「13ウォーリアーズ」

  The 13th Warrior

 (2000/03/06)


死してなお黒澤伝説健在

 何だかちまたでは「雨あがる」がかなり好評のようで、死してなお黒澤伝説ますます健在みたいですね。考えてみると、ここ10年ぐらい我々は「黒澤の〜」と冠された映画の新作をずっと見続けてきたみたい。ウォルター・ヒル監督、ブルース・ウィリス主演の「ラストマン・スタンディング」は、ご存じ「用心棒」のリメイク。前に当サイトの黒澤特集でも触れていたように、メル・ギブソン主演の「身代金」は、おそらく「天国と地獄」を土台にした創作。大ヒット作「踊る大捜査線 THE MOVIE」だって、この「天国と地獄」をいただいているくらいですからね。そう言えば昨年随一の話題作だった「スター・ウォーズ/エピソード1」だって、元はと言えば「隠し砦の三悪人」ではないですか。現代映画のいたるところに、黒澤の痕跡が残されている訳ですね。

 そんな黒澤の代表作と言えば、これはもう「七人の侍」と言って間違いありません。とうの昔にハリウッドでは西部劇「荒野の七人」としてリメイク。その後もロジャー・コーマンとこのB級SF「宇宙の七人」として生まれ変わったのはみなさんもご存じのはず。

 そして、ここへ来てまたまた「七人の侍」を土台にして思いもかけない作品が登場してきました。何とCGアニメを駆使したディズニーの「バグズ・ライフ」。これには亡くなった黒澤氏自身、あの世でビックリしているのではないかな。

 さらに…と言うわけで今回ご紹介するのが、この「13ウォーリアーズ」。大昔の北ヨーロッパを舞台に、勇壮にして豪快な物語が展開するわけです。

 

クライトン原作は大味の代名詞

 外交官としてバグダッドの都から北方の国に派遣されることになった男。これをスペインから濃いセクシーな魅力でハリウッド入りしたアントニオ・バンデラスが演じてる。バンデラスのアラブ男もなかなかいいよ。お供についた男になつかしやオマー・シャリフ。考えてみれば、シャリフがハリウッドの映画で自分本来の人種であるアラブ人を演じるのって、本当はこれが初めてなんじゃないの? 「ドクトル・ジバゴ」の頃は飛ぶ鳥落とす勢いだったけれどねぇ。ハリウッドで成功した非アメリカ人の典型だったシャリフ。でも何だか末路は悲惨だったなぁ。この人破産宣告したんだっけ、仕事なくって。そうそう、最近じゃあ食いつめたか「天国の大罪」って吉永小百合主演の日本映画にも出てたな。それが何とチャイニーズ・マフィア役なんだよ。何でシャリフでチャイニーズ・マフィア? 誰か説明してくれないかな。…それにしてもバンデラスも気をつけろよ。基本的にハリウッドは外国人には冷たいぜ。そこがヘンだよアメリカ人。

 バンデラスご一行が北の国を旅しているうちに北の蛮族の集団と合流するが、このあたりとっても不思議な雰囲気がある。なぜって、ここではアラブ人は文明人でヨーロッパ人は野蛮人もいいとこ。わかりやすく例えると、ここでのバンデラスは「ブラックレイン」のマイケル・ダグラスなんかと同じ位置にいるわけですよ。…ってことは、日本人を野蛮人と見なしてるんだハリウッドは。ふざけんなこの野郎アメリカン・ヒストリーX。

 でも、こうした価値観の違いがとっても新鮮。まだ未開だったヨーロッパをよそ者の目で見るなんて、斬新な発想。さすが、原作はマイケル・クライトン…って、な〜んだクライトンかよ。

 いつからクライトン作品って、大味な粗悪品の小説のイメージできちゃったんだろうな。「ジュラシック・パーク」はさておき、セクハラをネタにした「ディスクロージャー」とか、ジャパン・バッシングをテーマにした「ライジング・サン」とか、あんまりあざとすぎてコテコテなんで、みんな辟易しちゃったんだろうな。

