「エリザベス」

 "Elizabeth"

 (1999/10/10)


「恋におちたシェイクスピア」との深い縁

 この映画のことは、こないだのアカデミー賞の時から話題になってたね。公開されてからもだいぶ経って、みんな評判すこぶるよろし。

 んなことはわかってるけど、でも何だか見る気がしない映画というものもある。

 「恋におちたシェイクスピア」とほぼ時代が前後する設定のお話で、なおかつ主要キャストがダブるという状態が、何かヤだったんだね。しかし、これ何とかならなかったんだろうか。しかも、エリザベス女王が両方出てくる…。

 「恋におちたシェイクスピア」ではエリザベス女王をジュディ・デンチがごつごつとした個性で見事に演じてた。それも、ラストの勘所。大岡裁きというか水戸黄門というか、粋な名演で場をさらった。今回はそのエリザベスの若き生涯かぁ。

 お話はいきなり核心に切り込んでスタート。旧教カトリックと新教プロテスタントにらみ合いのまま、風雲急を告げる16世紀のロンドンであります。

 

仁義なき戦い・ロンドン頂上作戦

 旧教派のメアリー女王の治世で、新教の連中は弾圧され放題。そんなメアリーも健康状態すこぶる悪しで子供なし。次の世継ぎとなるはずの義理の妹エリザベスは新教徒だから折り合い悪し。もしエリザベスが女王となったら大変と、みないろいろ企むこと。

 しかし、当のエリザベス(ケイト・ブランシェット)はそんなこと眼中になく、幼なじみで主馬頭(これって馬の世話したりする人じゃなくて、偉い人みたいよ。)のロバート(ジョゼフ・ファインズ)とイチャつくのに忙しい。

 ところで、このエリザベスって「1000日のアン」とか「わが命つきるとも」に出てくるアン・ブーリン(前者ではジュヌビエーブ・ビュジョルド、後者ではヴァネッサ・レッドグレーブが演じて、何とも美しい。)の娘さんなんだよね? 王様ヘンリー8世はお后と離婚してアンと結婚したいがために、新教を起こした。しかし、大モメにモメたあげくアンも捨てられて、彼女は断頭台の露と消えたという、考えてみればひでえお話。英国王室がムチャクチャなのは、何も今始まったことじゃないっす。で、エリザベスは私生児扱い。冷や飯食い。お話はここから続いているわけだ。

 エリザベスは捕らえられて謀反のデッチあげされるとこだが、ガンとして自分は無実であると言い張り、結局罪にできずに終わる。意志の人であることがわかりますな。

 そんなこんなしているうちに、メアリーは死ぬ。旧教派の連中が恐れていたことが起こる。エリザベスを女王として迎えねばならなくなるからだ。しかし、宮廷には海千山千、百戦錬磨の連中が手ぐすね引いて待っている。来るなら来てみい娘っこ、ナマイキぬかしおったらドツキ倒したるわワレー(と、なぜか急に東映実録映画ふう)。いや、今やバッキンガム宮殿の様相は東映の映画館どころの騒ぎではなかった。仁義なき戦い・ロンドン頂上作戦の火蓋は、まさに切って落とされようとしていたのだった!

 

権謀術数渦巻くバッキンガムに一人

 正直言って彼女、政治は未知数。だから宮廷での敵は反対派ばかりではなかった。味方ですら彼女は頼りないとピーチクパーチクうるさいこと。スコットランドが圧力をかけているので兵を出せと言われ、本人乗り気ではないが押し切られて出兵したら惨敗。どいつもこいつも足引っ張る奴ばかり

 これじゃあダメだ、有力者の血縁と結婚して世継ぎを早くつくれと周囲はうるさいが、本人が気乗りしないうえにロバートがスネる。スペインやフランスから縁談も来るが、何とかじらしのばしの毎日。

 そんなエリザベスに唯一加勢するのは、外国から呼び戻された助っ人の菅原文太ならぬウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)。これが様々なスパイ活動で彼女をバックアップ。時には手を汚すことも辞さないクール・ガイだ。

