「スティル・クレイジー」

  Still Crazy

 (2000/05/08)


複雑な気持ちなのはおまえだけじゃない

 今では古い話になっちゃったんだけど、1995年の大晦日、「ビートルズ・アンソロジー」ってテレビ番組やってたの覚えてるかな? ビートルズの未発表音源を編集したCDセットの発売と同時に、現存のメンバー3人をはじめとするさまざまな証言者のインタビューとドキュメント映像で綴る伝記フィルムがテレビ放送されたんだよね。僕も昔はビートルズ大好きなガキの一人だから、今まで仲違いして公の場では一緒に相まみえることもなかった3人が一同に会してる様子見るだけで胸が熱くなった。これでジョン・レノンがいれば…とは決して言っちゃあいけないことなんだろうけど、それでもやっぱりそう思うよね。もうちょっと早く、またみんなで会う気になってれば…そんなにお互いを憎みあう気持ちは大きかったのか。くつろいで昔話に興じる3人の姿を見ると、そんな激しい憎しみの季節を乗り越えてきたなんてとても信じられない。でも、それは当人だけが預かり知ることなんだろうな。

 その「アンソロジー」のドキュメント映像を見てインタビューを聞いていると、子供の頃あれだけいろいろ本を読んで、知り尽くしているはずだったビートルズ史が、また違った趣きで目の前に展開されていくのだった。そこで気付いたのは、対立した中心人物、ジョンとポールの間にあった業の深さというか宿命のようなもの。俗に男同士の愛情の深さは男女間のそれを上回ると言うし、男同士の嫉妬も凄まじいと言うが、僕自身長く男をやっててそれはまったく正しいと思う。そこにホモセクシュアルな感情があったかどうかというのは極めて微妙だが、恐らく2人の間には他人には窺い知れない激しい葛藤があったのに違いない。オノ・ヨーコの登場がビートルズを崩壊させたというのは、従来的な意味では間違っているが、ある意味では当たっているだろうね。

 いや、男だ女だというより、2人以上の複数の人間が一緒にやっていくということの、それは難しさなのかもしれない。

 あるいは1988年頃のローリング・ストーンズ。この当時のストーンズは、やはり中心人物のミック・ジャガーとキース・リチャーズとの対立によって深刻な崩壊の危機にひんしていた。アルバムのレコーディングの話なんか全然ないし、その前の作品だって、かなりバラバラな状態でレコーディングされたと報道されていた。ツアーも前のアルバム発表時に行わなかったから、もう何年やってないかわからないほど。そのうちミックのソロ・アルバム、キースのソロ・アルバムがそれぞれ発表され、こりゃあいよいよダメだと思い知らされた。2人がそれぞれのアルバム・プロモーション用に受けたインタビューでは、お互いをこれ以上ないってほどクソミソにケナしまくっていて、読んでいてツラかったよ。元々メンバーどうし仲良しってイメージのバンドではなかったけれど、それにしたってそこまで言うか?

 そのうちキースはバンドを編成してツアーに出た。そしてミックも、急ごしらえではあるがバンドを組んで1日だけのコンサートをやるため、日本にやってくることになった。あぁ、何ということだ。ミックの初来日。ウキウキしてもいいのに、僕はコンサートに行こうという気にもならなかった。何でおまえ一人なんだよ。

 後でテレビでコンサートの模様を見たが、演奏なんか腕利き若手ミュージシャンを起用してカッコよく聞かせてはいるが何か違う。ストーンズははっきり言ってうまくないバンドだ。だが、サムシングがある。ここでのミックは何だか見ていて空虚だった。

 しかも、ミックはソロ・アルバムを2枚も出しているのに、なぜかそこからはほとんど曲を演奏せず、ストーンズ・ナンバーばかり演奏した。客が何を望んでいるのか彼なりによく考えた結果だろうが、それじゃあ何のためのソロ・コンサートなんだ? 失望は深かった。

 ところが1989年も後半のある日、ストーンズの新作が発売されるというニュースが巷を走った。雑誌にはニューアルバム発売とワールドツアー開始の記者会見の記事が踊った。もう二度とないと思っていた夢が実現した。彼等が帰ってくる!