 だけど昔はクライトンって言えば、なかなかいい発想してるSF作家の新鋭として、大売り出し中だったんだ。「アンドロメダ病原体」なんかよかったよね。そして、途中で何と映画監督業にも乗りだし、発表したのがユル・ブリンナー主演の「ウエストワールド」。ここでのブリンナーはガンマンの扮装をしたロボット役だが、これは「荒野の七人」の彼のイメージのパクリだな。おっ、話が前とつながったね(笑)。考えてみると、ロボットで昔を再現したテーマパークが、事故で暴走してしまうってテーマは「ジュラシック・パーク」そのまんまじゃない。監督としてはその後も医療サスペンス「コーマ」や近未来ポリス・アクション「未来警察」など佳作を次々発表して、なかなか評判もよかったんだよ。それがどうしてああなっちゃったんだろう?

 特に「ライジング・サン」はひどかった。日本と名のつくものなら何でも出てきて、カラオケから女体盛りまで(笑)。俺も日本人長くやってるけど、女体盛りなんて食ったことないよ。でも、あれ刺身とか体温で暖まっちゃってうまくないだろうね。日本通のベテラン刑事ショーン・コネリーが若い刑事のウェズリー・スナイプスに日本流の上下関係を教えてやるのはいいが、自分を「先輩」と呼ばせるのはいいとして、スナイプスを「後輩」と呼ぶのはいかがなもんだろ(笑)? 日本でそんな呼び方してる奴いないって。コネリーの日本通ってのもどこで覚えたかって言うと、たぶん「007は二度死ぬ」でのことじゃないか? あの映画じゃ、日本のスパイ軍団が全部忍者だもんな。リーダーの丹波哲朗は秘密基地の中で紋付き袴だもん。お正月のかくし芸大会じゃないって(笑)。…それにしても、「存在の耐えられない軽さ」であれだけ「プラハの春」当時のチェコをリアルに再現したフィリップ・カウフマンでさえ、日本となるとあのていたらくなのか。音楽に武満徹が参加してるのも驚きだよね。

 お話が横道にそれちゃった。とにかくクライトンが大衆作家として名を挙げ、小説が次々映画化されるに従って、彼と彼の作品のイメージはどんどん俗っぽくなっていったみたい。映画だって、GPS衛星を使った通信システムだけが新味で、あとはアフリカにでかいエテ公がうじゃうじゃ出てくるだけの「コンゴ」とか、ロクな作品がありゅあしない。今回の「13ウォリアーズ」だって、彼の「北人伝説」の映画化と聞いたってイヤ〜な予感しかしなかった。またエテ公が出てくるだけの映画だったらどうしよ?

 

マクティアナン起死回生の一作

 さて、前置きが長くなりすぎたが、バンデラスご一行が北方の蛮族のおもてなしを受けている最中に、突然の使者がくる。侵略者の襲撃を受けて村が壊滅の危機にあるので助けてくれというもので、早速助けにゆく戦士が選抜されることになる。その数全部で13人。ヤマンバみたいなババアのお告げでメンバーを決めるのだが、その13人目になぜかよそ者バンデラスが選ばれてしまい、高みの見物を決めてかかっていたバンデラスはビビる。言葉もできないのに…とボヤいても後の祭り。さらに北の荒野に向けて出発するはめになる。このときの、がんばれよ〜ってまるで人ごとの表情のオマー・シャリフの冷たさが印象的。それが祟ったのか、せっかくの久々の仕事なのにシャリフの出番はこれでオシマイ。

 で、苦難の旅のうちに天才的な語学力でヨーロッパの言葉を覚え、最初は馬鹿にされながらも徐々に実力を見せ始めるバンデラス…という男性映画お約束のシーンが続き、ようやく目的地の村へと到着する。…実はここまで、私が寄り道ばかりして書いたから長く感じるんですが、アッという間。だからお話としては、侍を選抜するくだりをはしょったような印象の「七人の侍」といった感じです。

