「あの娘と自転車に乗って」

 "Beshkempir (The Adopted Son)"

 (1999/10/10)


「娯楽映画」の真打ち登場!

 おバカな仲間たちの笑っちゃうおフザケがあり、ロマンティックな感情あり、映画ファン心理をくすぐる趣向あり、乱闘シーンあり、厳かな気分になる葬送シーンあり。おいおい、なんだなんだ? どこの映画だ、それ? ホントにそんな面白そうなのか?

 面白いんです。ホントです。どこの映画かって?

 キルギスタンの映画なんですよ。

 キルギスタンって知ってた? 私は知らなかった。そういえば、ゲリラによる日本人人質拉致事件が起きたのがここなんだよね。でも、この映画はそんなこととは何ら関係ない。いつの時代ともわからない(現代か?)、田舎の子どもたちの物語。誰にでも覚えがあるお話なんです。

 じゃあ地味でクラいんだろう? そんな映画、いかにも映画マニアやおたくの見る映画だろ?

 バカを言っちゃいけない。この映画は面白くて楽しい、「娯楽映画」なんですよ。「マトリックス」や「ノッティングヒルの恋人」が大好きな、あなたのための映画です。

 

いたずら三昧のキルギス・キッズ

 主人公ベシュケンピールはそろそろ思春期真っ盛りの少年。それでも毎日、近所の悪ガキ連中とドタバタしょーもないガキみたいなことして遊んでる。そのしょーもなさときたら、「ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」の主人公たち4人組といい勝負(笑)。って、あの「ロック・ストック…」の連中はもうオトナなんだから、しょーもないのは奴らか(笑)。

 そんないたずら三昧で怖い親父に怒られても懲りない元気ものベシュケンピールだが、隣のミヨちゃんならぬアイヌーラちゃんには弱い。つい目を伏せてしまう。でも、何だか近くにいたい。うーん。わかるわかるよ男なら。

 地面に砂ででっかい女体をつくって、みんなでふざけて変なこといたそうとするのも、近所のおばさんの巨乳をのぞきにいくのも、寝ているときについ変なとこに手がいくのも、そりゃー思春期のなせる業。わかりすぎるほどわかるその気持ち。

 みんなで映画見に行きたくとも、怖い親父にゃ言い出せない。そんなとき、そっと虎の子のお金を出すばーちゃん、いい味出してるぜ。仲間うちみんなで映画行くし、あのアイヌーラちゃんだって行くんだもんなぁ。その気持ち、ばーちゃんシッカと受け止めた。

 映画は何と野外上映。やってるのはこれまたビックリ、インドのマサラ・ムービー。こうなりゃシブヤ系もキルギス系も変わりござんせん。太めインド美人がヘソ出して踊りまくるスクリーンを一心に見るあの娘に、にじり寄っていくベシュケンピール。すると彼女もこっちを見てニッコリ。たまんないじゃありませんか。

 この映画技師やってる青年が、村じゃいちばんのモダンボーイなのでしょうか。自転車に乗って、いつも恋人を誘いに来る。その恋のメッセンジャー役はベシュケンピールだ。彼女を乗せて自転車で走り去っていく青年。最初は前に乗らずに荷台に座った彼女も、次には自転車をこぐ青年に抱きかかえられるように前に座るようになる。この変化に、男と女の感情の機微があるわけだなと、まだフザケざかり遊びざかりのベシュケンピールでも何となく察する。オレもああいうふうに、彼女を誘って自転車こぎたいもんだな。それが男のステータス・シンボルだぜ。

 このキルギスの「ロック・ストック…」キッズども、いつも泥だらけで遊んでいるのかと思えば、ナマイキに映画クイズなんてやることもある。我らがベシュケンピールは「スパルタカス」なんて映画のタイトル知ってる。こいつ映画ファンじゃねえか! キューブリック知ってるのか? そんなときベシュケンピールとアイヌーラはついうれしくて仲良くしすぎた。それを面白く思わない奴も当然いる。こいつ最初は敬遠のフォア・ボールを命じられた時のジャイアンツの上原みたいに地面けっ飛ばしたりしてフテっていたが、ついにキレてベシュケンピールに殴りかかる。おいおい、上原かと思ったらガルベスか? そのあげく捨てゼリフ「おまえなんか、もらいっ子のくせに」。そんなこと言ったら来年トレードだぞ! いや、クビか?

 

オトコになったベシュケンピール

 でも、これはベシュケンピールにとっては致命的デッドボール。養子なのは本当だった。がっくり落ち込む。このあたりから、彼何をやってもうまくいかなくなる。例のガルベス君は仲間と3人でベシュケンピールを待ち伏せ。しかし、ベシュケンピールもなかなかやる。3人相手に結構やり合うんだから、「マトリックス」のキアヌ・リーブスより強いんじゃないか? 少なくともローレンス・フィッシュバーンには勝てそうだ。

 キレたベシュケンピールは帰宅してきたガルベスをボコボコに。しかし、そこにガルベスのお袋が帰宅。結局ベシュケンピールは親の前で一方的に責められるハメになる。親父は訳わかんないくせに怒りやがるし。でも男は黙ってサッポロビール(古い)。

 いたたまれず家を飛び出したベシュケンピールが、一人歩く後ろ姿の哀愁には、失業者役を演じてるときのロバート・カーライルも敵わない

 そんなある日、いつもやさしくサポートしてくれたばーちゃんが死んだ。もう、思いっきり泣く。涙がボッタボタたれる。そこにキルギス版「ロック・ストック…」キッズの連中も、涙と鼻水ダラダラたらして来るじゃないか。ベシュケンピールは、みんなとがっちり抱き合う。あの恋敵ガルベス君とも抱き合う。いい奴らだねぇ。

 葬儀が行われ、ばーちゃんの遺志を受けて、我らがベシュケンピールが喪主みたいに一同の前に立って挨拶。ばーちゃんの遺言を述べる。

 「もし、ばーちゃんが金を借りてたら、僕が返します。ばーちゃんが金を貸してたら、チャラにします」

 なんて潔い言葉だろう。これをみんなの前で堂々と宣言したベシュケンピール。この瞬間、確実に奴はオトナになった。もとい、オトコになった!

 そして意を決したベシュケンピールは、可愛いあの娘のもとへ…。

 とにかく、ハラハラ、ドキドキ、ワハハ、シンミリ…面白い映画のすべての要素がここに結集してます。こういう映画をホメるときは、いつも素朴な国の素朴な話だからいいとか言いますが、この映画に対してそれは失礼。素朴な国の素朴な人たちのいるところにフィルム缶放り投げても、自動的にこんな映画ができるわけじゃない。これは緻密な計算と確かな技術の下でできあがっている作品です。全編ほとんどモノクロながら、ところどころワンポイント的にカラー・ショットを挿入するあたりの演出もにくい。監督・脚本のアクタン・アブディカリコフの力量をこそ褒めるべきでしょう。そしてベシュケンピールに扮したミルラン・アブディカリコフは、この監督の息子さんだとか。ナイスガイだよね。

 そして、アイヌーラを演じたアルビナ・イマシェーラは、今年の映画では「八月のクリスマス」のシム・ウナちゃんと、そのチャーミングな魅力、可愛さでは双璧なのではないか?

 とにかく見た後は、ホントに久しぶりに「面白い」映画を見た満足感があるよ。こんな映画、マニアに渡しちゃいけない。面白い映画が大好きなあなたがまず見なけりゃね!

 

 

 

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