「スパイシー・ラブスープ」

 Spicy Love Soup

 (1999/11/28)


身の程知らずなほろ苦い思い出

 いつもいつも女にはつれなくされる私だけど、実はそんな私にも女に言い寄られるような経験の一度や二度ぐらいならある。長い間生きていれば、何かの間違いってこともあるよね。そのうちの一度ってのが大阪から来た女の子だった。

 彼女とどうして出会ったかという話をすると長ったらしくなるから止めて…とにかく彼女は友達のつきあいで東京へやってきた。私も先輩のつき合いで彼女たちの接待役を仰せつかったと言うわけ。行きましたよ、麻布だの横浜中華街だの、絶対私なら行かないようないかにもスポット。で、先輩は自分のお目当てだけ露骨にチヤホヤするから、彼女ちょっと気の毒な感じがした。だから、彼女の話相手が私

 それから1週間後、彼女から長文の手紙が来たんだよね。「とても楽しかった、ありがとう、また来たい」…エトセトラ、エトセトラ。

 ちょっとイヤな予感がした。でも、まさか。その後、これは決定的とも言える出来事が起きた。会社の仕事中、それも忙しい最中にいきなり電話。彼女からだ!

 「もしもし、私。○子です。」ブツッ!

 なんと、すぐに切れてしまった。何なんだこの電話は? すると、10分ほどしてまたかかってきた。今度はオフィスからだと。じゃあ、さっきのはどこからなんだ? 公衆電話ぁ? 大阪からぁ?

 絶対ヤバい。さすがに鈍感な私も、今度ばかりは確信した。

 ここで彼女の名誉のためにことわっておくと、彼女決して変な子でも見ちゃおれないような子でもなかったよ。でも、そういう相手と考えてなかったのね。それに、その頃の私にはゾッコンの女がいたんだと思う。ただ、ゾッコンだった割にはどんな女だか顔も思い出せないんだよなぁ。

 もう一つ理由をあえて言うなら、彼女は私のことをとても面白い関西ノリの男と思ってたフシがあったんだよね。これよく誤解されるんだけど、俺は決して面白い人間じゃないんだよ。だから相手が面白いつもりでつきあっても勝手に失望するんだよね。私は平凡で面白みのない男です。だから、誤解されてるみたいなのが、ちょっと気になった。

 それから間もなく手紙と電話攻勢で、彼女が再び東京に来ることと、また私と会いたいとのメッセージが届けられた。こりゃちゃんと態度を示したほうが彼女のためだよな…と決意。私はその日取りには予定が入っているし、彼女と会うつもりもないとハッキリ言った。でもねぇ後味悪かったんだよね。善良な女の子を絵に描いたような彼女だったから。さすがに手紙も電話もパッタリ止まった。東京にも来なかったんだと思う。考えてみれば、俺も女に惚れられ慣れてなかったから、あんなに無様にうろたえちゃったんだろうな。

 それから3年後、友人を訪ねてニューヨークに行ったとき、偶然、彼女がお見合い結婚したという噂を聞いた。どうも、例の一連の話の直後だったようだけど、私とのことがうまくいかないとわかってお見合いしたのか、それともお見合い話の前に何か出会いを持ちたかったのか。自惚れかもしれないけど、何となくほろ苦い思いがした、1989年秋のマンハッタン…。

 でも、考えてみれば私が女の子をソデにするなんて、思い上がっていると言われても仕方がない。神様もそう思ったのか、その後はてきめんに女運最悪。自慢じゃないけどトホホな経験ばかり。身の程知らずなことをして、やっぱ天罰だったのかなぁ。

 うまくいくもいかないも、何とも不思議なのが男女の仲。「スパイシー・ラブスープ」は、そんな男女の機微を激辛スープとさっぱりスープで調理した、映画グルメのあなたにおすすめの一品です。

 

ラブスープのお味は?

 この映画のタイトル、私は「スパイシー・ラブジュース」だと思って、人にも堂々とメールに書いて送ったりしてた。トホホ、バカみたい。どんな映画だと思ってたんだよ。まるで温泉地の秘宝館なみのセンス。

 でも、ラブスープ関係では私はずいぶんスパイシーな目にはあってると思うよ。というか苦々しいというか…。スパイシー・ラブスープって、鍋の真ん中に仕切りを付けて、激辛のタレとさっぱりのタレの二つの味をしゃぶしゃぶみたいにして楽しむ鍋料理のことらしい。転じて男と女のビミョーな間柄のことというわけ。映画の冒頭でも早速若いカップルがこいつを食ってる。結婚を前に、女の両親に会うことになった男。以後、結婚までの道のりを歩むこの男女が一種狂言回しとなり、5つの男と女のエピソードが動き出す。

 その1つめは<声>のエピソード。何といつもテレコを肌身離さず持ち歩き、片っ端から音を録音するサウンド・マニアの少年が登場! こんなおたっきーなキャラが中国映画に登場するようになったんだねぇ。と言っても日本のそれみたいにうす汚ねえ白ブタみたいな奴じゃない純情な子。そんな彼がいちばん美しい音の虜になった。それは同じクラスの女の子の声。彼はひそかに彼女の声を録音し、家で自分の声をダビングして、「僕のこと好き?」「好きよ」みたいなテープつくってる。恥っずかしいんだけど、そういや中学のころ美術の時間にクラスの連中の絵を描けと言われて、自分の位置からは見えないはずの好きな女の子の顔を描いたっけ。彼女のことは高校に行ってからも好きだったんだけど、大学に入ったとき友人から、オトコに次々やられて喜んでひーひー言ってたと噂に聞いた。俺もひーひー泣いたっけ。

