黄金週間・映画三昧

"La Vita e Bella(Life Is Beautiful)" & "Japanese Golden Week" Movies

それでもやっぱり人生は「ビューティフル」…私のゴールデンウィーク映画日記帳

(1999/05/09)


 待ちに待ったゴールデンウィーク。この「黄金週間」の命名は、かつての大映の永田社長によるものとか。ならばゴールデンウィークは映画三昧というのが正しい過ごし方ではないでしょうか。というわけで、私の映画日記帳を公開。

 

4月29日(THU)

●「グッバイ・モロッコ」Hideous Kinky シネマライズ渋谷にて

 内縁の夫と別れた勢いで、娘2人連れてモロッコに渡った女の珍道中。全編を彩るジェファースン・エアプレーンとかクロスビー・スティルス&ナッシュの曲が、まだヒッピー文化の残照みたいなものが残っていた1972年という時代の空気を再現しています。ヒロインは何かと言えば精神世界の追求みたいなことをホザいてますが、金もないのに現地の男頼みでウロウロしてるんで娘2人はいい迷惑。「タイタニック」で大出世はしたものの、本来は根性悪そうなケイト・ウィンスレット(*1)が本領発揮。訳知り顔の西洋人が第三世界の国へ行ってアホ丸出し…という、「シェルタリング・スカイ」などこのジャンルの映画の伝統をキッチリまもりました。

 

5月2日(SUN)

●「ホームドラマ」Sitcom ユーロスペースにて

 本邦初お目見え、フランスの新鋭フランソワ・オゾン監督の作品。あるブルジョアの一家が、ペットに実験用のマウスを飼いはじめたその日からだんだんおかしくなっていく。パゾリーニの「テレオマ」(*2)にも似た家庭崩壊劇。ブラック・ユーモアがキツくて面白いのですが、エンディングは意味がよくわかりませんでした。意味考えちゃいけないのかな? そういえばパゾリーニの名が出たついでに言えば、この日ユーロスペースでは片方で「パゾリーニ映画祭」もやっていて大盛況。この人、今でも人気あるんですねぇ。

●「スパニッシュ・プリズナー」The Spanish Prisoner シネセゾン渋谷にて

 映画の世界でも「アンタッチャブル」の脚本などで知られる名劇作家デビッド・マメットの監督・脚本作品。会社の命運を握るほどの大発明をした男が、やたら羽振りのいい富豪の男と知り合ったことから、詐欺師たちの罠にはまっていくお話。この富豪の男に扮したスティーブ・マーティン(*3)の悪役は珍しい。大がかりなコン・ゲームを描いたエンタテインメントとしても面白さ抜群ですが、この作品のコワいところは「詐欺の被害者には自業自得の部分がある」という結論。主人公はもちろん悪い人間ではないのですが、そのセコいところやスケベ根性を悪人たちに見透かされ、ハメられてしまうのです。他人にいいことをしたりしても、それは実際のところ他人から善人と思われたがっているだけ。真の善人という訳ではないのでつけ込まれてしまう。私も何十年か生きてきて、ずいぶんいろんな奴らに騙され騙されしてきましたが、それも元はといえば自分の掘った墓穴ではなかったかと、遅ればせながら気づかされてちょっとブルーになってしまいました。

 

5月3日(MON)

●「8mm」Eight Millimeter 新宿アカデミーにて

 大富豪が死後に残した8ミリの“スナッフ・フィルム”を、ニコラス・ケイジ扮する私立探偵が調べていくうち、自らが闇の世界にどっぷり浸かっていくお話。“スナッフ・フィルム”といえば、私が中学か高校の頃に劇場で一般公開(!)されヒットした、文字通り直球真っ向勝負の邦題「スナッフ」という“やらせ”映画がありましたっけ。南米あたりでつくられた安手のポルノが、ラストになって出演女優をホントに殺しちゃう殺人映画に変貌するという代物。でも、こういう話が手を変え品を変え登場するということは、ホントにこの手の作品とそれを売買する市場があるってことなんですかね。ここでは家出してハリウッド・スターをめざした女の子が悪人たちの食い物にされて殺されたという設定ですが、戦前のロサンゼルスで起こった、女の子の胴体真っ二つ死体事件の実話「ブラック・ダリア」なんかを読むと、この子も田舎からハリウッド・スターになりたくて出てきたあげく売春婦に転落して、挙げ句の果てにブッた切られたみたい(この「ブラック・ダリア」事件をモデルにしてつくられたのが、ロバート・デニーロ、ロバート・デュバル主演の「告白」って映画です)。映画そのものは、中盤までのポルノ地獄めぐり(*4)がなかなか雰囲気出してるのですが、後半は山場というか盛り上がりどころが散発的にいくつもあるので少々散漫な印象になってしまうのがツラいところ。誰にも心の闇の部分はある…というテーマは魅力的だし、良心で行動していたはずの主人公が結局悪人とやってることは同じと気づかされるテーマは興味深いのですが、何とも言えない後味悪さはやっぱり「セブン」の脚本家ならでは。それでもラストにはわずかながら救いがあり、「セブン」よりややマシといったところですが。…ところで今回、さほどヒットしてないだろうとタカをくくって見に行ったら、1時間前に行列が出来ててビックリ。おまえらみんな海外に行ったんじゃなかったのかよー!!

 

5月4日(TUE)

●「キャメロット・ガーデンの少女」Lawn Dogs 渋谷シネ・アミューズ ウェストにて

 新興の高級住宅地キャメロット・ガーデンに住む孤独な女の子が、芝刈りの仕事に来ている青年と知り合うが…。周囲に疎外感を感じている少女と年齢差のある男との、純粋無垢な交流。でも、周りの大人はそれをわかってくれない…という、いわゆる「シベールの日曜日」ネタのお話。このネタの映画はしばしばつくられていて、最近ではオスカー・スターのティモシー・ハットンが監督した「ウィズ・ユー」などもある(レイトショーでやってたんですけど、結局見逃してしまった。ぐやじー。)が、こちらの作品はかなり誇張されたおとぎ話ふう味付け。この住宅地の住人たちの俗物ぶりもかなりグロテスクに描かれていますが、実際の俗物のタチの悪さというのは、こんなふうに典型的な“悪”に見えないところなんですね。私の友人たちにも、昔の面影が思い出せないほど俗物に成り下がった人々がいます。しかし、こんな人々こそ立派な責任ある社会人と認められがちであり、それなりに発言権も持ち、自分でも自らを立派な人物に成り上がったと思っているから問題なのです。この映画みたいに、単純に敵の正体は見えないんですよね。だから、取って付けたようなファンタジックなエンディングといい、ちょっとシラける作品ではあります。それに考えてみれば、すべてのトラブルの発端は主人公の女の子にあるわけで、この子が単なるハタ迷惑なクソガキに見えちゃうことに、この映画の致命的な弱点があると思います。女の子のお母さん役やってるキャスリーン・クィンラン(*5)って女優さんも久しぶりに見たけど、長い間売れそうで売れなくて結局こんな惨めな役やってて悲しくなりました。雨の中、蒸し暑さにうんざりしながら、1時間前に行ったのに…。

 

5月5日(WED)

