「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」

  For Love of the Game

 (2000/02/21)


「オレ様」コスナーはみんなの嫌われ者

 先日、オスカーの向こうを張ったご存じラズベリー賞のノミネーションが発表になりましたね。例のワースト映画&映画人を表彰する面白イベント。そこで何と「今世紀最悪の俳優」として候補に挙がっていたのが、ここで今から話題にしようとしているケビン・コスナー。ここから先はファンの方には大変申し訳ないが、コスナーについてほとんど良いこと書いてないと思うから、心して読んでくださいよ(あるいは読まないほうがいいかも)。

 ケビン・コスナー、いつからこんなに嫌われちゃったんだろ?「アンタッチャブル」で颯爽と出てきた時にはゲーリー・クーパーの再来なんて言われて、どことなく誠実そうな容貌と相まって好感度かなり高かったはず。クーパーの再来と言われたのは理由のない話じゃなくて、ルー・ゲーリックに扮した「打撃王」という野球映画をその代表作の一本に持つクーパーに対して、コスナーも「さよならゲーム」、「フィールド・オブ・ドリームス」と野球ネタを代表作に持つだけに、何か共通性を見いだす人も多かったんだろうね。

 そんなコスナーの評価は「ダンス・ウィズ・ウルブス」の監督・主演で頂点に達するが、後から考えてみればこれがマズかったのかも。なまじっか監督でオスカーなんかマグレで取っちゃったもんだから、人の監督作品に出たときもやたら手を入れたりいじりたがる。自分の方がうまくできると思ってるんだね。好編「ファンダンゴ」以来の盟友だったケビン・レイノルズ監督とも「ウォーターワールド」で仲違い。それでも出来た映画がよければいいが…。

 あと、自分をうっとりと映したがるせいか、それとも「ダンス・ウィズ・ウルブス」みたいな長い映画がウケたからワンパターンで考えているのか、出る映画出る映画上映時間が長い。「ワイアット・アープ」、「ポストマン」、「メッセージ・イン・ア・ボトル」…特に、「メッセージ〜」に関しては、コスナーのシーンをカットしてポール・ニューマンを主役にすれば傑作になったんじゃないかとの評価が高い(笑)。一体どういう主演スターなんだ、こいつ?

 でも、世の中せちがらくなってきたからね。清原だって、結果出さなきゃ来期はどうだか。もうベンツで乗り付けて吉原のソープ行ってる場合じゃありません。コスナーもケツに火がついたんだか何だか、ちょっと今度の新作はいつもと様子が違います。

 「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」、コスナーと来れば野球…の、今までも彼が好打率を残している野球映画の世界に帰ってきました。ここで一発、と胸に期するものあるのか。

 しかも、またバカみたいに自分で演出しようとせず、しかも自分の力でどうとでもなるお仲間監督でもなく、異色のクセのある異才監督を起用しました。

 サム・ライミ!

 サム・ライミも初期の低予算ホラー作家の頃とはだいぶ様相が変わって、「シンプル・プラン」みたいな映画も撮るようになったきました。しかしコスナー主演作とは。これじゃあコスナーも「オレ様」とふんぞり返ってる訳にはいかんでしょう。

 さぁ! プレイボールはもうすぐです。

 

ハリウッドの清原和博=ケビン・コスナー

 まず、今回の映画始まるやいなや、子供の頃から野球一筋でプロに入り、そこでもめざましい活躍を見せてきた、デトロイト・タイガースのロートル投手、コスナーの人と歴史がパッパカと手際よく紹介される。でも40歳を迎えた今年はあんまり成績良くはなさそうだ。来年はがんばらなくっちゃなと今季一試合を残して勝手に心に誓うコスナー。チーム随一のスター選手だからな、オレ様は。

 今季最終試合は、迎え撃つ側のニューヨーク・ヤンキースにとっては、これでペナント・レース優勝できるかどうかが懸かった試合だが、ビジターのタイガースにとっては単なる消化試合。でも、オレ様は手を抜かないんだぜとキメる。

 何しろ今季最終試合がニューヨークというのがいいぜ。ここにはオレが呼べば飛んでくる、オレにゾッコンのいい女がいるんだ。昔から女に事欠かなかったオレ様だが、彼女だかはオレもちとマジでつきあってる訳よ。今日だってこうしてる間もホテルのオレ様の部屋に電話が…かかってこない。あり〜? どうしたんだ、食当たりでも起こしたか? おや、その代わりオーナーのお出ましかよ。オーナーが直々でゴキゲン伺いに来るんだからな、これが実力っちゅうもんよ。清原なんかナベツネが直々で声かけるっちゅうことがあったとしたら、そりゃクビだって言いに来るぐらいのもんだわな。何? わしもクビ? なんや、どないしたっちゅうねん。ホンマあわててもうて、思わず清原みたいに関西弁になってもうたわ。

