「Go! Go! L.A.」

  L.A. without a Map

 (2000/03/27)


ひと昔以上前のロサンゼルスに幻滅

 今から13年前(…になるのかなぁ)、私は初めてロサンゼルスの地を自分の足で踏んだ。最初の職を捨てたばかりで、先の見通しも立たないまま。大学を卒業して3年半、世間並みの就職をして普通の大人になるつもりでいたのだけれど、世の中そんなに甘くない。やはり営業マンだって誰でもなれるもんじゃない。普通、会社を辞めるときにはそこの悪口言いまくって辞めるとこだけど、今だから白状すると、私の場合は会社のほうが気の毒だった。こんな使えない営業マンに給料払ってたなんて。

 で、やっぱり自分が少しでも関心が持てる、物書きの仕事をめざすべきだと会社を辞めて、できた暇を利用して友人が仕事で赴任しているロサンゼルスを訪れようということになったわけだ。

 最初は年末年始を利用しての旅行だったので、他の友人も一緒。しかし正月休みも終わって友人が帰国し、頼みのロスの友人も仕事で忙しくなると、一日の長い時間を自分一人で過ごさなければならなくなった。これはつらい。

 正直言うと、私はこれまで海外旅行なんて一回もしたことなかった。初めての海外。別に英語が得意な訳じゃない。アメリカの習慣なんて全くわからない。今時の若い奴なんてガイジンなんてへっちゃらなんてツラしてるけど、私はまだ黒船以前の人間と変わりないからビクビクしていた(平気って言ってる奴もどこまで本当かわかったもんじゃないけどね)。

 だが、一番つらいのは、ロサンゼルスって徹底的に車がないとどうにもならない街だってことなんだ。歩いていると警官に職務質問される。身なりはいいのに、おかしいと言うわけだ。

 一度など、歩道を歩いていたら前方からアフリカン・アメリカンの大男が歩いてきたため、道を譲ろうとして横に移動したところ、日本とアメリカの右側・左側通行の習慣の違いでかえってハチ合わせするはめになった。これは緊張しましたよ。ところがビビったのは向こうのほうだった。やっこさん、こっちが東洋人と見て、ソニー・チバか何かと勘違いしたらしい。一目散に逃げていったのにはあっけにとられた。

 私は子供の頃からアメリカ映画を一杯見てきて、ハッキリ言ってロサンゼルス、アメリカ、ハリウッドにあこがれがあった。若い奴がいくら私をバカにしてもいい。本当にそうだったんだ。きっと明るい太陽に満ちあふれて、ゴージャスな感じがするんじゃないかと思ってた。だって、映画以外のロサンゼルス・イメージと言えば、ドゥービー・ブラザーズやイーグルスみたいなウエストコースト・ロック。かっこいい感じでしょう? あの頃は「ホテル・カリフォルニア」ですら、退廃のロサンゼルスを描いた歌と言われつつもかっこよく響いたんだな。もっとも帰国してから耳にしたその曲は、もう全く別の響きに変わっていたけどね。一例を挙げれば今でこそ笑っちゃうけど、ジョージ・ベンソンのアルバムの日本語タイトルに「メロウなロスの週末」(笑)なんてのがあったくらいだもんね。今こんなこと言ったらバカだと思われるけど、当時の日本人にはそれほど甘く美しいイメージあったわけ。

 でも現実のロサンゼルスは治安が悪くて汚くて貧乏くさかった。季節はずれの海の家みたいにさびれて惨めな感じ。目抜き通りをちょっとはずれると、もう危ない連中がラジカセ担いで歩いてる。何だか夢も希望もない街。私はたちまちロスに幻滅してしまった。数年後にニューヨークに行った時には、逆にすっかり魅了されて帰ってきたけどね。

 あの何とも言えないロサンゼルス体験の思い出が、まざまざと蘇ってきたリアルな映画…「GO!GO!L.A.」はそんな映画なんだな。

 