●「稲妻」(英語題名:Lightning) 三百人劇場にて

 三百人劇場での成瀬巳喜男とマキノ雅弘の特集のうち、見たかったのに長らく見逃していた成瀬作品を見ました。1952年の大映作品。「浮雲」「めし」など成瀬作品代表作の原作者だった林芙美子の小説をまたまた映画化、という十八番の素材なので期待は大です。日本映画黄金時代の巨匠たちでは、黒澤、小津、溝口、木下、伊丹、マキノ、稲垣、山中貞夫などなど…好きな監督は多いけど、私の好みに一番ぴったりとくるのは誰かと言えば、意外にも成瀬監督という気がするのです。この作品は、長男と3姉妹の全員父親違いという妙な一家を中心にした作品で、身持ちの悪い母親を初め、どいつもこいつもだらしなくて意気地もないくせにスケベ根性だけはあるから、余計惨めで貧しい状況にずるずる陥っていく。そんな日常がイヤで何とかしたいと考えている三女(高峰秀子)が主人公です。結局ヒロインは現状打開をめざして一人住まいを決行。その山の手の住まいでは、隣に住む爽やか兄妹とも知り合いになってグッといい気分になってたところに、間の悪いことに母親が登場。やれ長女のオトコを次女が取っただの、それで大喧嘩になって次女が失踪しただの、ヒロインが捨て去りたいと思っている世界をぶちまけはじめたので、ついにマジギレ。母娘の正面衝突。しかしドツボの末に、窓の外の稲妻の閃光を見てなぜかフッ切れたヒロインが、すべてを許し受け入れる気になるラストは、ハッピーエンドではないものの救いがあって私には納得できました。映画としては全く違いますが、ちょっとイングマル・ベルイマンの「秋のソナタ」のエンディングも連想させる味わい。山の手の爽やか兄妹の妹のほうに扮して、わがご贔屓の香川京子(*6)がチラリと顔を出しているのも得な気分にさせてくれます。

●「ライフ・イズ・ビューティフル」La Vita e Bella (Life Is Beautiful) 新宿東急にて

 「ライフ・イズ・ビューティフル」…人生は美しい。ジョージ・ハリスンにもかつて「美しき人生」(*7)ってヒット曲がありましたっけ。私もうっかりしてたんですが、この日は映画がどれも1,000円で見られる「映画の日」。しかもゴールデン・ウィーク最後の日という最悪の状況。そんなとき、こんな話題作をノコノコ見に行くなんて自殺行為でした。案の定、映画館の中は1時間前にして長蛇の列が出来ていました。その待っている間の不快なことったら!! お互い様なんでしょうが耐え難いものです。とてもじゃないけど「ライフ・イズ・ビューティフル」って気分じゃなかったですよ。ところが、映画見てみたら「ビューティフル」だったんですねぇ、これが。お話は大体みなさんご存じと思いますので詳しくは申しません。第2次大戦の戦前から戦中を背景にしたお話で、前半は調子がよくって人が良くて陽気な主人公が意中の女性を射止めるまで。ロベルト・ベニーニの芸が全開で、楽しくておかしい。問題はナチのユダヤ人収容所に送られる後半部分。これ、やたらアカデミー賞で持ち上げられたことからも、変に“良心作”になってたらヤだなと内心思っていたのです。思えばジム・ジャームッシュ映画の出演、フェリーニの遺作への出演…と、着実にメンコの数を増やしていったベニーニ。今回のスタッフの布陣も、カメラのトニーノ・デリ・コッリ、音楽のニコラ・ピオヴァーニ、衣裳&セットのダニロ・ドナティと晩年のフェリーニ組をそっくり踏襲したメンバー。だから、変に「風格」が出ちゃったりして、賞とかは穫れるけどあまり面白くない映画になってるんじゃないかと危惧したわけです。こういうの、テーマは良心的だから批判できないしね。ところが、やってくれるんですね。幼い息子を怯えさせないために、そして息子の命を守るために、収容所での生活を楽しいゲームと偽る主人公の、顔を引きつらせながらの大活躍。おかしくて悲しくてコワいコメディって見たことあります? 深刻な問題を不条理な笑いで描いていくという大胆で困難な挑戦。それが最終的にナチを笑い飛ばし、こうした状況そのもののナンセンスさをコケにしていくあたりのアナーキーさは凄いです。しかも、「ニュー・シネマ・パラダイス」みたいな無理矢理力づくで果汁100パーセントみたいな感動をぶつけてくるようなラストではなく、苦みの残る幕切れというのもいい。これホントに綱渡りみたいなギリギリのところでできた傑作なんでしょうね。綱から落ちたらヤバかったと思いますよ。…という訳で、私の楽しいゴールデン・ウィークは終わりを告げました。