 アルバム発売日にはレコードショップに飛んで行った。久しぶり。店に入って愕然! ストーンズの新作はLPレコードで売ってないのだ(笑)! 今の人から見ればバカバカしくて信じられない話だろうが、私はもう何年も新作アルバムは買っていなかった。そして、その間に市場からはLPレコードは完全に姿を消し、CDにとって替わっていたのだった。あわててストーンズの新作「スティール・ホイールズ」のCDを買うと、その足で電器店へ行って速攻でCDプレーヤーを買った。ストーンズが聞きたいばかりに、僕はあんなにバカにしていたCDプレーヤーを買ったのだ。それくらい聞きたかった。

 自分のコンポにCDプレーヤーをつなぐのももどかしかった。やっとつないでトレーにCDを置いて、ボタンを押したそのとき! いきなりジャーンと耳に聞きなれたキースのギターが聞こえてきた。来た来た来た来た! これだこれだ、俺が聞きたかったストーンズは!

 往年のダイナミズムが蘇ったストーンズのアルバムには久々にノックアウトされたが、中でも僕が注目したのは、シングルカットされた「ミックスト・エモーションズ」という曲だった。実はかつてミックとキースはそれぞれ曲のサビでマイクを共有してコーラスし、それがコンサートのヤマ場になっていたりしたのだが、ここ数年コーラス隊をバックに配してからはキースはミックのバックで歌わなくなっていた。ところが曲のクレジットを読んで見ると、コーラス隊をバックに付けてはいるが、この曲では何年ぶりかで2人が一緒に歌っているではないか。

 おまえだけじゃないさ、複雑な気持ちなのは

 おまえだけじゃないさ、大海にポツンと浮かぶ船は

 確かこんなふうな感じの意味シンな歌詞を聞いたとき、彼等は危機を乗り切ったんだなと僕は悟った。彼等もきっとツラかったんだろうな。

 やがて、年が明けて1990年。何と復活だけでもうれしかったのに、ストーンズがついに日本にやってくるとわかった。それから切符を手に入れるためどれだけ東奔西走したか。切符を手に入れても気が気ではなかった。何しろストーンズだ。いつドタキャンしても不思議じゃないや。彼等が成田に到着し、コンサート初日がスタートして初めて、彼等と会えると確信できた。「ニュースステーション」の小宮悦子が、ストーンズのことロクに知らないけどアリーナで見てきちゃいましたと得意になって話してるのを見て、この女ブッ殺してやるとマジで思った(笑)。実は今でも思ってる(笑)。

 そして待ちに待ったその日。会場の売店でストーンズのTシャツを買って着替えた。もう完全にヒューズ飛んじゃってる。そして!

 コンサートのことを書いても、僕はロック・ライターじゃないし、ここもロック・サイトじゃないから割愛。でも、あれはまさに至福のときだったな。東京ドームは音響が最悪とか言ってた奴が多くて、それは確かにそうだったんだろうが、そんなこと俺にはどうでもよかったんだよ。

 そして、やっぱりキースはミックと歌った! それどころか、二人はミックのハンドマイクを共有して歌った。肩を抱きながら。

 コンサート終了時、お客に向かってそれぞれ肩を組みながらお辞儀する彼等を見て、僕はとっても幸福な気分に包まれたものだ。実はその後、ストーンズは都合2回来日して、それぞれ素晴しいステージを見せてくれてはいる。でも、オリジナル・メンバーのビル・ワイマンはこの1990年のツアーを最後に脱退し、4人になってしまった。でもいいさ、僕は見ているんだ。最も油が乗っていい感じ、抜群のコンビネーションでノリノリだった1990年のストーンズを。

 あのコンサートの時のことを思い出すと、今でも胸が熱くなる。中年ポンコツ・ロックバンドの復活を描いたコメディ「スティル・クレイジー」には、まさにこの時と同じ興奮がちょっぴりだけど流れているのである。

 

