「RONIN」

 "Ronin"

 (1999/06/27)


 リストラ…まったく嫌な言葉がはやり言葉になったもんです。テレビではてめえの責任なぞ棚に上げた経営者どもがリストラの必要性を語ってるし、人事担当の奴は「本当の実力ある人材しか必要としません」なんてホザいてるし(こいつ自身、「実力ある人材」なんだろうか?)、アメリカの虎の威を借るコウモリ・ジャップどもは「グローバル・スタンダード」のバカの一つ覚えだけど、そのスタンダードってなぜアメリカやヨーロッパのスタンダードで、アフリカなんかじゃないの? 近頃こんな奴らが多いとお嘆きの貴兄に、オトコの意地が炸裂するこの1本! へっへっへ…旦那、いいブツ入りましたぜ(笑)。

 

リストラされた映画ジャンル

 ところで、スパイと赤穂浪士とスケートのカタリーナ・ビットが出てくる映画って、あなたは想像できますか?「RONIN」ってそういう映画だと言ったら、理解していただけるでしょうか?

 冷戦終結後、職にあぶれた工作員たちが、奇妙な計画のために雇われる。ロバート・デニーロ、ジャン・レノを初めとする面々は、いずれもスペシャリストとのふれこみ。計画とは、フランスで中身不明のスーツケースを奪い取ること…。

 何しろヨーロッパを舞台にしたスパイ・サスペンス・アクションというジャンルが、何と言っても懐かしい。このジャンル自体、冷戦後には完全に死滅してリストラされたジャンルですからね。最近のジェームズ・ボンド・シリーズだって、ありゃ全く「インディ・ジョーンズ」でしょ。今回、こんな懐かしジャンルが復活できたのも、スパイのリストラなんて洒落にならない設定を思いついたから。そういえば同時期に日本公開のカート・ラッセル主演「ソルジャー」も、リストラされたスーパー兵士の自分探しのお話。最後はリストラ男の意地見せて大暴れって話でしたっけ。

 こっちはって言うと、どうも最初から計画はうまくいかない。メンバーの一人がプロでなく全くど素人とわかってクビになったり…。ドンパチ大騒ぎしたあげくスーツケースを手に入れたはずが、仲間の一人の裏切りで持っていかれてしまう。これを取り戻そうとした際の大立ち回りでデニーロは負傷。さらに、デニーロとジャン・レノは、また別の仲間の裏切りにあってしまう。

 

フランスのジオラマ忠臣蔵

 傷ついたデニーロは、ジャン・レノの知り合いでヤバい稼業から足を洗ったダチの隠れ家に匿われるが、ここで腹に弾をくらったデニーロは、ジャン・レノの力を借りて自力で麻酔なしの手術を行う。このシーンが何だか執拗に長いのがまいった。そして、この老いたダチの口からタイトルの「RONIN」の由来…すなわち仕えるべき主君を失ったサムライのことが語られるのです。この老人の趣味が、なんと赤穂浪士の討ち入りの場面のジオラマづくり。ちっちゃな四十七士の人形をこさえているんだけど、これがみんな鎧甲に身を固めているなど時代考証はメチャクチャ。でも、ここに四十七士が出てくること自体驚きです。そこで老人は、主君を失った四十七士が“武士の意地”で討ち入りを果たし、切腹までしたと説明するのです。デニーロは「切腹」と聞いて失笑。自分とは違うと言い、「金になりさえすればいい、“意地”なんて関係ない」と一笑に付すのですが、ここで我々はハタと気づくのです。否定はしているものの、デニーロたちはすでに意地のために闘い始めているのではないか、と。なぜなら、すでにデニーロは自らハラキリしているんです、自分の体から弾丸取り出すために…。自己流手術のシーンがやけに強調されてたのも、これで合点がゆきますね。

 こうなってみると、すべてジョン・フランケンハイマー計算づくでの演出かと思えてきます。エリア・クミラルの音楽も木管楽器で哀愁のメロディ奏でていますが、これホントは尺八なんかのつもりでしょうか。カー・チェイス場面にガンガン流れる打楽器のサウンドも、明らかに和太鼓っぽく聞かせようとしてるようですし。「グランプリ」で三船敏郎を使った日本びいきの彼のこと、これらは意識してやっているに違いありません。考えてみれば実際にブイブイ車を走らせたアクションや、俳優が銃をガンガン撃つアクションなど、ロー・テクの見せ場満載の映画を今あえてつくったのも、フランケンハイマーの意地とも言えます。

 

初心に返ったフランケンハイマーの意地

 考えてみるとこの人も不遇が長かった。サスペンス・アクションで一世を風靡したフランケンハイマーの代表作は、「5月の7日間」「大列車作戦」「グランプリ」「セコンド」など、ほとんど1960年代に集中。私も子供の頃、テレビの洋画劇場で見た作品ばかりです。その後、70年代に「フレンチ・コネクション2」や「ブラック・サンデー」と狂い咲き的に復帰しましたが、またポシャッて沈黙を守っていた…。いわばフランケンハイマー自身、リストラにあっていたとでも言うべき昨今の状況だったのです。

 この人が生きいきしていた1960年代といえばハリウッドが映画斜陽で弱っていた頃。そこで人件費や制作費が安くつき、人材も豊富なヨーロッパに制作拠点を移し、ヨーロッパを舞台にしてヨーロッパの俳優やスタッフを起用した作品が連発されたのです。例えば「シャレード」とか「ピンクの豹」、「史上最大の作戦」なんて作品はみんなそう。そしてフランケンハイマー作品も自然とそのスタイルでつくられていきました。

 今回、ヨーロッパを舞台に一見懐かしいスタイルの作品をつくったのは、フランケンハイマー初心に返っての出直しと言えます。こんないわば時代遅れとも言うべき作品に、トップ・スターのデニーロが出たというのも不思議な感じがしましたが、やはりその意気に感ずるところがあったのでしょうか。あんなにクセのある役が好きだった彼が、ここではアクション・スターに徹してあくまでストレートに演じきるのも見ものです。そして、フランケンハイマーは水を得た魚のごとく、イキのいい演出を見せているのがうれしい。CGやらSFXに頼らないアクション場面の連発で、久々に映画らしい映画、活動大写真の醍醐味です。

 

駄作地獄をブレークしたジャン・レノ

 終盤はカタリーナ・ビット扮するロシアのフィギュア・スケーターのアイスショーでの大立ち回りとくる。このいきなりのビット登場には事前情報なしで心の準備ができてなかったので、「アルマゲドン」の松田聖子もビックリ。うーん。ビットもリストラされたようなもんだよナ。でも、フィギュア・スケーター役じゃビットもほとんど演技いりません。そしてエンディングは、オトコとオトコの別れ。

 最近、ジャン・レノっていうとロクな映画がなく作品選ばずに出ている観があったので、今回も大して期待してなかったんですが、本作はよかった。デニーロとのお互いプロとして認めあう関係から、そこはかとない友情に至るくだりは、やはりこの人ならではの味わい。地獄で缶コーヒー飲んでる場合じゃないです。

 古い奴だとお思いでしょうが…でも、何でもリストラすりゃあいいってもんじゃないこと、この映画が証明してますよね。拾いものですよ!!

 

 

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