 

**本文中、「8mm」についての記述の中で、「戦前のロサンゼルスで起こった、女の子の胴体真っ二つ死体事件の実話「ブラック・ダリア」…」と私は書いてしまいましたが、本サイトがリンクさせていただいている「Asian Textiles」主宰者・石黒敦子氏から、実際に「ブラック・ダリア」事件が起こったのは第2時大戦後の1947年1月15日であるとのご指摘をいただきました。これは私が確認を怠ったために起こったミスで、ここに訂正させていただきます。申し訳ありませんでした。(石黒さん、ご指摘ありがとうございます。)

  

(*1)根性悪そうなケイト・ウィンスレット:彼女の出世作、ピーター・ジャクスン監督のニュージーランド映画「乙女の祈り」(1994)では、「タイタニック」のヒロインなんてイメージぶっ飛んじゃうほどの性格の悪さを発揮。こちらが本来の持ち味と見た。

(*2)「テレオマ」:あるブルジョワ一家の中に一人の青年(テレンス・スタンプ)が入り込んでから、家庭崩壊が始まるというピエル・パオロ・パゾリーニ1968年の作品。

(*3)スティーブ・マーティン:わが国では「花嫁のパパ」(1991)のホンワカ味で知られているけど、本来は「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(1986)でのワンポイント出演で見られるようにアクの強さが売り物。でも、私が一番好きなのは、脚本も兼ねたファンタジックな主演作「L.A.ストーリー」(1991)。

(*4)ポルノ地獄めぐり:安ポルノ映画に出演していた家出娘を奪還するためにポルノ街に単身潜入する父親を描くポール・シュレーダー作品「ハードコアの夜」(1979)がこのテーマの代表作か。あと、クリント・イーストウッドがニューオルリーンズの刑事に扮し、猟奇殺人を追ううちにミイラとりがミイラになりそうになる「タイトロープ」(1984)、アル・パチーノがゲイの殺人事件のおとり捜査をしているうち、その道の世界にハマっていく「クルージング」(1980)もヤバそう。

(*5)キャスリーン・クィンラン:「アメリカン・グラフィティ」(1973)でロン・ハワードを誘惑するローラースケートをはいたウエイトレス(う! この言葉も差別用語なのか? 全くこんなの偽善でしかないね。)に扮し注目される。しかし、その後は鳴かず飛ばずで、「トワイライト・ゾーン」(1983)、「アポロ13」(1995)に顔を出した程度。

(*6)香川京子:日本映画黄金時代に、黒澤 明「どん底」「悪い奴ほどよく眠る」「天国と地獄」「赤ひげ」、溝口健二「山椒太夫」「近松物語」、小津安二郎「東京物語」、成瀬巳喜男「おかあさん」「驟雨」「杏っ子」と巨匠の作品を総なめにしていたスター女優。しかし、彼女の魅力はなんといってもその可愛さ!! カワイーんですよ実際。最近のアイドル…例えば某大学に裏口入学させてもらって話題になったようなのとはレベルが違うんだよレベルが。個人的に「香川京子ファンクラブ」をつくってもいいと思ってる私のモスト・フェイバリット・アクトレス。最近でも「ワンダフルライフ」に出演している現役バリバリ女優さんです。

(*7)「美しき人生」:ジョージ・ハリスンがビートルズ解散直後に発表した3枚組ソロ・アルバム「オール・シングス・マスト・パス」に収録され、後にシングル・カットされたヒット曲。原題名"What Is Life"。この曲が出た当時は、それまでジョン・レノンやポール・マッカートニーの陰に隠れていたジョージの才能が開花したとさんざ持ち上げられたが、やはり最初のうちだけだった(笑)。この曲は現在、「ベスト・オブ・ジョージ・ハリスン」にも収録。ライブ・バージョンはやはり3枚組の「バングラデシュのコンサート」で聞くことができる。

 

 

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