映画世界陸上2題

「運動靴と赤い金魚」「ラン・ローラ・ラン」

 "Bacheha-Ye Aseman (Children of Heaven)" and "Lola Rennt"

 (1999/08/08)


 何とあまりと言えばあまりに違いすぎる作品世界なれど、「走る」という点では正面衝突のこの2本。並べて見れば1粒で2度おいしいのではないかな? 題して「映画世界陸上」だっ!

 

第1のコース、アリくん(イラン)

「運動靴と赤い金魚」よりエントリー。

 何だ、また子供が主人公でドキュメンタリーみたいなイランの映画?…こうおっしゃる向きもあるかと思いますが、ちょっと待っていただきたい。まず、火山が爆発する映画ばっかとか隕石が落ちてくる映画ばっかとか、そんなのよりはどれだけマシか考えてくださいね。

 お使いに行ったときに運悪く妹の靴をなくしてしまう主人公アリくん。妹には泣かれそうになり、悪いなぁという気持ちで胸はいっぱい。でも親になんか言えません。そりゃ叱られるのも怖いけど、何しろ親にお金のないのは痛いほどわかっているのだから、そんなこと口が裂けたって言えやしない。そこんとこは妹もよくわかってるんです。でも、明日からの学校の行き帰りはどうするの? サンダルじゃダメなのか? いやよ、お兄ちゃんズルい。…なーんて、親の目を盗んでノートに字を書き、やりとりする兄妹の姿がまたかわいいんだよね。結局、まず妹がお兄ちゃんの靴をはいて学校へ行き、帰ってきた妹から靴を返してもらって、今度はお兄ちゃんが学校へ行くという算段になった(イランって一体どういう学校の時間割になってるんだろう?)。しかし、そんなに世の中甘くない。どんなに一生懸命走ってきても、お兄ちゃんの登校は連日ぎりぎりセーフ状態。妹はキレる寸前になるわ、一足しかない靴も溝に流しそうになるわ、先生には脅されるわで、アリくんの顔も「アイズ・ワイド・シャット」中盤以降のトム・クルーズみたいにだんだんヤバーい感じに引きつってくる。なんとかしなきゃ、どうにかしなきゃ。そんな中で生活立て直そうとしながら、なかなかうまくいかない、ちょっと生き方不器用そうなお父さんのエピソードとかあって、スリル、サスペンス、ユーモア、ペーソスと映画のすべての要素がこの作品に出そろってくるんです。

 そんなある日、マラソン大会3等で運動靴賞品…ということを知り、アリくんここは一発決めなきゃ男じゃないっ!と立ち上がる訳です。このレースシーンは、いやーもう力入りましたよ、見てて。この映画がアメリカのアカデミー外国映画賞にノミネートされた理由がわかりすぎるくらいわかります。「ロッキー」や「クール・ランニング」の国ですからね。アメリカ人がこの映画に熱狂した様子がうかがえます。私も興奮しました。

 結末は見ていただくしかないんですけど、どうにかしようとする気持ちが何かを生むはずだというメッセージは、きっとあなたの心に届くはず。これは地味ーなアートシアター映画なんかじゃありません。ハリウッドに対抗しうる、立派なエンタテインメント作品ですよ。

 

第2のコース、ローラさん(ドイツ)

「ラン・ローラ・ラン」よりエントリー

 いやー暑くて不愉快、ムカつくガキどもウジャウジャで不愉快、渋谷でこの映画見なくちゃいけなかったのでまた不愉快。とてもかわいくっていい子の兄妹の後じゃ、この映画割くっちゃうよな。

 ヤクザの裏金運びの仕事してる恋人が、その金なくして命がヤバいってんで、髪は真っ赤っかでタトゥーもバッチリ入ってるヒロインのローラさん、なんと20分で金策済まして男のもとに駆けつけなくてはならない。しかも、この男困ったもので、女に「おまえ、こないだ愛してるから何でもするって言ってたろ?」とか「おまえがどうにもできないんだったら、スーパーで強盗するゥ」とか寝言コキやがって、もうてめえいいかげんにしろっ!

 こんなゴキブリみたいな野郎ブチ殺されたってノー・プロブレムだ。10万マルクなんて大金あるんだったら、こんなゲスなカップル助けないで、イランに送って「運動靴と赤い金魚」の兄妹に山ほど靴買ってやるわい、このアホんだら!

 チンピラみたいな主人公たちに共感できるわけない。愛のためにローラは走る…なんて戯言を真に受けるのは、似たようなキャラの渋谷のアホガキどもだけだわい…と思っていたが、引き込まれちゃうんですね。すごいスピード感とテンポであっと言う間に。

 つまり、走らなきゃならない理由なんて最初で吹っ飛んじゃって、あとは映画そのものがすごい疾走感を持ち出すんですよ。それこそアニメやビデオ映像も総動員で。そんな細かいことほっといて、映画はどんどん先に行く。

 考えてみれば全編走りまくりって、まさに映画の原点ですよね。「駅馬者」のインディアン急襲シーン、「ベン・ハー」の戦車競走シーン、「フレンチ・コネクション」のカー・チェイス・シーン…その映画史上の直系の後継者として、ローラはベルリンの町をひた走るのです。

 しかもすごいのは、ローラが失敗するとまた最初からリプレイするところ。そう言えば、この映画の冒頭も、まず登場人物が紹介され、場所がベルリンと設定され…という感じが、いわゆるTVゲーム感覚。リプレイなんてゲームの最たるものですよね。よく映画でTVゲームみたいって言われると悪い意味であることが多いですが、ここでは私は良い意味で使ってます。映画の新しい可能性としてこれも「あり」です!

 とにかく徹底的に「走り」に徹して、つまらない主人公へのシンパシーや愛がどうしたとか(宣伝やらパンフにはそううたってあるけどさ)、アウトロー的な安い思想もどきに入り込まなかったのが勝因。その点、同じドイツの若者向け映画でも「バンディッツ」は、ヤボ臭い思想みたいなのの残骸引きずってて、安ーい感じがしましたけどね。

 ラストも粋に幕が引いて、若えの、なかなかやるじゃねえか! これはマジで拾いものですわい。

 

 

 to : Review 1999

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME