を残してないとね。

 

 

 

 

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