ロック・ゾンビが現代に蘇る

 かつて1970年代に一世を風靡したストレンジ・フルーツなるブリティッシュ・ロック・バンドがあった。まぁお定まりのモメ事が絶えないバンドで、ある日の野外ロック・フェスでもメンバーみんなブーたれまくり。あげくステージ始まったとたん落雷で、もう修復不可能なほど決定的にケチがついた。これがこのバンドの最後のライブ。以来、みんなはどうなったかというと…。

 キーボード担当のスティーブン・レイは、今やしがないコンドームのセールスマン。ある日、音楽業界の奴に声をかけられ、思わぬところから忘れていたバンドの夢が蘇る。そうなりゃパッとしない日常におサラバして、サッサとかつてのメンバー集めだ。

 彼がまず声をかけたのが、当時バンドの身の回りの世話をしていたジュリエット・オーブリー。今ではホテルでテキパキ働くバツイチ、娘一人の彼女。すっかりカタギの生活にどっぷり浸かってロック稼業に戻ってこないと思いきや、彼女もクソつまらない毎日に飽きあきしていたのだった。そして、彼女にはまた特別な思い出が。彼女がフルーツの面倒を見ていた最大の理由は、バンドの精神的支柱とも言えるギタリスト、ブルース・ロビンソンの恋人だったから。そのときの甘く酸っぱい感情が、彼女の中に蘇ってきたのだった。

 そして、実はスティーブン・レイにも、彼なりの再結成に寄せる期待が。昔から心を寄せていたオーブリーを今度こそ自分に振り向かせたいという願いが、彼を再結成に駆り立てたのだ。

 こうしてオーブリーの調査によって、昔のメンバー探しがどんどん進んでいった。借金取りから逃げ回っているドラマーのティモシー・スポール、屋根職人で食っているベーシストのジミー・ネイル、ええかっこしぃでロックスター気取りながら今や老醜、スウェーデン女の妻に食わせてもらっているが、実は屋敷を売りに出すほど生活に困ってるヴォーカルのビル・ナイ…といった、しょーもない連中が再び集まってきた。だが、ブルース・ロビンソンは? バンドの中心人物で、一番のカリスマを持つ男は? 

 悲しい知らせは再結成ミーティングの日にもたらされた。ロビンソンは死んだと。さすがに落胆は隠せないオーブリーと一同。それでなくても、再会間もなく不穏な雰囲気が漂うこの連中だもの。

 というのは、本来ストレンジ・フルーツのヴォーカルは、ロビンソンの弟が担当していたのだ。その弟が急死してしまい、現在のビル・ナイが後釜として入った。しかし、ベースのネイルはこのナイのヴォーカル・スタイルから物腰に至るまで、大げさで気障で空虚な感じがして何から何まで気に入らなかった。当然、今でもこの二人の間は何となく険悪。火ダネはいつもそこにあるのだった。しかも、ドラマーのスポールはいつも借金取りにビクビク。ナイはアル中に苦しんだ過去から断酒中。身も心もポンコツな奴らなのだ。

 しかし、そんな時ある偶然が起こって、バンドをスタートさせようと決心する一同。まぁ今度はロックの神がついているのかもね。

 足りないギタリストは、若いハンス・マシスンをオーディションで起用して補強した。昔懐かしいローディーのビリー・コノリーも戻ってきた。オーブリーの娘レイチェル・スターリングも、イヤイヤながら手伝いに引っぱり出された。かつて別のバンドが使った中古のツアー・バスを安く手に入れ、さぁ欧州ツアーに出発だ!

 ところがお察しの通り、最初のギグはさんざん。特にヴォーカルのビル・ナイの衰えは目を覆わんばかりで、すでに生きながら屍のゾンビ状態。唯一の収穫はと言えば、若いハンス・マシスンがバンドの演奏をハッキリと批判し、その鼻っ柱の強さがかえってメンバーに認められたことぐらいか。ステージを重ねるごとに感じをつかみながらも、常にそこにはベースのネイルとヴォーカルのナイとの対立がくすぶり続けているのだった。気があるんだかないんだか、オーブリーとスティーブン・レイの関係も不完全燃焼。若いハンス・マシスンと、オーブリーの娘スターリングの仲が何となく怪しくなってきたのも不安材料だ。そんなある日、若いマシスンとスターリングの二人は、バンドのナンバーとして名曲といえる「ザ・フレーム・スティル・バーンズ」を静かに奏でるネイルの姿を目撃する。ロビンソンと二人で大切につくったこの曲を、ネイルはナイに歌わせることを許さなかった。この二人の仲違いが終わるのはいつのことか?