 何の話してたんだ? そうそう。そんな彼は、いかにもクサい手なんだけど、ほとんどストーカーすれすれのテープを愛のメッセージにして彼女に渡す。さて、どうなる? まぁ腎臓売れだとか肝臓いくらだとか脅してる金貸しの声が入ったテープ聞くよりは全然いいよな。

 その2つめは<マージャン>。看護婦を勤め上げ定年を迎えた未亡人が、これからの人生の伴侶を求めてテレビで相手を募集する。ドッときた応募の中から何人か絞れたものの、1人にはできない。そこで彼女の娘が知恵を絞り、候補者3人を家に呼んだ。そして、おもむろにマージャンをさせる…。

 私はマージャンやらないからわからないんだけど、あれ人柄が出るらしいからねぇ。これ、いいアイディアかもしれないね。

 その3つめは<おもちゃ>。お互い心が離れかかってしまって、共通の興味も会話もなくなった夫婦のお話。妻が何の気なしに誕生日プレゼントにラジコンの自動車をねだったことから、二人は玩具の楽しさに目覚める。これで生活も一変。二人には共通の興味がよみがえったのだ。しかし、対戦型の玩具で遊んでいるうち口げんかとなり…。やはりおもちゃが潤滑油になっているカップルを私は知っていますよ。ただし、遊ぶのはもっぱら夜みたいですけど。

 4つめは<十三香>。これ薬味か何かのことらしい。お話は、離婚しようとしている両親を、何とかつなぎ止めようと奮闘する少年のお話。先に挙げた「十三香」とは、少年が易者のおばちゃんに相談して、仲直りの妙薬ともらってきた代物。こいつを料理にふりかけて両親に食べさせれば…。孤軍奮闘で何と中華のフルコースを作り上げる少年。さすが中国四千年のガキは違う。その成果あってか、ホームカラオケでは両親肩を並べて楽しそう。最初きごちないのに歌い出したらマジになって立ち上がっちゃう親父がうれしい。離れがたい、でもいられない。なぜなら、時すでに遅く、二人は離婚手続きを済ませた後だった…。中国の巨匠シエ・チン監督作「最後の貴族」「乳泉村の子」などでマジな演技を見せていたプー・ツンシンがパパ役、「青い凧」で文化大革命に翻弄されるヒロインを演じたシュイ・ファンがママ役…と、全編で唯一重厚なベテラン役者をメインで起用したこのエピソードが、他と比べて最もシリアス度が高い

 5つめは<写真>。カメラマンの青年が街角で偶然出会った娘に引かれ、何度かすれ違いのはてに、数奇な運命で結ばれる。私たちには不思議な縁がある、なーんて思った矢先に…。

 

日本人にはスパイシーな中国の現実

 どのエピソードも取り立ててどうのと言うことはないんだけど、コロンブスの卵なんだよね。ああ、こんなのある…って思わせる実感あり。

 それより、これ台詞の音を消して見せたら、果たしてみんな中国映画と思うだろうか? 今まで中国映画もここまで来たとか、中国映画も侮れないとか、いろいろ言われてきたけど、それって早い話が「中国映画にしては」って但し書き付きってことだったよね。でも、これは違うんだな。そのアカ抜けさかげん、モダンさかげん、フレッシュさかげん、ドライさかげんが新しくてカッコイイ。しかも、ファッショナブルとかスタイリッシュとかいった上滑りしたものでないかっこよさだから、恥ずかしくない。明らかにチャン・イーモウやチェン・カイコーなんかの映画とは別の世代が生まれつつあるんだよね。「始皇帝暗殺」のやたら馬鹿でかいスケールながら何となく寒々しい、読売ジャイアンツのストーブ・リーグの補強みたいな空しい結果を見た後だと、なおさらそう思う。

 それに、「スパイシー・ラブスープ」に出てくる中国のセンスと比べると、日本はかなり鈍くさいんじゃない? まぁカリスマ店員なんて平気で言ってる国だもんね。店員がカリスマ! どこの僻地だよ、ここは? そんなこと言ってるからH2ロケット失敗するんだよ。しかも中国の無人宇宙船は成功。やっぱりな。

 全編に流れるチャイニーズ・ポップスがまたモア・ベターな小森のおばちゃま(わかんないだろうな、このギャグ)。なにー? Jポップ? 何だそのJビーフだか何だか訳わかんないのは。

 これをつくったのは若干29歳の新鋭監督チャン・ヤン。仕掛け人として、やはり若いアメリカ人プロデューサー、ピーター・ロア。こんなイキのいい映画人が現れたんだ。

 映画としてもすごいけど、そこに描かれている中国の現実にも思わず目を見張ってしまう「スパイシー・ラブスープ」。いちばんスパイシーに感じなくちゃいけないのは、不況に不祥事続きでうなだれてる我々日本人かもしれないよ。

 

 

 

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