 万事こんな調子。全く自分の置かれた状況が客観的にわかっていない。オーナーはタイガースを身売りする決心をして、その上でトレードに出されるであろうコスナーに、現役続行か引退かの決断を迫りに来たのだった。

 ケッ、おもろないわ吉原行こ。…と言ったかどうかは定かでないが、コスナーたまらずホテルのロビーに出てみたら、そこにはオレ様の女…ケリー・プレストンがさっきまでいたと言う。おいこら、待てっちゅうに。どいつもこいつも、わしのことコケにしくさってからに。

 ところがセントラルパークのど真ん中で、もうあんたとはついていけないとキッパリ言われてしまうコスナー。彼女は仕事でロンドンに転勤になるんだとか。そない言うたかて、わしにどないせいっちゅうんねん? 彼女、今日の最終試合も見ずに飛行機に乗るという。踏んだり蹴ったりやがな〜。

 かくしてニューヨーク・ヤンキース球場での今季最終戦。先発に登板したコスナーは、文字通り八方ふさがりな状況だった。こうなりゃヤケクソや。巨人の番長は清原かもしれんが、ここデトロイト・タイガースの番長と言えばこのわし、ケビン・コスナーや。キッチリけじめつけさせてもらうでぇ!

 

試合とともに進行する恋の記憶 

 昔、大ヒットした野球マンガ「巨人の星」のことを覚えている人は多いだろうね。アニメにもなってこれも大ヒット。あの軍歌みたいな主題歌が私は大嫌いだったけれど、それでもアニメは何度か目にした記憶がある。そのアニメで何と言っても凄いのは、ピッチャー星飛雄馬が試合で投げる間の、心の葛藤をこれでもかこれでもかと延々描き込んでいたこと。1エピソード30分のアニメシリーズなのに、何とその間1球しか投げないこともあった。

 さすがに、「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」ではそこまでスローな展開ではないが、1イニングごとにコスナーの回想が入ってきて、くだんの恋人ケリー・プレストンとのなれそめからのお話がつづられる。一方、天候のため空港に足止めされたプレストンは、テレビで見たくもなかったはずのコスナーの最終試合を見るはめになる…という構成だ。

 そもそもの始まりは5年前のニューヨーク。車がエンコして蹴り入れてる彼女を見かけ、声をかけたのが最初だ。直せるのかと彼女に聞かれてイエスと言ったコスナーだが、実は車の直し方なんざ知らない。あっちこっちいじってたらラッキーにも偶然直ったというのが正直なところ。なに〜?情けないやて。何言うとるんやこのボケ。わしは野球がすべてなんや。天は二物を与えずや、ようおぼえとけこのドアホ。

 聞けば夏休みをとったばかりと言う彼女。コスナーは、早速オレ様の世界、自分の出場する試合にご招待した。どや、わしの勇姿バッチリ目ん玉に焼き付いたやろ。その後、食事に行き、そしてホテルのコスナーの部屋へ…。翌朝、今度ニューヨークにコスナーが来たときに、また…と約束を交わした。

 ところがコスナーが再会を楽しみにまたニューヨークに来てみると、彼女会いにきたことはきたが、やたら遅刻してノリも悪い。なんや、何が気にいらんのや?

 彼女は単なるスター・プレイヤーのグルーピーになってしまうのを嫌ったのだ。そんな女じゃない…と、んな、わかってるがな。せや、今日はナニは抜きにしよ。歩きながら話そやないか。彼の中でも彼女が徐々に特別な存在になり始めていた。お互いの生活を束縛せず、いい関係を築こうと約束する二人。

 そんな彼女とのドラマと平行して、試合のほうもドンドン進行していく。しかも、それがどうも単なる勝ち試合じゃない。ノーヒット・ノーランどころか完全試合も夢じゃない状況になってきたから大変だ。40歳のロートル選手が自分の人生すべてを賭けた大試合に、場内は異様な興奮に包まれ始めたのである。

 その後のコスナーとプレストンはと言えば、束縛しない関係なんてカッコイイこと言っても破りたくなるのが人情というもの。だって、そもそも人と人との関係に束縛がないわけがない。そんなこんなで、仕事放り出してわしんとこ来いのコスナー。一旦は断ったものの、やっぱり彼のところに遊びに来たプレストンは、そこで家に女がいるのを目撃して…。こら、あかん。もうあいつとの仲もオシマイになってしまうんかの〜。

 

コスナーVSライミの好ゲーム

 ここまで見てくると、今回の作品、近年の清原…いや、ケビン・コスナーの作品としては、ピカイチの出来であるとわかってくる。やっぱりコスナーは野球が似合う? うん。確かにそれは言える。投手姿がピッタリとハマってる。様になってるもんね。