 人の言うこと聞いて懲りたエリザベスは、これからはオレ流でいくと落合を見習うことにしたが、落合だって日ハム時代は不振だった。旧・新教対立を解消するための国教統一の投票に先立つ演説の前には、オーディション前の新人女優みたいに大緊張して臨んだ。確かに最初はギクシャクしたが、徐々に笑いをとりウケ始めて、最後には投票で勝利を納めた。もちろんウォルシンガムが司教ら幹部を閉じこめて、口を出させなかったのは言うまでもない。

 しかし、これを聞いたバチカンは黙っちゃいなかった。エリザベスに対して刺客を送るのだが、ここでのバチカンは我々がいつも見るうやうやしくもありがたいバチカンではない。むしろ、「ゴッドファーザーPART3」に出てきたような、汚い手も平気で使う、コワモテのバチカンである。

 そんな内外の敵に加え、心の弱さから敵側に荷担するかたちになるロバートのていたらくに、エリザベスはもはや四面楚歌の状態。果たして彼女はこの危機をどう乗り越えるのか?

 

16世紀のマイケル・コルレオーネ

 ね? これ、もはや歴史劇でも、悲劇のヒロインものでもないでしょ? 「ゴッドファーザー」や「ミラーズ・クロッシング」などギャング映画、暗黒街映画、そして「仁義なき戦い」に代表される東映実録ヤクザ映画と何ら変わりがない。だから、サスペンスフルで面白いんですよね。血が騒ぐ。

 それはクライマックス、反対派の連中を有無を言わさず粛正していく場面、教会音楽のような厳かな合唱曲をBGMに、整然と次々殺しが実行されていく描写を見て確信となった。「ゴッドファーザー」シリーズの1作目、教会での洗礼式の描写と平行して殺戮が描かれていくあたり、また同シリーズ「PART3」でオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」が上演されながら、同時に虐殺が遂行されていくあたりと、あまりに似ているではないか。

 そう言えばこのエリザベスって「ゴッドファーザー」シリーズのマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)に似ているね。最初は犯罪とは無縁で理想家肌の男だったのに、ファミリーの危機に直面して一転非情の男と化す。厳しい現実の前に、心を鬼にする、身内でも手をかける。そして、どんどん孤独になっていく。

 作り手は「ゴッドファーザー」シリーズを念頭に置いてつくったのに違いないって思ったら、なーんだ、パンフにもプロデューサーがそう言ったって書いてある。つまんないの。でもこのプロデューサー、監督に「女盗賊プーラン」を撮ったインドのシェカール・カプールを起用するとは勇気があった。大したもんだ。だから、こんな掟破りの面白い歴史劇ができたんだろう。

 そして、エリザベスを演じたブランシェットがいいんですよ。まだ、若くて青い感じの頃から、だんだんコワモテになっていくあたり、不思議と「恋におちたシェイクスピア」のジュディ・デンチのごつごつした味と共通するものがあるんですよね。あちらでは、こうしたエリザベスのキャラって、もう固定したイメージあるのかな? この女優さんの出世作「オスカーとルシンダ」見とくんだったと悔やんでも後の祭り。

 恋人役のジョゼフ・ファインズは、この前のシェイクスピア役同様、どことなく品のない感じが役にピッタリ。そして、ジェフリー・ラッシュには、この人こんな役もできるのかと驚いた。実にキマってる!

 そしてフランスから2人。スコットランドのメアリー・オブ・ギーズ役のファニー・アルダンは、リメイク版「サブリナ」に続いて2本目の英語映画出演。トリュフォー亡き後しばらく沈黙をまもっていたが、「リディキュール」などいよいよ活発に活動開始。「ドーベルマン」のヴァンサン・カッセルはC調演技がゴキゲンだ。

 確かに監督はインド人、主役はオーストラリア人のイギリス歴史劇。でも、みんなかつての大英帝国のファミリーとくれば、それこそ英国の栄光は今こそ光り輝いているのではないかな。とにかく「ゴッドファーザー」が好き、「仁義なき戦い」が好きって人は見逃しちゃダメだよ。

 

 

 

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