 村に着いてからは早速謎の侵略者の襲撃を受けて2人の戦士が死ぬ。伝説では霧とともに活動するこの侵略者たちを「人間ではない者」としているが、バンデラスはいち早く彼らを獣の皮をかぶった野蛮人たちと見破る。村民の協力を得て村を要塞化するが、何度かの襲撃に耐えた後、このままではラチがあかないと敵の本拠への潜入攻撃を敢行する。

 お話全体はもちろん、村を要塞化していくくだりも「七人の侍」を彷彿する展開。そういえば黒澤フリークだったジョン・ミリアスは、「コナン・ザ・グレート」でも敵の攻撃に備えて「七人の侍」ふうに防御のための仕掛けをつくってましたっけ。ミリアスって黒澤大好きだったんだけど、何しろガチガチの右翼だったから黒澤には嫌われてショゲてたみたい。「風とライオン」とか撮ってるうちはよかったけど、何かアメリカがソ連に攻撃される映画撮ってたじゃない。そう、「若き勇者たち」だ。やたら勇ましいの好きで、日本に来たら「軍艦マーチ」が好きと公言する右翼ガイジン(笑)。でもホントは喘息持ちのひ弱な男だったらしい。こういうやつに限ってマッチョぶるんだよな。

 「13ウォーリアーズ」の黒澤テイストは「七人の侍」だけに限らない。戦闘シーンなど「七人」のほかに、おそらく霧からの連想で「蜘蛛巣城」、さらに明らかに「影武者」や「乱」からいただいたとおぼしきシーンが連発。こうした後期黒澤作品からのムードを引きずっているから、どことなく重厚で深刻、悲壮なムードが濃厚にただよう。そういえばジョン・ブアマンのアーサー王伝説の映画「エクスカリバー」にも「影武者」の影響がかなり見受けられたな。西欧映画への黒澤作品の影響の大きさは、いずれ改めて語られるべきだと思いますね。

 それにしても今回の作品を見る前の不安としては、マイケル・クライトン原作であるという点に加え、ジョン・マクティアナンが監督するという点が大きかった。何だかんだ言っても「ラストアクションヒーロー」がコケてから何となく元気ないしね。そもそもアクション派の巨匠扱いされながら、実際の文句なしのクリーン・ヒットって、実は「ダイ・ハード」があるだけじゃないの? しかも、今回の題材は今までの彼の映画とはいささか様変わりしたもの。ちょっと不安にもなった。うっ、そう言えば前作って「トーマス・クラウン・アフェア」じゃないの。あのレネ・ルッソが思い切りババアに見えた…。

 ところが今回、彼は前述したような知られざる黒澤フリークぶりも発揮しながら、堂々たる古代英雄壇を創り上げたんだから大したもの。これ彼の新たな代表作の一本に入れてもいいんじゃないか?

 普通は何をやってもアメリカ人の軽さがよくも悪くも出てしまうのが、ハリウッドのアクション作家の弱みだったけれど、マクティアナンは黒澤作品の持つ風格と重厚さを武器として取り込んだのが、見事な作戦勝ちだったわけですよね。そしてこれを西欧人ではない、よそ者の目からみた野蛮国ヨーロッパという視点で見たのが、才人マイケル・クライトンの着眼点の見事さだったでしょう。

 きわめてユニークでおもしろい題材、カナダのブリティッシュ・コロンビア州にセットを建造して制作した巨大なスケール、そしてゴツゴツした荒野の感触やヨーロッパの寒さまで感じられるような見事なカメラ…どこをとっても一級品のこの作品が、ほとんど映画ファンや映画マスコミには無視の状態で劇場から消えようとしているのは何とも解せない。少なくとも黒澤映画が好きな方なら、一見の価値はある映画と断言したいですね。

 

 

 

 

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