 だけど一番よかったのは、野球バカでオレ様の主人公を、いまやハリウッドの裸の王様になろうとしているコスナーに重ね合わせていること。しかも、そんなてめえ勝手な主人公を、映画が始まったとたんにオーナーには引退迫られるわ女には逃げられるわというトホホ状態にしたのがよかった。コスナーがふんぞり返ればふんぞり返るほど、何となく哀しいもんねぇ。これは作戦勝ちだ。

 もちろんサム・ライミの功績も大きい。コスナーをこんな視点で今使うなんざ、いい度胸してる。そして、大騒ぎのお客の歓声の中で冷静な投球を続けるために、コスナーが「ノイズ消去」と言うと、サーッと音声が消えていくなんてアイディアもうれしい。これは脚本家の発想だろうが、ライミのどこかユーモラスでユニークな演出スタイルが、見事に生かされている。そう、試合の場面でのスタイリッシュな映像づくりは、低予算ホラー時代から続いてきたライミならではのユニークな映像感覚がうかがえる。そういや、ライミが脱ホラーをめざした最初の作品、シャロン・ストーンが女ガンマンを演じた西部劇「クイック&デッド」でも、撃たれた男のカラダに風穴があいて光がもれるという、何ともケッタイなシーンがあったっけ。ああいうユニークな映像感覚を、もっと地に足をつけたかたちで生かしたのが、今回の試合シーンと言えるかも。

 そんな試合の合間のコスナーの脳裏には、またまた彼女との思い出がよみがえる。これで終わりかと思っていた関係が、彼女の娘の家出からまた復活するのだ。娘?…聞いとらんで、そんなもん。

 彼女はまだ十代の時、妊娠して男に捨てられ、未婚の母として世の中の辛酸なめてきたのだった。イマイチ、コスナーに心開かなかったのも、恋に対して警戒心あったのも、そのせいだったのだ。

 しかし、いい感じの関係もいつまでも続かない。手の故障から復帰が危ぶまれるようになり、彼女に当たり散らすコスナー。野球一筋と言えば聞こえはいいが、早い話が野球しか知らない野球しかできないコスナーには、このダメージかなり大きかった。一緒にがんばろうやて? 笑わせるな、女はすっこんでろ。野球は男がするもんや!

 彼女はコスナーの家を出た。

 

自分にとって一体何が大切か

 40歳というのはね、結構重いものがありますよ。今まで好き勝手にやってきて、だけどそろそろ結果も出せねばならなくて。

 まして野球選手だと、もう現役も終わりの雰囲気濃厚だしね。

 私も、実はこの春に現在世話になってる会社を去って、別の職場に行くんです。考えてみると、ここ何年かすっかり腐っちゃて、やる気も何も失せちゃったよなぁ

 でも、劇中のコスナーが料理も車の修理もできない野球だけの男として描かれているように、実はこの私も文章を書いたり何かを創ったりすることだけ、あと映画に関すること以外、何の取り柄もない男なのだ。それはもう、極端に偏ってると言っていい。情けないけど、他の分野では何にもできない俺なのだ

 その俺が自分の唯一できることとして、自分を生かせると信じて選んだこの仕事なのに、不幸なドタバタの数年間の果てに、いつの間にか熱意も何も消え失せて惰性で事を済ましてきた。ややフテくされ気味に…。

 で、さすがにこれではいけないと、ある事をきっかけに人生建て直しを図ることにした。それの手始めが今回の転職だ。うまくいくかどうかは、わからないけどね。今この私もビクビクもので、ホントのこと言えば「ノイズ消去」って言って、外野の声消したい気持ち。でも、立ち直ろうと考え始めるようになったそのことは素直に良かったと思うし、そう考えるきっかけとなった事には、とっても感謝している。

 だから、人生の岐路に立つコスナーの気持ちは、今の俺なら痛いほどわかるんだよね。大げさな話じゃなくて。

 そして、「これ」だけしかない、できない俺…で、ずっと通してきちゃったから、今思えばずいぶん申し訳ないことしちゃった相手もいる。そのときは、何で相手が去っていったのかわからず、ずいぶん恨んだものだ。でも今にして思えば、大概悪いのは俺だったんだよね。自分のことで頭がいっぱいで、人の気持ちが全くくみ取れなかった。相手の感情を察してやる、わかろうとする、そんな気持ちが決定的に欠落してたんだよな。まして、相手にも深い心の傷があったとしたら…。でも、少しは歳を重ねて知恵もついてきた今なら、きっと違うかたちで人と関われるんじゃないかと思う。

 40歳にしてわかる…いささか他の人よりは遅いけど、そんなことってあると最近つくづく思うんだよ。

 だから、この映画は俺にはとっても重いんだな。人ごととは思えない。

 

 完全試合はどうなったか、彼女は結局ロンドンに行ったのか、コスナーはどういう道を選択したか。

 「野球が好きだから」…最終的な決断をしたコスナー。

 人間、一体何が本当に大切なのか…それを思い定めなきゃいけないときって必ずある。俺には今がそれなのかもしれないね。

 

 

 

 

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