異邦人の目から見たロスがリアル

 お話は太陽サンサンとはほど遠い、イギリスの暗く肌寒そうな田舎町から始まる。ここで葬儀屋を営む主人公のデイビッド・テナントは、まあ人生設計もそれなりで、マジメそうな婚約者もいる。でも、心密かに物書きになりたい夢は抱いていたんだな。…あぁ、またしても物書き志望の男。

 ある日、たまたまアメリカから遊びに来た女優の卵ヴァネッサ・ショウと出会い意気投合したことから、無謀にもすべてを捨ててアメリカはロサンゼルスに彼女を追っていくことになるのだ。

 彼女が働く日本料理レストランにやってきて、いきなりハシャぐテナントの鈍くささ(笑)。この街では彼は思いっきりヤボくさい。だが、気持ちはドンドン先に行ってるから、やることなすこと滑っているのに全然気にしない。なぜか汚ねえアパートを借りて、奇妙なミュージシャンの男ヴィンセント・ギャロと知り合い、何かと面倒見てもらえる関係になった。ヴァネッサ・ショウのレストランでの同僚ウエイトレス、ジュリー・デルピーも、ギャロと仲良くなっていい感じ。そのうちショウもテナントの純朴で一途な求愛に悪い気がしなくなる。ラスベガスにみんなでドライブに行ったとき、衝動的に結婚する二人。信じられないほどうまく夢が叶った。ただ一つノドに刺さったトゲは、仕事をエサにショウに付きまとうヘボ映画監督のゲス男だが…。

 この映画、日本じゃ「バッファロー'66」で人気沸騰のヴィンセント・ギャロを前面に立てて宣伝しているが、彼も、そしてやはりキャストの中では比較的知名度が高いジュリー・デルピーも実は脇役なんだと話に聞いていた。しかも、見た人たちが一様に何を期待してこの映画を見たかは知らないが、かなり失望したとも聞かされていたので心の準備が出来ていた。だから…というわけではないが、意外と私は面白く見たんだよね。第一、私はギャロがあんまり好きじゃない。だから、このくらいの軽い役で嬉々として演じてる彼のほうが好ましく思える。デルピーは、というとインタビューなんか読むと自分がハリウッド女優にでもなったかのように錯覚してるみたいで、それがこの役にピッタリなパーぶり(笑)。

 それより何より、この映画は私のような異邦人が訪れたロスというものを、凄くリアルに再現しているんですよ。あこがれと失望と、華麗さと汚辱と。ホントこんな感じなんですよ。それは、撮っている人間がやはり外国人であることと無関係じゃないだろうね。

 監督はミカ・カウリスマキ。フィンランドのアキ・カウリスマキのお兄さん。名前はよく聞くよ。だけど、結局アキの兄貴ってことで有名なんだよね。だって、こいつの映画見たことある? 一方、アキの映画ってみんなよく知られているよねぇ。何だかこの関係って、スキャンダル起きる前の若貴兄弟みたい。あくまでお兄ちゃん(笑)。

 それは映画見てみればわかる。初めて見たこの作品だけで評価するのは難しいけど、面白くつくってはいても、強烈な個性には欠ける。一方、弟のアキの作品はワン・カット見ればこいつのとわかるくらい個性的。この作家性の強弱が、アピールの強弱につながっているんだな。

 しかも皮肉っぽくロサンゼルスを描いてはいても、そこにはそこはかとなくハリウッドに対する愛情が隠しきれないほどにじみ出してる。さりげなく…というにはあまりにベタで、ジョニー・デップなんかうれしそうに出してるあたりの愛すべき人の良さなんか、まさに「お兄ちゃん」。しまいにゃあ、弟アキの作品で有名なレニングラード・カウボーイズまで出してくるに及んでは、あんた少しはプライドってもんがないのか?…って言いたくもなるが、そこはそれ、弟のためならいつもニコニコのお兄ちゃんならではなんだよなぁ。

 