 終わりは突然にやってきた。欧州ツアーがそれなりに好評を得て、待望のCDレコーディングまで済ませたのに、一時的に好転していたネイルとナイの二人が決定的に決裂してしまったのだ。

 ああ、ようやく成功の兆しが見えてきたのに、またこんな下らないことですべてをパーにするのか? どうしてなんだ、ストレンジ・フルーツ!

 

スティル・クレイジー・フォー・ユー!

 先に書いたように、ロックバンドに限らず、人間同士が一緒にやっていくというのは、それがマジであればあるほど感情のぶつかり合いも濃厚になっていくものだと思うんだよね。

 かく言う僕も、ちょっと真面目に人と接してみようかと、生まれて始めて思い始めたんだよな、40にもなって恥ずかしい話だけど。そして、まぁどんどんつきあい深まってみれば、誰もが持っている感情的な弱みとか抱え込んでいる哀しみみたいなものに触れてしまうことだって出てくるわけだ。

 そこを痛いとこに触れないで済むって言うならそれもいい。でも、人がトコトンつきあうときには、それに触れずにはいられないって場面が必ず出てくるはずだ。

 だから、人づきあいって常に一種の賭けなんだって今ごろになってしみじみ思う。そして、そんなリスキーな賭けをしても、付き合ってみる価値のある人間、関わるべき関係ってやっぱりあるんだよな。そんな人と人を結び付けるファクター…男女だったら恋愛感情、友人同士だったら友情、そしてストレンジフルーツの場合、それはロック・ミュージックへの熱い思いのはずだった。

 おまえだけじゃないさ、複雑な気持ちなのは

 おまえだけじゃないさ、大海にポツンと浮かぶ船は

…てなわけでバンド再結成がさんざんな結果に終わったあと、オーブリーはローディーのコノリーから、あのロビンソンが実は生きていた事実を知る。カリスマ性抜群のロビンソンがいれば、あのフルーツも息を吹き返すかもしれない。しかし今すぐ彼を連れ出そうとしたオーブリーとレイは、コノリーから釘を刺された。ロビンソンは精神を病んでいたので、今も不安定な状態だと。

 庭師として静かに暮らすロビンソンに会いに来たオーブリーとレイ。レイはそこで、ロビンソンとオーブリーの愛の絆の強さを思い知らされ、身を引く決心をする。「クライング・ゲーム」の好漢スティーブン・レイが、またまた「いい奴」ぶりを見せて泣かせます。でも、こいつって基本的に女に「お友達でいましょうね」って言われるタイプなんだよな。でも、俺はもういいかげんそのパターンから脱却したいんだけど(笑)。

 というわけで、でっかい野外ロック・フェスでのステージに勝負をかけることになるストレンジ・フルーツ。ところが直前の記者会見での無遠慮な質問などで、ロビンソンは再び精神的にまいってステージには上がらないと言い出す。やがてフルーツの出番が始まるが、久々の大ステージにビビって声が出なくなるヴォーカルのナイ。せっかくの晴れのステージなのに? どうなる、ストレンジ・フルーツ?

 このエンディングはねぇ…ミエミエなんだけど、鳥肌が立つほど僕は好き。まさに、夢が真実に変わるような至福の瞬間だ。わかっていても、思わず泣けちゃうねぇ。

 おまえだけじゃないさ、複雑な気持ちなのは

 おまえだけじゃないさ、大海にポツンと浮かぶ船は

…そうだよな。複雑な気持ちなのはこいつらだけじゃない。俺も君も、人間なら誰でもそうさ。それでも人は、お互いに関わらずにはいられないんだ。

 

 

 

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