南半球の国くんだりまで出かけて針のムシロ状態

 実はね、ここでイギリスから女のケツ追っかけてったテナントくんを小馬鹿にした言い方してたけど、俺も人のこと言えない過去があるのよ。俺も女を追って太平洋横断したことあるの。どうかしてたんだよな。

 ちょっと仲良くなった女が、急に日本でOL辞めて南半球のある国…って、ハッキリ言ってニュージーランドだけど、そこに留学するとか言い出した。そしてあっち行ってから、寂しいのか他に友達いないのか、毎月のようにバンバン手紙が届く。そして矢のような催促。来て、来て、あたしに会いに来て! いやはや、本気にしたのが運の尽き。俺がバカだった。

 空港に着いたときから向こうの人格は変わっていた。何をグズグズしてんのよ的な口調で、終始一貫ゴミ扱い。ロマンティックのかけらもない。針のムシロなんて生やさしい表現だね。でも、こっちは全然勝手が違う国で、何をどうしていいかもわからない状態だから、相手にタマキン握られたも同然。それから一週間精神的SMショーが続いたわけ。この話、もうどこかで書いたっけ? ごめんな、もうボケ入っているからさ。でも帰国してからはしばらくベトナム後遺症みたいな状態になってた。

 それから見ればこのテナントくんなんて、最初こそピンチの連続だけど結局彼女の心を少しづつ溶かしていったんだから、俺とは大違い。とはいえ実は私、女に会いに海を越えたのはそれが最後ではなかった。今度は何せ太平洋飛び越えやしなかったし、前みたいに何から何まで勝手が違う訳じゃない。最悪、俺はニュージーランドの地獄経験してるんだから、大したことないとタカをくくった。それに、そうならない確信もあったしね。

 これはうまくいった。無事着陸(笑)。そう決定的なトコまでもっていった訳ではないが、悪い雰囲気じゃなかった。最初はまずこんなものでしょう。これを少しづつ育んでいってだな…。

 でもねぇ、事はそう簡単に運びやしない。相手には相手の、こっちにはあずかり知らぬ事情ってもんだってあるんだ。テナントくんと見事カップリングしたはずの、ショウ嬢だって時間が経つにつれ事情が変わってきた。

 やっぱり目の上のタンコブ、ゲスな映画監督野郎が立ちはだかった。そして何だかんだ言っても、やっぱりショウ嬢は自分のキャリア伸ばしていきたいんだよねぇ。テナントくんも荒れる暴れる。良かれと思ってとった行動がさらに裏目裏目に出まくる。やればやるほど彼女に嫌われる。あ〜もうダメだ〜。

 やっぱり人間どうし、さらに親しくなる過程には、こうした拒絶反応って避けられないんじゃないか。ここで、あぁ俺たちやっぱりダメなんだと思う奴らもいるだろうし。何とかやっていけるかもって思うのだっているだろうしな。ここが踏ん張りどこなんだよ、お互いに。逆に下手すりゃ、それまでコツコツ二人で積み上げていったものがパーってことだってあるだろうけど。でも、それなしに先に行くことなんてできやしないんだよ。

 映画じゃね、夢破れて母国に帰ったテナントだけど、そんな彼に夢のような結末が待っている。そりゃーいくら何でも出来過ぎだろうと人は言うかもしれない。この映画に失望したって人が言ってたのは、たぶんここのことだな。でも、俺はそこが気に入ったよ。だって、現実は厳しいかもしれないけど、思いが叶うこともある。あとは、相手も自分もどこまで信じ切れるかにかかってるんじゃないかな。

 このあたり、弟のアキならもっと辛口で批評家うならせるエンディング用意するだろうけど、映画は批評家のためにつくるんじゃない。お兄ちゃんはこれでいい。こんな人の良さがお兄ちゃんの持ち味。みんなに愛されたゆえんじゃないか。お兄ちゃんは記録は残さないけど、きっと記憶に残る横綱としてみんなの心に残ることだろう。

 お疲れさん若乃花。いろいろと大変だったろうけど、もうゆっくり休んでください。

 

 

 

 

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